第14話 自由と新たな旅の始まり
第14話 自由と新たな旅の始まり
何やら顔を・・・頬をつねられている気配を感じる。
眼を開けば、ラピスが俺の頬をつねっていた。
「ほあよう」
挨拶をするとラピスは朝日が昇る方を向き俺の胡坐の上に座る。
朝日が大地から昇り始めている。オレンジからワインレッド、そしてミッドナイトブルーのグラデーションが何とも美しい。
残念ながら街の周りの大地は、真っ黒の丸焦げではあるが、日の出が見える程の遠い場所は美しい緑を湛えていた。
終わったなぁと胸壁に背を掛けながら思う。実に酷い戦いだった。あれは、下手な悪夢よりも酷かったな。そう物思いにふけりながらラピスの頭を撫でていると、ひぃよっとラピスが勢いよく立ち上がり俺の手を引く。
「ああ、そうだな。帰るか」
そう言うとラピスは大きく頷いてニッコリと微笑む。
城壁を下りて、街を見ながら宿屋に向かう。どうやら、城壁がしっかりとあの得体の知れないバケモノの攻撃から街を守っていた様だ。ほぼ無傷で早朝特有の静寂を湛えている。
城壁の外を派手に燃やしてしまったのは申し訳ないが、街の中枢が生きていれば復活も速いだろう。この街の行政については分からないが、ギルドの様子を見る限り各ギルドで良い仕事をしてくれるはずだ。
街の様子を確認して安心しながら宿屋に入ると、女将さんがパタパタと出てくる。
「やっと帰って来てくれましたー。エイジロウさんもラピスちゃんも、心配したんですよー。戦いが終わっても戻ってこないから・・・」
「ごめんごめん。ちょっと力尽きて外で寝ちゃってさ」
「でも、本当に良かったですー。二人とも無事で」
女将さんにも心配かけてしまったな。でも、この宿も何の被害もないようで実によかった。
「ところで、お風呂って入れますかね?」
そう言うと快く直ぐに準備して入れるようにしてくれた。
風呂に入って、朝食を取って、平和な日常に戻る。別に何日も戦場にいたわけではないが、何故か酷い数日を過ごしていた気がする。
それから、部屋でゆっくりしてから昼頃にラピスと手をつなぎながらハンターズギルドに向かう。
ギルドに入れば何時もの様にマチョスが一番に声を掛けてくれる。
「お、昨日はご苦労だったなぁ」
「マチョスも生きてたみたいだな」
「あたぼうよ!まぁ、半分は運みてーなもんだがな。俺も城壁の歩廊で岩の投石をしてたんだが、投石用に積み上げた岩が丁度盾になってくれてな、あの光を受けずに済んだぜ!」
岩の投石って・・・ここ、ハンターズギルドでマチョスはハンターズギルドのマネージャーだよな?この世界のハンターのイメージって俺の描くものと違うのかと不安になってきた。
「そ、そうか。それはよかった」
「だが、お前さんとは離れていたようだな。全く以て残念だぜ、この俺の筋肉が軋みながら何処までも岩を投げ飛ばす、素晴らしいマッスルボディを見せられなかったのは!」
なんだか、戦闘中でもサイドチェストとかモストマスキュラーとかやってるのが見えて来たな。
「また、いずれ見る事もあろうさ」
見る気はさらさらないが、とりあえず社交辞令で答えておく。
「ガハハハ!そうだな!その時は今よりも筋肉をいじめぬいておかねーとな!ガハハ!」
これは、やはり脳みそが筋肉ではなく心が筋肉なんだな、と納得する。
「さて、忙しいかもしれないが精算を頼む」
そう言いながらハンターズギルドカードを渡す。
「おお!そうだったな、どれどれ・・・スケルトン134、グール253、って凄いじゃないか。派手にやったもんだ」
グール?ああ・・・ゾンビの事か。なるほどなーそう言えば十把一絡げにアンデッドって皆、言ってたから知らなかったな。グールの癖にゾンビ扱いで無敵とか小癪な奴め。初めに知ってたら詐欺だ!って言ったかもしれん。
「コイツは支払いに少し準備がいるから、マスターに会って来てくれい。2階にいるからよ」
「了解ー」
勝手知ったるかの様にギルドマスターの部屋まで行き、ノックして入る。
「よく来てくれたね。今回の騒動でのエージロー君の活躍は聞いているよ。ギルドマスターとしても、ビーイルヴェンの一市民としても感謝の念に堪えない。本当に有難う」
そう言うと礼儀正しくお辞儀をする。
「いや、生活の為にやっただけさ。数倒せばお金になるし、街が無くなれば俺も困るからね」
「そうか・・・そう言ってもらえると有り難い」
「それで何かお話があるのでは?」
「嗚呼、そうだった。まぁ大したことでは無いのだが、折角なのでコレを」
渡されたのは一通の手紙と本であった。
