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「ステラ様、今は身体を安静に。無理せず食べられるだけ食べてください」
「はい、ありがとうございます」
ステラが町医者のヨハンを乗せた馬車を見送っていると、遠くからヴォルフラムの馬が駆けてくるのが見えた。
驚いて立ち尽くしていると、庭師のヨルグに馬を預けたヴォルフラムがステラに駆け寄る。
「ステラ…!起きていて大丈夫なのか?
さっき兵士にヨハンの爺さんを屋敷に呼んだって聞いて」
「ヴォルフラム様…、討伐は?」
「少しだけ抜けてきた。…中で話そう」
執事のヘクターもヴォルフラムの珍しい行動に驚きつつも、めでたい報告の邪魔をしないようにそっと居間に飲み物を置いたあと席を外した。
厨房からメイドやシェフたちがソワソワと出てきて、居間の二人を見守る。
「…妊娠!?そうか…!…た、体調はどうなんだ!?」
ヴォルフラムの大きな声が廊下に響き渡り、ほっこりと笑顔で見守る使用人たち。めでたいめでたいと仕事に戻り出す。
「バルト、もしかしたらステラ様のお食事の好みが変わるかもしれません」
「はい、ヘクターさん。いろいろ考案してみるつもりです」
「皆さんもあまりプレッシャーをかけないように。
無事産まれるまではどうなるか分からないですから」
はーい、と返事をしながらも、幸せいっぱいの空気が屋敷中に広がっていた。
***
ステラの相変わらず薄い腹にそっと手で触れるヴォルフラム。
ソファに座らされたステラもソワソワとしていた。
「月のものが随分遅れているのと、脈拍が早くなっていることで診断されていて、確実では無いのですが。
ヨハン先生は恐らく妊娠しているだろうと」
「…そうか。ステラ、よくやってくれた」
「ふふっ、二人で作った子ですよ」
おでこを擦り合わせてるヴォルフラムは感極まっていた。
スンッと鼻をすする彼の頬にそっと手を置くと、ゆっくり唇が重なる。
「吐き気は、大丈夫か?
何か欲しいものがあったら、なんでも言ってくれ」
「はい。…今できることは、身体を冷やさず安静にと言われました」
「そうか。そろそろ暖かくなる頃だとは思うが、気をつけよう」
ステラは、妊娠できたことに安堵していたが、実感がまだなく、本当に順調に産めるのか不安だった。
とにかく健康で元気な子が産みたい。それが出来るならステラはなんだってしようと思っていた。
「…ステラ」
「はい、ヴォルフラム様」
「俺と家族になってくれて、ありがとう。…愛してる」
「…私も、あいしています、ヴォルフラム様」
じわりと涙で潤ませたステラの瞳を、じっと見つめたヴォルフラムは優しくステラを抱き締めた。
やっと夫としての成長を見せられたかと思えば、次は“父親”としての責任がのしかかった。
それは重荷なんかではなく、ヴォルフラムが今までずっと欲しくてたまらなかったものだった。
ステラと二人ならきっと、ベルシュタイン侯爵家のような暖かい家庭を築けていける。
ヴォルフラムは腹の底にぐっと力を入れていた。
「絶対にステラも、この子も幸せにするからな」
「ふふ、はい。…よろしくお願いします」
ステラのこぼれ落ちる涙を、指で拭うヴォルフラム。
ちょうどそろそろ婚姻の日から一年が経とうとしていた。
***
少しすると本格的につわりの症状が強くなったステラ。
食欲があるのに食べると戻してしまうことが、多かった。
シェフのバルトが、なんなら食べられそうかと聞いてくれ、甘酸っぱいフルーツやゼリーのようなものを好んで食べた。
かと思えば急に揚げ物が食べたくなったり、食べたら胸焼けで戻してしまったり、不安定なステラに嫌な顔もせずいろいろ試してくれた。
本当に頭が上がらないステラだった。
秋が深まる頃、次第に食べられるようになり、目に見えてお腹が大きくなっていたステラ。腹の子も順調に成長していた。
医者のヨハンから安定期に入ったとお墨付きで、助産師の指導も受け始めていたステラ。
実家のベルシュタイン侯爵家に子を身ごもったこと、安定期に無事入ったことを知らせると、二週間後に再びたくさんの荷物が届いた。
