後日談:S級ベヒーモス襲来!? 前編
全2話です!1時間に投稿します。
アイゼンベルク領にステラが嫁入りしてから四度目の冬。レオナルドはもうすぐ二歳になろうとしていた。
こんこんと降り積もる大粒の雪が、どんどん当たり一面を真っ白な世界に覆っていく。例年通りならば、ヴォルフラムは雪かきや街の様子を見に行くが、今年は違った。
雪深まるアイゼンベルク山の奥深くで怪しい動きがあると、街全体がざわついていた。
何度も不自然な雪崩が起きていたのだ。
「ヴォルフラム様!偵察隊から伝令が…!」
「あぁ、ご苦労。どうだった」
「……やはり、ベヒーモスの可能性が高いと」
「やっぱりな。あの雪崩は、自然にしちゃ違和感が多かったからな。
……予想通りだ!万全に準備して討伐に向かう!」
「「「はいっ!!」」」
ベヒーモス。それはS級の陸の魔物だった。
ダンジョンの最低層階のボス級クラスの魔物の動きが観測されていた。
奥深くの山に生息するベヒーモスが、少しずつ移動しアイゼンベルク山の奥地にまで向かってきていた。
ヴォルフラムも相対したことは人生で初めてだった。
しかし不思議と恐怖はない。
何故なら、彼には守るべき領土に愛しい妻と息子がいるのだから。
***
討伐隊を結成して、雪の深い山奥に向かったヴォルフラムを、待つことしか出来ないステラ。
さすがに留守番に慣れたとはいえ、S級モンスターの出現に屋敷の人間もソワソワとしていた。
……女主人として、しゃんとしなければ。
「蓄えは例年よりも、潤っていたはずです。
魔石電池の核となるアイゼンベルクの質のいい魔石で、収入が確保できましたし」
「えぇ、ステラ様。いざと言う時のための備えは、万全でございます」
「ありがとう、ヘクター」
寒さの厳しい山の奥深くへ出向く。陣地を設営し火を絶やさずに居座れる準備にかなり物資が必要だった。
冬ごもりと被ってしまって、最悪のタイミングではあったが、万事の為の準備だけはアイゼンベルク辺境伯家は怠らなかった。
ヘクターは、今回の潤沢な物資が備蓄できた理由が、ステラにあることを知っていた。
ステラの出自であるベルシュタイン家の開発した、魔石電池の作製にアイゼンベルクから輸出する魔石が高く売れた。
その生まれた利益をステラは、全てアイゼンベルク領の為に運用した。
…少しくらいの贅沢くらいしても罰は当たらないと進言したヘクターだったが、ステラは一度質を上げて慣れたら戻せなくなるとの一点張りだった。
そもそもアイゼンベルクの生活は、今が一番質がいいと褒め倒して。
「武器もかなり多めに運び出しておりました。
……ヴォルフラム様なら必ず討伐を成功させましょう」
「えぇ、そうね。……もう一ヶ月経つかしら」
そろそろ山奥のベヒーモスが彷徨く現場へと到着する頃だった。
***
道中、相対するはずの魔物が全く出ず、ベヒーモスの気配を感じたのか辺りは静まりかえっていた。
ヴォルフラムは、むしろ邪魔が入らず早く着いたと喜んでいたが、討伐隊の面々は異様な山の空気に恐怖で震えていた。
S級と謳われるベヒーモスはカバやサイのようなずんぐりとした体と、杉の木のような長い尾を持っていた。
今回の獲物は、全長20メートルはありそうな巨体だ。
…伝説サイズだと、この倍以上もあったと記録されていた。
ベヒーモスが一歩足を踏み出しただけで地面が揺れ、木に積もった雪が落ちる。
頭上の巨大で鋭利な棘のある太いトナカイのような角が獰猛さをかき立てていた。
討伐隊は計画通りに配置に着いた。
その様子を見たヴォルフラムは、気配を消しながら全神経を集中させる。
ベヒーモスの背後から近づくと、大剣を片腕で軽々振り上げた。
グッと力を入れたヴォルフラムの肉体はいつもよりも一回りほど大きく筋肉が膨れ上がっていた。
ーザシュッー
