隠し部屋と宝箱の姫君①
最近で変化があるとすれば、迷宮探索が日課になっているという事だろう。迷宮探索で生計を立てていこうと思っていたので、日課になるのは当然と言えよう。現在は十階層手前まで行くことが出来ている。朝の内に家事全般を済ませ、昼頃になると迷宮に出かけているので家に帰ってからドタバタする必要はない。
なので時間を気にする事なく迷宮探索に集中する事が出来る。鍛練も続けているが、それはナシアが眠りこけた後でなければ口うるさく言われるので必然的に時間は以前に比べると少なくなっているのが現実だ。
それでも、迷宮に挑む事には意味があると思う。レベルが上げられるのもそうだが、こちらでの強弱の線引きはどうなっていて、実際にそれは目安となるのかを身を持ってして確かめる必要がある。これは生存率の話に繋がるし、もし当てにならないのであれば内容を一新する旨を伝えた方が良いだろう。
通路にいる守護者を記憶の中の知識と照らし合わせる。
「確か……熱大蛇だったか。危険度はD判定だった気がするな」
魔眼も使って一応確認する。名前は一致したので問題無いが、危険度が合っているとは限らない。危険度というシステムは文字通り魔物の危険度を示すものだ。探索者に注意を促すのは勿論、一般の民にも危険性を伝えるのに一役買っている。
判定については下から順に、G、F、E、D、C、B、Aと別れている。S判定もあるが、それは魔物単体ではなく、『魔物達の行軍』という現象に宛てられる危険度だ。魔物達の行軍は、普段協調性を持たない魔物が種族や実力をとわずに足並みを揃えて行動する災害で、これによって一国が滅んだ事もある。
要するにSは災害と同じように扱われるような判定結果だ。そんな判定結果が何件も何件も出されていたら堪ったものではないが、災害と同じような扱いだからこそ、そうそう判定が出される事は無い。
なので、実質上の最高の脅威はA判定される魔物である。それと同様にA級探索者に属する者達が人類での最強の区画である。
「シャアァァァァ!」
熱大蛇が舌で威嚇音を発する。細長い体には蒼白い鱗がついていて暗がりの中で怪しく光っている。牽制として酸を吐く熱大蛇。後ろに下がり、それを避けると同時に目の前の光景が一瞬で変化した。
地を物凄い勢いで這う蛇は長々とした体で退路を塞いで、全方位を蛇の鱗で埋め尽くした。どれだけ長ければこんな事が可能なのだろうかと内心驚きつつも、手近な腹を斬りつける。長い体は断面から二つに別れて地に倒れる。しかし、蛇はものともせずに噛み付こうとして来た。
この魔物の面白い所は傷を感知した時からその箇所が止血される事だ。野良の熱大蛇は餌が獲れない時には自身の体を食する事もあるらしい。
こいつは十階層の主で、こいつを倒さない限りは次の階層への階段は重厚な鉄の門に閉ざされたままである。私はそれなりに楽ではあるが、一般的な人達にとっては強敵という部類に入るだろう。
ミスリルの剣でなければこうも簡単に斬れる事はなかっただろう。迫り来る大蛇の息を止め、魔石を回収する。薬学を学ぶに当たって知った事だが、熱大蛇の革は薬の材料として重宝されている。死体を持って帰れればその革には相当な値がついたに違いないのだが、残念ながら消えてしまった。
大蛇がいた後ろで古めかしい音を発てて鉄の門が開いた。私は現れた階段をゆっくりと歩いて降りて行く。ここからは少し警戒しなければならない。この迷宮は十階層ごとにその階層に出現する守護者の種類がガラリと変わる。ゴブリンはホブゴブリンに、スライムはマジックスライムにといった具合に少し強くなるのだ。
初見の魔物しか見なくなるし、予想外の攻撃を仕掛けて来る事もあるかもしれない。油断は禁物である。
順調に進み暫く進んだ頃それは起こった。
「あっ――」
ホブゴブリンの束を片付けている最中に壁に触れた事で突如現れた落とし穴へと落ちてしまったのだ。慢心はしないよう心懸けていたというのに気恥ずかしいばかりである。
「それにしても――金やミスリルがこんなにもゴロゴロ転がっている場所は聴いた事がないぞ……」
私が落とされたのは言わば宝部屋だった。迷宮の中で唯一灯りがないにも関わらず、金やミスリルといった数々の希少金属から発せられる光沢で部屋の中は迷宮内で一番の明るさを誇っていた。
辺りを探ってみるものの、一見出口はないようにしか見えない。風魔法を出力全開で地面に向かって放てば出る事は可能かもしれないが、できればそんな手荒な真似をせずに地上へと帰還したい。
壁に寄って詳しく調べている、と宝箱の一つがガタッと揺れた。宝箱の中には封獣という魔物が存在する事がある。魔眼を使って中身を確認しようとするも、宝箱には透視を妨害する機能があり、薄っすらとしか分からなかったが、守護者ではなかった。
危険性は低いと判断して宝箱をゆっくりと開ける。
「ほぁ?」
財が積み込まれた部屋の中に間抜けな声が漏れた。それは決して私が発したものではない。その声の主はおっとりとした動きで宝箱から体を起こし――
「うーん、久しぶりの外だー。貴女が起こしてくれたのね? ありがとー!」
元気にこちらに語りかけて来た。




