コアの運用方法
「顔を上げよ。」
前回も思ったが、この国の国王様は側近に代弁させるのではなく、直接口を聞いてくれるんだな。俺としてはやりやすくて助かるが、何か理由でもあるのだろうか?
「ハルト。貴様が城に呼ばれた理由、分かっているな?」
「もちろんでございます。コアの有用性、そして私の同胞が、戦闘から離れられるようにお願いするためでございます。」
正しいか正しくないかは分からないが、自分ができる限りの丁寧語で国王に言葉を返す。
「では、貴様の同胞を戦場に送らずに済むためにもコアの有用性を説明してみせよ。」
千載一遇のチャンスだ、この気を逃したら二度目はないだろう。俺は決死の覚悟で口を開いた。
「まずは、お尋ねしたいのですが。陛下はコアについて、どこまで説明を受けたでしょうか?」
「魔力を吸い上げ、そして破壊すると吸い上げられた魔力が一度に解き放たれ、爆発を起こす。これだけだ。」
ギルド長は入手方法は説明しないでくれたようだ。だが、入手方法が分からない段階で、なぜコアの説明を聞く時間を作ったのだろうか。
「なるほど……どのような物かの説明は必要なさそうですね。では、兵器としての運用方法について説明させていただきます。」
国王が頷くのを確認してから説明を開始する。
「まず、コアの最も優れている要素は『魔力の貯蔵』にあります。しかし、街の中に魔力を吸い上げたコアの貯蔵庫を作ったのでは、何らかの衝撃で大爆発を引き起こす可能性があります。なので、もしも貯蔵庫を作る際は城壁の外に作ることをオススメします。」
俺の話を聞きながら、国王は視線を一人の男に向けている。恐らく防衛大臣のような役割を担う人物なのだろう。俺の話を真剣に記録している。
「そして、貯蔵した魔力の使用方法ですが。これは、騎龍による上空からの投下が最も効果的だとかんがえます。」
ガラン王国の所有する騎龍は三匹。隣接する三カ国のうちの一つ、エルマン王国から送られた強力な生物兵器だ。
「何を言うかと思えば……騎龍は強力なブレスを放つことができるのだ。コアを使う必要がどこにある?」
国王の側近が挑発的な態度で俺に質問を投げかけた。
「もちろん騎龍がブレスを放つことは存じております。ですが、ブレスを放つには降下して低い位置から放つ必要があり、魔物による投擲で撃ち落とされる可能性があります。高い位置からのコアの投下であれば、大事な三匹の騎龍を失う可能性が低くなると考えました。」
国王の側近は何か言い返す暇もなく、国王により後ろへ下がらされた。
「続けよ。」
「かしこまりました。では、コアの利用方法について、引き続き具申させていただきます。」
後ろに下がった国王の側近が、兵士の一人に何かを耳打ちしているのが目に入った。何を話しているのか気になるが今は、説明に集中しなくては。
「騎龍の次にオススメするのは投石器によるコアの射出です。」
「投石器とはなんだ?」
「魔法の存在しない我々の世界の石を飛ばす兵器です。……説明のために小さなサイズの投石器を作ってまいりました。もし、よろしければ近くでご覧になられてください。」
俺は木の枝とスプーンを紐で縛った簡単な投石器と小さな石を取り出して準備した。
初めに国王が玉座から立ち上がり、近くに寄って様子を眺めると。家臣や騎士たちが続々と集まってきた。
「仕組みは簡単です。スプーンの柄尻に重りを加え、スプーンの先の皿に飛ばしたいものを乗せて、重りよりも強い力で下に引きます。指を離すので前にいる方は移動をお願いします。」
小石を乗せているスプーンの先端から指を離すと、小石が勢いよく飛んで行った。
「これでどうすると言うのだ?」
「この投石器の何倍ものサイズを作ります。そして私の持っている小さなカバンのようなものに魔力が込められたコアを詰め込み、魔物の群れの中に遠距離から飛ばします。」
先程の簡易投石器での実演を見たお陰か、その場に集まった人らは深く考え込んだ。
「……ハルト。貴様らの世界はこんなもので争っていたのか?」
「お言葉ですが陛下。この投石器は私の世界の二千四百年以上前から存在する兵器です。もしも現代の私の世界と、この国が戦争になることがあれば指先一つで決着がついてしまいます。」
クスクスと周囲から笑い声と俺への嫌悪感がこもった視線が俺へと突き刺さる
「……ハルト殿。我々を侮辱しないでいただきたい。指先一つでは国はおろか、人一人殺せるはずがないではないか。」
一人の騎士の質問に対し、俺は冷静に現代兵器の恐ろしさを説明した。
「信じ難いが事実なのだろうな……ハルト殿の世界は頭がどうにかしているのではないか?」
俺の知りえる限りの現代兵器の知識を聞いて、俺を囲む多くの人が納得してくれたようだ。だけど……。
「ハッ!デタラメに決まっているではないか。作り話にしてはよくできているが、所詮は出来損ないの戯言。」
出来損ないというのは、俺が魔力を持たないことに関してなのだろう。そこに関して否定するつもりはないが。国王の側近は何故俺を敵視しているんだ?
