#13 最終戦
「か、各艦、被害状況を知らせ!」
「データリンク上、全艦、健在です。一部の艦で、ビームとシールドが接触したようですが、ダメージ軽微」
「測定値をもとに推察せよ、やつの砲撃力は、どれほどの威力か!?」
「我が艦艇搭載主砲と、ほぼ同等であります」
なんということだ。まさに「戦艦」じゃないか。我々の戦艦も、駆逐艦と同じ砲門を三十から四十門ほど装備し、全長も四~五千メートルほど。まさしく相手は、我々の戦艦そのものだ。
哨戒機サイズから駆逐艦を越えて、いきなり戦艦クラスの魔物が現れたというのか。ただし、幸いなことに一体のみ。とはいえ、そんな化け物が、王都からほど近いところに現れた。
「主砲を、使うしかない」
俺はそう告げた。すると参謀長のヴィスコンティ大佐が反論する。
「いけません、戦隊長! 大気圏内での砲撃は禁じられております! それがどれほどの重罪になるか、ご存知ではありませんか!?」
「いや、その条文には但し書きがある。『但し、大気圏内にて高エネルギー砲を使用する敵が出現し、これを撃退する目的ならば、現地判断に基づきその使用を許可する』と」
「と、いうことは、今回はあれを撃滅するために、我が戦隊の砲を使うと?」
「だが、どちらにせよ今のままではダメだ。今、あれを砲撃したら、砲撃エネルギーによる敵本体の爆発によって、地上に相当な被害が出るぞ。あれをどうにかして王都や街から引き離せばなるまい。この辺だと、誰もいない海上へ誘導する必要がある」
「承知しました、バルディ提督。なれば我々が海上に移動すれば、誘うことができると」
「そうだ、全艦に伝達、進路変更、西北西に回り込みつつ、あの敵を誘導する、と」
作戦は自ずと決まった。あの化け物を海の上へ誘導し、そこであの化け物を一斉砲撃により破壊、消滅する。戦艦クラスであれば、五十隻の砲撃があれば撃沈可能だ。こちらの移動に合わせて回頭するが、やはり重すぎるその図体ゆえに、動きは遅い。たとえシールドを使用したとしても、後方か側面の無防備な場所があるはずで、そこを狙えばいい。
だが、言うは易し、だ。あれをどうやって、海上におびき出す? 今回は、それが最大の難関だ。
その困難さを思い知らされたのは、我々が海上へと向かった時だ。奴は、我々を狙っている。だからこそ、我々を追いかけてくるに違いないと、そう思い込んでいた。
だが実際は、そうではなかった。
「敵本体、再び回頭! 王都ゴールデンフェルトスに向けて、移動を開始しました!」
「なんだと!?」
そうだ、冷静に考えれば、当たり前だ。ベルガの言葉通りならば、あれは「復讐心」の塊である。その怨念を一心に集めている相手は、誰か?
いうまでもない。国王だ。
と、いうことは、奴は国王を倒すべくまず王都へ向かう。そこから先は、王国中を駆け巡り人々を襲い始めるだろう。
まずはその、王都への進撃を止め、なんとしてでもこちらに振り向かせねばなるまい。
「前回同様、各艦に人型重機を固定し、攻撃に備えよ」
「戦隊長、何をなさるおつもりですか?」
「決まっている。奴を突き、こちらに振り向かせるのだ」
「で、あれば、哨戒機隊を送り込んだ方が早いのでは?」
「もしもの可能性を考慮している。奴が対空兵器を保有している可能性は?」
「……十分に、あり得るでしょうね」
「それ以上にだ、駆逐艦による一撃離脱でなければ、奴は我が戦隊に狙いを定めない。あくまでも、奴の矛先を艦艇に向けさせる。そのためには、これしか手がない」
哨戒機隊ではおそらく、奴を誘導できない。取るに足らない存在だと思われるだろう。それに、対空砲火を装備している可能性も十分にあり得る。
得体の知れなさ過ぎる相手だ。何を隠し持っているか、見当もつかない。先ほどは、三十門ほどの砲撃を加えてきた。それ以外にも、何かを持っている可能性はある。
しかし、どうしてこちらの戦艦をあそこまで再現できたのか。当然だが、この星にはまだ、我々の戦艦など一隻も存在しないし、訪れた様子もない。まさかとは思うが、我々の思考を読まれ、それに似た存在をあの怨嗟の念とやらで作り出してしまったというのか。
恐ろしい相手だ。
「……そうなると、ただの一撃離脱では、振り向きそうにないな」
俺は呟いた。また不穏なことを口走ったと、横の参謀長が怪訝な顔でこう返す。
「あのですね、バルディ准将閣下。また何か悪いことをお考えなのでは?」
「何をいうか、俺は作戦を成功に導くべく、最善の方策を考えているだけだ」
「の、わりには、顔がにやけてますよ、提督。ご自身で気づいてますか?」
えっ、ちょっと待て、俺は今、笑みを浮かべているというのか?
