ダンジョン探索
「いらっしゃいませ!」
あれから二日が経ち、食材の仕入先と幾つかの提供するメニュー決めて宿屋で食堂を開いた。食堂は予想以上の反響を呼び、夜は居酒屋として繁盛して宿泊客が増え、昼はお弁当を買う者が続出した。
「それにしても悪いね。お給金までいただいちゃって。」
「お手伝いしていただいてるので当たり前ですよ。それにしても、このスクロールって本当に便利ですね。破れたり、汚れたら交換しないといけないけど、これが銅貨一枚なんて信じられませんよ。」
七カ国に勇者が召喚された際に、勇者召喚の土地に突如現れた地下へと続くダンジョン。様々な魔道具が発掘され、七カ国の国王はダンジョンの上に建物を建て、施設として使用料を取ることに決めた。
ここまでが神から与えられた知識で、後は勇者と同時に現れたことから神が作り出した神聖な場所という考えもあるらしい。
魔物が存在して、心臓部のコアを破壊しなければ不死身という、戦闘の練習をしてくださいと言わんばかりな設計を見ると、あながち神が作ったというのも間違いではなさそうだ。
「ネリーさん。一度ダンジョンに潜ってみようと思うんですけど……」
「ダンジョン?だったらカロルのこと連れていきな。あの子も昔はダンジョンに潜ってたことがあるから」
お客さんの波が落ち着いてきたお昼すぎ、俺はカロルさんに連れられてダンジョンギルドへとやってきた。
「ここでギルドに登録すればダンジョンに潜れるよ!登録した時に装備は貰えるけど、武器だけはいいものを買った方がいいかもね」
ダンジョンギルドの中はとても賑わっており、大勢の人がギルド内で会話を楽しんでいる。
「初めましてのお客様ですよね?私は受付のドロテアと申します。ギルド登録の為にお客様には個人情報の記入と小銀貨一枚を支払って頂くことになります。」
二十代前半の受付のお姉さんから渡された記入用紙に個人情報を記入して、小銀貨一枚と一緒に手渡した。
「サトウ……ハルト?この名前……もしかして、最近召喚されたという勇者様ですか?」
ドロテアさんは周囲に聞こえないよう小声で俺に問いかけた。
「まぁ、はい……戦う力を与えられなかったので城から追い出されてしまいましたが……」
「そうですか……ここだけの話ですが、勇者様に対して悪い印象を持つ方も沢山いるので、お気をつけください。」
ドロテアさんは裏から装備一式を運んできて俺の前に置いた。
「では、ハルトくん。これがあなたのギルドカードと最初の装備になります。少なくともギルド内では本名を使わないよう気をつけてくださいね。それと、装備はここでも少しは取り扱っていますが……ご覧になりますか?」
俺はカロルさんに言われた通り、武器だけをギルド内で自分の腕力にあった重さの剣に変えて、一人で待ってくれているカロルさんの元に戻った。
「お待たせしましたカロルさん……カロルさん?」
名前を呼ぶと不機嫌な顔で俺を睨んだ。
「名前……さん付けないでよ。なんか、距離感じて嫌なんだけど」
「えっと……向こうでは友達とか同い年にしか呼び捨てで呼ばなくて……嫌だったならごめん、気をつけるよ。」
「嫌じゃないけど……私もさん付けで呼ばれるのは慣れてないというか……とりあえず、呼び捨てと敬語禁止ね!これが守れないなら、もう案内しないから!」
「……分かった、気をつけま……気をつけるよ」
距離感の近い女子……クラスにもいたけど、やっぱり俺は苦手だ。
カロルから敬語を禁止された俺は、ついにダンジョンの入口へとやってきた。
ダンジョンの入口は複数あるようで、入口ごとに繋がっている場所が違うらしい。なので、ダンジョン内での人間同士のトラブルは少ないらしく、魔物にのみ集中して探索することができる。
「それじゃ行こっか!」
カロルに手を引かれ、ダンジョンの階段を降りると、一瞬だけ体が歪むような感覚がして、気がつくとダンジョン内部へと移動していた。
「まずは一階層。一階層には危険な魔物がいないから慣れるにはちょうどいいよ。」
カロルからギルドまでの道すがら一階層の魔物について聞いた。一階層にはスライムやスケルトンなんかの魔物が多いらしく、まだ生き物を殺すのに抵抗がある俺でも問題なさそうに感じた。
「いた……武器を構えて、一気に行くよ。」
曲がり角を曲がると武器を持たないスケルトンが二匹いて、まだこちらには気づいていない。俺はカロルと同時に飛び出し、心臓部の剥き出しになったコアを破壊した。
「凄いよハルトくん!魔物のコアって丸いから最初は上手く力が伝わらせられない人が多いのに、もしかして剣を習ってたりしたの?」
漫画やアニメの見よう見まね……腕だけでなく体を使って振った剣は、たまたまスケルトンのコアの中心に当たった。ただ、同い年くらいの女の子に褒められるのは悪い気はしない。
コアを破壊されたスケルトンは崩れ落ち、砂になって消え、割れた魔物のコアだけがその場に残った。
「この割れたコアを集めてギルドに渡すとお金と交換してもらえるよ。一階層だから大した額にはならないけど、小遣い稼ぎで遊びに来る子は結構多いよ。」
小遣い稼ぎで遊びに来るって……流石は異世界、物騒な価値観だ。そんなことよりも……だ。この魔物のコア……破壊したら魔物を倒すことができて、破壊しなければ復活するんだよな……。
「……なぁ、カロル。次の魔物で試したいことがあるんだけど。」
「試したいこと?」