「信じていただけなくても構いません。あくまで侮辱した訳ではなく、私の言葉に説得力を与えるために発した言葉であることを理解していただくための説明だったので。」
怪訝な表情を浮かべる国王の側近のことは無視をしてコアの説明を続けようとしていると、謁見の場に怒鳴り声が響いた。
「ふざけんじゃねぇぞ佐藤!」
俺へと向かい歩いてきた人物は龍星だった。龍星は俺の前まで近づくと、顔を全力で蹴りあげた。
「余計なことをするんじゃねぇ!」
何度も何度も俺の体を蹴る龍星を誰も止めようとはしなかった。勇者として優れた魔力を持つ龍星のことを止めようとすれば甚大な被害を被る可能性があっての事だろう。
「急になんだよ!こっちは今忙しいんだよ!」
何とか起き上がり、龍星と向かい合う。
「……聞いたぞ。お前が神から与えられた力の名前は『全知』らしいな。通りでこの世界に溶け込めてるはずだよなぁ!」
『全知』だなんて嘘を吹き込んだのは……まぁ、何となく誰に騙されているのかは分かるが……それにしても龍星の浅はかさも気にいらない。
「……俺の力は『全知』なんて便利なものじゃねぇよ。知りたい知識を思い浮かべなきゃいけないうえ、この世界での一般常識くらいのことしか知ることができない。」
そう、俺の知識は万能じゃない。衣服が金になると考えたのも、俺たちの世界の料理が受けいれられたのも、俺が考えて行動したからだ。
「俺の知識を妬むのは結構だが。お前にこの世界の知識があれば、何か変わったのか?衣服が金になると考えたか?料理はどれだけできる?人と上手くコミュニケーションがとれたか?」
「黙れ!」
龍星の手のひらに小さな炎が形成される。
「俺達には戦う道しか残ってねぇんだ!この城から追い出される訳にはいかねぇんだ!」
「思考放棄だな。俺は店を開くための金と、全員が住めるだけの建物を建てる金も用意した。お前が望む望まない関係なく、戦うことより店で働くことを望んだ奴だけ連れていくつもりだ。」
俺の言葉に龍星が困惑の表情を浮かべた瞬間。俺と龍星のことを炎が包み込む。
「……何をしたノエル。」
「勇者とはいえ、王の前で魔法を酷使することは許されておりません。ですので、魔法の使える衛兵に二人を無力化するように命令させていただきました。」
王の側近……ノエルか。どうやら俺たちを無力化したと思ってるようだが……。
「これは一体どういうことでしょうか国王陛下。」
俺と龍星をつつんだ炎は、みるみるコアに吸収され。熱くはあったものの、大きな火傷をせずに済んだ。どうやら魔力の所有者が直接触れなくとも、魔法という魔力の塊が触れることで、コアは魔力を吸い上げてくれるようだ。
「どういうこととは?」
「魔法を酷使したのは龍星……私の隣に立つ勇者で、私には魔力がありません。私にまで魔法を使った理由を聞きたいのです。」
国王はノエルに視線を送り、説明を要求した。
「貴様と勇者は陛下の前で、見るも耐えない口論を始めたではないか。罰を与えるには充分な理由だと思うがね。」
「なるほど……陛下の側近ともなると、陛下から許可が降りずとも、陛下の前で魔法の使用を命令して、罰を与えることができるのですね。」
ノエルは下唇を噛み眉をヒクつかせながら、俺を睨みつけた。
「それに、私の世界の言葉で話していたので、陛下には伝わっていなかったと思われますが、どうやら今回の謁見で、私が戦場で戦えない同胞を利用しないで頂くため、懇願しに来ていたことが伝わっていたようです。」
「……確か、勇者の管理は貴様に任せていたはずだな、ノエル」
