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怪異撃滅クラブ  作者: 秋野てくと
第六章「死と生が交わる禁断の地『かだす島』」
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第一の儀「死者と会うことができる島」

潮風が吹く船のデッキに、三人の少女が並んでいる。

いや――ミコネ本人も含めれば、四人か。


「本土から、片道二時間かぁ。

 ヨミちゃん、大丈夫? 酔ってない?」


「……問題、ない」


銀髪の少女――殊能しゅのうヨミは、

青い顔をしながら答える。


「…………かも」


うぷり、とヨミは口元を抑えた。


「ヨミちゃん、ホントに大丈夫なのッ!?

 あ……セラ先輩!」


ヨミの隣にいた榎木田えのきだセラ――

怪異撃滅クラブ、唯一の上級生が動く。


「まったくもう、この子ったら。

 船ン中で休んでなさいよ……」


「セラ、助かる……かも」


「仕方ないわねェ。よっこいしょ」


肩を貸して、セラがヨミを運んでいった。

ミコネはハラハラと見守る。

無明むみょうマツリは、苦笑いでそれを見送った。


「インドア派のヨミ殿には、酷な行軍でゴザルな……」


ミコネは空を見上げる。

照り続けるのは、サンサンと輝く太陽!


船による長時間の旅もさることながら――

何よりもきついのは、この猛暑である。


七月下旬。

日本列島は灼熱に包まれていた。



――サマーシーズン到来!



私立御簾川(みすかわ)学園も、夏休みに突入。


このたび、怪異撃滅クラブはかねてからの計画を実行に移すことにした――そう、都下を離れて、西日本にまで活動の範囲を拡大することにしたのだ。


今回は泊りがけで、あるウワサの調査に向かっている。

言うならば、夏休み合宿だ。

行き先は――かだす島、という離島である。


「ヨミちゃんってば、普段なら、アームチェア何とかって言って、こういう行事には付いてこないのに……珍しいよねッ!?」


「ふむ。安楽椅子探偵アームチェア・ディテクティブ、というやつでゴザルな。ヨミ殿の方もどうやら、心境の変化があったようでゴザル」


「心境の変化って?」


「どうにも最近、怪異撃滅ディセクトを通じて、拙者やセラ殿と……その、ミコネ殿との距離が……縮まっているのではないか、と……」


言われてみれば――

ミコネが怪異のウワサを調べに行くときには、

マツリやセラ達と一緒に行動することが多い。


時には、ピンチになったりもしたけど、

そのたびに打ち解けてきた……と、思う。


「ホントだッ! あたし、マツリちゃんと、前よりも仲良くなれてる気がするー!」


「そ、そう、ストレートに言われると、照れ臭いでゴザルが。うん。拙者も、そう感じてる……」


二人で話していると――

船のデッキへ、セラが戻って来た。


「あのさァ。言っとくけど、これは遊びじゃないんだからね。怪異撃滅クラブの活動の一つ……”死者と生者が交わる島”のウワサの調査なんだからさァ……」


「そ、そんなこと言っても……ッ!」


ミコネは、セラのファッションをチェックする。


榎木田えのきだセラは胸元と腰元のシルエットが大胆に出ている、セクシーな印象のマキシワンピースをまとっていた。

普段はツインテールにまとめているエメラルド色の髪を下ろして、背中に流している――その上には涼しげな麦わらハット――どこから、どう見ても、おめかし充分の観光スタイルである!


バカンスに来たとしか、思えない。

浮かれすぎもいいとこだ!


「……セラ先輩、説得力が無いですッ!」


「そうわよ?」


「まったくでゴザル。

 セラ殿も、拙者を見習うでゴザルよ」


そう言うマツリは、と言うと。

オレンジのタンクトップにデニムショーツという健康的で快活なスタイルである――茶髪のポニーテールは普段どおり。

ただし、そこには鮮やかな髪留めが目立っている。


「あれっ。マツリちゃん、髪留めなんてしてたっけ?」


「こ、これは……せっかくのお出かけだしっ」


無明むみょうマツリ!

