#7 王宮
「何者か!」
俺は先行して、哨戒機で王宮の門の前に向かった。すると、その門番らが俺に槍先を向け、こう叫ぶ。
「俺は、地球六七七、遠征艦隊所属、第九戦隊の戦隊長である、レオナルド・バルディ准将だ。国王陛下と面会したい。すでにアイゼンヴァルト王国とエーデルライヒ王国が軍を引いたことは、この王宮にも伝わっているはずだ。それに関し、話がある」
だが、今度の相手は将軍ではなく、国王だ。さすがのマント姿も、ここではあまりプラスにはならない。
しかも、こう言っては何だが、現代の軍服に取ってつけたようなマント姿ということもあり、門番の目にもそれは奇妙に映ったことだろう。
それゆえに、この門番はこう言い放ってきた。
「空を舞う珍しい乗り物のようだが、随分と貧相だな。それに、こんな少人数のお供しか引き連れられない将軍などに、陛下がお会いになるはずがない。とっとと帰れ!」
文字通りの、門前払いだ。だから俺はその門番に、こう尋ねた。
「ならば、もっと大勢の配下と、もっと立派な乗り物で訪れたならば、陛下はお会いになるというのだな?」
「ふん、ものによるな」
「分かった。ともかく、言質は取った。お前の言う通りの、より大勢で立派な乗り物で、ここに乗り込むとしよう」
そう言って俺は、哨戒機に戻る。
「どうでしたか、魔王様」
「ああ、門前払いだった」
「戦隊長、どうするんですか?」
「大丈夫だ。言質は取った」
「言質?」
「もっと大勢の配下を連れて、立派な乗り物で来れば、陛下と面会できるのだそうだ」
それを聞いた参謀長は、少し顔を青ざめる。俺がろくでもないことをしでかすと、すでに見透かしているようだ。が、ベルガの方はそうではない。
「魔王様、何をなさるおつもりですか?」
いやにワクワクしているな。俺がこれから何かしでかすことを、見透かしているようだ。
「いやなに、簡単なことだ。見ていれば、おのずとわかる」
俺はそう答えるにとどめた。ざっと人口は二、三万人程度の王都だ。王宮も、駆逐艦よりも小さい。となれば、さきほどの門番の要求など、簡単に応えられる。
で、上空で待機していた駆逐艦四〇〇一号艦、すなわち我が戦隊の旗艦に到着する。着くや否や、俺は命令を下す。
「参謀長、上空の二十隻の艦艇に、直ちに高度百まで降下するよう命じよ。加えて、艦長に命じる。当艦をあの王宮の中庭に、強行着陸せよ、と」
それを聞いた参謀長が、血相を変えて具申する。
「参謀長、意見具申! 戦隊長、いくらなんでも、それはやり過ぎではないですか!?」
「何を言う? 門番が言った通りのことを実行するまでだ。多数の部下と、立派な乗り物で乗り付ければ、国王と会えるのだろう? そう言質は取った」
「いや、だからといって、駆逐艦で王宮の中庭に乗り込むなど……」
「あそこしか、この艦の着陸場所がない。やむを得んだろう」
無茶苦茶なことを言うと、参謀長は思っただろうな。だが、あの門番の一人は俺にはっきりとそう言ってのけた。ならば、その通りにしてやるだけのこと。
俺が言ったわけではないからな。門番がそう俺に言ってのけた。だから、その通りに実行するだけのことだ。
「魔王様、この大きな船を、あの王宮の中庭に降ろすのですか?」
「そうだ」
「少し、大きすぎませんか?」
「着地面は狭い。砲身部分は、王宮の屋根よりも高いから、何とかなるだろう」
俺はベルガにそう答えた。そして、艦橋の窓辺に立つ。
地上を見ると、王宮中が大騒ぎだ。それはそうだ。空から王宮よりも巨大な駆逐艦が全部で二十隻も現れた。哨戒機ですらも、降りてくるときは街中の中央広場で注目を集めていたほどだ。
それほどの乗り物を、あの門番はたいしたものだとおもわなかった。となれば、それ以上のもので乗り付けるしかないだろう。
そう、駆逐艦だ。
ただ、一つだけ問題がある。この艦では、門の前の通りに降り立つことができない。そんなことをすれば、門の向かい側にある建物や、通りを歩く人々に甚大な被害が及ぶ可能性が高い。だから、中庭を選んだ。
本来ならば、門番の許可を取って中に入るべきところだろうが、仕方がない。門番からとりつけた言質通りに、こちらは行動しているのだから。
というわけで、十九隻の艦艇は高度五百メートルほどのところで停止し、我が旗艦、四〇〇一号艦だけが中庭に降り立った。
が、やはり少し、大きすぎた。
中庭の中央に降り立てば、大丈夫だと思っていたのだが、艦後部が塀に激突する。
「艦の後部、外壁に接触の模様。壁の一部を崩してしまいました」
あーあ、やらかしてしまったか。まあいい、それもこれも、あの門番が取り次ぎしなかったのが悪い。そう思うことにしよう。
「着底、重力ロック作動、船体固定!」
「艦の固定、完了いたしました。いつでも下艦可能です」
「よし、では王宮へと、出向くとするか」
で、早速例のマントを取り付け、俺はエレベータで艦底部へと向かう。ところが今回は陸戦隊員二人の他に、魔女のベルガと参謀長のヴィスコティ大佐までついてきた。
「なんだ、そんなに俺がしでかさないか、心配なのか?」
「当然です。場合によっては、参謀長権限下で発言に介入させていただくかもしれません」
ヴィスコティ大佐がそう俺に告げる。やれやれ、心配性なやつだな。まさかベルガも、参謀長と同じ思いでついてくるのか?
