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怪異撃滅クラブ  作者: 秋野てくと
第五章「空を裂き牛をさらう円盤型飛行物体『U.F.O』」
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エリア51「何かが空を飛んでいる」

高さ数メートルの闇の上を、

三人乗りのリフトがゆっくりと昇っていた。


「あのさァ。落ちたりしないって。

 今もちゃんと動いてる、スキー場のリフトなのよ?」


榎木田えのきだセラに、二人の少女がしがみついている。


「ひいいいぃぃぃ……!」

「こ、怖いのです……!」


右からは玄野くろのミコネ。

左からは江藤えどうマイヤ。


リフトの座面は三人が並んでも余裕だが、夜の暗闇の中で自然と距離が詰まり、今では真ん中に座るセラを二人が両側からサンドする状態になっていた。


「ちょっと、暑苦しいってば!」


むにっ。


ミコネが頭をうずめると、

同じくらいの大きさの弾力が押し返した。


ふわっ、ふわっ、ふわっ。


「アンタらねェ……!」


「セラ先輩って……ほんと、やわらかいですッ!」


「へ、変なこと言わないでよぅ!」


マイヤはうるんだ目でセラを見上げる。


「……ママなのです?」


「誰がママじゃい、誰が!」


ミコネは、昼間の牧場の風景を思い出した。


「……牛?」


「殺すわよ」


まずい、調子に乗りすぎた!




リフトが最上部の駅に到着すると、

三人は開けた場所に降り立つ。


標高1900メートル。

冬場はスキー場として運営されている施設だが、雪の無い夏場はテラスとして営業している――昼間なら富士山を正面に望むことができる、絶景のパノラマだ。


「ここって、ホントは昼間しかやってないんですよね」


「まァね。榎木田えのきだグループの関連企業が運営だから、ちょっとだけ、口利きしてもらったのよ」


「権力、すごいのですっ!」


ちょっとだけ、の口利きでリフトを動かせるとは。

恐るべし、悪役令嬢セラリアン


「(セラリアン……ぷふっ)」


「アンタ、失礼なこと考えてないでしょうね?」


「まっさかぁ!」


山の中腹にあるテラスには、

円形のクッションベッドが何基も点々としていた。


ファミリー向けの大きなベッドである。

三人はベッドの一つに寝転び、川の字に並んだ。



ベッドに横たわると、視界の全てが夜空となる。



「うわっ、すっごいッ!」


ミコネは目の前に広がる光景に感嘆の声をあげた。

自然の天蓋てんがい――

空には見わたすかぎりの星、星、星。


小さい灯りの星も、

強い灯りの星も、

太陽系内の惑星も――

無数の白い光が、真黒い天上界を照らしている。


星空を横断するミルキーウェイ――

一筋に流れる天体のサーカスを眺めて、

ミコネは、今日の日付を思い出した。


「……そういえば、今日は七夕でしたッ!」


天の川の浮かぶ丘。

見渡す景色は、想像と違っていて。


セラは声を潜めて、ささやいた。


「こんなのさァ……、

 都会じゃ、見ようったって見れないわよね」


「はいッ! あ、でも……東京でも、

 オリオン座の三つ星なら見えますよねッ!」


「それと金星とか、ね……。

 小さな星は、地上の光にかき消されてしまうんだわ」



冷たい高原の風がクッションを揺らす。

江藤えどうマイヤは、

星屑を散らしたような瞳に天空の星々を映した。



「プラネタリウム、なのです……」とマイヤが言う。



マイヤの呟きに、セラがクスリと笑った。


「逆でしょ、逆。プラネタリウムが星空なのよ」


「わかってるのですっ! でも、こんなに綺麗な空……ボクは、プラネタリウムでしか見たことないのです。……ありがとなのです、セラ!」


「アンタ、年下でしょ。呼び捨て禁止、ね」


「セラ、ちっちゃいのです」


「あァ!?」


マイヤの言うように、綺麗な光景だ。

でも――



☆☆☆


「お姉さんと、UFOを見に行きましょう?

 ぐへへへへへへ………」


☆☆☆



「あのー、セラ先輩。

 あたし達って、UFOを見に来たんじゃ?」


「そうわよ。まぁ、こうやって見てればそのうち……あ、ほら、アレ!」


セラは星空の一角を示す。

ミコネはセラの指が指す方向に注目した。


なんだろう……星座?