 アンタだって、旅行気分じゃないのよ!」


まぁ、いいんじゃないだろうか。

旅行と言えば、旅行なんだし。


ミコネは水平線の先に見える島を眺める。

人口数百人程度の小さい島、らしい。


「かだす島。

 ……テクト先輩の生まれ故郷、なんですよね」


秋野テクト――

榎木田えのきだセラの幼馴染である上級生だ。


セラは遠くを眺めて、テクトの話を口にする。


「もう何年も帰ってない、って話だったけどね。アタシも、秋野と知り合ったのは、本土でのちょっとした縁でさァ……こうやって来るのは、初めてだわ」


「そう、だったんですね……」




かだす島――

この島には、古くから奇妙な祭りがあるらしい。


祭りの主役は、()()()()()()()()というものだ。

言うならば、『疑似的な殺人事件』を起こすのである。


そうやって死んだフリをした主役は、

祭りの最後には、生き返ってみせる。


仮死状態となっていた被害者は――

そのあいだ、死者の国に渡ることになるらしい。


死者の国に行くことで――

死んだ人間と、再会することができるのだ。




セラは、自身のデータベースから情報を引き出した。


「古事記に根之堅洲國ねのかたすくにっていう記述があるでしょ? かだす島は、この「かたす国」に由来するんじゃないかって言われてる」


根之堅洲國ねのかたすくにって、死者の国なんでしたっけ?」


「それがあいまいでさァ。そうとも取れるし、そうとも取れない……少なくとも、死者の国である黄泉よみの国と同じようなもん、ってくらいしかわかンないのよ」


黄泉よみの国……」


ヨミの、国。

ミコネの脳裏に、幼馴染の顔が浮かぶ。


マツリは「そう言えば」と口を挟んだ。


「思い出したでゴザル。”異界駅”の事件のときに、ミコネ殿は「かたす駅」という言葉を口にしていたでゴザルな」


「うん。「かたす駅」っていう異界駅も、この島と同じで、もしかしたら、根之堅洲國ねのかたすくにのことなんじゃないか……って、ネットに書いてあったの」


「なるほど。ミコネ殿がずっと探していた……

 ”死者と会うことができる怪異”でゴザルか」


「島のことは、あの蒼龍館の事件の時に、テクト先輩から聞いてたけど。夏休みに入るまでは、流石にここまで来る機会が無かったんだよね……」


セラは「はァん」と息を吐く。


「未知なるかだす島に夢を求めて、か。

 果たして、ウワサは本物なのかしら……?」


「本物……じゃないよ」


か細いながらも、反論する声。

ミコネが振り返ると、復活したヨミがデッキに出てきた。



肩を隠す薄手のボレロを羽織り、

灰色がかったワンピースをまとっている。


鎖骨から伸びる腕は折れそうに細く、

スカート越しに浮かび上がる影も儚い。


長い銀色の髪に、片目を隠して。


押せば倒れそうな人形細工の少女は、

それでも、確固たる口調で断じた。


「本物の怪異なんて、存在しない。

 『怪異模倣案件モキュメント』は……私が撃滅する」


「ヨミちゃん……」


「ミコネ。覚えておいて。

 人は死んだら……終わり、だから」


そう口にするヨミの口調は、有無を言わせないようで。

ミコネは、幼馴染の真意を測りかねていた……。




その後――


スロープが下り、潮の匂いが鼻先をくすぐる頃。

船が到着し、一行は桟橋から島へ上陸した。



殊能しゅのうヨミ。

 怪異撃滅クラブ、部長……」


無明むみょうマツリ。

 怪異撃滅クラブでゴザル!」


榎木田えのきだセラ。

 一応、怪異撃滅クラブってことで」


玄野くろのミコネ。

 ええと、帰宅部ですッ!」



四人を出迎えたのは、

青い髪をした清楚な美人だった。


「かだす島へようこそ――

 と、言っておきます。

 秋野ビストです。

 島の案内は、私にお任せください――

 と、言っておきましょう」

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