3話:尻尾が生えたよ
「うーん獣肉。海外陰陽師連中はこんなもん毎日食ってんのか」
今俺は激戦を繰り広げた鬼熊の肉を食っている。あ、もちろん焼いてますよ?
いや美味しいかって言われると……。まぁ、血とケモノの味だよ。
俺の小さい頃はこればっかり食ってたからなぁ。田舎の小さい家で育ったからね。
しかし『アカメリ』からやって来たエクソシストの連中は自分でブッ殺した生き物しか食わないって言う奇妙な事やってんだよな。
なんでも神力みたいな名前の力を使うのに必要な儀式って感じらしい。と言っても神力とか俺知らんけど。
「うーむ新鮮なクマの心臓は食えると聞いたが存外旨いな」
そりゃキョウトで食うヒノ食に比べるとかなりの大味だが、やっぱりこのケモノ臭さがクセになると言うか……。
ってかヒノ食は味薄いんだよ!
な~にが精進料理じゃ見ろアカメリの持ってきたハンバーガー?とか言うバカの食いもん!焼いた肉と肉を小麦焼物で挟んだ暴力みたいな味の飯!アレを一回でも食ったら二度とまともに食えんわあんなモン。
「しかしこれからどうするかねぇ」
とりあえずキョウトには帰れないし、今俺妖怪だからカントウやキューシュウみたいな都市近くにも行けない。何なら弱すぎて近寄っただけで蒸発しそう。
だからと言って人間を襲ってどうこうとかもしたくはない。あ、俺の体を乗っ取ったアイツは別な。絶対に蹴り飛ばしてくれる!
となると向かうべきは……『トウホク』!
トウホクは色々あって妖怪との戦いに負けて人が住めなくなった妖怪の都だ、今の俺なら行っても構わんだろう!
それに俺の父親の故郷でもあるしな。そうと決まれば行くぜトウホク!
「いやまぁ、その前に寝るけど」
とまぁ意気込みしたけど激しい運動の後に肉食ったからかスゲー眠い。
火さえ消さなきゃ畜生共も寄ってこないだろ、また鬼熊が来たらって?
そん時はそん時考えるわ。一応バレにくいようにこいつの皮を被ってやねぇ……ほなお休み。
「Zzz……」
◇
「Zzz……んおぉ?もう朝か……」
どーもおはようございます。
いやぁ完成にグッスリ眠ってたなぁ!おかげで疲れが取れましたわい!
「……血臭いな」
それはそれとして今の俺すっげぇ臭い。
カピカピに固まった血の匂いがぷんぷんする。ちょうど隣が川で良かったな。んじゃ服脱いで……
「しかしよく見りゃ貧相な身体だなぁこいつ」
初めてコイツの着てた服(ほとんどボロ布)を脱いで思ったが、コイツすっげぇ貧相な体してはります。
もはや壁の方が凸凹してるくらいにまな板な胸、筋肉全くない手足、水を吸ってしなびてる二本の尻尾……尻尾?
「あれぇっ尻尾が二本になってる!」
なんで?なんで?なんで?
あっ待てよこの熊の死体からなんか妖力が見えるような……?おぉっ手を近付けると吸えるぞ!多分今の身体だと妖怪の妖力を吸う事が出来るのか!?
そうだ式!式どうなってる?!
「あっ増えてる!」
寝る前は八式だったのに今確認したら十二式にまで上がってる!
これは間違いない、今の俺は多分だがこの妖力を吸えば吸う程強くなれるんだ!
……多分!
「しかしこれで一式には到達したって事だな!それだけでも充分だ!」
よーし妖力を上げられる事も分かったし~?当初の目的の通り妖怪が沢山いるトウホクに行こう!そこで妖力を大量に妖怪共から吸い取れば……元の俺をボコれるくらいの強さも手に入るだろう!
