#16 発見
「巡航速度にのりました。まもなく、探索隊五十隻とも合流いたします」
さて、あの「平和的な王座禅譲」が行われて二日後、我々は宇宙に出ていた。
そう、発見されたワームホール帯に向かうためだ。
調査の結果、ワームホール帯は予想通りブラックホール宙域につながっていることが確認された。我々の星である地球六七七につながるワームホール帯から、時間にして八時間ほどの場所にでるという。
「探索隊によれば、すでに艦隊主力にも打電し、我々が健在であることを伝達済みとのことです」
「そうか」
「それを受け、我々を迎え入れるため、遠征艦隊一万がブラックホール宙域に向かっているとの報告も受けております」
なんとまあ、高々五百隻を迎えるために、一万隻もの艦艇を動かすというのか。コルテーゼ総司令官閣下は、それほどまでに我々の生存を喜んでくれているというのか。
「魔王様! 見てください、上から下まで星だらけ、夜空しかない闇の世界ですよ!」
しかしだ、三週間ほど前のあの艦隊戦の時には、いなかった人物がここにいる。そう、魔女のベルガだ。そのベルガはといえば、駆逐艦の窓にへばりついて、その光景を眺めてははしゃいでいる。
先ほど、大気圏突破時に彼女の星である地球を使ってスイングバイした際に見えた、壮大な青く丸い星を見て言葉を失っていた。自身が住む大地があれほど丸く、そしてあれほど青いとは、その目で見るまでは知る由もなかった。
百年以上を生きる魔女ではあるが、我々以上に知らない世界が多い。それを見知ってはしゃいでいる。好奇心だけは旺盛なようだな。
「定時報告、あと二時間ほどで、探索隊と合流。しかる後に五時間後、本星系外縁部にあるワームホール帯に到着予定とのことです」
「了解。全艦、鋒矢陣形にて前進せよ」
「はっ!」
地上ではいろいろとあったが、やはり宇宙艦艇である以上、駆逐艦は宇宙空間こそ似合う。あらゆる索敵レーダー、それに機関音。地上にいた時は、それらの本領はほとんど発揮されなかった。
障害物のほとんどない、広大な空間でこそ我々はこの戦闘艦の能力を活かすことができる。それを五百隻指揮する俺は、改めて実感させられる。
さて、それから二時間後には予定通り、探索に出ていた五十隻と合流する。
「ご苦労であった。貴官らの活躍により、ようやく第九戦隊全艦、一隻も欠けることなく帰投できる。そんな我々もこの未発見の地球との交流を行い、連合の新たな星として加えるべく、その星での交流を行ってきた。予想以上の手土産を持参しつつ、全艦で帰投する」
『はっ!』
俺はこの薄暗い宇宙空間で、ひたすらワームホール帯を探し続けた五十隻の乗員らをねぎらった。もっとも、我々とて遊んでいたわけではない。あのゼーレ・プラーゲなどという得体のしれない災害と戦い、その元となった怨嗟を生み出した王の座をすげ変えてきた。これはこれで、大変な事ばかりであったが、今にして思えば上々な出来だ。
無論、報告しなければならないことが山ほどある。大気圏内での砲撃せざるを得ない事態など、普通は起こり得ないものだ。そんなものを引き起こした途方もない災害と、今後の善後策について艦隊総司令部と政府との間で話す必要が出てくるだろう。
と、同時に、この星に住む「魔女」の保護も考えなくてはならないな。そもそも、魔族が生き延びられるのは、まさしく魔女のおかげだ。その魔女を保護し、魔族を生み出すような状況を作らなければ、あの馬鹿げた災害は起こりようがないはずだ。場合によっては、魔族を殲滅する必要性も出てくるだろう。
「魔女を、保護するのですか?」
「そうだ。少なくともあの星には、それなりの数がいるのだろう」
「私もすべてを把握はしておりませんが、ヴァルデンブルグ王国の中だけでも十人は見ました」
「やはり、魔女が見ればすぐにその者が魔女かどうか、分かるのか?」
「そりゃあ分かりますよ。ただし、魔族のように角が生えているわけではないですから、人には見分けがつきませんが」
「ところで、魔女の中には魔族同様、人を襲うものもいるのか?」
