#8 謁見
謁見がかなったのは、それから1時間ほど経ってからのことだった。
それにしても、今日は朝から忙しい。二つの王国の軍の撤退に応じるよう脅し……いや説得し、それから王宮に来て国王陛下に会うこととなった。
まさに日も暮れようとしていた。そんな時間まで、俺は図らずもこの国の民のために走り回る羽目になった。
それも、補給もままならないこの状況下で、だ。
が、連合側の軍人としての責務を果たさねばならない。それは、地上から争いごとをなくすこと。しいてはそれが、この星を連合側に引き入れるための布石となる。
さて、玉座の間に通された我々、俺と参謀長、そしてベルガに護衛の陸戦隊員が二人、五段ほどの段上に配置された立派過ぎる椅子の前で、リーゼンフェルト将軍と共に待つこととなる。
そこに、ほっそりとした貴族らしき人物と共に、頭上に王冠をかざす、ふてぶてしさがにじみ出る者が現れた。一発でこのデブが国王だと分かる。
そして、だるそうにその立派過ぎる玉座に座ると、その国王は脇に立つ人物に耳打ちする。するとその人物が、こう答える。
「おい、リーゼンフェルトよ。そなたが重大なことがあると私は申し上げ、陛下を伴いこの玉座の間に参ったが、それがそこにいる、得体のしれぬ連中と引き合わせることなであるのか?」
なんとまあ、やはり露骨なまでに横柄な態度の人物だな。見た目通りだ。俺も大概、態度が悪いと言われる方だが、これほどまでに横柄ではない。
が、それを受け、リーゼンフェルト将軍は答える。
「国王陛下、並びに宰相閣下。王宮の中庭に、巨大な石砦が降り立っておりますぞ。それ自体が国王陛下にとって、すでに危機的状況であるという自覚はございませんか!?」
この将軍の言い分、ごもっともだ。普通、王宮のど真ん中にあれだけのものを突っ込まれて、平然としていられるはずがないだろう。
すると、宰相と思しき人物が再び陛下に耳打ちする。すると国王陛下がまた耳打ちをしている。
威厳を保つためなのだろうか。我々と直接、会話をしない。封建時代の王家の者が、自らの権威を示すために直答せずに、間にわざわざ別の者を挟んで話をする。やれやれ、非効率なことだ。
「それはそなたら、王国騎士団の落ち度であり、陛下の御心を乱すほどのことではない。なんとかせよと、陛下は仰せだ」
「その件は、確かにその通りにございます。ですがなぜ、この者らがあの巨大な石砦で王宮の中庭に駆け付けたのか、その理由の方が重大にございます」
そう告げたリーゼンフェルト将軍の言葉を、また宰相が国王に伝える。なんだろうな、この非効率な会話は。が、まずはリーゼンフェルト将軍が話を通し、その後に我々が発言するようにと事前に言われている。今はただ、待つしかない。
「その重大な事とは何事かと、陛下はおっしゃっている」
相変わらず、冗長した会話が続く。が、リーゼンフェルト将軍があのひと言を告げるや、流れが変わる。
「ゼーレ・プラーゲが、まもなく起こるとのことです。宰相閣下」
それを聞いた宰相も、そして国王陛下も、顔色が変わる。それまで宰相経由でしか会話をしなかった国王陛下が、ついに立ち上がって声を上げる。
「じ、直答を許す! そなた、ゼーレ・プラーゲが起こると、そう申したな!」
「はっ、国王陛下、その通りでございます」
「まさかとは思うが、ついに領内に、魔物か魔族でも現れたか!?」
魔物に魔族? なんだ、この星には魔女以外にも、そういうものがいるのか。が、リーゼンフェルト将軍はこう続ける。
「いえ、そういうわけではございません。ただ、伝説の英雄で、百年ほど前にゼーレ・プラーゲを未然に防いだ英雄、ローマン・ハルスラッハー栄誉将軍様の紋章を持つ者が現れました。その者が、ゼーレ・プラーゲが起きると告げているのです」
「だ、だれじゃ、その者とは」
そう国王陛下が告げると、リーゼンフェルト将軍はベルガの方に視線を移す。するとベルガは前に進み出て、あの丸い紋章を国王に見せる。
それを見た宰相と国王が、驚いた顔でその板切れを凝視する。その紋章の意味するところを俺は知らないが、何か重要なものであるらしい。
「な、なぜ平民風情が、あの大英雄の紋章を持っておるのだ!? あれはごく限られた者のみが知る、秘中の秘の紋章であるはず!」
「簡単な理由でございます、陛下」
ついにベルガが発言した。そして、続けてこう言い放った。
「私は、かつての王国の英雄であるローマン・ハルスラッハー栄誉将軍様の真弟子にございます。ただの平民では、ございません」