と思いきや、こちらはまったく逆だった。
「二つの軍の将軍すらも退却に追い込んだその手腕を、ぜひとも見たいと思いました。しかも今度のお相手は国王陛下。ぜひ、お供させてください」
だが、俺は一つだけ気がかりなことを感じていた。それを、ベルガに伝える。
「いいのか? この国では魔女は、それだけで処刑の対象なのだろう」
「はい、魔王様。ですがこうして魔王様が立ち上がられ、この国をお救いになろうという気持ちを、ぜひとも国王には伝えねばなりません。それこそが、私の役目なのですから」
妙なことを言い出したぞ。そもそもその国王から民衆を救うために、俺を利用していたのではないのか? なぜいちいち国王に、国を救う者が現れたという必要がある。いや、それ自体が魔女の動機としては不可解極まりないのだが、その民衆を苦しめる国王に、俺が国を救う存在だと伝えたら、相手は怒るだけではないか。
まあいい、どのみち、これで国王に会うことができるわけだ。こちらの要求を通し、民を救い出す。で、その後はその食糧の一部を供与してもらうことがかなえば、我が戦隊への補給にもつなげられる。これが、俺の描くシナリオだ。
実はすでに五十隻に命じて、この星域のワームホール帯探索隊を組織し、星系外縁部に向かわせている。
複座機による天体測定で判明したことだが、この星域はあのブラックホール宙域からおよそ七光年離れた場所にあることが分かっている。大抵の地球には、その恒星外縁部にワームホール帯が存在し、そこを経由して他の星系と行き来するのが常識だ。
ここに人が住む星があるということは、必ずワームホール帯が存在するはずだ。
それを使ってブラックホール宙域へと向かい、艦隊主力と合流を果たす。それを今、駆逐艦四四五一号艦から四五〇〇号艦の五十隻に探索させているところだ。今ごろは、惑星外縁部に到達しつつある頃だろう。
さて、そんな事情はあれど、すぐに艦隊主力と合流できると決まったわけではない。こちらはこちらで、あらゆる手段を用いて戦隊を維持できるよう手を尽くさねばならない。
さて、エレベーターを降り、艦底部のハッチを開いた。そこには、ずらりと近衛兵らしき甲冑をまとった兵士らが取り囲んでいる。
「我は王国軍を預かる将軍、コンラート・フォン・リーゼンフェルトである! そなたはあまつさえ許しもなく王宮の敷地に立ち入った上に、その王宮の一部に傷をつけるとは、不届きなやつ! そなた、何者か!?」
派手に降りてきたためか、将軍を名乗る人物が現れ、そう俺に告げてきた。やつは白いマントをつけ、胸には多くの勲章に豪華すぎる刺しゅうの施された軍服を身に着けている。
これ以前に二人の将軍と会ったが、彼らはいずれも甲冑姿であった。が、ここは戦場ではないためか、正装で現れた。正装となると、ここまで豪華な格好になるのか。それとも、この国がそれだけ強大な国であるという証拠か。
まあいい、そんな事情はこの際、知ったことではない。俺は悪びれることもなく、こう答えた。
「小官は、地球六七七、遠征艦隊所属の第九戦隊の五百隻の艦艇を預かる戦隊長である、レオナルド・バルディ准将だ。至急、国王陛下への謁見を求めたい」
「陛下の謁見を求める者がなぜ、王宮の只中に、このような石砦のようなもので乗り付けるのか! その非礼をまず、詫びるべきではないか!?」
「実はこれに先立ち、貴国の王宮の門に立ち寄った。その時の門番が、部下も乗り物も貧相な将軍とは会えぬと、そう小官に告げた。それゆえその門番の言葉に従い、不本意ながらも我々は可能な限りの立派な乗り物と、多数の配下を従えて現れたまでのこと。非礼というならば、その門番が詫びるのが筋ではないか?」
俺が堂々と答えると、その将軍はそばに仕える兵士に耳打ちする。すぐに兵士が門に向かう。そして、すぐに戻ってくると、再び将軍に耳打ちした。
「……確かに、我が方に非礼があったようだな。不届きな門番が、そなたを追い返したとの報告を受けた」
「いや、分かればよい」
「だが、ならばなおのこと、その緊急の用件とやらが気がかりだ。国王陛下に、何を話そうというのか?」
「簡単な話だ。民が重税にあえいでおり、この冬を越せるかどうかというほどに困窮していると聞く。そのような状況を、我が軍は看過できない」
「我が国の者でもないそなたらが、何ゆえ我が国の民の行く末を憂い、行動するのか理解に苦しむ。そもそもこれは、我が国の話ではないか」
