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隠し部屋と宝箱の姫君②

 絹のように白く長い髪、あどけなさが見え隠れする整い過ぎた顔、そして何より一番の特徴である髪と同じ色の獣耳を頭部から生やしている少女。見た目や振る舞いだけを見るならばただの美形の子供とも言えるが、ここは迷宮内部だ。しかも地図には記されていなかった隠し部屋で一人、宝箱の中に居たというのも怪しさを際立たせている。


「貴女は何でここに来たの?」


 どう見ても頭を悩ませているというのに、こちらの事など気にしない彼女は自由奔放に振る舞い、自身の気になった事はすぐに聞くという困った子だ。


「不注意でここに落ちて来たんだ。――一つ確認だが、君は獣人で間違いないかな?」


「じゅうじん? 私は私なの! ねぇねえ、そのじゅうじんって何の事?」


 小さい頭を傾ける彼女は惚けているつもりではないらしい。先程からずっとこの調子だ。大した情報も引き出せないし、話をしていて判明した事だが、この子は世間を知らなさ過ぎる。幾ら世の中に無頓着でも五大国の名くらいは知っているだろうし、そもそも赤ん坊でも認知出来る魔法という概念をまるで知らなかった。


 私と同じかとも思ったが、どうも違う気がする。この国の言葉を始めから話せている割に、彼女には≪言語翻訳≫のスキルがあるわけではない。そして会話の中から感じた大きな違和感……それは何年もこの場所に居たような語り口調と、その中で食事を摂ったような内容がなかったのにも驚きだが、見た目が一切汚れておらず、寧ろ不自然な程に清潔である事。

 何年も箱に閉じ込められていては猫背にでもなりそうなものだが、彼女の背筋は真っ直ぐに伸びており、その佇まいは美麗であるの一言だ。不自然な所は細かい所を指摘し出したらキリがない。その全てが彼女がこの空間にいる事の異様性を各々に強調し、目の前で笑顔を見せる彼女の表情を絵面通りに受け取る事を断固として拒否させている。


「どうしたのー? そうだ! わたし良い事知ってるんだー。貴女にやってあげるね」


 目にしているのは天変地異も良い所である。まるで人を驚かせる為だけに作られたようだ。当の彼女はきょとんとした顔を見せ、何を考えたのか私に屈むように言ってきた。


「これはごほうびだから。こうすれば助けてくれてありがとーっていう気持ちが伝わりやすいでしょ。やられるとうれしい?」


 それとなく察していたが、頭を撫でられた。別視点から見れば大人が子供に撫でられているという大変にシュールな光景が広がっている事だろう。恥ずかしさを通り越して呆然としてしまった。


「……これには何の意味があるんだ?」


「何もないよ。わたしがしたかっただけだから」


 その言葉を聞いて思わず苦笑する。こんな事をしている場合ではないというのに、何をやっているんだと。早くこの部屋から出なければならないが、彼女を放ったらかしにするのも偲ばれるし、どうしたものか。私は厄介事を抱えながらこの部屋から取り敢えず上の階層へと上らなければならない。


 はっきりと言ってしまおう。難しいと。私だけならやりようは多少なれどあるが、二人となるとこの少女に配慮しながらこの部屋から出なければならない。無理矢理出る事は出来るが、その場合彼女の安全は保証出来るか分からない。ゴリ押しというのは止めた方が良いだろう。


「上に上がる階段はないだろうか……。しかし、こんなに探しても見つからないとなるとやはり強硬手段に出るしか……」


 脱出法を模索していると不意に口が滑った。その話をした時、それまでさほど興味のなさげだった彼女が食い付いて来た。


「わたし……、それ知ってる! 教えてほしい?」


「なんで知っているんだ? 君はつい先程まで箱の中に居たんだろ?」


「むぅぅ、教えてほしいの? それとも教えなくていいの?」


「……教えてほしい」


「分かった。任せて! こっちだよ」


 返事をするとはしゃいで自信満々に胸を張る。その自信は一体どこから来るのだろう。野生の勘とでも言うつもりだろうか。余り期待してはいないが、もし見付けれるのであればそちらの方が色々と助かる。


「ほら~、ここだよー!」


「私にはただの壁にしか見えないんだが、どこに階段があるんだ?」


 彼女は何の変哲もない壁を指差した。そこは私も調べたが、隠し通路が隠されているような形跡も吹き抜けになっていそうでもなかった。


「ここなんだけど――まあ、一般人じゃ分からなくて当然だよ」


 そう呟いた彼女は右手を壁に預ける。それから間もなくして彼女の掌が触れた部分が緑光を放つ。


『認証……魔導人形達(マシンドールシリーズ)07の機体番号0217と判明――システムになぞり、隠蔽状態及び封鎖状態を一時解除します』


 無機質な声が聞こえた後に、それまで壁となっていた石レンガ達は二体の土巨人(ゴーレム)となって両脇に逸れた。私は驚きながらも機嫌が良さそうに腕を振る彼女に続いて現れた通路へと入り、少ししてそれまで控えていた土巨人は元の位置に戻ると又しても壁へと変貌を遂げた。


「……君は一体何者なんだ? 何故こんな事まで知っている?」


「それを聞いちゃいますか……。それはわたしが説明するよりも自身でご覧になった方が手っ取り早いかと」


 大して広くない通路に多く設けられている部屋の一つで立ち止まり、木製の扉を開く。噎せ返るような古本の臭いに顔をしかめるも、次の瞬間には驚きに全てを掻っ攫われてしまった。


「誰だい? 用事がある時でもノックは欠かさないでくれ、といつも言ってるじゃないか」


 部屋の中で長椅子に腰掛けた一人の若々しい男が本から目を離さずに淡々とそう告げた。

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