休暇
あの騒動から二週間近くが経過し、疫病も治まりを見せつつある。弟子を自称する青年達も薬を作れるようになった為、町民の殆どに行き渡っていて、あとは回復を待つのみ、というのが今現在の町の状況である。
よって私は平穏な日常生活に戻る事が出来たわけだが、影達の事もあり、あまり穏やかとは言い難い。何よりあの血のような液体は脅威と言える。男の口振りから作れる人間は彼だけのように聞こえたが、そう楽観視も出来ない。
「調査の必要があるな」
拳を握り、決心する。あの時仕留める事が出来れば良かったのだが、残った人物はどれも一筋縄ではいかない相手ばかりの上、体力的にも厳しい状況だった。
追いかけていれば私は無事に戻れたか怪しい。彼等が退いてくれたのはある意味助かったと言っていい。
もう守れないのはたくさんだ。守る為には力がいる。これからは訓練を強化しなければならないだろう。レベル上げもする必要がある。
「どうしたんです? 暗い顔して」
「ナシア……。いや、何でもない」
「何かあったら言ってくださいよ。私、少しぐらいならお役に立てると思うので」
彼女の言葉を聞いていてつくづく駄目だな、と思う。ナシアは来年度から魔法学園への入学で忙しくなるというのに他人の事ばかり気にしている。――違う。私が気にさせてしまっているんだ。
何が私は器用だ、だ。不器用過ぎて笑えてしまう。彼女の陰りも取れず、結局人と自然の流れに任せて放置している。私が心配させていては話にならない。
「ありがとう、でも大丈夫だ。それよりも勉強はどうだ?」
「順調です、一応。ここがよく分からないんですけど教えて貰えますか?」
彼女は自室に戻って分厚い冊子を持って来ると、机の上に置いて魔法の応用問題が書かれているページを開く。これなら私でも説ける。
「ああ、ここに座ってくれ」
手で隣の椅子を軽く叩いて着席を促す。はにかんで座るナシアに着眼点と発音、並び方の法則を教えて自分でやらせる。
「やったー! 出来ましたよ、フィアットさん! 見てください、ほらほら!」
「よく出来ているじゃないか」
「えへへっ」
照れ臭い顔をした彼女の手元には小石ぐらいの氷が出来ていた。一度で成功した彼女は意外と才能がある。体術に加えて魔法の訓練も追加する方向で考えておこう。
「もう昼時か」
「今日は私が作っちゃいますからフィアットさんは待ててくださいね」
「楽しみにしておくよ」
木洩れ日が射し込む平和な日常がゆっくりと流れていく。ああ、久しぶりに心休まるのはいつ頃だろうか。
彼女は溜息を一つこぼした。




