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#4 国状

 この星の情勢を知るには、そこに暮らす者に直接聞いた方が早い。幸いにも我々はこの星の住人でもある「魔女」を救い出し、回収した。

 が、今この娘は火刑の際に暴れないようワインを大量に飲まされたためか、酔っぱらっている。まずは酔い覚まし薬を飲ませてその酔いを覚ました上で、他にも暴行を受けた形跡がないかを診断してもらうため、艦内の医務室へと向かう。


「担架、急げ!」


 哨戒機が着陸すると同時に、担架が運び込まれた。酔っぱらう娘を載せ、格納庫を出た先にある医務室へと運ばれた。

 が、この娘、俺の腕を離そうとしない。


「やっと、やっと魔王様に会えたぁ……」


 いくらなんでも、酔っぱらい過ぎだろう。俺のどのあたりが「魔王」とやらに見えているんだ。ともかく、一刻も早くこの娘からこの星の実態を知りたい。そういう事情もあって、俺もそのまま医務室へと同行した。


「魔王様、まさか本当に会えるなんて、夢のようでございます」


 ところがだ、この娘、まだ俺のことを魔王と呼んで譲らない。すでに酔い止め薬が作用して三十分は経過しており、酔いが覚めているはずなのだが、まだ俺の手を握って話そうとしない。

 ちなみにだが、医師の見立てでは特に外傷や病気の問題はなく、ただ栄養失調気味だという。見たところ、近代以前の暮らしで、下手をすると中世代かもしれない。

 と、いうわけで、この艦の主計科員を呼ぶ。食堂に案内してもらい、この栄養失調状態を解消してもらうためだ。

 で、やってきたのが、我が艦でも珍しい女性士官でもある、ボルガミーニ准尉だ。


「……あの、戦隊長殿。私は何を見せられているのでしょうか?」


 その士官が現れるなり、こう言い放った。その時、例の娘は、ベッドの上に座る私の腕にしがみつき、頬を擦り付けていたからだ。


「申し訳ないが、俺にも全く事情が分かっていない。なぜか、俺のことを魔王と呼んでいるしな」

「なんとまあ、それは随分な言われようですね。ですが戦隊長は魔王というより、悪魔ですよ。部下の命をも顧みない、あんな無茶苦茶な作戦を決行されたのですから」

「……それは、終わったことだろう。ともかくだ、貴官を呼んだのは他でもない。医師の診断で、この娘に健康上の異常はないものの、やや栄養不足とのことだ。医師の診断書に基づき、足りない栄養素を補う」

「はっ、了解いたしました。ところで……」

「なんだ」

「その娘さん、なんというお名前なのですか?」


 と、ここまできて大事なことに気づいた。そういえば、この娘の名前をまだ、聞いていなかったな。相変わらず腕にしがみつく娘に、俺は尋ねた。


「おい、ちょっと尋ねるが、お前の名前はなんというのだ?」


 するとその娘はハッとして、腕から離れるやベッドの上に正座し、深々と頭を下げてきた。その急激な態度の変化に、むしろ俺よりもボルガミーニ准尉の方が驚いている。


「これはこれは魔王様、これほどのお方を前に名乗り忘れるなど、失礼なことをいたしました。私の名は、ベルガと申します」

「俺自身も名乗っていなかったな。俺は地球(アース)六七七遠征艦隊所属の第九戦隊五百隻を指揮する戦隊長である、レオナルド・バルディ准将だ」

「まあ、ではバルディ魔王様とお呼びすればよろしいのですね」

「いや、俺は戦隊長ではあるが、魔王では……」

「では伺いますが魔王様、魔王様たちは、星の国より参られたのではありませんか?」


 それを聞いた俺は、ゾッとする。どうしてこの娘、ベルガは我々が、宇宙空間からやってきたとわかるのか?

 いや、待て。考えてもみれば先ほど、空から現れて、そして空飛ぶ哨戒機に乗せてここまでやってきたじゃないか。空を飛べるくらいだから、星から現れたと考ただけだろう。

 と思っていたが、ベルガの次のひと言が、その可能性を打ち崩した。


「あなた方は星の海を渡る船を多数操り、無数の敵と戦っていらっしゃった。挙句、追い込まれ死にかけていた。そこで大きな穴が開き、私の村の近くに導かれた。私の心の中で見た光景は、そういうものでしたよ」

「な!」

「どうでしょう、魔王様。実際、その通りなのでございましょう?」


 えっ、この娘、なんで我が戦隊が、敵艦隊に追い込まれていたことを知っている?