「その自国の者が誰一人、民の困窮のために動かないから、こっちははるか遠く宇宙からここまで飛ばされ、付き合わされている。このまま真冬となれば、おそらくは多数の民が飢え死ぬことになり、王国のためにならないと思うのだが?」
自国の話だから、外部の者は介入するな? 言っていることは正論だが、やってることは破滅の道だ。だいたい、国民が多数亡くなったら、来年以降の農作物の収穫はどうするつもりなのか。無論、王都とてただでは済まなくなる。俺の星でも、大凶作や大増税は、国家転覆の革命の火種となってきた。この国でも、そうなりかねない。
ましてや、平民の兵をも預かるほどの将軍が、国の実態を知らないとなれば、いよいよもってこの国は危ない。それは、多くの星々の歴史でも証明されている。
「なるほど、用件は分かった。だが、それだけの理由で陛下への謁見は不要であろう。大臣なり役人なりと話せば済むことではないか」
「ほう、そんな遠回りなことをやっていたら、冬を迎えてしまうじゃないか。飢え死にした大勢の屍の上に遅すぎる決断を、俺に待てというのか?」
「おのれぇ……さっきから聞いておれば、若造の分際で……」
歳は四十代過ぎと思われるその将軍は、錨に手を震わせている。さすがに脇に立つ参謀長が、割って入ろうとしていた。このままでは、決裂してしまう、と。
だが、割って入ったのは、意外にも魔女のベルガだった。
「リーゼンフェルト将軍様、国王陛下にひと言、こう申し上げてはもらえませんか?」
いきなり作業着姿の娘が一人、俺の前に出て、その将軍に向かってこう告げた。
「何者だ。平民の出る幕ではないぞ」
「平民ではございません。私は魔女、ベルガです」
「なに、魔女だと?」
「此度の国王陛下の成さっていることが、まさにゼーレ・プラーゲを生み出そうとしていると聞けば、将軍様は無視できますか?」
「な……」
ん? なんだ、急に将軍の顔色が変わったぞ。それに今、聞いたこともない言葉を言っていたな。
なんだ、「ゼーレ・プラーゲ」とは?
「将軍様ならば、平民の兵士も多く抱えておられます。で、あればなおのこと、怨嗟の念の深きこと、御承知のはず。三百年前にも人々の怨嗟の念が募ってゼーレ・プラーゲが起きたと、王国の歴史書にも記されているはずでしょう」
それを聞いたリーゼンフェルト将軍は、腕を組んで考え込んでしまった。民が飢え死にする事態よりも、そのゼーレ・プラーゲというものはより深刻なものらしい。俺はそう直感した。
実際、そのひと言がこの将軍を冷静にし、そして動かした。
さらにベルガは、作業着のポケットからある者を取り出す。
何やら、小さな紋章の刻まれたカップコースターほどの板だ。それを見たリーゼンフェルト将軍は、さらに顔色を変える。
「こ、これは……」
「この紋章を知る者は、この国にそれほどおりません。ですが私はこの紋章の主から、ゼーレ・プラーゲを防ぐよう託されたのです」
意味不明な会話が続くが、それを見たリーゼンフェルト将軍は、何かを確証したようだ。そして、こう我々に告げた。
「貴様らが何者かは知らぬが、その紋章を知るものとなれば無視はできまい。なんとかして、謁見できるよう説得しよう。ゼーレ・プラーゲだけは、なんとしてでも避けねばなるまい。暫し待たれよ」
リーゼンフェルト将軍はそう告げると、近衛兵らに何かを命じてその場を急ぎ足で去っていった。近衛兵たちはといえば、それまで向けていた剣と槍を引っ込めると、わざわざ椅子とテーブルを持ち出し、お茶まで出してくれた。
「おい、ベルガ。先ほど言っていた『ゼーレ・プラーゲ』とは、何のことだ? 俺は何も聞かされていないぞ」
涼しい顔でその茶を口にするベルガは、ひと言こう答える。
「いずれ、分かることでございますよ、魔王様」
何やら大事なことを、俺に話していないな。そう感じた俺は、さらに問い詰める。
「俺は国王陛下が課した重い租税により苦しむ民を救うためにここに現れたのだと、そう考えていたのだが」
そう問う俺に、ベルガがこう答える。
「誰が国王陛下から民を救ってくれと、ひと言でも仰いましたか? それは一つの因にすぎず、これから先に起きる強大な災禍の前では、微々たるものでございます」
どうやら、ベルガはさらなる災禍を見越して、我々をこの地に転移させたと、そう言いたいらしい。
だが、なおのことその「ゼーレ・プラーゲ」という事象が気になるな。
なんなのだ、その奇妙な名の現象は。しかもなぜ、そんな大事なことをまず俺に話そうとしない。