カロルに説明を聞いてもピンとこない表情をしていたが、とりあえず手伝ってくれることになった。
「またスケルトン……ちょうど一体か、運がいい。」
俺は武器を持たないスケルトンを蹴りつけた。
「カラカラカラカラ」という音を立て、スケルトンの体はバラバラに崩れたが、しばらくするとコアが光を放ち、コアを中心にスケルトンの体が元通りになっていった。
元通りになったスケルトンを再び蹴りつけ、バラバラになったスケルトンが元通りになる度、繰り返した。
一見、とち狂ったかのように見えるこの行動にはもちろん理由がある。スケルトンのコアによる再生に上限があるのか、カロルに聞いたところ、誰も試したことがないのか知らないと答えられたからだ。
この世界の人にとってはダンジョンの魔物はコアを破壊しなくては倒せない、というのが当たり前になっていて試そうとするものがいなかったのだろう。
だが、ゲーマーの性分なのか俺が変わっているだけなのか、こういったことは試さずにはいられない。コアが再生をしなくなった時、どうなるのか気になって仕方がない。
試行回数十五回。ついにその時が訪れた。
「カラカラカラカラ」スケルトンの体は崩れ落ちたが、砂になって消えることはなく、バラバラになった骨の中に無傷のコアが転がっていた。
「再生しなくなるまでスケルトンの体をバラバラにするって聞いた時はおかしくなっちゃったと思ってけど……まさか、こんなことになるとは……」
俺は驚くカロルを気にもとめず、スケルトンの骨に埋もれているコアを取り出した。
「これもギルドで買い取ってもらえるかな?」
「ちょっと貸してみて。」
カロルに傷の付いていないコアを手渡す。
「…………ッ!!」
カロルの手に触れたコアは青白い光を放ち、カロルは膝から崩れ落ちた。
「カロル!」
「大丈夫……急に魔力が吸われてびっくりしちゃって」
無色透明だったコアはカロルの体から魔力を吸い上げ青く輝きを放っていた。
「魔力を吸うって……これ結構やばいんじゃないか?」
「やばい……なんてものじゃないかも。世界の常識を変えかねない大発見かもしれない。」
余程深刻な問題なのか、いつも明るいカロルが険しい顔で考え込んでいる。
「なぁ……カロル。より、深刻な問題にしてしまう可能性があるんだけど試してみていいかな?」
カロルが「これ以上?」という顔でこちらを見てきたが、見なかったことにして試すことに決めた。
「よ……こい……しょ!」
俺は青く光っているコアを遠くの壁に向けて全力で投げた。
「バシャァァァ」コアが壁にぶつかると同時にコアが弾け、吸い上げられたカロルの魔力が廊下を水浸しにした。
「つまり、これはあれか?コアは魔力を吸い上げて貯蓄することができる『電池』的な。」
よからぬ考えが頭をよぎる。兵器としての運用だ。魔力を込めたコアを敵の中に投げ込むだけで、甚大な被害を与えることができる。何よりコアが優れるのは魔力の『貯蓄』が可能になること。
神の知識によると、人と戦うにしても魔物の侵攻を抑えるにしても、魔法使いが一万人以上必要との事。それが、コアを貯蓄して、放り投げるだけで解決するのだ。
恐らく、神から与えられた知識にない以上、このコアの使い方は想定されていなかったのだろうが、使える以上仕方がない。慎重に使い方を考えなくては。
「なぁ、カロル。とりあえずこのことは黙っててくれないか?」
「なんで?……って聞こうと思ったけど、私の手に終えるものでもないし、ハルトくんに任せるよ。」
それから俺たちはダンジョンの中で魔物のコアを破壊しながら、宝箱の中に入っている魔法のスクロールを手に入れた。
魔法のスクロールには火、水、氷、土、雷、光、闇が存在しており、特に火や水はギルドで高価に買い取ってくれる。火や水の魔法適性がない者は、スクロールを使い生活をしているからだ。
「魔物のコア十五個で……銅貨二枚になります。スクロールもお引き取りすることができますが、よろしいのですか?」
「大丈夫です。」
火や水はもちろん、他のスクロールも俺には必要だ。何せ俺は、この世界で唯一の魔力を持たない人間なんだ。スクロール本来の使い方である小級魔法、上手く使わないとな。
「はい、カロルさん。今回の報酬。」
「えっと……本当にいいの?スクロール売らなかったとはいえ、コアを売ったお金全部貰って」
「大丈夫……というか、スクロールを全部貰っといてコアのお金まで貰ったら罰が当たるよ。」
「…………案内代としてありがたく貰っておくけど。火と水以外のスクロールなんて何に使うの?もし、戦闘に使おうって考えてるなら辞めておいた方がいいよ。スクロールを使うくらいなら切った方が早いから。」
魔法の階級は大雑把に 小級は当たれば痛い。中級は危険な攻撃。上級は命に関わる。頭に流れてくる知識を踏まえても、スクロールよりも剣を使った方がダメージは大きい。
「魔法は……ロマンなんだよ。向こうの世界の人なら誰しも使ってみたいものなんだよ……!」
「ふーん……そんなものなんだ。とりあえず早く帰ろ!今日の晩御飯は何を作ってくれるの?」
「そうだな、今日は……」
俺の初のダンジョン探索は無傷のコアをどうするかなど、考えないといけないことが残っているが、とりあえず無事に終了した。
ちなみに、この日の晩御飯は肉屋では鶏皮を使わないそうだったので、大量の頂いた鶏皮と胸肉を使って焼き鳥を三人で食べた。(二人が気に入ったので食堂のメニューになりました)