「つまりここは、その星の海を巡ることのできる船なのですよね。なんと素晴らしい船……にしては、やけに殺風景なところですねぇ」

「言いたい放題だな。そもそもこれは戦闘艦だ。見栄えの良さなど、不必要だからな。殺風景なのは当然だ」

「ですが、魔王様が乗られる船なのでしょう? あまりに威厳がなさすぎではありませんか?」

「あのなぁ、だからさっきから言ってるだろう。俺は魔王ではないと」

「そうですよ。どちらかというとこの戦隊長は、悪魔といった方が正しいですよ。王と呼べるほどの器量をお持ちの方ではありませんよ。ただの命知らずの特攻野郎ですから」


 おい、ボルガミーニ准尉よ。変なことを吹き込むな。よほどあの囮作戦に根に持っているらしい。が、この娘はそれ以上に突拍子もないことを言い出す。


「そんなはずはありません。私が召喚したのは、確かにこの世界を救う力を持つ魔王様なのです。ゆえに、まさに転移魔術を使っているところを村人に見つかってしまい、私は火刑に処される羽目になったのでございますから」


 はあ、なんだって? 召喚した? ちょっと待て、あのワームホール帯の出現と強行ワープは、まさかこの娘の仕業だというのか。

 それが本当だとすると、とんでもないことだぞ。ワームホール帯を作り出すなど、我々の科学技術を持ってしても不可能だ。それをやってのけたとするならば、まさしく本物の魔女だ。


「おい、もしかして、魔女狩りというのは冤罪ではなく、本当に魔法を使っていたのだと、そうお前は言っているのか」

「左様でございます、魔王様。ですから私は、神官様や村人に告げたのでございます。魔王様が現れ、この国を破滅に追い込もうとしている邪悪を滅ぼしてくださる、と」

「邪悪を、滅ぼす? 何のことだ」

「ここの村人らは、まさにその邪悪に飲み込まれようとしているのです。いえ、あの村だけではありません、この国すべてが、まさに邪悪に飲み込まれつつあるのです。ですから私は、魔王様を召喚すべく、禁断の魔術に手を出したのです」

「……で、その結果として、魔女だとバレた、と」

「はい、神官様が法に則り、魔女を火刑に処すと申し上げ、それからすぐに私は火あぶりにされるところでした。ですが、私は皆にこう宣言したのでございますよ」

「何を、宣言したんだ?」

「魔王様が必ず助けに来てくださる。ですから、火刑などできるはずがない、と」


 何か反論しようとしたが、まさにその通りになっているから返す言葉もない。冷静に考えれば俺は、やや非常識な行動をとっていた。

 そもそも、戦隊長という立場でありながら、旗艦を離れた。その先で、まさに火刑に処されるベルガを見つけた。なんの迷いもなく、それが「魔女狩り」だと確信し、それを阻止すべく行動した。

 何もかも、仕組まれたものだと考えるのが妥当だろう。その結果として俺は今、このとんでもない「魔女」をこの艦内に連れてきてしまった。

 頭が痛くなってきたな。聞きたいことは、いろいろある。だがまずは、やるべきことをやろう。


「……お前の言い分はわかった。が、今はともかく、食事を摂り、清潔な衣服に着替えることが先決だ。それに、この星の……いや、地上やこの国のこともいろいろと聞きたい。ボルガミーニ准尉」

「はっ!」

「そういうわけだから、あとは頼んだ」

「は、承知いたしました、魔王様!」


 くそっ、この主計科の准尉まで俺のことを「魔王」呼ばわりしやがった。まあ、実際に我が戦隊、五百隻を壊滅の危機に追い込んだことは否めないからな。この女性士官の言葉ではないが、俺は「悪魔の王」には違いない。

 ともかくだ、幸いにも我々五百隻の戦隊は生き延びることができた。俺は後のことをボルガミーニ准尉にまかせ、艦橋へと戻る。

 そこには、各地に放った哨戒機や宇宙空間に出した複座機からの情報が、徐々に集まり始めていた。3Dホログラムの地球儀が、俺の前に示されている。それを眺めながら、考える。

 問題は、これからどうするか、だ。

 なにせ問題とひと言で言っても、いろいろとある。燃料系は地球(アース)型惑星上ならばどうにかなる。不時着時の際のエネルギー補給が可能なように、水素と重水素を自ら取り出すサバイバル装置は、各艦に装備されている。

 問題となるのは、食糧の方だ。人は水だけでは生き残れない。食べるものはどうにかして手に入れなくてはならない。

 もっとも簡単な方法は、我が戦隊に搭載されている哨戒機や複座機、そして人型重機をつかっての略奪だ。が、それは避けたい。そんなことをすれば、やがてこの星を連合側に組み込む際の障害となりかねない。

 そう、俺は本当の「魔王」になるわけにはいかない。人々や国家に、恐怖を与えずしてどうやって食糧を調達するか?

