第二フェイズ「ゲームの勝利条件」
突如、現れた死体にミコネは狼狽する。
「これって……ッ!?」
死んでいるのは明白だった――
頭部はざくろのように赤黒く潰れて、
様相は判別できない。
体型は中肉中背の成人男性。
髪は短く切りそろえられており、
服装は特徴のないチェックシャツ姿だ。
羽住イサキと、茶髪の少女も、
それぞれミコネの視線を追って――言った。
「ず、ずいぶんとリアルな……CGモデルだね?
は、ははは」
「趣味が悪ィ。グロゲーかよ」
それぞれの反応を確認して、狐娘は宣言した。
「一度しか言いませんから、よくお聞きなさい。今、目の前にある死体――これを殺害せし者を【犯人】と定義しますわ。ゲームの勝利条件はね……貴方たちプレイヤーが【犯人】かどうか、それによって分岐しますのよ」
サギリが筆を取り出して空中に字を書く。
字は蛍光色を放ち、空間に浮かび上がった――
・【犯人】の場合
投票フェイズで自分以外を最多票にすること
・【犯人】以外の場合
投票フェイズで【犯人】を最多票にすること
「投票フェイズ……?」と、ミコネが首をかしげる。
羽住イサキは、それに答えるように言った。
「【犯人】だと思うプレイヤーに投票する段階、ってことかな? マダミスは、プレイヤーの中に潜んだ【犯人】を見つけるゲームだから……」
「それって、なんだか『人狼ゲーム』みたいですね。そういえば、イサキさんは「人狼みたいなゲーム」って言ってましたっけッ!」
『人狼ゲーム』――
村人の中に潜んだ人狼を探す、というゲームだ。
村人となったプレイヤーは、人狼を探すために投票を繰り返す。
投票で最多票となってしまったプレイヤーは、ゲームから取り除かれる。
人狼を全て追放したら、村人側の勝利。
逆に人狼側となったプレイヤーは投票から逃れつつ、村人の数を減らしていくことで勝利できる、というゲーム……だったはず。
「マダミスの場合は、
人狼に相当するのが【犯人】ってこと?」
「そうだね。人狼と違うのは、投票は最後に一回だけやるってあたりだ。とは言っても、この辺は遊ぶシナリオによって、細かいルールが違ったりもするみたいだけど……」
茶髪の少女は「面倒クセェ…」と呟き、舌打ちした。
一方、サギリは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「『人狼ゲーム』の原型となった元祖は、『ミラーズホロウの人狼』というフランスのボードゲームですわ――神戸のクリエイター集団・グループSNEの安田均先生の著書によると、元になったゲームは1980年代にロシアで遊ばれていた『マフィア』に由来するらしいの。こちらのゲームでは村人と人狼ではなく、マフィアの中にまぎれ込んだ裏切者を探すという趣向だった……こういった「プレイヤーの中にいる正体不明の敵対者を探る」トークゲームのことを総称して『正体隠匿系ゲーム』と呼ぶのよ」
「『正体隠匿系ゲーム』……ッ!?」
ミコネは他のプレイヤー二人を見る。
互いに交わす視線――【犯人】はこの中にいるのだ。
「マダミスもまた、人狼ゲームの系譜に連なる『正体隠匿系ゲーム』の一つ。大きく違う要素は――それぞれのプレイヤーには個別のハンドアウトが存在し、ゲーム上での設定が付与されるということよ」
「ゲーム上での設定、ってことは……ゲーム中は、自分じゃない別の人になるってことなの?」
まるで、お芝居か何かみたい――と思う。
ミコネの理解は合ってるらしく、
サギリが首を縦に振った。
「普通のマダミスでは、シナリオ内で固有の名称を持つ登場人物や、「神父」や「隊長」みたいな役職の名を冠することが多いのですけど――今回はややこしくなるから、それぞれが本人の名を冠した登場人物(本人役)をやってもらいますわ」
サギリがミコネの頭上を指さす。
視線を上に向けると、そこには文字が浮かんでいた。
[玄野ミコネ]
「あっ! あたしの名前ッ!」
「貴方が持ち歩いていた学生証を拝見しましたわ。他の二人も、ほら」
サギリの言うとおり、
それぞれの頭上に名前が浮かんでいる。
ミコネは他の二人の名前を確認した。
[羽住イサキ]
[二月ハジメ]
「二月……にがつ?」
「あァ!?」と茶髪の少女――ハジメが威嚇する。
「ふたつき、だよ。二月ハジメ……!」
「ご、ごめんなさい!」
ふたつき……札付きのワル、という言葉を飲み込む。
イサキは「ところでGMっ!」と手をあげた。
聞き慣れない言葉に、
ミコネは「GMって?」と疑問を呈する。
「GMってのはゲームマスターのことさ。マダミスではプレイヤーとは別に、ゲームの進行を担当する人がいるんだよね。ほら、このサギリって奴も「ゲームマスターを担当する八雲サギリです」、とかって言ってたでしょ?」
「言われてみれば、そうでしたッ!」
「で、GM。オレたちがゲーム内で自分と同名のキャラクターを担当する、ってことは――ゲーム上での設定が記されたハンドアウトが配られるんだよな? それはどこで読めるんだ?」
「今回のゲームでは、ハンドアウトはありませんわ」
「なんだって……!?」
「ここは『さぎり駅』。
狭霧に包まれた、夢と現の境。
ゲームの中の貴方たちは、
ここに来るまでの全ての記憶を失っているの」




