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怪異撃滅クラブ  作者: 秋野てくと
RE:第四章「敗者に死を与えるマーダーミステリー『さぎり駅』」
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第三フェイズ「三刀両毒」

ゲームが始まると、山々の間に霧が満ちる。

狭霧の駅――

ミコネは列車の線路を小走りに駆けていた。


マーダーミステリー『さぎり駅』。

このゲームの敗者は――

GMによって、電流を流されて死んでしまう!


「(そんなの、絶対ダメだよ……!)」


人の命は、ゲームの駒なんかじゃない。

死んだら命は返ってこないんだから――!


それでも、今、出来ることは……

マーダーミステリーゲームを進めることだけだった。


第一調査フェイズ、開始。


このゲームは「事件の証拠品を集める」”調査フェイズ”と、「証拠品を元に議論を行なう」”議論フェイズ”を、何度か繰り返すシステムになっている。


証拠品と議論で【犯人】を絞り込んでいく。


最後の”投票フェイズ”になったら、

【犯人】だと思うプレイヤーに投票するのだ。


「(まずは、証拠品を見つけないと……)」


と、焦るミコネの背後から掠れた声が呼びかける。



「おーい、危ないから、

 線路の上、歩いちゃダメだよー」



振り向くと、白髪の老人が線路脇に立っていた。


「えっ、おじいさん……?

 ……大丈夫ッ!?」


老人の下に駆け寄ったミコネは、凍りついた。

老人の右足は、膝から先がごっそりと無い……。

断面は滑らかな肉色で、鮮血がだらだらと流れている。

そんな様子なのに、老人は苦悶を浮かべずに笑っていた。


「だいじょうぶだよぉ」


そう言うと、老人の全身がオレンジ色に発光する。

光は粒となり、夕焼けの空に散っていった。

呆然と見送るミコネの手元に、一枚のカードが現れる。


――《遺体の状況》


「これって……調()()()()()、なのかな?」


ゲームマスターのサギリは、調査フェイズでは探索によって”調査カード”を手に入れることができる、と言っていた。これで調査が出来た、ということだろうか……?


タイミング良く、空からサギリの声が響く。


「第一調査フェイズを終了します。

 プレイヤーは、駅まで戻ってきてください」




駅のホームに戻ると、イサキとハジメが揃っていた。

二人はミコネと同様に、一枚のカードを手にしている。


九尾の狐――八雲やくもサギリは、

まるで重力を無視するような動きで、

九本の尾を翼のようにしつつ、ふわりと降り立った。


「第一調査フェイズは終了ですわ。皆さん、調査カードを手に入れたようで何より。それらの調査カードは、任意のタイミングで他のプレイヤーに公開することが出来ます。さて、続いて第一議論フェイズに移るとしましょう――」


第一議論フェイズ――

これから、他のプレイヤーとの議論が始まるのだ。


「と、その前に。

 わたくしから、貴方たちにプレゼントです……!」


サギリが扇子を振るうと、視界が真っ暗に包まれる。

暗闇を裂いて、幻灯のような映像が広がった。




――錆びた駅の構内。


禍々しいドクロが描かれた瓶から、ミコネは紫色の液体を、ペットボトルのコーヒーの中に溶かしていく。


ミコネはペットボトルのキャップを締めた。

真っ黒なコーヒーの中では、

紫色の液体は隠れてしまっている。


そこに現れる、一人の男性――

顔は霧に覆われて見えない。


ミコネはペットボトルを手渡す。

ゴク、ゴク――と喉が鳴る。

男性は得体のしれない液体が入ったコーヒーを飲み干した。




「今の、って……ッ!」


再び、『さぎり駅』のホーム。

ミコネは他のプレイヤーの様子をうかがう。


どうやら、イサキやハジメも同じようなものを見せられたらしい。

イサキは首を振り、ハジメは不機嫌そうに舌打ちする。


サギリは扇子を閉じて宣言した。


「今、見せたのは貴方たちの失われた記憶の断片。ゲームが進行するごとに、少しずつ記憶は戻っていきますわ。それでは、第一議論フェイズ、スタート!」




第一議論フェイズ、開始――


最初に口火を切ったのは、羽住はずみイサキだった。

彼は《遺体の状況》カードを表向きにして、皆に見せる。



《遺体の状況》

 遺体の所持品に飲みかけのペットボトル。

 中からは毒物が検出された。



「これって、死因だよね?