「聞いたことはありませんが、稀にいますよ。魔術を使って人を襲う魔女の話を、聞いたことがあります」
「厄介だな、魔女だからといって、全員が安全というわけではないのか」
「おそらくですが、自己防衛のためだと思いますよ。なにせ魔女だとバレて捕まってしまえば、火あぶりの刑ですから」
「じゃあ、火あぶりにされないと分かれば、何とかなるのか?」
「争いを好む魔女なんて滅多にいませんからね。それ以上に、魔族から逃れる方が死活問題ですよ。十数年に一度、訪れるという魔族の発情期の際に一度捕まってしまえば、子を産まされて殺されるわけですから」
そういえば、魔女とはそういう存在だったな。同じ魔術を使う存在ながらも、魔族とは折り合いがつかない。このまま放置すれば、ただの繁殖の道具にしかされていないとは、なんとも救いようのない状態だ。
なればこそ、魔女を保護できるようこの星を変えていかねばなるまい。
もっとも、そういうのはお偉いさんが考えることなのだろうがな。
「と、言うわけですから、早速、子作りと参りましょう」
「は?」
いきなりこの魔女は、とんでもないことを口走る。
いや、ここが俺の部屋だったらまだわかる。が、ここは食堂だ。二十人ほどの乗員がいる中でこの魔女は、まさに彼らの食事の手を止めてしまうほどの爆弾発言をしやがった。
「お前なぁ、どうしてすぐ、そういう品のない発言に突っ走るんだ」
「何をおっしゃいます、魔王様。品のないとは失礼な。魔王様の子孫を残すことこそ、この先に起きるゼーレ・プラーゲを防ぐことになるのですよ。大真面目な話です」
もう、話が飛躍しすぎてて分からないな。そういえば、例の暗殺事件のあった宿場でも同じようなことを言っていたが、どうして次のゼーレ・プラーゲに備えるために、俺とこいつで子を成さなきゃならないんだ?
「おい、ベルガよ」
「なんでしょう、魔王様」
「話が飛躍しすぎてて分からないのだが、どうして俺とお前が子を成すと、それがゼーレ・プラーゲを防ぐことになるんだ?」
風が吹けば桶屋が儲かる、といったレベルの話ではない。何が言いたいんだ。
「別に難しいことではありません。私が魔王様の子を孕めば、男ならば人が、女ならば魔女が生まれます」
「……そうなのか。で、それとゼーレ・プラーゲと、何の関係が?」
「魔王様の嫡男であれば、きっと立派な指揮官になられるはずです。そして魔女の方は、ゼーレ・プラーゲを防ぐための強大な魔術を使ってくれます」
「いや、魔術はなくとも、我々の戦闘力をもってすれば負けることはないだろう」
「いいえ、次に起きるゼーレ・プラーゲでは、今回以上の何かが起きるやもしれません。そうなれば、必ず魔女の持つ魔術が役に立つはずです」
そんなわけないだろう。申し訳ないが、魔術の持つ力と我々の武器とでは、桁違いの力の差がある。魔女が生まれたところで……
と、そこでふと思い出す。そういえばこいつ、転移魔術の使い手だった。それも、五百隻の艦艇を転移させるほどの魔術の使い手だ。こればかりは、我々の科学力も及ばない。
にしてもだ、この食堂のど真ん中で乗員らが集まる中、こいつに「子作り宣言」されるのは嫌だなぁ。せめて人気のないところで、そういう話はしてほしいものだ。
「いやですねぇ、戦隊長は。もうその気満々なのですかぁ?」
ほら、いわんこっちゃない。戦隊長相手に敵意むき出しの女性士官が、俺に言葉の刃を突き付けてきたぞ。
「あのなぁ、ボルガミーニ准尉。俺はまだひと言もそれに関して言ってないぞ」
「言わずとも知れたことです。男なんて皆、悪魔のようなものですからね」
酷い言いようだ。この准尉、まさかとは思うが、男に騙された経験でもあるのか? 軍にいれば、特にこの艦内だけでも百人ほどの男がいる。女性士官は、准尉を入れて二人だけ。中にはこの数少ない女性士官に言い寄る男もいるのだろう。警戒心丸出しだ。
これくらいの図太さがないと、駆逐艦内では女性士官なんてやっていられないのだろうな。
さて、そういう話とは関係なく、俺はベルガを部屋に招き入れた。
