終焉の地
夜の重さがじっとりと肌にぬいつくような、
生ぬるい空気の下――
殊能ヨミが倒れていた。
「ヨミ……ちゃん?」
声が震える。
玄野ミコネは走り寄り、
砂混じりの岩礁に膝をついた。
月は雲に隠れ、
かすかな燐光だけが、
海面の輪郭を浮かび上がらせる。
人形じみたヨミの銀髪は海水に湿り、
色素の薄い頬は蝋細工の如く青白い。
それでも――バラバラになったはずの四肢は、
五体満足に付いているのを確認した。
もしかして……生きて、いるのか?
わずかな望みにかけて、ミコネは呼びかける。
「ヨミちゃん! ヨミちゃん、しっかり!」
ミコネが抱き起すと、
ヨミの身体は信じられないくらいに軽い。
んっ、と閉じていた目を開く。
ヨミの細い唇が、かすかに動いた。
「ミコネ」
「ヨミちゃん……!? 良かった、生きてる……ッ! で、でもどうして? ねぇ、ヨミちゃん……一体、何があったのッ!?」
矢継ぎ早に出る疑問、質問。
その全てに答えずに――
ヨミは、信じれない名前を口にする。
「私、アルに……会った」
「えっ……!?」
ミコネは耳を疑った。
玄野アル――ミコネの母親。
この世にはもう、いないはずの人。
「あたしの、お母さんと……ッ!?」
ヨミは砂浜に目線を落とす。
「私は、間違ってた……かも。
この世には存在する。
きっと……本物の怪異、が」
その時、潮騒にまぎれて、
静かな呼び声が届いた。
「ミコネ……」
振り向く。
夜の闇の向こう、岩壁の切れ間に白い布が揺れた。
雲が開き、月光が射し込む。
長い黒髪。
深い青の瞳。
膝下まで流れる白いワンピース。
端正なその姿は、アルバムで見たままの、
母の――面影だった。
「おかあ、さん……?」
ミコネは立ち上がる。
女性は、喜怒哀楽を見せない無表情で、
ただ、ミコネに手を差し伸べた。
「おいで」
その一言で、ミコネは静止した。
なぜ、こんなことになってしまったのか――
時間は、一日前にさかのぼる。