「なるほど、かの魔女殿が提督のことをしきりに『魔王様』とお呼びする理由がよく理解できます。これまでもそうでしたが、ご自身をギリギリの極限に追い込み、それで相手を殲滅することに快感を覚えていらっしゃるのではありませんか? まさしく、魔王のように」
うーん、随分と失礼な参謀長だな。この戦いの真っ最中で、言いたい放題だ。が、参謀長は最後にこう締めた。
「ですが、今はそのあなた様の魔性が勝敗を決すると信じております。ご存分に、部下を振り回してくださいませ」
「……もとより、そのつもりだ。しかしだなぁ……まあいい、そんなことを言っている場合ではないな」
そう、あの図体のでかい化け物が、まさしくその艦首を王都に向けようとしていた。そうなれば、王都は三十門の砲撃を喰らうことになる。そうなっては、元も子もない。
国王だけ消えてくれるならば、まだ救いはある。
だが昨日、俺とベルガにビーネンシュティッヒを売ってくれたあの露店主とその市場の人々、広場を行き交う交易商や親子連れ、威厳を見せつけるために派手な飾りをつけた馬車に乗る貴族とその侍従が、一瞬にして消されてしまう。
それだけは、させるものか。
「四〇〇一、および四〇〇二号艦、砲撃戦用意!」
接近して、人型重機隊からの一斉射撃を加えようと考えたが、それではダメだ。あの巨体に対して、効果がなさすぎる。
ならば、奴を挑発すべくその後方から、主砲で攻撃すれば良いのではないか?
二隻の砲撃ならば、戦艦クラスであれば損害はあれどビクともしない。となれば、この二隻による砲撃を加えても、奴は沈むことはない。
弱点を知る意味もある、後方ががら空きなのか、それともシールドで守られているのかも、この一撃でわかる。挑発しつつ、敵の弱点を知る。一石二鳥だ。
「主砲、装填完了!」
「敵後方上部を狙え、撃てーっ!」
大気圏内だというのに、我が戦隊からついに砲撃が開始される。ズズーンという落雷音のようなけたたましい音が、艦橋内に響き渡る。おそらくこの音は、王都まで届いているだろう。奇しくも主砲を撃つのは、あの死にかけた戦闘以来だ。その太く青白い閃光は、あの黒い化け物の背中を捉えた。
四〇〇一号艦の放った砲撃は、そのビーム光の一部が弾き飛ばされた。やはりシールドが展開されているな。しかし四〇〇二号艦の放ったビーム砲撃は、ちょうど化け物上面の目玉の一つ、つまり砲門を貫いた。
猛烈な爆発が起きる。おそらく、その爆発音も王都まで轟いていることだろう。だが、幸いにも音だけだ。爆発によって生じた炎や爆風は、真下の山地に散らばっていく。
あれでは山火事が起きるだろうな。野生動物や、もしかするとその山地内の交易路を行く行商人が被害を受けることになるかも知れない。いや、すでにあの化け物の燃えた身体の一部が落下し、絶命した者や動物がいる可能性もある。だが、仕方がない。それ以上の惨劇を、抑えるためだ。
しかし、犠牲は決して無駄にはしない。現に、怒りに燃えたその「ゼーレ・プラーゲ」の産物は、我々にその矛先を向けてきた。
「来たぞ来たぞ来たぞっ!」
自分でも、興奮しているのがよくわかる。やはり俺はこのギリギリの状況で、自身の策を成功させることにどこか快感というか、高揚感を覚えているのは間違いない。参謀長であるヴィスコンティ大佐も、俺の今のこの顔の笑みを見逃すはずがない。
「敵より、再び高エネルギー反応!」
「よし、砲撃戦だ。ただし、四〇〇一号艦から四〇一〇号艦まで十隻のみ。他の艦は、回避運動に徹せよ」
いくら大気圏内砲撃が許される条件下とはいえ、そう何発も撃ち続けたなら、周囲の気候に与える影響が大きい。とてつもない嵐を巻き起こす可能性だってある。ジリジリと歩み寄ってくる敵を攻撃で誘いながら、海上を目指す。
すでに我が戦隊の多くが、海上に到達した。高い断崖絶壁が並ぶそこから向こうは、広大な海だ。この先には幸い、陸地はない。
しかし、一つだけ問題がある。
そう、我々は前回のあの戦闘で、シールドをほぼ使い尽くしていた。シールドの残量も少ない中、あの化け物からの砲撃を受けつつ引き寄せている。果たして、奴を誘いだすまでの間、もつのか?
