第7章:恐怖の迷宮
江戸の足取りはますます重くなっていった。彼の黄色い長靴は今や黒く濁った泥に覆われ、まるで森の土そのものが、彼がこれ以上先へ進むのを引き留めようとしているかのようだった。しかし、江戸の手首を掴むあかりの力は揺るぎなかった。その感触は、冷たい鉄の手錠のようだった。
「お姉ちゃん……見て! 木に赤いリボンがついているよ」江戸が、泣き続けて枯れた声で囁いた。「どうして、木に印がついているの?」
あかりはゆっくりと首を巡らせた。その動きは不自然にぎこちなく、不気味な印象を与えた。彼女は瞬きもせず、色あせた赤いリボンを見つめた。
「それはね、帰れなくなった人たちのための印だよ、江戸くん」あかりは淡々と答えた。「この森は思い出を貯め込むのが好きなの。忘れ去られた子供一人につき、リボンが一本。綺麗な色でしょ? 昨日、お母さんに無視された私の髪のリボンと同じ色だよ」
江戸は激しく震えた。手を振り払おうとしたが、あかりは逆に彼を引き寄せ、幹に大きな空洞がある古い大木の方へと連れて行った。そこからは枯れ葉の腐敗臭と、生臭い何かの匂いが漂っていた。
「その穴の中に少しだけ入って、江戸。君へのプレゼントがそこにあるの。カラスたちに盗られないように隠しておいたんだよ」あかりが命じた。その声は、催眠的でありながら威圧的な囁きへと変わっていた。
「い、いやだ! 中は真っ暗だよ! ゴキブリだっているし……幽霊もいるもん!」江戸はヒステリックに叫んだ。
あかりは突然動きを止めた。彼女は振り返り、底なしの穴を覗き込むような、虚無に満ちた瞳で江戸を射抜いた。あかりはポケットから折りたたみナイフを取り出したが、それを江戸に向けることはしなかった。代わりに、江戸の顔のすぐ横にある樹皮にナイフの先を突き立て、静寂を切り裂くような「シュル……シュル……」という音を立てて削り始めた。
「幽霊よりも怖いものが何か、知ってる? 江戸くん」あかりは木を削り続けながら問いかけた。ナイフの刃先が江戸の目線と同じ高さにくる。「本当に怖いのはね、君が助けを求めて叫んでいる間、お父さんとお母さんは隣の村で笑い合っていて、江戸なんて名前の子供がいることすら、これっぽっちも思い出さないことだよ。二人は私たち抜きで幸せなの。わかる?」
江戸は釘付けになった。あかりの巧妙な揺さぶりが、彼の精神を蝕み始めていた。彼は本当に世界から捨てられたのだと感じた。
「さあ、選んで」あかりは顔を江戸の鼻先数センチまで近づけて続けた。ナイフから鉄の匂いが強く漂う。「穴に入ってプレゼントを受け取るか、それとも私にここに置き去りにされるか。明かりも、帰り道も教えずにね。そしてお母さんには、君が悪さをして川に飛び込んだって言っておくから」
江戸は静かにすすり泣いた。「お姉ちゃんは意地悪だ……怪物だよ……」
あかりは笑った。その笑い声は軽やかだったが、静まり返った森の中ではあまりにも異質に響いた。「怪物? 違うよ、江戸くん。私は優しいお姉ちゃんだよ。花瓶を割ったってお父さんに殴られる心配のない場所に連れてきてあげたんだから。ここなら、君は静かにしていられる。完璧な子になれるんだよ」
あかりは、裸足の足を切り裂く刺だらけの茂みの中を、江戸を無理やり引きずっていった。彼女は構わなかった。そのまま弟を連れて、木々が枯れ果て、幹が人間の骨のように白く立ち並ぶ開けた場所へとたどり着いた。
その中心で、地面は深く窪み、黒ずんだ雨水が溜まっていた。
「着いたよ」あかりが囁いた。
あかりの周囲の空気は、今や重く暗く、彼女の影が伸びてその窪地全体を飲み込んでいくかのようだった。彼女は江戸の手を放すと、枯れ木の間で「カチッ」と鋭い音を立てて、折りたたみナイフの刃をゆっくりと全開にした。