 現在、我が戦隊五百隻、五万人分の食べ物は、およそ三週間分ほどのストックはある。今回の遠征では長期戦も予想されたため、いつも以上にストックはある。だが、それでも三週間しか持たないだろう。

 となれば、どうにかして現地の人々から食料を分け与えてもらうほかない。

 だが、さきほどベルガがそうだったが、ここの民はそれほど食糧事情が良いわけではなさそうだ。

 となれば、それらを取り立てているであろう支配者がいるはずだろうから、その支配者と交渉して分け与えてもらうほかないだろう。

 と、その前にだ、この星の政治形態はどうなっているんだ? どのような文化レベルなのか、その支配者とやらはどの程度の領域を支配しているのか、肝心な情報が何一つない。

 複数の哨戒機、および衛星軌道上にのった複座機からの衛星画像により、この星の全体像と、どのあたりに都市があるのかまでは、だいたい把握できている。ざっと見る限りでは、ここは北緯五十度近くを中心とする大陸の西端であることが分かっている。この周辺には、少なくとも四百ほどの街や村が確認されている。あの村もその一つだが、その村が属する国とは、どこまでを治めているのかがまだわかっていない。いや、そもそもどこの街にこの辺りを治めている支配者はいるのだ?

 いずれ、ベルガから聞き出すことになるだろう。


「美味い美味い! 美味いですよ、魔王様!」


 そのベルガだが、風呂に入った後に、民間向けの作業着があったのでそれを着せ、その上で食堂にて、ボルガミーニ准尉が用意した料理に舌鼓を打っていた。


「ビタミンとタンパク質、カルシウムが特に不足しているそうなので、新鮮な野菜に肉、そして乳製品を出しておきました」


 と、准尉は答える。が、要するにサラダとピザが置かれており、それをガツガツとこの魔女は食い漁っている。


「ベルガ殿、食事中に悪いが、ちょっといろいろと聞きたいことがある」

「なんでしょうか、魔王様。私に答えられる範囲のことでしたら、いくらでもお答えしますよ」


 口からモツァレラチーズをびよーんと伸ばしたまま、その小柄な自称魔女の娘は俺に答える。


「お前に尋ねたい。お前の言っていた国の情勢を、知りたい」

「つまりは、この王国のことですね。実は今年、王国は大豊作だったのでございます」

「そうなのか? そのわりにお前確か、栄養失調気味だと聞いたが」

「それが、豊作でありながら、民は酷い目に遭っているのですよ。国王はその豊作の麦をおよそ八割以上、民から搾取したのでございますよ」

「は、八割? おい、そんなに持っていったら、さすがに民は苦しむのではないか」

「豊作であるから、それだけあれば生き延びることが可能であろうと、そう国王陛下が仰せになられたと、役人どもは言うのです。で、結果、ごっそりと収穫物を持っていかれました」


 なんだそれ。魔王というならば、その国王こそが魔王じゃないか。しかし、それほど大量の作物を搾取してどうするつもりなんだ?


「その国王は、それほど大量の作物を搾取してどうするつもりなんだ? 大量に集めたからと言って、その使い道がなければ結局は国民に売りつけるなりすることになるのではないか?」

「いえ、実は隣の王国同士がちょうど今、戦争を続けてまして、そのために多数の農民が駆り出されているのでございます。それゆえに、食べ物が飛ぶように売れる。それを見越しての搾取なのですよ」

「……なんということだ。それでは『飢餓輸出』ではないか。自国民の明日の生活より、自らの暴利を優先したというのか」

「今はまだ、作物の収穫直後のため、値段が安い。これから冬に入る前に価格が上がったところで売りに出すつもりのようです。実に許しがたい行為ですよ、魔王様」


 うーん、たしかに許しがたい状況だな。だが、一ついいことを聞いた。

 争う二つの王国がある。この国同士の争いがなくなれば、作物の高騰を止めることができる。これならば、連合軍規の第五十三条に規定された「地上戦闘行為の停止およびその介入」の条項に則った行動をとることができる。

 その上で、ここの王国にかけ合い、民から奪い過ぎた作物の返還を迫る。

 これならば、我が軍の正当な法に則った行動で民の飢えを防ぐことができる。場合によっては、我々にもその食糧が調達可能となるかもしれない。

 こちらにとっても、理があると分かった。


「もうちょっと詳しく、その隣国同士の戦いとやらを教えてくれないか」


 俺は、ベルガをさらに問い詰めた。当然、ベルガはにやりと笑みを浮かべ、彼女が知る限りのこの星での国際情勢を話してくれた。

 我が戦隊が、まさにこの星における戦を、止めるべく動き出す。

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