むむむ、と目をこらすと……

スーーーーッ、と星が横にすべっていく。


「えっ……今、あの星……ッ!」


「動いた、でしょ?」


ミコネはよくよく目を細めた。


横に並行移動していった星は、

今度は明滅を繰り返し――

やがて、墨に溶けるようにして。



――夜空の奥に、光が消える。



ミコネは、今、見たものが信じられなかった。


「あ、あれって……UFOッ!?」


「どうかしら。ほぅら、ようく見てなさい。

 変な星は、いっぱいあるんだからさァ!」


セラの言ったとおりだった。


星の様相は、ミコネの予想を超えたものだ。


動く星――

点々と光る星、突然現れる星。

またたく夜空は、不思議の連続である。


「嘘……ッ!?

 UFOって、こんなにいっぱいあるの!?」


今、見たものの正体を、セラに問いかける。


「セラ先輩、あれって一体……ッ!?

 ホントにUFOなんですかッ!?」


「……さぁ? なんでしょうねェ」


セラは目を閉じて、マイヤに話題を振った。


「フォロワー数400万人のUFO研究家さん。

 アンタの見解はどうかしら?」


「さっき見たら、397万人になってたのです。

 ええと、ミコネ……ちゃん」


ミコネが横に顔を向けると、

マイヤがすぐ傍で見つめていた。


「(マイヤちゃんに呼ばれちゃった!)

 う、うんッ!」


「ミコネちゃんがさっき見たもの……

 正体として有力なのは、人工衛星なのです」


「人工、衛星……ッ!?

 あれって、あんな光り方をするの!?」


「夜空で動く星や、光の線を見たときには、大抵は人工衛星だと言われているのです。太陽や月の光を反射したときに、星のように見えることがあるのです。進む速度が速い場合には、航空機の場合もあるのです。他にも、宇宙ステーションとか、最近ではドローンを目撃する事例も増えているのです」


「そ、そうなんだ……ッ!」


「夢が無いわねェ、マイヤ。

 宇宙人の円盤、かもしれないじゃないのよ」


「……セラ」


「まァ、あるいは、流れ星かもしンないけどねェ。

 もしくは、うふふ、サンタとかさァ!」


「サンタ……サンタクロースですかッ!?」とミコネ。


「あるいは、妖精フェアリィ……」


セラは手元のスマホを操作して、

”セラの大図書館”のデータベースを呼び出す。


「英文学者の稲生平太郎は、『ケルト諸国における妖精信仰』に記録されたアイルランド人による妖精目撃談の一つが、典型的なUFO目撃談と一致すると、著書の中で指摘してるわ。空中で変形する変幻自在の発光物体《ユーフォ―》と、同時に現れる人間型ヒューマノイドの異形、ってね――」


ミコネは、以前に部室で話していたことを思い出した。


「そういえば……

 天狗も、天空を走るいぬだったって」


マイヤも同調した。


「――あまきつね。

 流れ星を妖怪として捉えた、という説もあるのです。

 そういう意味では、一種のUFOなのですよ!」


「UFOって……宇宙人の円盤だけじゃ、無いのッ!?」


セラは云う――

Unidentified Flying Object。


「U.F.O――未確認飛行物体。

 宇宙人の円盤は、その解釈の一つに過ぎないわ」


マイヤは、ミコネの耳元でささやく。


「ミコネちゃんは、空を動く星が人工衛星だと知らなかったのです。それを知るまでは、確かめるまでは、ミコネちゃんにとっては、紛れもないUFOなのですよ」


「確かめる、までは……」


「それにさァ。絶対に人工衛星、って保証も無いわよ。

 だって、ほら、さっきのは消えちゃったじゃない」


セラは星空のカーテンに手を伸ばす。

無数の光がまたたき、現れては消える、

人知を超えた空の果てを、掴むように。



「きっと、()()()()()()()()()()んだわ。大昔から、人は空に何かを見てきた。何なのかは、わからない。意味があるのかも、わからない。でも、そこに何かを見たという『体験』が、人間を想像の世界へと追い立てる。一度、囚われたら、もう逃げ場なんか無いのよ。アタシだって……そう。ねェ、マイヤ」



セラは、ベッドの上で寝返りを打つ。

目の前には、星屑を散らしたような瞳。


セラの緑がかった髪が、マイヤの髪と交差する。

江藤えどうマイヤは、セラの眼差しを受け止めた。



「アンタさァ……これから、どうする?」



マイヤは、小さく息を吸う。


懐から帽子を取り出し、

薄桃色の頭にかぶり直した。


ポシェットに手を伸ばして、

通知が鳴り止まないスマホを閉じ、

電源を落として、


天を見上げる。


確かめるまでは、止まれない、と。


マイヤは消えかけた火を灯すように、

深く、息を吐いた。




少女たちの息遣いと、空だけがそこにあった。




Episode.Ⅴ…UNIDENTIFIED・FLYING・OBJECT End.

Episode.Ⅵ…⇒KADATH ISLAND⇒

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