第十四話 須佐の後継者
「武速君、気を楽にして」百目野は頭を撫でた。地震は治まった。病室にいた誰もが目を疑った。
「あなた方、私とお父さんを残して外に出てください」担当医が云った。
皆、考えこんでいた。「百目野先生、あれは、地震だろ?」木藤が聞いた。
「いえ、彼は覚醒し出している」「覚醒?」「須佐の力ですよ」「どう云うことだい?」
百目野は柳田家の経緯を話した。
「ま、まさか?!そんな」
「阿修羅は覚醒以前に仲間に引き入れ様としている・・・そう思います。マインドコントロールですよ」
「だからヤクザから守ったのか?」
「暴力団も武速君の力に気づいていた。だから配下におきたかったんですよ。しかし、その見解は甘かった。しかも共に狙っているのが、まさか、あんな化物だとは・・・」
「脅して、嘘をついて引き込もうとした・・・か。自業自得だな」
「無論、須佐も守ろうとしている」
「うむ」
「武角が出てこないでしょう?彼は武族長、そう易々とは出てこれない。部落を守っていなければ。須佐で一番、力と統率力のある漢です。けれど、その時代の終わりを感じていた。だから佐助を戻した。自分の後継者は佐助しか居ない・・・と云う判断です」
「しかし、彼は出てきた」
「人間社会に100年以上滞在したんです。黙って見ていられなかったんでしょう」
「先生の見解はそう云うことか」
「まだ、あります。もう1人後継者としてふさわしいかもしれない漢が現れた」
「後継者としてふさわしいかもしれない漢?」
「武速君ですよ」
「あっ!」
「彼は須佐之男の力を持っている・・・それはまだですが。時が来たら引き入れようと思っていた」
「その前に阿修羅が現れたと云うことか」
「そう、つまりこれは武速君を奪い取るための須佐と阿修羅軍団の戦いになる」
「・・・この東京でかい?」
「さあ・・・オリオンを作ろうとしたのは仲間を呼ぶため、世界を広げるため、そして武速君を奪えば完璧です。そのためにはどんな残虐なこともする。こんな古代話を聞いたことがある・・・神隠しとは何か?魔の世界に連れて行かれた者たちです。そこには[壁]と呼ばれるモノが居て、人間を壁に拘束して栄養を吸うのだと。それはゆっくりと行われる・・・」
「どれくらい?」
「数百年・・・・死ねずに苦しみ抜くと」
「!!!!!!!人類は?東京は?」
「どうするのか?阿修羅に聞きますか?殺されるか?絶滅か?奴隷か?餌か?彼らは人間ではない。想像し得ない残酷な未来が待っているかも?」
木藤は黙り込んでしまった。我々に何が出来る?
火力に頼っていては須佐に勝てない
それは阿修羅もそうだろう。
我々に何が出来る?・・・何も出来ない。須佐は味方なのか?第一、須佐は勝てるのか?
「百目野先生、我々に出来ることはあるかい?」
「・・・・・・」百目野は考えこんだ。
「祈ることですね」
「な、なんだと?!!」
「祈りは人間のパワーなんですよ。1人1人は弱いけど、世界が、世界の人間、70億の人類が祈ればパワーが生まれる」
「そんな荒唐無稽な!」
「じゃあ、オリオン座に核でも打ちこんで破壊しますか?」
「無茶な!」
百目野の見解はわかった。何も期待できないと。
数億年も帝釈天と戦って来た「魔」が今、人類を解滅せようとしている。かなう訳が無い。そして4柱の阿修羅リーダーが居る。まだ1柱しか姿を見ぬが・・・。
「武角か?須佐之男が現れるかもしれない、須佐之男に会えるかもしれない」百目野は、やはり学者だ。そんなことを思った。
「皆さん、中にどうぞ」担当医が呼んでいた。大分、落ちついたみたいだ。
武速は落ち着きを戻していた。「あなた方は何故ここに?」
百目野は答えた。「武速君、その力は何時ごろから?」
「私がコップを浮かせるのをを見ていて真似したら出来たんです。3歳頃ですね」お父さんが答えた。
「今はそんなもんじゃあない」
武速は頷いた。
「心が不安だったり、怒りだったり、怯えたり・・・そんな時、思っても見ない力が湧くんです。コントロール出来ないくらい」
力の使い方だ。百目野は思った。
「あ、あの化物はなんですか?!」
「武速君、須佐を知っているかい?」
「須佐?」
「君の力は須佐の力だよ」
「お父さんが話してくれた建速須佐之男命のこと?」
「そう、あの化物はその力が欲しいんだ。でも心配しなくて善い。我々が守るし、もっと強い見方も居る」
その時、「先生」と看護婦が担当医を呼んだ。
「玄関に、その・・・見た目、怪しい人が武速君の見舞いだと云って来ています」
「怪しい人?」
「全身黒服で、ギラギラした目付きの。お見通し願いたい・・・なんて時代掛かった口調で」
「お見通し願いたい?なんだそれは?」
百目野と木藤は目を合わせた。
見舞いだと?こんなに早く?どこからの情報だ?
私が見に行こう・・と木藤が立ち上がった。
エレベーターを使い、階下へ。そして玄関に向かい壁に隠れてその人物を見遣った。
「あ!あれは?!」
急いで病室に戻った。
「百目野先生!た、武角だ!」
「な、何だって?!!!!」




