第1章:二つに分かれた食卓
佐久市の朝は清々しい山の空気に包まれていたが、鈴木家のダイニングルームの中では、あかりにとって空気が重く感じられた。小学4年生の彼女は、皿に残った白ご飯と昨日の残りの小さな魚の切り身を見つめたまま、石のように座っていた。
「江戸、お味噌汁も全部飲みなさいね。ランニングの練習で力が出るように、大好きな豆腐をたくさん入れておいたから」
お母さんの声はとても明るく、溢れんばかりの愛情がこもっていた。
テーブルの向かい側では、小学2年生の末っ子、江戸が楽しそうに笑っていた。「ありがとう、お母さん!今日は僕が一番速くなるよ!」
いつもは厳格な父親も、その時ばかりは顔をほころばせた。彼は誇らしげに江戸の髪を撫でた。「もちろんだ。お前は父さんの自慢だからな。大会に必要なものは何でも買ってやろう。新しい靴か?それとも新しいバッグか?」
あかりは小さく咳払いをした。「お父さん……昨日の算数のテスト、100点だったよ」
彼女は消え入りそうな声で囁き、昨日学校から帰って以来ずっと握りしめていた、しわくちゃの答案用紙を差し出した。
父親は食事の手を止めることなく、一瞬だけ目を向けた。「そうか。姉なら当然のことだ。弟に負けないようにしろよ」
それだけだった。頭を撫でられることも、新しい靴の提案も、微笑みさえもなかった。まるであかりの成果は退屈な義務であり、江戸の小さな失敗は奇跡のように扱われるかのようだった。
毎日が同じ痛みの繰り返しだった。江戸がグラスを落として割ったとき、お母さんは彼を抱きしめ、手に怪我はないかと心配した。しかし、あかりが誤って水をこぼしたときは、「不注意で役に立たない子だ」と激しい怒声が響き渡った。
あかりは、江戸だけを照らす強い日差しの下に立たされている「影」だった。
「お母さん、見て!家族4人の似顔絵を描いたんだ!」江戸が画用紙を差し出した。
「わあ、江戸はすごいわね!本当に才能があるわ!」お母さんは江戸の頬にキスをしながら褒めちぎった。
あかりはその絵を見た。江戸は、お父さんとお母さん、そして自分自身を大きく、色鮮やかに描いていた。しかし、あかりの姿は紙の隅っこに、顔も色もない小さな黒い線として描かれているだけだった。そして何より辛いのは、両親がそれを何とも思っていないことだった。彼らにとって、鈴木家の世界は江戸を中心に回っていた。
目にかかる前髪の裏で、テーブルの下にあるあかりの拳が強く握られた。爪が手のひらに食い込む。
(あかりの心の声:『もし、あの子がいなくなれば……もし、この小さな太陽が消えてしまえば……。そうすれば、お父さんたちも私を見てくれるのかな?私だけを愛してくれるのかな?』)
その憎しみは一晩で生まれたものではない。区別された食事、与えられなかった称賛、そしてあかりの肩に届くことのなかった抱擁の一つひとつから育っていった。
そしてその日の夕方、庭に桜の花びらが舞い散り始めたとき、あかりは願うのをやめた。彼女は「計画」を立て始めた。