「さてと~?ここからトウホクに行くとチュウブを経由する必要あるんだよな。……でもあの辺ガラわりーんだよな」
はぁ~あの辺行かないと経由しないとダメかぁ。
でもトウキョウの近くに行くより良いよ、あの辺経由したら俺みたいな弱小妖怪は実験動物にされて玩具にされておしまい!ですから。
「まぁ道中にいる妖怪はブッ殺して俺の妖力にしてやるぜ!」
◇
歩き始めて約一週間、現在は多分ナガノの辺りだと思う。
疲れないのかって?その辺は妖力を体に纏わせることでかなりの身体強化が出来る事に気が付いたので大丈夫。……もうあと二日早くコレを理解出来たらよかったのにな。
え?排泄とかどうしてんだって?なんか妖怪になって初めて分かったんだけどさ、コイツらって全然排泄しねーの。俺の体でもせいぜい小便を三日に一回するかしないか程度。あの時のアイツ小便溜め込んでたっぽいな。
大便に至ってはまるでする気にならん。考えてみれば妖怪のウンコとか一回も見たことねーしウンコしねーんじゃねぇかって思うわ。その分小便は多く出る気がする。
「くぅっ……!」
それと、小便は三日に一回って言ったけど耐える事くらいは出来る。俺の場合は五日くらいかな。まぁその分出る量は増えるんですけど。それにすぐ衝撃とかで漏れそうになるから嫌だけどな!
「ふぅ……。適当な池があってよかったぜ。そろそろ夜になるし出しておかないとなぁ。……おもらしはもうごめんだ」
この身体になって更に分かった事があるんだが、妖怪は基本的に定期的な睡眠を必要としない。だが寝なくてもよいと言う訳ではない。
妖怪には睡眠時間の許容量があって、それを超えると気絶するみたいに倒れるんだ。
多分俺の許容量は大体24時間、丸一日起きてても全然平気なんだ。まぁ無理してると糸の切れた人形みたいに倒れるハメになるんだけど。……一回なったけど何か?
「ひとまず飯食って寝るか」
なので夜になったら寝る事にしています。寝貯め出来るのかって?多分無理なんじゃないの?
だってそれだったら仮に三日くらい寝貯めが出来る場合三日間眠りっぱなしって事になるんだよ?普通に死ぬっしょ三日は。
襲われる心配?あぁ寝るときは陽炎を使いながら寝れば襲われることはほぼ無い。多分元の身体もそうだったんだろうなぁ。この妖術は弱者が故に手にした技って事だ。
今日は木の上で陽炎を発動して……お休み。
「Zzz……」
◇
あれから寝て起きてを繰り返し、遂にニイガタまでやって来たぞ~!
いやぁ~何もなかった。多少普通の動物を狩り食ってるだけで妖怪との出会いは一回も無かった。
……怖いくらいに妖怪と出会わなかったな。なに?この辺の妖怪全滅してる?
「そう言えば昔伝説の陰陽師ってのがいたはずだな、確かム……おや?」
なんか……広い所に出て来たな。ってかそこかしこに家があるじゃん!集落じゃん!ラッキー!本格的に休める……
「って、人気ゼロだが?」
あらら?なんかあからさまな家があると言うのに人気が全くない。
いや妖気って言った方が良いのかもしれんがそれすらない。家にお邪魔してみたが誰もおらず、恐らく食事してたのだろう木机の上に汚い肉(腐ってるっぽい)が置いてあるだけ。
「なんだココ」
単なる廃村だろって言われたらまぁ……うん。と言う感じだが、それにしては生活感がありすぎる。まるで数日前までここに人がいたようだ。
妖怪にでも襲われたのかもな。
「でもこれなら安全に休めそうだな!一番デカい家にでもお邪魔しちゃお」
いやでもここの奴らには悪いけど、今の俺って妖怪じゃん?仮に誰かいたら襲われてたよなぁ~って入ってから気が付いてさぁ。
んでもいなかったらいなかったで怖いんだけど。
しかしデカい家だな、俺の住んでた実家より圧倒的にデカいんだが?どんな富豪が住んでたんだ?そしてなんでいなくなったんだ?