それを聞いた陛下の顔色が変わる。
「き……貴様、もしや……」
ちょっと待てよ、今の会話を聞く限りでは、ベルガはその栄誉将軍とか呼ばれている英雄の真弟子だと言っていた。
が、その英雄は、百年ほど前の人物だとも言っていた。
どういうことだ? それはベルガが、百年以上生きていなければ成り立たない話じゃないか。あるいは、そのハルスラッハーという者の意思を継いだ者という意味で、ベルガはそう答えたのか。
しかしだ、その疑問に答えるかのように、リーゼンフェルト将軍がこう告げた。
「おそらく、いや、間違いなくこの者は、ハルスラッハー栄誉将軍様の真弟子であり、魔女でありましょう」
なんということだ、このリーゼンフェルト将軍はあの紋章と短い会話から、ベルガを「魔女」だと見抜いていた。しかし、なぜだ。そんな短い会話で、魔女かどうかなんてわかるものなのか?
が、ベルガはためらうことなく、こう答える。
「はい、私は『人』にあらず、魔女でございます。およそ百十年ほど前に、あの大英雄で、隠居中であったハルスラッハー様に助けられ、そして育てられた者でございます、陛下」
なんだって、百年以上前の英雄に、ベルガは育てられただって? つまりベルガは魔女であるだけでなく、百年以上生きてるということか。
確かにベルガは魔法を使ってみせた。ただの人でないのは間違いないだろう。しかしそれは、魔法が使える人というだと思っていた。が、どうやらこの星では、あのような魔法を使う者は「人」ではないらしい。
もちろん、それを聞いた国王はこう叫ぶ。
「おい、リーゼンフェルト! そなた、この者が魔女と知りながら、玉座に通したというか! 魔女ならば、即刻火あぶりがこの国の方であろう!」
宰相が叫ぶ。が、リーゼンフェルト将軍はひるまない。
「お忘れですか、三百年前のゼーレ・プラーゲの際は、味方になった魔女の存在により、この地に住む人々の危機を救いました。そして、あのハルスラッハー栄誉将軍様が秘中の紋章を託した魔女となれば、いかにこの国の法とはいえ、無碍に扱うわけには参りません」
いやはや、なんだか少しだけ事情が読めてきたぞ。よく分からないが、ゼーレ・プラーゲというのは多分、魔法を使える者、すなわち魔族や魔物、それに魔女といった類いの者が引き起こす災害のようなものだろう。
人は魔法を使えない、ということは、おそらくその災害に対して、人は無力のようだ。が、理由は分からないが、以前それが起きた時に、それに抗った魔女がいる。
そして、百年以上前にそれが起きる寸前、人の英雄がそれを阻止した。方法までは、分からない。が、その者が晩年に、再度起きるであろうゼーレ・プラーゲという災害を防ぐよう、ベルガに託した。
なんだ、ベルガって見た目はただの二十歳前後の娘だが、俺よりもはるかに歳上だったということか。いや、そんなことよりもだ。
どうして今、ゼーレ・プラーゲが起きると、ベルガは断言するんだ?
疑問が残るが、ともかくベルガは続ける。
「そのハルスラッハー様ですが、亡くなる間際に私に告げられました。やがてこの王国に、魂の災禍『ゼーレ・プラーゲ』が再び起こることになるかもしれない。その時は、私がそれを防ぐようにと告げられたのです。そして今、まさにそのゼーレ・プラーゲが起きようとしているのでございます」
「ば……馬鹿な! 何ゆえにそのようなことを、断言できる!?」
「ゼーレ・プラーゲとは、人々の引き起こす『怨嗟の念』が長年にわたって積み上がり、引き起こされるものでございます。恐れながら申し上げるなら、国王陛下の治世でこの国のみならず、二つの隣国の民、王族にかつてないほどの深い怨念を作り上げてしまいました。それが三百年前に起きたゼーレ・プラーゲの起きた時の怨嗟の念の量をこのわずかな期間で越えてしまったのです。魔女でありますから、ここ百年ほどの間で最大級の怨嗟の念が引き起こされていることは肌身で感じております。当然、それを引き起こす元である魔族らも、同じものを感じ取っているはず。ただちに人々の恨みの念を鎮めねば、この王国で最大級の災害であるゼーレ・プラーゲが、再び引き起こされてしまいます」
「な……」
こんな作業着姿の娘に、国王ともあろう者が圧倒されている。だが、さっきから分からない単語の羅列が多い。そのゼーレ・プラーゲという奇妙な名前の現象とは、具体的にはどういう事態なのか。どうしてハルスラッハーという人物は百年ほど前にゼーレ・プラーゲを防ぐことができ、しかしその次に起きるこの災害事象の対処をベルガに託したのか?