部屋といっても、会議室だ。そこには当然、俺だけではなく、参謀長とその配下の者も二人ほどいる。
簡単に言えば、この宇宙がどうなっているかを教えるため、集まってもらった。
「さてベルガよ、お前は魔女だが、この宇宙空間がどうなっているのかなど、知らないだろう」
「はい、全然知りません」
「だから、多少なりともこの宇宙での事情を知っておく必要がある。今から少しの間、それを説明してもらう」
「はぁ、なんだか退屈そうな話ですね」
馬鹿正直な魔女だな。だが、そんなお前でも魔術の本でその転移魔術などを学んだのではないのか。それが学べるくらいの能力があるなら、宇宙の常識などすぐに理解できると思うのだが。
「では早速、地球というものについて説明いたします。まず、人の住む星、地球とは、直径一万四千光年もの広大な円状空間内に存在しており、今は一千を超えております。推定では三千以上あるのではと試算されてますが……」
クソ真面目な士官に説明を頼んだが、そこまで細かく話さなくてもいい。しかしベルガはそんな話よりも、机上に映された立体的な光景に目を奪われている。
地球とその恒星系の一般的な姿、そして白色矮星や中性子星、そしてブラックホールといった巨大で奇妙な天体の数々、星の残骸である星雲、そして、ワームホール帯というものの存在。
それが、会議室中央に置かれた机の上で、立体的に表示される。そしてこの宇宙の広大さ、我々はその宇宙の一端をようやく行き来できているに過ぎないことまで話が及ぶ。
「……で、我々はそのワームホール帯を使うことで、別の星々へと移動することが可能なのです。ただし、ワームホール帯を作り出すことができないため、それが多数存在する白色矮星やブラックホール宙域といった場所を通って、別の場所へ向かう。このため、我々はしばしばそこで、戦闘になるのです」
「あの、戦闘とは、誰と戦っているんですか?」
「我々は一千ほどの星の六割ほどが加盟している『宇宙統一連合』、通称『連合』に属しています。一方、残りは『銀河解放連盟』、通称『連盟』と呼ばれる組織があり、我々と敵対しているのです」
「ええと、つまりこの宇宙という広い場所では、たくさんの星々がその連合と連盟という二つの集団に別れて戦ってると、そうおっしゃるのですか?」
「その通りです、魔女殿」
「でも、なんでその二つが戦いを始めることになったんですか?」
至極当然の疑問を投げかけてきた。そこで五百年近く前に起きた「地球〇〇三の悲劇」の話に及ぶ。
当時、いや、今でも最先端の技術を保有する地球〇〇一という星が、この恒星間を移動する術を発見し、宇宙に乗り出した。百八十ほどの星々が見つかったところで、とある星が地球〇〇一に対しストライキを行った。
それが地球〇〇三という星だったのだが、当時は地球〇〇一以外の星には大口径の砲を所有する星はなかった。そして、あろうことか地球〇〇一の艦隊が、地球〇〇三の惑星表面に対し一斉砲撃を加えた。
それがもとで、地球〇〇三は人が住めないほどに気候が変わり、どうにか生き延びた十億足らずの住人が近くの地球〇二三へと移住させられることとなった。これが後に、「地球〇〇三の悲劇」と呼ばれる事件の全てだ。
が、それが怨嗟となり、その十年後に地球〇二三は地球〇〇一より盗み出した砲艦、今でいう駆逐艦の設計図をもとに砲艦を製作、一万もの艦隊を編成し、地球〇〇一との艦隊決戦で勝利した。この勝利をもって、彼らはまず「連盟」を結成した。
が、その地球〇二三が地球〇〇一を打倒すべく連盟への参加を他の星々に呼びかけるが、いくつかの星が中立を宣言した。それらの星々に対して地球〇二三は砲撃を行い、その結果として地球〇〇一へ救いを求めた彼らは「連合」を結成した。当時の百八十もの星々は、こうして二つの陣営に分かれて戦争状態に突入することとなる。
