#15 禅譲
予想通りというか、思惑通りというか。
捕まった刺客から、あっさりと主犯がばれた。
俺とベルガの暗殺を命じたのは、やはり国王陛下だった。動機も、実に単純でしかも、今の国王らしい。
確かに、この星で最大級の災害である「ゼーレ・プラーゲ」が阻止された。無論、俺は「国王陛下からの承認」を得た上で、それを実行に移した。もっとも、そのために玉座の間に大穴を開けることになった上に、当初は取り過ぎた租税の返還を求めてのことだった。どちらかというと、ゼーレ・プラーゲ阻止の件は、そのついでという感じだった。
が、それがかつてない規模であり、それを企てたであろう魔族自体は第一段階の際に葬ったはずだが、それでも一度発動するとゼーレ・プラーゲは第二、第三段階まで現れる。
その間にも、高まる人々の「怨嗟の念」を吸収し続け、特に第三段階ではこの星の常識では考えられないほどの規模でそれが現れた。
確かに、ゼーレ・プラーゲという現象には、それを攻撃した相手の能力を模倣し、強大化するという性質はあるらしい。が、一方で、あれほどの強大な力を有した魔物が現れること自体、それだけ怨嗟の念がかつてないほど大きかったことを表している。
すなわち、今の国王への恨みが、その主因であったことは疑いようがない。
と、それを国王自身が自覚していれば、英雄の存在はかえって国王にとっては「邪魔」になる。
それを成した相手は魔女であり、その魔女によって召喚された「魔王」によって行われた。
となれば、人々が「魔王」にこそ国王の代わりを務めてくれることを願うはずだ。そう、国王は考えた。
もっとも、「魔王」の側としてはそんな話、到底受け入れられない。冗談じゃない。何だって俺が政治家にならなきゃいけないんだ。
と、いう俺の考えくらい、参謀長はお見通しだ。となれば、もっとも現実的な選択肢は、今の皇太子殿下に国王の座を代わってもらうことだ。
ゼーレ・プラーゲ後の、国王の動きを予測していたヴィスコンティ大佐はその段階で、皇太子殿下との接触を図る。この参謀長の懸念としては、その皇太子の素質が次期国王にふさわしいかどうか、の一点にあった。
なにせ、あの悪政を敷く国王の息子だ。同じことをしでかす愚王の器では、とても任せられない。その場合は宰相か、もしくは有力貴族を持ち上げることを画策していた。
が、幸いにも皇太子自身は聡明な人物だった。現に、この過剰なる租税に対して異を唱えたらしい。その結果としてひと月半もの間、王宮内にある見張り塔の中に監禁されたという。
やれやれ、その皇太子の怨嗟まで、あの最後の化け物には加わってしまったのか。救いようのない国王だな。
ともかく、参謀長はその皇太子を玉座につかせるための方法を模索する。が、その皇太子から、驚くべき計画が知らされる。
すなわち、「魔王と魔女の暗殺計画」だ。
パレードの後に、王都一の宿場に二人を泊める。その二人に刺客を送り込み、油断して寝ているところを殺傷する。
もちろん皇太子殿下自身は、この計画に加わっていない。とある貴族から密告があり、それで殿下は知ったということだ。そんなときにタイミングよく、参謀長が現れた。
当然、その対処法を話し合い、さらに国王陛下を退位させるための策を練っていたのだという。
そういう大事な話、どうして俺にしなかったのかなぁ。いきなり当日、ぶっつけ本番で刺客と戦う羽目になった身にもなってほしい。もっとも、参謀長自身、陸戦隊員への指示や側近らとの打ち合わせで、そこまで頭が回らなかったようだ。
で、この時、送り込まれた刺客はあの二人ではない。全部で十五人いたという。
実はその大半をすでに陸戦隊員が捕縛していた。あの二人は、暗殺という事実を作り出すために敢えて見逃された。二人くらいであれば、どうにか対処できるだろうという思惑だ。
まあ、実際にそうなったのだが、参謀長もまさかその刺客が天井を突き破ってくるとまでは想定していなかったらしい。しかしこの時、俺がベルガを抱きかかえ、俺の持つ携帯シールドで両名ともその刺客からの攻撃を防ぐことができたのは、実に幸いだった。
と、いうことで、実行犯が十五人もいれば、いやでも主犯がばれてしまう。
もちろん、その全員が口を割らなかったが、我々には脳波より当人の考えていることをある程度読み取ることができる脳波解読機を持っている。そこで、何人かの脳内からそれを指示した人物をたどり、その人物から国王陛下直々の封蝋付きの命令書も入手できた。それ以外にも参謀長の働きにより、あっという間に証拠を揃えてしまう。
案外、この参謀長はこういうことには長けているんだな。むしろ、その複雑に隠された網目を解くように謎を明らかにすることに、喜びを感じているようだ。報告の度に見せる笑みが、何よりもそれを示している。
なんだ、こいつも俺と、同類じゃないか。その舞台が戦いか策謀かの違いくらいだ。
ともかく、膨大な証拠の品、書類や映像、そして証言を揃え、玉座へと向かった。
無論、我々はあくまでも皇太子殿下のお供、ということになっている。が、実質的には皇太子殿下に国王の座を「禅譲」、つまり素直にその座を皇太子殿下に譲るよう脅す……じゃない、促すのが我々の役目でもある。
「陛下! 此度はバルディ殿、並びに魔女のベルガ殿の命が狙われた件につき、調べがつきましたゆえ、ご報告に参りました!」