 被害者は毒を盛られて死んだ……ってことかな」


「ど、毒ですかッ!?」


思わず、ミコネは叫んだ。


「ああ、そうだけど……ミコネさん、どうした?」


「そ、その……あたし、【犯人】なのかも……」


「なんだってっ!?」


「さっき思い出した記憶で、たぶん、あたしは男の人に毒を飲ませてたみたいなんです。被害者が毒で死んでたなら……あたしが【犯人】になっちゃう!」


イサキは「いや、だったら、それ言ったらダメだよ!」と言う。


「マダミスは議論を通して【犯人】を見つけるゲームなんだけど、あくまでそれは【犯人】じゃないプレイヤーの話だからさ。【犯人】の目的は、自分が【犯人】じゃないように嘘をつくことで……もしもミコネさんが【犯人】なら、もう負けってことになっちゃうよ?」


「あ……そういうゲームなんですねッ!?」


「おいおい、もうゲーム終了かぁ。

 まぁ、オレとしては助かるけど……」


やってしまった。

ミコネが【犯人】だとバレてしまった――

つまり、ゲームに敗北するのはミコネということになる。


VRゴーグルの下で顔面を蒼白にするミコネ。


――そこに、

「待てよ」

と、不敵な声が響いた。


声の主は、二月ふたつきハジメである。


「ウチが持ってる《遺体の状況》カードでは、

 こう書いてあるぜ」



《遺体の状況》

 遺体の頚部けいぶには細長いもので首を絞められた跡がある。



「これを見るかぎりでは、被害者の死因は絞殺に見えるよなァ。で、えーと、玄野くろのミコネだっけ?」


ハジメに呼びかけられて、ミコネは答える。


「は、はいッ!」


「テメェが持ってる《遺体の状況》カードには、こう書いてあるんじゃねえか? たとえば、ナイフで腹を刺された、みたいな……」


ミコネは手元のカードに目を落とす。



《遺体の状況》

 遺体の腹部には刃物で刺された跡がある。



「そのとおりです……なんでわかったのッ!?」


「先に言っとく。()()()()()()()。毒がミコネってことは、大方、首を絞めたのはイサキなんだろ? なァ、そうだろ、アンタ――?」


ハジメがイサキに問いかける。

イサキは「……そういうこと、か」とうなずいた。


()()()()、ということだね」


「イサキさん、なんですかそれッ!?」


「マダミスが中国から来たゲームだって話は、GMがしてたよね。三刀両毒、というのは、マダミス発祥の地である中国ではよく知られた言葉らしくてさ……遺体が複数の凶器によって損壊されており、どれが直接の死因かわからない状況のこと」


ハジメは、手にしたカードを弄びながら言う。


「ウチが自白カミングアウトしたのは、ウチが刺したナイフが死因じゃないことを確信してるからだよ。ウチが思い出した記憶では、駅のホームで寝てるオッサンをナイフで刺してた――たぶん、あのときには既に死んでたんだと思う」


「それって……

 ハジメちゃんは「死体を刺した」ってことッ!?」


「ハジメちゃんだァ!?」


「あたしと、同い年くらいだよねッ!」


「それは、そうだけどよォ」


羽住はずみイサキは指を三本立てた。


「ミコネさんの毒。

 ハジメさんのナイフ。

 それと、オレのロープ――

 三つの凶器の、どれが直接の死因になったか?

 それを議論しなきゃいけないわけか」


「(三つ……あれ?)」


そのとき、脳裏に柔らかな声が届いた。

ミコネを安心させる声。

ずっと傍にいてくれる、大切な人の声だ。


そうだ、()()なら――

こう、考えるんじゃないだろうか?



「凶器は三つ、じゃない……かも」



気づけば、ミコネは「その人」の口調を真似ていた。


「――あの遺体、顔が潰されてた。頬骨も砕けて、顎も外れて……原型もとどめないくらいに。斧か、鉈か、あるいは鈍器か。そうだよ、凶器は三つじゃないッ! あたし達がまだ調べてない、第四の凶器がある……?」


マダミスはプレイヤーの中にいる【犯人】を探すゲーム――

というのは、あくまでイサキが言ったことだ。


ゲームマスターであるサギリは一言もそうは言っていない。



「【犯人】は、本当にあたし達の中にいるの?」

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