「ハンターズギルド及びクレイゼント王国制定レッドデータブック・・・」
「うむ、ここ周辺では特にそう言う生き物はいないのだが、場所によっては、今回みたいな焼き畑戦術は犯罪扱いになる所も多々ある。あとは狩る事が禁止されている動物やモンスターもあるから確認しておいてくれたまえ」
なるほど、この世界では既にそういう物があったりするのか。これからは環境破壊に気を付けなければな、特に俺は火がでる武器を使うからなぁ。俺の仕事に後は草も残らない、なんて噂がついては洒落にならないし。
「それと、この手紙は?」
「これは、推薦状だよ。今回の働きで私は君がランクBになっていいと思っているんだ。だが規則では試験が必要だ。残念ながら今のこの街の状況では上位ランクの試験をするのは難しい。そこでその紹介状だ。それに君は優秀なハンターだ、これから色んな場所に言って勉強するがいい、君ならランクSも夢じゃないさ」
色々と気を使って貰えたという訳か。有り難い事だ。
「有難う、助かる」
それから少し話すと俺は話を切り上げて報酬を貰ってギルドを出ることにした。
報酬も色が付いていて金貨12枚もあった。さて、これで今日のメインの要件を行える。上機嫌で俺は、奴隷商人ドーレイの所に向かう。
「これは、これは、エイジロウ様。本日はいかがなさいました?新しく奴隷を買われますか?」
ドーレイはそう言いかけながらラピスをじろじろ見ている。するとラピスは俺の後ろに隠れてしまう。
「いや、そうじゃない。ラピスを解放しに来た」
「ほぅ。解放ですか!これはこれは流石エイジロウ様。心御優しい、ですが金貨10枚・・・いやいやなるほど、確かにそう言う事ならエイジロウ様にとってはそれくらいの価値はありますな」
何を言ってるんだコイツ?妙にニヤニヤしやがって。
「おい、何を勘違いしてるか知らないが直ぐにラピスを奴隷から解放してくれ」
そう言って金貨10枚を渡す。
「畏まりました。今すぐ準備させて頂きます」
ドーレイは丸い体を所狭しと動き回り支度をしていく。そして、奥の部屋に案内され入っていくと、そこには地面に魔法陣が描かれていて、5つの白い石が五芒星の角に1つづつ置かれている。
ラピスを魔法陣の真ん中に立たせるように言われてので立たせる。すると、ドーレイが水晶玉の様な物をもって何やら呪文を唱え、魔法陣が輝きだす。
暫くすると、ラピスの首と手足に嵌められていた金属の輪っかから黒い煙が出始め、白い石に吸収されていく。すると石は黒く変色していき、それから煙が出なくなるとドーレイが呪文を唱えるのを止める。
しばし静寂が訪れると魔法陣の輝きは消えて、バキリと音を鳴らしながら黒く変色した石は割れ、最後には粉となる。そしてドーレイの持っていた水晶玉の様な物が砕けて散った。
その様子に驚いていると、カランカランと金属が落ちる音がする。一切取れる気配が無かったラピスの金属の輪っかが、全て半分になって地面に音を立てて落ちている。
ラピスは、驚きながら金属の輪っかが外れた首と手足を見つめ、そして触り、喜んでいるようだ。
ラピスは俺と目が合うと此方に走って俺に飛びついた。随分嬉しそうだ。うんうん、良かったなラピス。そう思い頭を撫でてやる。
「では、解放の儀は終わりました。後は書類を仕上げていきましょう」
そんなこんなで部屋を出て書類を作ってもらう。
「それでは、ラピス・・・いえラピス様は、無事一般人となりましたが、未成年と思われる為に保護者が必要となります。保護者はエイジロウ様でよろしいですか」
「ああ、勿論そうだ」
「それでは、関係性はいかがしましょう。年齢から言えば親子と言うのが最も相応しいかと思いますが・・・強いご希望があれば兄妹という関係もできなくはありません。いえ、最近はそう言う目的で兄妹にする方もいらっしゃいますね」
え?親子?俺、子持ちになるの?兄妹も可能って言ってるけど、そう言う目的ってどういう目的だよ!かなり含みのある言い方だよなコレ。確かに俺の年齢だとこの位の子供がいてもおかしい事は無いが・・・。
ど、ど、ど、どーしよう。
「どうされました。嗚呼、もしかして夫婦を望んでらっしゃいますか?えーとラピス様の種族登録は一応ハーフエルフとされていて年齢の記載も推定年齢・・・。ちょちょいと書類を操作すれば可能ですが・・・」
え?え?夫婦はダメだろ、いや、絶対ダメだろ、ラピスの年齢しらないけどさ!あたふたしてると、ラピスが俺を下から見つめて来る。そんな目で見ないでくれぇ―!ええい、もう迷ってる暇はない。漢、瑛次郎、腹をくくらねば!