相手は、国王に次ぐ地位にいる相手、王位継承権を持つ皇太子殿下だ。さすがに我々の時のように、宰相を経由しての会話はしない。
「左様か。で、その犯人とやらは誰か?」
さすがは悪政の限りを尽くした国王だ。このふてぶてしい神経には恐れ入る。皇太子の言葉を聞いても顔色一つ変えない。それだけ、バレない自信があるのであろう。
が、次の一言を聞いて、さすがの国王陛下も顔色が変わる。
「この者らのもつ神秘の力により、数々の証拠を集めた結果、残念なことですが……その主犯が、陛下だと判明いたしました」
「な、なんだと!? 何を証拠に!」
「主犯に指示を出していた貴族らを暴き出し、その貴族らの部屋からは、陛下よりの指示が書かれた封書が残されておりました。その封書にあったものは、まさしく我がヴァルデンブルグ王国の国印を施した封蝋と、陛下直筆の書であります」
「ば、馬鹿な! そんなものはいくらでも偽造可能な……」
「我が国印を施した封蝋は、簡単には偽造できませぬ。そのことは陛下御自身がよく御存知のこと」
「う……」
「おまけに、この独特の字体は確かに陛下御自身のもの。私もよくそれを目にしましたが、この字の最後の跳ねの部分が極端に大きいところなど、まさしく陛下の字でしか見られぬ特徴でございます」
「そ、それを知る者の仕業である可能性もあるだろう」
「極めつけは、ヴォルフガング公爵の証言にございます。陛下の策略に加担するよう、最初に話があったとか。すぐに断ったところ、刺客が襲ってきたと」
「ま、待て、その時はヴォルフガング公爵は死んだと、そう報告を受けているぞ!」
「偽の報告ですよ。刺客は守備兵らに捕らえられた。が、ヴォルフガング公爵が一計を案じた。公爵が死んだと、そう報告せよ、と。実際、公爵家では偽の葬儀まで執り行われ、長男に家督を譲られたと」
国王陛下に絶対の忠義を示す公爵ですら、昨今の悪政ぶりに辟易していたという。そこに、ゼーレ・プラーゲを防いだ俺と魔女を暗殺するようにとの命令が回ってきた。当然、公爵は拒む。
なお、ヴォルフガング公爵は元々、隠居を望んでおり、ちょうどいい機会だと長男に家督を譲ったとのことだ。死んだことにして、今は領地で悠々自適の暮らしをしているらしい。
しかしまあ、ここまで馬脚をあらわすとは、よほど周囲からの信頼がないのだろう。結局、頼んだ別の貴族から刺客が送り込まれたことが発覚し、その貴族の侍従の一人が別の貴族を通じて皇太子殿下に密告するよう願い出た。
まあ、これだけの証拠を突きつけられては、もはや言い逃れはできないだろう。だがこの国王は、それでも認めようとしない。
「じょ、冗談ではない! 我は国王だぞ! 三百年、十六代に渡って続いた王国の頂点に立つ者であるぞ! その我が国のため、『魔王』や『魔女』などという魔の種族を排除せんとするのは、必然ではないか!」
それを聞いて、俺は呆れかえる。皇太子殿下も同様だ。開いた口が塞がらないとは、このことだろう。そこで俺は、例の黒いマントをたなびかせながら前に進み出て、こう言ってのけた。
「調べによれば、ゼーレ・プラーゲとは人々の怨嗟の念を苗床とし、そこに魔族らの願望、すなわち世界を支配すべく人間を殲滅したいという願いが付加されて引き起こされる災害だと聞いております」
「その通りじゃ! なればこそ、魔の者を……」
「ですが、その怨嗟の念がこれまでにないほど強大であった。宇宙より来た我々の駆逐艦五十隻の艦砲をもって、ようやく仕留められたほどの相手です。当然ながら、この星にいるあらゆる軍隊、あらゆる魔術は、歯が立たなかったでしょうな」
「なんじゃ! その功績をひけらかし、我が座を狙うか!?」
「そんな無粋なことは致しません。だいたい、小官は国王の座など興味ありません。ですが……」
「な、なんだ!」
「その玉座に座る者が代わらなければ、いずれまた同規模のゼーレ・プラーゲが起きることは間違いありません。我々の武器をこの空で使い続けることは、かつてない規模の嵐を呼び寄せるなど、碌な結果を生みません。で、あればここは、聡明なお方、善政をしかれる国王に、代えるべきではないかと小官は忠告いたします」
それを聞いた国王は、激怒する。
「そ、そんなことを、たかが将軍風情が口にしてよい言葉ではないだろう!」
邪知暴虐なる国王は、やはり俺の発言など聞く耳を持たないか。仕方がない。あまりやりたくはなかったが、ここは「魔王」になるしかない。
「強大な魔物を倒せる力を持つこの『魔王』が、さっさと皇太子殿下にその座を譲れと言ってるんだ! わかんねえか! お前が国王の座に居座ることをだれも望んでなどいないと、この王都を少し巡っただけで理解できるくらいお前は酷い国王だと思われてるんだ! 今すぐ王座を皇太子に譲るなら穏便に隠居させてやるが、ぐだぐだいうとこの玉座の間にもう一度、人型重機を突入させるぞ!」
それを聞いた国王、フリードリヒ十六世は、もはや返す言葉もなかった。
そして、魔王……じゃない、この俺と、魔女であるベルガ、それに宰相閣下の眼前で、国王は震える手でその王の象徴たる王冠を、皇太子殿下に被せた。
こうして、フリードリヒ十七世へとその王座が禅譲された。
うん、実に平和的に解決できたものだ。案外、「魔王」という立場も使いようだな。俺は多分、今、参謀長にも分かるほどの笑みを浮かべていることだろう。