冬真っ只中に出産予定のため、新生児が寒くないようにと追加で魔導ストーブや防寒具などが詰め込まれていた。
父からはくれぐれも転ぶなと、母からも階段から落ちるななんて、ステラをなんだと思っているのかと言いたくなるような心配する内容ばかりだった。
「ステラはおてんば娘だから仕方ないな。…くくっ」
「ヴォルフラム様まで!…ねー、お父様は意地悪ですよー」
「こら、腹の子に悪口を吹き込むな」
順調に育っている我が子のいる腹を撫でるヴォルフラム。その手をぽこりと蹴られた感覚に、ステラと顔を見合せて微笑んだ。
冬になり、あっという間に雪が覆ったアイゼンベルク。
年が明けてすぐの夜中に、ステラが産気づいた。
屋敷に一時的に住まわせていた助産師の手によってお産の支度が進められた。
次の日の早朝、産まれたのは、ヴォルフラムの真っ赤な髪を受け継いだ元気な男の子だった。
街に住む領民たちはその知らせを聞いて、領主の跡取りの誕生に冬籠もりの真っ最中にも関わらず、飲めや騒げの大喜びだった。
ステラは出産という大役を終えて、ぐったりと身体を休めていた。
産まれたばかりの我が子が、力強く母乳を吸うのをぼんやりと見つめる。
疲れや痛みが吹き飛ぶような高揚感に、これが母性かと心を震わせていた。
「ステラ、本当にありがとう。お疲れ様」
「…はい、元気な子が産めて、本当に良かった」
「アイゼンベルクの男だぞ。頑丈に決まってる」
「ふふ、…お父様そっくりの優しい子になってね」
無事生まれた子の誕生を喜ぶステラとヴォルフラム。
執事のヘクターが部屋の外で、そっと目元にハンカチを押し付けていた。
未来への明るい希望が、アイゼンベルク領内に満ち溢れる感慨深い冬となった。
***
赤子のいる生活は屋敷生活リズムを大きく変えた。
よく飲みよく寝てよく泣く長男は、レオナルド・アイゼンベルクと名付けられた。
ステラはなるべく自分で授乳をしたかったので、三時間おきにレオナルドの世話をした。
出産でかなり体力を使ったし、母乳を上げているととてもよくお腹がすいた。胃を圧迫していたレオナルドを、産んだことでステラは再びよく食べられるようになっていた。
三食と二回の間食を挟むステラは、みるみる身体が回復した。
一ヶ月後、レオナルドとステラの健診にきたヨハン先生に母子ともに健康とお墨付きを貰えていた。
「…どうやらレオナルド坊ちゃんは、『魔力ゼロ』のギフト持ちでしょうな。この真冬に産まれて寒さの中風邪も引かない所をみると確実でしょう」
「…そうですか」
ステラはレオナルドがお腹に来てくれた理由が少しだけ分かるような気がして、神秘的な気持ちになっていた。
「ん、ぶっ、ふぇぇえ」
「あら、もうお腹がすいたのかしら」
拳を口に入れて、あぶあぶと吸っていたレオナルドがぐずり出す。
ヴォルフラムがその様子を見て顔をしかめる。
「そろそろミルクを足してもいいんじゃないか?
…このままレオに母乳を飲ませ続けたら、ステラが干からびちまう」
「ふふ。ヴォルフラム様によく似て、よく食べるんでしょうか」
「ハッハッハッ」
ヨハンがその様子を見て声を上げて笑っていた。
幸せいっぱいの二人に、小さい頃からよく知るヴォルフラムが父親として奮闘する姿に、目頭が熱くなるヨハンだった。
***
病弱だったステラはもうどこにもいない。
『魔力アレルギー』とは一生付き合っていかなければならないが、アイゼンベルク領でヴォルフラムと一緒なら大丈夫だと思えた。
ステラは、王都から遠く離れた田舎の辺境の地で、生気に満ちた四季折々の自然の実りを味わう。
時には牙を剥く自然に、領民と手を取り合い助け合って、強く生きていった。
隣に寄り添う『魔力ゼロ』の辺境伯爵ヴォルフラムに永く、深く、愛し抜かれた。
ーFinー
以上完結です!
最後までお読み頂きありがとうございました。
明日、番外編の前編、後編を更新予定です。
お付き合いいただけると幸いです。
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