「親子でお願いします・・・」
「はい、畏まりました。では、この紙にお2人のサインか拇印、或いは印章をお願いします」
そう言われ俺は敢えて漢字を崩した形のサインをし、ラピスは拇印を押す。すると、なんだろう?またラピスが光ったように見えたのだが・・・。契約とは魔術的なうんたらかんたらで何かが発動したのか?でも俺自身は何も起きてないような・・・。
「それでは、これで全ての手続きが完了しました。エイジロウ様、ラピス様、おめでとうございます」
「ああ、有難う。それじゃ、行こうか、ラピス」
そう、手をつないでいるラピスを見て声を掛ける。
「うん・・・行こう、パパ!」
は?・・・この時ばかりは、ドーレイとしっかり目があった。
「ラピスが喋ったぁーーーー!」
それから俺はラピスが喋った件でドーレイと少しだけ話し店を出た。
どうやら、奴隷術を掛けた人間が無理矢理な方法で掛けたのか、それとも只の下手くそだったのかは不明だが、恐らく奴隷にしておく術がラピスの声を奪っていた可能性があるとの事だ。だが、こういう事は相当に珍しくドーレイも初めてだったと言う。
ラピスが喋るようになったとはいえ基本的に大人しかった。質問も殆どの場合、頷くか首を振る事が多く、少し片言な感じもある。しかし、俺の呼び方がパパなのは何故だろう。
まぁ紙切れ上は、確かにそうなので否定も出来ないしなぁ。そんなこんなで俺は服屋にやって来た。割と子供向けの多い店をあらかじめ見つけておいたのだ。
「いらっしゃいませ~☆お客様~、本日はどのようなご用向きでしょう」
テンションの高いオネェ系の派手な男がやってくる。
「ああ、この子に似合う服を欲しいのだが・・・」
そう言うと、ラピスを見る。男はさっしたのだろう。奴隷服ではあるが、綺麗な物を着せているし、髪もサラサラの綺麗さだ。しかも奴隷の輪っかも無い。
「あらあら、これはおめでとうございます。それでは、予算はどの位でしょう?」
「金貨5枚ほどで、この子の下着から靴から全身の衣類を3セットお願いしたい。2つは、外に旅に出ても大丈夫な様に丈夫で汚れにくい物、もう一つは取って置きのオシャレ様だ。もしお金が足りなければ多少の追加分をだす」
「わぉ☆有難うございます。それでは早速、見繕させて貰いますわ。お嬢様こちらへ~」
そう言うと、何処からか別の店員も現れてラピスを連れて行く。
「ああ、大事な事を言い忘れたが、どれも、可愛い奴だ!可愛い奴を頼む!」
そこんところは気合を入れて頼んでおく。
≪流石デスネ!ヤハリ父親トシテ、一番最初ノ娘ハ可愛イクテ堪リマセンカ?ソレトモ、所謂、光源氏計画デスカ?≫
≪そうじゃないが・・・ほら、ラピスは可愛いからな!更に可愛くするのは当たり前じゃないか!カワイイは正義だ!≫
そんなこんなで店の奥を見れば店員達とラピスは何やらやり取りをしている。するとオネェの店員が戻って来る。
「お父様、ラピスちゃんの御髪を揃えてしまっていいかしら?」
お父様って・・・まあそうなるか。改めて言われると色々複雑だな。
「ああ、ラピスが構わないならそれでいいが」
「ラピスちゃんは、パパがそれでいいならそれでいい、とおっしゃってますわ☆」
「そうか、なら頼む」
それから数十分、ラピスが出てくる。おお!なんたる可愛さか!