「だ、だが、そもそも貴様が信頼できぬ! つまり貴様は魔女であろう! そのような者が、あの伝説の英雄であらせられるハルスラッハー栄誉将軍様の弟子であったなどと、どうして信じられようか! 余をたぶらかし、この国を乗っ取るつもりではないのか!?」
「はい、百十二年前にハルスラッハー様が天に召される際、おそらく私の言うことなど信じる者はいないだろうと言い残されました。その上、私一人の力で抗えないほどの災害になるとも言われ、その際は私の持つ転移魔術を用い、味方となる者を呼び寄せるようにと遺言され、息を引き取られました。ですから私はハルスラッハー様の言葉を胸に、ゼーレ・プラーゲに対抗すべく、民を守ることができる魔王様を召喚したのでございます」
と、いきなり俺に振られる。ベルガが俺の方を向き、発言を促してきた。
仕方がない。俺は敬礼し、国王陛下にこう告げる。
「小官は、地球六七七、遠征艦隊所属の第九戦隊の五百隻の艦艇を預かる戦隊長である、レオナルド・バルディ准将であります」
などといったところで、理解はできないだろうなと、そう思いながら俺はそう言い放った。当然、相手は理解が追い付いていない。
「……聞いたことがないな、その、アースなんとかという国は。そなたらは、どこから参った?」
宰相が俺にそう問うてきた。俺は答える。
「はっ、宇宙です」
「宇宙?」
「つまり、この空のはるか上、星々の広がる空間を越え、別の星から来た者でございます」
事実を申し上げているのだが、理解が追い付いていないようだ。するとベルガがこう付け加えた。
「強大な魔力を与えてくださる世界樹の葉を用いた秘伝の転移魔術により、星の国より呼び寄せたのでございます。この者らと行動を共にし、今朝の内に、エーデルライヒ王国軍とアイゼンヴァルト王国軍とを無血撤退させるほどの力量を持つ、まさしく我らが望む魔王様にございます」
おい、国王の前で魔王と紹介するやつがあるか。俺は間違いなく今、不機嫌な表情をしている。そう自覚するほど、顔の筋肉がこわばっていた。
が、それを聞いた国王が、こう返してくる。
「こ、この者が、魔王だと!? わっはっは! 何とも愉快な冗談じゃわい!」
なんだろうな、魔王と呼ばれることは不快だが、それを馬鹿にされるのも不愉快だ。この国王、なんなのだ。
「余、フリードリヒ十六世、この王国の十六代目の王であるが、歴代の王の中でもっとも愉快な冗談ではないのか? いやはや、魔女とやらが自らを正当化するには、いささか苦しい言い訳であったな」
なんだこいつ、我々の話を冗談だと言って斬り捨てたぞ。これには例のリーゼンフェルト将軍すらも呆れ顔だ。
当然だろう。外には巨大な駆逐艦が降り立っている。その状況すらも見ることなく、こいつは我々の言葉を戯言だと決めつけたわけだ。話にならないな。
問題は、後半の言葉だ。それはすなわち、ベルガを「魔女」として裁くと言っていることになる。
いや、裁くというより、先ほど言っていた「即刻火あぶり」をするつもりのようだ。魔女相手に、裁判など不要な国のようだからな。
現に、この言葉を受けて、周囲の近衛兵たちが集まり始めた。
まずいな、これは。
「陛下、お考え直し下さい! この者を処するということは、我が国にとって大いなる損失です!」
「なにゆえ、将軍ともあろうそなたが、そこまで反論するか」
「当然です! 国王陛下は今、民が抱いている不安と恐怖を何も知らないのですか!?」
先ほどから、少し感じていた。この将軍、ベルガを魔女と知りながら、国王の謁見を許した。少なくとも、ここに至る前にほぼベルガを魔女だと確信していたにもかかわらず、だ。
それはつまり、ベルガのいう「怨嗟の念」を並々ならぬほど感じていたのではないか? 無論、人である以上、それを直接感じ取ることはできない。だが、平民兵を配下に多く抱えている将軍なれば、その異常さを他の王族や貴族以上に感じ取ることができた。