「四二五三号艦、被弾! シールドにてダメージ回避!」
敵の攻撃も、苛烈極まりない。二十九門に減った砲門で、こちらを狙い撃ちしてくる。三十万キロ離れた相手ではないから、発射の瞬間さえ捉えればどうにか回避できるが、それでも何発かに一度は当たる。シールド限界も近い我が戦隊は、この鈍い敵の注意を向けさせたまま、忍耐強くおびき寄せるしかない。
「敵は、海上に出たか!?」
「はい、ですがまだ、十分な距離とはいえません」
くそっ、それにしても奴は鈍い。それは攻撃に転じた時は有利に働くが、こうして誘導している時はその遅さに苛立ちが募る。こちらのシールドにだって、それほど余裕はないんだぞ。
じわじわと動く敵の本体と、それに粘り強く砲撃しつつおびき寄せる我が戦隊、四百五十隻。やがてその黒い本体が、ようやく海岸線から十キロ以上、離れた位置にたどり着く。
「よし、頃合だ。四〇〇一から四〇五〇号艦、これより敵後方に回り込む!」
いよいよ作戦開始だ。四百隻はその場に残して、内十隻から誘導のための砲撃を続行させる。その隙に、我々は敵の弱点である後方へと移動し、そこから一斉砲撃にて貫く。
「急げ! 敵後方に、回り込むんだ!」
参謀長が檄を飛ばす。強烈な速さで我々はあの化け物を大きく迂回し、そしてその後方へと回り込んだ。
その後方にて、五十隻が一列に並ぶ。
「これで終わりだ、主砲、発射用意!」
俺は、勝利を確信した。先ほど、奴の後ろが我々と同様に、シールドの穴となっていることを見抜いていた。
その抜け穴めがけて、一斉砲撃を仕掛ける。
「全砲門、装填完了!」
「よし、撃てーっ!」
五十隻の砲が、一斉に火を噴く。青白い閃光が、まさにその無防備な後方をまさに貫かんと浴びせかけられた。
が、その閃光が、おかしい。
なんと、五十隻すべての砲火が、一斉に弾き返されてしまった。上下にそれらは弾き飛ばされ、一部は海の水を貫き、その周囲を熱水に変えた。
馬鹿な。
いつの間にかあの敵は、後方にシールドを動かしていた。なんということだ。奴はそんなことまでできるのか?
「いくら模倣すると言っても、こちらの弱点まで正確に模倣するわけではありませんからね。ましてや、先ほど青い光の槍で背後を貫かれたことで、後ろを固めたのでしょう」
いつの間にか脇に立っているベルガが、俺にそう言った。何かを言い返したかったが、現実にベルガの言う通りのことが起きているから、ぐうの音もでない。くそっ、なんてことだ。ここまで来て奴をみすみす見逃すのか。
いっそ、全艦で撃つか。いや、しかし、四百五十隻の砲撃は多大な影響を与えかねない。かつてそれで、壊滅的被害を受けた星が存在する。大気圏内砲撃は、慎重を期さねばならない。
が、そこで俺は、先ほどの砲撃を思い出す。
最初の二発は、確かに命中した。が、一発はシールドの一部によって弾き返された。
が、我々五十隻の砲撃をまともに弾き返すには、シールドをこちらに向けている必要がある。
と、言うことは、その向こう側にいる四百隻、彼らの前はガラ空きになって居るのではあるまいか?
「参謀長! 大至急、四一〇〇号艦から四一五〇号艦に連絡! 主砲発射せよ!」
「えっ、向こう側の艦に撃たせるのですか!?」
「こちらにシールドが向いている。と言うことは、向こうは無防備なはずだ。そこを突く」
「了解! ただちに!」
すぐに参謀長が動く。俺の命令が、ちょうど反対側にいる四百隻中の五十隻に届く。
「砲撃、来ます!」
すぐに青い閃光が飛んできた。ちょうどこちらの頭上を掠めるように、それは放たれた。が、こちらの頭上に閃光が現れたと言うことは、つまりはそういうことだ。
そう、ビーム砲が奴を、貫いた。
直後に、大爆発が起きる。海面を荒立て、途方もない波が起きるちょうどこちら側に、その波が押し寄せてきた。
「シールド展開、急げ!」
残り少ないシールドを、その波除けに使った。これをそのままにすれば、高い断崖を超えて王都にまで押し寄せかねない。ここである程度食い止めねば、何のための戦いか分かったものではない。
やがて、レーダー士から、報告が入る。
「敵本体、消滅。味方艦影以外の浮遊物体、感知されず」
それはすなわち我々が、ゼーレ・プラーゲに勝利した瞬間でもあった。
「やりました、やりましたよ、魔王様!」
相変わらず、俺を魔王と呼ぶ魔女のベルガだが、彼女にとってはこの百年ほどの間、備えてきたゼーレ・プラーゲへの策が成就した瞬間でもあった。
しかし、第一段、第二段と比べて、格段に強力な魔物が現れた。いや、もはやあれは、魔物ではない。戦闘艦と呼んでも言い過ぎでないほどの、とてつもない敵だった。
大気圏内という制約下の中、どうにかそれに打ち勝つことができた。これほどの勝利は、他にない。
そういう意味で今回は本当に、ギリギリの勝利だった。周囲を観測するが、一部、小型の熱帯低気圧が発生したものの、それも偏西風に乗って人の少ない王都の南側に流れ、しばらくすると消滅した。それ以上の異常気象は、観測されていない。
いやはや、こちらの砲撃を抑え続けた甲斐があったというものだ。実にしんどい戦いだった。が、俺は「魔王」の呼び名にふさわしく、今回もこう言ってのけた。
「ベルガよ、今回も、実にあっけない戦いであったな」
「はい、魔王様」