「……と、それ以降、この二つの陣営は互いに未知の地球を発見しては自身の陣営に取り込んでいくということを繰り返し、いつしか互いの陣営の支配圏を奪い合う戦闘を繰り返すばかりの状況へと移行していったのです。もはや、地球〇〇一を打倒や、それを阻止するという、本来の目的を両陣営とも見失った状態で、ただ戦いだけが続いている。これが、この宇宙の現状なのです」
「まあ、なんということでしょう。それじゃあ魔族の方がまだマシではありませんか」
ズバズバというやつだが、確かにその意見は正しい。もはや、何のために戦っているのかと問われれば、もはや互いの勢力拡大のためとしか言えない。
しかもその争いに、この魔女の星も巻き込もうというのだ。
「正直言えば、ゼーレ・プラーゲの方がマシだったと思えるような戦いの渦中に、ベルガの星も巻き込むことになるだろう。しかしだ、我々が見つけてしまった以上、もはやそれは避けられまい」
黙ってうなずくベルガだが、どこまでその重さを理解していることだろうか。ゼーレ・プラーゲでは五十隻による艦砲が用いられたが、この宇宙での戦いでは、通常は一個艦隊、一万隻同士の戦闘が普通だ。
が、前回、我が遠征艦隊は四千隻近くを失った。そこでおそらく、地球六七七を守備する防衛艦隊から四千隻余りを移籍させて、遠征艦隊は再び一個艦隊、一万隻に戻したのだろう。
無論、俺はその時の戦いの話をベルガにした。
「味方を生かすため、我々が囮となって敵を引き付け、どうにか生き残った六千隻余りを逃がすことに成功した。が、そのため我々はその多数の敵に追い詰められ、まさに全滅寸前の状況にあった」
「もしかして、その時に私が、その五百隻を呼び寄せた、と」
「そうだ。まあ、偶然とはいえ、我々はお前の転移魔術に救われたこととなる」
そう俺は告げた。が、ベルガはこう返す。
「いえ、それは決して偶然などではありません、魔王様」
またしてもこの魔女は、根拠のない意味不明なことを言い出した。
「まさかお前、あの戦闘を呼び寄せたとでも言いだすんじゃないだろうな」
「そういうわけではありません。が、その無数の敵に追い詰められた敵に対峙し向かっていったあなた様の指揮する船を呼び寄せたのは、決して偶然ではないと申し上げているのです」
「では、何だというのだ?」
「運命です」
うーん、そういうのはやっぱり、偶然というんじゃないのか? 結果的に運命的に感じるだけのことで、たまたま以外の何物でもない。
が、この魔女は頑として言い張る。
「だいたい、私が何の脈絡もない相手を、引き寄せることなどできません」
「はぁ? どういうことだ」
「私は見知ったもの、あるいは心に浮かんだものしか、転移魔術で呼び寄せることはできません」
「……妙だな。ならばどうして、我々のような見たこともない艦艇を、あの星に転移させることができたのだ?」
「以前にもお話したはずです。私の心に、浮かんだのだと」
「そういえば、そんなことを出会った直後の医務室で言っていたな。だが、それはなぜだ?」
「ですから、それが運命なのでございます」
うーん、運命という曖昧な言葉で片付けられてもなぁ。しかし、確かに我々は転移させられたし、ベルガが以前、転移魔術で見せてくれたのは、まさに自身がそのありかや形を知るものであった。
「運命、と言われてもだな、どうしてで会ったことすらない、しかもあの星には決して存在しない艦艇を思い描くことができたのだ」
「この世界というものは、時に巡り合わせというものがございます。私がハルスラッハー様にお会いできたこと、そして、魔王様の乗る船を心に描き、それを呼び寄せることができたこと。これらがすべて、ただの偶然で片付くものではございません。ゆえに、運命だと申し上げているのです」
運命、それはこういう不可思議な事象を説明するときには大変に便利な言葉ではある。だが、それはたいていの場合、偶然の産物。確率論的に極めて低い確率ながらも、ゼロではない事象が起きた時に我々はそれを、運命だの奇跡だのと思い込んでしまう。
しかしだ、冷静に考えれば我が艦艇の姿を思い浮かべる確率は、確実にゼロだ。なにせあの星には存在しないものだからだ。それを思い描けたというのだから、尋常ではない。