「お言葉ですが陛下!この男は何を話しているか分からないからとデタラメを言っているのです!騙されてはいけません!」
国王の前に跪き進言するノエルの姿は、とてつもなく滑稽に見えた。
「何故デタラメを言っていると思われるのですか?私の世界の言語を知っておられなければデタラメと断定することはできないと考えますが。まぁ……勇者召喚に使われた教会の神父を連れてきて、私の隣の勇者様の言葉を翻訳していただければ分かることだと思いますが。」
かろうじて勇者という言葉を聞き取れたのか隣で何が起こったのか理解できず立ち尽くしていた龍星が声をかけてきた。
「おい、佐藤……何を話しているか俺にも教えろ。どうして俺たちは魔法で攻撃された……」
どうやら怒りの矛先が別に向いたようだ。顔を覗きたくないと思うほどに声から怒りが伝わってくる。
「お前は利用されたんだよ。俺はクラスの奴らを戦闘から遠ざけるために、勇者の代わりになる戦闘兵器の存在を教えに来たんだ。まぁ、国からしたら強力な戦闘兵器を手に入れることが、勇者という人間兵器を手放す理由にはならないだろうけどな」
龍星が玉座へと歩みを進める。
「龍星!これ以上、邪魔しないでくれ。俺が話をつける。」
「……お前なら、あいつらを助けてやることができんのか?」
「……そのためにここに来た。」
龍星が俺の言葉に納得したのかは分からないが、龍星は何も言わず、玉座の間を後にした。
「話は済んだのか?」
「お待たせして申し訳ありません。」
「構わん。……それでは話を戻すが。ノエルよ、ハルトの望み通り、後ほど教会の神父を呼びつけ、勇者に話を聞くことになるが、お前の言葉に嘘はないのだな?」
「お……王よ。私は……」
言葉に詰まってしまったら、それは嘘を認めているようなものだ。国王は近衛騎士団長のバジルさんに命令をしてノエルをどこかへと連れていかせた。
「待たせたなハルトよ。話の続きを聞かせてくれ」
「かしこまりました。……コアの話の続きの前に陛下。私の頼みを一つ聞いてはいただけないでしょうか。」
「……申してみろ。」
「ありがとうございます。とは言っても、陛下は既にご存知なのですよね?」
「勇者の解放か……」
「はい。我々の世界では既に多くの国が戦争を辞め、勇者と呼ばれる私のクラスメイトも人はおろか、動物すら殺したことがないものしかいません……だから!」
「いいだろう……」
「え?」
「勇者を解放してやると言っているのだ。」
拍子抜けなほどあっさりとクラスメイトを救うことができて、安堵の気持ちが遅れてやってきた。
「……よろしいのですか?」
「フッ。勇者の一部が戦いに向いた精神状態でないことは知っていたからな。だが、条件がある。」
「条件ですか……」
「まず、勇者のうち何人かには引き続き戦ってもらう。そして、ハルト。貴様は、私が協力を要請した際に限り、指揮官として戦場に立ってもらう。」
この条件でも国王は、かなりの融通を利かせてくれたのだろう。ただ……。
「私が指揮官ですか?」
「そうだ。ノエルには魔物との戦闘の際に戦術と指揮を任せていたが、ノエルには罪を償わせる必要がある。その穴を埋めるためにも貴様が戦闘の指揮をとってみせろ。」
こうして俺はクラスメイトの何人かを救うことに成功し、ガラン王国の指揮官として戦場に出ることが決まった。
国王の側近、ノエルの件もありこの日の謁見は一先ずお開きとなり、残りの説明は追追することとなった。
クラスメイトのことや戦場に出た時のことのような先の見えない不安は幾つもあるが、何とか不器用に生きていこうと心に決めた。