「まぁそれを考えるのは俺の役目じゃねーか」
そう言うのはですね、陰陽師の連中に任せておけばいいんですよ!
だって今の俺は妖怪だからね~!人間の問題は人間にやらせておけばいいんだよ。俺はなぁ!今を必死に生きるのに精一杯なの!!!
だって弱いんだもん!
「干し肉もコレで最後だし、そろそろ食料問題が出て来たかもな」
襲い掛かってくる野生動物を狩りまくるってのはダメなんだよな。
だって今間に合ってないんだもん。ここに来るまで結構な数狩って来たのにだぞ?
ひとまず最後の干し肉を貪り食い二階へ。
二階にはボロボロだが布団……。いや西洋寝具があり、初めて見るソレにちょっと気分が上がった。
それに横になって久しぶりになにも気にしなくていい睡眠が取れると思うとすぐに睡魔が襲ってきた。
「久しぶりに……。本気で寝れる……」
Zzz……
◇
「はうぁっ?!」
な、なんか腹の部分が生暖かいんだが……。えっ待ってなんか俺に乗っかってる……
「──うぎゃぁ?!生肉ッ!?」
き、昨日テーブルに乗ってた謎生肉じゃねーか!?なんでここに?!
と、と言うか俺の方に近寄ってきてる気が……オラッ投げ捨て!えっどうする焼く!?焼いてみる?!
「ウッなんかコイツ生暖かい感触で気持ち悪い……」
なんかよく見たらコイツ脈動してるんですけど……
うわっ心臓みたいにドクドク言ってやがる。え、生きてんのコレ?生きてる訳なくない?
ま、まさか呪いの家なのか?クソッ前ならともかく今この身体で呪いと戦うのはキツい!
「いやすげぇ行列!俺は人気店かこの野郎!」
な、なんか肉塊クンがアリみたいに行列を成してるんですけど……
いや動いてるにしてもスッゲェ小さく動いてるだけで俺に何かしようって感じじゃねーな。ねぇ何が目的なの?
「なんか怖いし誰がコレ送って来てるのか調べるとするか」
真面目に誰がこれを俺の方に向けてきてるの?この肉何なの?
えぇいこのまま逃げてはくっついてくるかもしれん!正体を暴いてやるッ!
「あっこの家地下室がある!ここから出てきてるぞ!」
階段を下りたらすぐの壁に隠し階段!どれ中は……
すっげぇ暗いけどまぁ……。俺には狐火がある!一応ヤバイ奴がいないか確認の為狐火だけ先行させてと……
「反応も無いし誰もいないっぽいな。いやでもこんな肉塊が出てきてるんだから絶対まともな場所じゃねぇ!」
あっ怖い!この中怖い!こんなに怖いのはガキの頃に親父のふんどしを凧揚げ大会で使った後くらいだ!
けど生命反応はほぼ無い……。あるにしても多分ネズミとかそういう奴だろ。
「ヘヘヘ大丈夫……。多分大丈夫……」
ん、肉塊が途切れているな。
と言う事はこの奥に何かがいるって事か?
「どれどれ……」
──なんか、いた。
カビまみれでギリギリ生物と認識できる程度しか原型が残っていないにもかかわらず、ソレは生きていた。
狐火に照らされた銀髪。そこから見える今の俺の身体のような狐の耳……。
七本あった尻尾は半分くらいが腐り落ちていたものの、かろうじて元の姿を認識する事は出来る。
「なんだコイツ……?」
お、コイツ起きたみたいだ……。いやあの、生きてるんですか?
明らかに顔の半分カビに浸食されてますけど?目とか腐って……
「……お姉……さま……?」
「あぁうんゴメン俺はお前のねーちゃんじゃねぇうん」
……コイツこっち見て来たんですけど。
と言うか生きてるの!?ねぇ?!怖いよぉ!!!
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