七光年。我々にとっては今や、短いと感じるこの距離も、光の速さで七年かかるほどの遠さだ。それほどまでに離れた場所から、我々を感じ取ることができた。
やはりこの魔女の言う通り、運命なのか? 非科学的ではあるが、それくらいしか当てはまる言葉がない。
「……戦隊長、これを持ちまして、今日の説明は終了とさせていただきます。疑問点などありましたら、ぜひ戦隊長にご質問ください」
と、士官や参謀長は俺にその後のことを丸投げし、会議室を後にした。
薄暗い部屋に二人、取り残される。
「……まあ、運命かどうかは分からん。が、こうして我々は難を逃れてあの星にたどり着き、そしてあの星に起きた空前の災害を食い止めることができた。それは、事実だ」
「はい、その通りでございます」
「だが、そのことに何か、意味はあるのか?」
そうだ、運命というからには、何かそれなりの意味がなければそう言い切れない。俺はそう考える。が、この魔女はこう言ってのける。
「いずれ、分かることでございますよ」
なんだか、体よくはぐらかされた気分だな。まあ、いいか。単なる偶然にせよ、運命にせよ、この先に起きる何かでそれが分かるというのならば、それを待つのもいいだろう。
で、このまま二人、揃って会議室を出た。
その後のことは……敢えて言うまい。
問題は、その五時間後のことだ。
「ワームホール帯、通過!」
久しぶりに、ワープ空間に入る。ここは真っ暗な場所で、星一つ見えない。超空間ドライブによって、ワームホール帯をくぐり別次元へと入る。
やがて、その先に通常空間が現れる。星々が光り、遠くにはシュバルツシルト半径が二万キロほどのブラックホールが見える。
見える、という表現も変だな。本来、ブラックホールは見ることができない。が、簡単に言えば、ここからは星の川がそこだけ円形に歪んで見える。光が大きく曲げられている証拠だ。それこそ、元々は存在した巨星が超新星爆発し、その残骸として残っている天体、すなわちブラックホールの姿だ。
「戦隊長! 遠征艦隊より入電! 『貴戦隊の無事の帰還を歓迎する、宛て、レオナルド・バルディ准将、発、コルテーゼ大将』、以上です!」
「よし、返電を打て。『これより第九戦隊は本隊に合流す。発、レオナルド・バルディ准将』と」
「はっ!」
帰ってきた。三週間という長い期間、どうにか耐えて来た。その途上には、本当にいろいろとあった。あの戦艦の形をした魔物すらも相手にした。今となっては、いい思い出だ。
などと、俺の心は安堵に満たされていた。が、この感覚、どうにも違和感がある。
既視感、といった方が正確か。そう、静かすぎる。あまりにこの宙域は、静かすぎる。
そう言えば前回も、この宙域を訪れた時がそうだった。あの時は、それに違和感を感じなかった。だが、今は違う。これほどあっさりと、味方の艦隊主力と合流が果たせるこの状況こそが、まさしくおかしい状況だ。
少なくとも、俺の直感はそう言っている。
「レーダー士!」
「はっ!」
俺は咄嗟に、レーダー担当を呼ぶ。
「ブラックホール方向に、指向性レーダーを照射せよ」
「えっ? 指向性レーダー?」
「復唱は!」
「はっ! 指向性レーダー、照射用意!」
「艦首方向、右二十四度回頭。指向性レーダー、照射用意よし!」
「よし、レーダー照射!」
俺の予感が杞憂であれば、それでいい。しかし、どうにもそうは感じられなかった。この静けさは、かえって嵐の予兆である。
実際、俺の直感が正しいことが、証明される。
「レーダーに感! 艦首前方、四十二万キロ! 艦数およそ一万!」
やはりいた。よりにもよって、ブラックホールを背後にして隠れていやがった。
ブラックホールにより、レーダー波が曲げられて探知し辛くなる。それを逆手にとって、連盟艦隊は我々が敵に背後を見せるところを待っていたのだ。
前回と同じ手を使い、敵は奇襲をかけるべく虎視眈々と狙っている。だが、今度はこちらが先手を取った。俺は叫ぶ。
「艦隊主力に連絡! 敵艦隊、発見せり、これより敵艦隊撃滅に向け、攻撃準備に入る、と」