さらに、三百年前に起きたとされるそのゼーレ・プラーゲという災害には、味方する魔女のおかげで助かったという伝承まである。
と、なれば、この魔女にそのすべてをかけたくなるのも無理はない。
しかし今、それが崩されようとしていた。
「我が国の法に則り、この魔女を火あぶりに処す!」
横に立つ宰相が叫んだ。近衛の兵が、ぐるりと我々を取り囲む。
やむを得ないな。俺は参謀長のヴィスコンティ大佐、および陸戦隊員に告げる。
「参謀長、人型重機を一機、ここに突入させよ。隊員二名は、ベルガを援護せよ。威嚇発砲も許可する」
「しかし、戦隊長。それでは……」
「やむを得んだろう。もはや、話の通じる相手ではない。力を見せつけるしか、この場を抑止する手段がない」
それを聞いた参謀長は、無線で俺の指示を伝え始めた。そして隊員二名は俺とベルガを取り囲む。
「さすがは、魔王様でございますね。私を、国王陛下に引き渡さないので?」
「そんなこと、できるわけがないだろう。だいたい俺は元より、国王陛下に喧嘩を売りに来たんだからな」
そう俺は、この少なくとも百年以上生きたとされるベルガにそう言ってのけた。正直、話ばかりで退屈していたところだ。
そんな我々に、近衛兵の一人がこう告げてきた。
「魔女を引き渡してもらおう。さもなくば、貴様の命もないぞ」
こいつ、俺を相手に脅しているのか? ちゃんちゃらおかしい話だ。俺はこう返した。
「命がない? 俺の? 冗談も大概にしてくれ。むしろ命の危機にあるのは、お前らの方なのだからな」
「な、なんだと?」
「威嚇射撃だ、天井に一発。ちょうど外にいる人型重機に、我々の場所を教える意味もある。撃てっ」
俺は隊員の一人に命じた。するとその隊員は持っていた小銃を上に向けて、一撃放った。
目盛りは三。つまり、軽く家が一軒、吹き飛ぶほどの威力だ。バンッという激しい音と共に青白い光が一瞬放たれ、この玉座の間の天井を突き破った。
あっという間に、巨大な穴が天井に開けられた。ちょうど人型重機が一機、入り込めるくらいの穴だ。しかしその威力は天井のみならず、側面の壁の一部をも破壊した。
その壁の隙間から、まさに中庭に鎮座している四〇〇一号艦が姿を現した。
すでに日は暮れていたが、その日は満月ということもあり、あの灰色の船体がその月明りで照らされていた。それを目にした国王と宰相は、愕然としていた様子だった。
「な、なんじゃこれは……」
先ほどの銃の威力に加え、王宮の庭先にこれほどまでに巨大な艦艇が鎮座していることを、まったく知らなかったらしい。いや、報告は受けていただろうが、それこそ「愉快な冗談」だと捉えていたのか。目の前の現実を見て、初めて自身に迫る危機的状況に気付いたらしい。
とまあ、そんな現実を叩きつけられ、途方に暮れるその国王と宰相の前に、さらなる恐怖が舞い降りてきた。
そう、全長九メートルの巨大な二足歩行の乗り物、人型重機だ。
名前こそ「重機」だが、その重機を軍用に武装、改造したものを我々の戦隊では各艦に一機づつ配備されている。我が艦から降りてきたその機体は、天井に開けられた穴からこの玉座の間に入ってくる。
慄く近衛兵の前に、ゆっくりと舞い降りてくるその人型の大型機械を見て、逃げ惑う近衛兵たち。その様子を、俺は悠々と眺めていた。
無論、ベルガも同様だ。
肝心の国王はといえば、腰が抜けたのか、その場を動くことができない。宰相も、まさか国王陛下をおいて逃げるわけにもいかない。その場で立ち尽くしている。
そんな二人に向かって、俺はこう告げる。
「小官から陛下への要求は、二つ。一つはベルガの処刑命令の取り消し、そしてもう一つは、取り過ぎた年貢の返還。その二つが守られるならば、我々はむしろ、あなた方の味方となりましょう。ですが、そうでない場合は……」