ベヒーモスがヴォルフラムの殺気に気付いた時には、鋼鉄のような骨のある尾が切り落とされていた。
それは“魔力なし”のギフトを持つヴォルフラムにしか出来ない力技だった。
ーズタァァァンッー
尾が落ちる大きな地響きとともに、ベヒーモスの呻き声がビリビリと響く。大きな巨体を仰け反らせ向きを変えると、ヴォルフラムの元へ突進していく。
「今だ!放て!」
「「「おう!!」」」
隠れていた兵士たちが木の影から飛び出し、真っ直ぐヴォルフラムへ向かうベヒーモスの太い棘のある角に投げ縄がいくつも括り付けられた。
兵士たちが反対方向へ縄を引っ張り、少しでも突進の威力を落とそうと試みる。
ーガキィィィン…!ー
大剣を盾にし、体一つで頭上の角を受けたヴォルフラム。
太ももが地面にのめり込み、衝撃で額から一筋の血が流れ出た。
「……っちくしょ、硬ぇな!!」
ヴォルフラムのイメージでは角ごと切り落としていたが、突っ込んでくる衝撃を受け流すことしか出来なかった。
反動をつけて飛び上がったヴォルフラムはベヒーモスの巨体を登る。
アイゼンベルクの兵士達は必死で標的を見失って暴れるベヒーモスの自由を奪おうと、綱にしがみつく。
……一瞬でも動きを止められたら、きっとヴォルフラム様がやってくれる。
この場にいる全員がヴォルフラムならばやってくれると信じていた。
兵士達の一心不乱の綱引きで起きた一瞬の隙を、ヴォルフラムは見逃さない。暴れるベヒーモスの後ろ片足を、凄まじい筋力で一刀両断した。
ドォォォンッ!
藻掻いて地に伏せるベヒーモスに、ヴォルフラムは攻撃の手を緩めない。
「剣が持たないな…、槍を寄越せ!」
「はい!!」
ヴォルフラムの大剣は刃こぼれし、渾身の二振りで役目を終えかけていた。
太さ20センチ、長さ1.5メートル程の特別製の槍を幾つも運ぶ兵士。
受け取ったヴォルフラムが、ベヒーモスの胴体に向かって力いっぱい振り上げて投擲した。
もはやそれは、大砲と変わらない威力だった。
雪と砂埃が舞う中、無我夢中で心臓を何度も集中して狙うヴォルフラム。
鬼神のごとく殺気立って槍を振り上げる様は、普段のヴォルフラムとは似ても似つかなかった。
……攻撃特化の狂気じみた、その筋肉量と人並外れた腕力はまさに人外だった。
つい現場に立つ男たちは、ヴォルフラムの姿に見惚れてしまっていたが、ハッと我に返って一斉攻撃を仕掛ける兵士たちだった。
***
討伐が無事成功し、取れるだけの素材を土産に帰還した討伐隊を冬ごもりの中、領民たちは総出で出迎えた。
雪が積もる氷点下の山の中にいた兵士たちを暖めようと、領民たちと協力して炊き出しとお湯を用意するステラ。
帰還した兵士たちはみな軽傷ばかりだったが、一部手足が凍傷になりかけている兵士もいた。厳しい自然にぐっと胸が痛むステラ。
今回の討伐での一番の負傷者は、頭に包帯と左肩にギブスをつけたヴォルフラムだった。
…なのに凍傷が危ない兵士たちから先に治癒魔法を受けるように指示し、骨ならくっつけば治ると自己免疫で治そうとしていた。
アイゼンベルク領に高い魔力を保持する医官は少なかった。
「ヴォルフラム様…、傷は痛みますか?」
「大丈夫だ。…ステラが居たから留守を任せられた。ありがとうな」
「……っ、本当に、ご無事で良かった」
「怪我もしないで帰るつもりだったんだが、S級相手には流石に難しかったな」
ステラはグッと涙が溢れそうになるのを我慢して、ゆっくり頷いて笑顔を作る。
ステラが怪我を酷く心配しているのを知っていたヴォルフラム。ベヒーモスの突進を受けた際にできた額の傷と左肩にはヒビが入っていた。
……周りの兵士たちからすれば、それで済むこと自体がおかしかった。
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