前髪は七三で分けられ髪飾りで固定されていている。そして服は黄色いフリルやレースがふんだんに使われた黄色いドレスだ。
俺は余りファッション系の用語は知らないので何と言えばいいのかわからないが、しいて言うなら、ふわゆる系魔法少女で暴走するカードを回収している、そんなイメージだ。
「どうでしょう?お父様、此方が、お出かけ用のドレスですわ」
「素晴らしいじゃないか。うむ。流石だ。1セットはそれにしよう」
そう言うと、また戻っていき次の服をコーディネートして戻って来る。
「こちらが、旅用の服です。動きやすを重視に、魔絹を使い、多少の攻撃では傷つきません」
肩出しの上着に、大きな丸い赤のメモリーストーンで止められた短い外套を纏う事で露出を押さえている。下半身は短いスカートにスパッツの様な物とブーツの延長上にあるかのようなハイニーソックスでこれまた露出を押さえているコーディネートだ。
色は、白と黒が上手く絡み合う様に綺麗にそろえられていて、動きやすく良くできている。実に素晴らしい。後ろに靡くリボンも可愛らしい。
「うんうん、いいじゃないか、それも貰おう」
そうして、次も同じように服を着て来る。今度は全くのアプローチが違って全身黒系で身体にピッタリとくっついたスニーキングスーツの様な服に、燕尾の様な先が尖った部分があるダボダボの襟付き外套を纏っている。
ラピスが可愛いいので可愛いのだが、何方かと言うとカッコイイと言った方が適切だろう。
「こ、こちらは、ラピスちゃんが選んだ物を基準に合わせました」
うん?これはどういう意図なのだろうか?ラピスが選んでると言っているが・・・。
「パパ、これなら夜の闇に溶け込んで任務しやすい」
そ、そうだな・・・だがラピスよ、そんな幼女でその服、昼間の街中なら目立ちすぎて任務どころではないぞ。
「お、おう。そうだな。ソレをラピスが気に入ったのなら、それを貰おう。それじゃ2番目の奴に着替えておいで」
ラピスは首を縦にふり戻っていく。
それから、代金を払うと着替え終わったラピスを連れて街にでる。ついでに俺も自分の服を買う事にした。いつまでも地球の服だけでいるわけにもいかないしな。
基本的に黒を基調にブーツやら外套やらを選んで行く。勿論動きやすさも重視する。俺のは、がっつり戦闘と潜伏を意識した組み合わせだ。
身なりをガッツリ決めた俺達は、街をブラブラしながら一日を過ごした。
翌日、ラピスのギルド登録を忘れていたので、再度ハンターズギルドに向かうとギルドマスターに呼ばれた。
話を聞けば、どうやら北の街、ファリオン付近でゴブリンの群れが、群れを呼び、どうやら軍団になっているという。しかもファリオン付近は貴重な動植物が多いので派手に魔術を行使出来ず、魔術で一気に数処理方法が使えず、討伐する人手が足り無いと言う。
是非、手伝いに行ってほしいと言う話であった。色々考えたが、このまま街に居てもいい仕事は少なそうなので、そのファリオンという街に向かう事とした。
取りあえず、出立は明日にして、今日は冒険者ギルドや魔術師ギルドに向かいラピスのギルド登録を済ませにいった。魔術師ギルドにはハーネア先生もいて、ラピスの奴隷からの解放を心から祝福してくれた。
ついでに、ラピスの服にお金がかかってる事を見抜かれて弄られたのは言うまでもない。
それから、リンシア一行も見つけ挨拶をする。彼女達は、一度今回の惨事を帝都まで報告しに戻ると言う。方向は残念ながら別方向、またの再開を約束し俺達は宿に帰ると翌日を迎えた。
約束の待ち合わせ場所である北門に向かうと女が一人立っている。
「うちっちは、シズカ。よろしくね」
北門であったのは、黒髪の三つ編みを前で結んだ、腰に刀を差している女剣士。すらりとした身体にしなやかな筋肉がみられ、その所作を見る限りかなりの腕前と感じさせる。
彼女は、ファリオンに向かう為に通る東ファリオン大森林の道を案内してくれる、冒険者ギルドが用意してくれた今回のパーティメンバーだ。案内だけでなくゴブリン退治にも参加するらしい。
そんなこんなで、俺とラピスとシズカの三人での新しい旅が始まった。
14話までお読み頂きありがとうございます。
お正月から連続投稿してきました「地球でサバゲのアーマー勢だった俺が気が付けば異世界で変身ヒーローをやる羽目になった理由が知りたい」の第1部的な物がここで終了となります。
次回の2部に向けて、またストーリーを作り上げる為、一時、更新をお休みし文章をいくらか溜めてからのスタートとなりますので暫しお時間を頂きます。
それではここまで読んで頂きありがとうございました。次回もどうかよろしくお願いいたします。