これではもはや、説得を通り越して、脅しだな。まあいいか、最初からそのつもりでやってきたのだから、遅すぎたくらいだ。
が、この国王陛下と宰相は、この期に及んでもなかなか決断しない。ただただ目の前の大型機械と、外にある王宮よりも大きな艦艇を見て、震え上がるばかりだ。なんでもいいから、さっさと言質を取って帰りたいものだ。
が、そんなところに、予想外の報がもたらされる。
一人の甲冑姿の斥候が、この玉座の間に駆け込んできたのだ。
「も、申し上げます! 大変な事態が、発生いたしました!」
てっきり俺は、エーデルライヒ軍とアイゼンヴァルト軍とが撤退したことを知らせる斥候が今ごろ到着したのだと、そう思っていた。しまったな、すでに斥候の知らせが届いた後だと思いここに乗り付けてきたが、もしかして早めに動き過ぎていたか。そう俺は考えていた。
が、俺が考えていたのとは全く違う事態を、この斥候の口から知らされる。
「お、オールトの森にて、魔物が多数、進撃中! すでにブラウリッツ辺境伯の軍勢一千が壊滅し、辺境伯の領地であるレーゲンスベルグへ侵攻中の模様!」
俺は思わず、思考が止まった。多数の魔物が現れた? なんだって唐突に、そんなものが……それを聞いた宰相が、斥候に尋ねる。
「おい、その魔物と魔族の数はどれほどだ!」
「規模は不明、ですが、おそらく数万は下らないかと」
それを聞いた国王が、こうささやくのが聞こえてくる。
「ま、まさか、本当に『ゼーレ・プラーゲ』が、起きたというのか……」
この国で起きている問題とは、民がほとんどの作物を租税として取り上げられたこと、そして二つの王国が戦争状態にあること、それだけだと思っていた。だから、それらを解消さえすればすべて片付くと、そう俺は考えて行動していた。
が、どうやらそれは単なる引き金だった。これら二つによって生み出された怨嗟の念によって、どうやらとんでもない災害がついに引き起こされたらしい。
俺は、決断する。
「国王陛下、この場は我々が出撃します」
それを聞いた国王は、問いただす。
「そ、そなたらは今、我らが魔女の引き渡しを命じ、それに歯向かったところではないか!」
「それとこれとは、話が違います。我々はどのような形であれ、民間人を守る責務があります」
「そ、そうなのか?」
「ですが、陛下。先ほどの二つの約束を守ると、そう宣言してください。そうすれば我々は、魔物や魔族とやらを倒し手ご覧に入れましょう」
想定外の事態だが、これは逆に言えば、こちらの要求を認めさせるチャンスだ。そう考えた俺は、ベルガの命と年貢の返還とを認めさせようと考えた。
人質を取ったようで、嫌なやり方ではあるがな。
が、国王陛下が自ら、俺にこう告げた。
「わ、分かった、認める。その魔女への刑を取り消し、さらに取り過ぎた租税の返還に応じよう」
「了解、言質をいただきました。ならばこれより我々は、その魔の軍団討伐のため、出撃します」
そう言い残し、俺は敬礼して玉座の間を出た。
残念なことだが、ゼーレ・プラーゲというやつの方が先に起きてしまったようだ。が、なればこそ、我々の力を発揮する時だ。
「さて、ベルガよ。今迫ってきている魔物の大群というのは、どのようなものであるかを教えてくれないか? 艦内にて、対処法を考えたい」
「もちろんでございます、魔王様」
「それから参謀長」
「はっ!」
「地上に残る四百隻に連絡、全艦、直ちに発進し、我が旗艦四〇〇一号艦と合流するよう伝えよ」
「了解いたしました!」
さて、今日は本当に大忙しだな。朝から、二つの軍を撤退させ、国王に民の怒りと不安の元となった取り過ぎた年貢の返還を認めさせた。
そして今度は、大量の魔物まで現れた。
話が通じる相手ならば、さっさと撤退に追い込んでやりたいところではあるが、おそらく「災害」呼ばわりしているほどだ。こちらの話に、聞く耳も持たないだろうな。ならば、破壊あるのみだ。
我々の、本領発揮というところか。




