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不登校児の異世界転移




 「ちょっと、龍星くん!ピアス外してきてって言ったよね!」

 

 「はぁ……うっせぇな。どんな格好で来ようと俺の勝手だろうが……」


 その日も懲りずに委員長はクラスの問題児の身だしなみを指摘している。教師ですら見て見ぬふりをしているんだから関わらなければいいのに、そう考えていた。


 自称、利口な人間の俺はクラスのゲーム友達と話しながら、問題児達に絡まれないように視線を送らないよう徹底していた。


 「ちょっと!話はまだ終わって……」


 委員長の声が途切れ、横目で確認すると、倒れた委員長と上から見下ろす問題児の姿があった。


 「いい加減鬱陶しいんだよお前。」


 今考えると、この時の俺はヒーロー気取りの痛いヤツだったと思う。


 「……なぁ、龍星。流石に今のはやりすぎなんじゃないか?」


 「は?」


 クラスの視線が俺に集まる。それはもう、痛いくらいに。


 「あぁ、はいはい。佐藤だっけか?一瞬名前出てこなかったは。それで?上手く聞き取れなかったからもう一回言ってみろよ。」


 「……手を出すのは間違ってるって言ったんだ。委員長に謝れよ。」


 この時、龍星は何も言わず俺に近づいて腹を全力で殴りつけた。


 「クラスの隅にいるような陰キャが調子に乗ってんなよ。」


 痛いし、苦しい……。だけど……。


 「そんな……もんかよ。」


 龍星の腹を全力で殴りつけた。思い返すとこの時が人生で一番最高の瞬間だったかもしれない。


 「髪を金髪に染めて……ピアスを開けて強くなったつもりだったのか?格好で強くなるのは漫画やアニメだけなんだよ。イキんなよ龍星。」


 「……殺す!」


 ここから先は顔の形が変わるまでお互いを殴りあったことしか覚えていない。学校からの処分は三ヶ月の停学。



 そして停学になってから五ヶ月が経った今……。


 「A守れって!このモードはキルが目的のモードじゃないんだよ!拠点守れって!」


 部屋に引き篭もりゲームを楽しんでいた。


 あれからクラスのゲーム友達から聞いた話では、龍星は俺の住む地域では有名な不良グループとつるんでいるらしく、俺への仕返しを企てているらしい。


 そんな中、学校に通えるわけがなく、仕方なく……仕方なく部屋に引き篭もりゲームを楽しんでいる。


 「だからAを!……ってなんだこれ?モニターぶっ壊れたか?」


 突然ゲームを映していたモニターが真っ白な背景を映し出し、画面の中に一人の若い男性が現れた。


 「やぁ、君が佐藤陽翔(はると)くんだね。」


 (な……なんだこれ。もしかしてハッキングされた!?)


 画面の中の男に名前を呼ばれ、ハッキングを疑い。とりあえずゲーム機の電源を落とした。


 「あぁ、違う、違う!ハッキングとかそういうのじゃないから!」


 「……なんで俺の名前を知ってるんだ?そもそもこっちの行動をどうやって把握してるんだ?」


 ゲーム機の電源を抜いても、モニターの電源を抜いても画面から男の姿は消えず、諦めた俺は直接男に話しかけた。


 「私の名前はクルトン。この世界とは違う、別の世界の神様だよ。」


 胡散臭い……実に胡散臭い。画面の中から話しかける神様がどこにいるっていうんだ。それに、異世界の神様って……。


 「……残念だけど本当だよ。画面の中から話しかけることになったのは……うん、他の子達に力を使いすぎちゃってね。」


 「他の子達?」


 「君以外の二十九人は既に力を与えて異世界に転移した。君が最後になったのは……うん。教室内にいるものだと思っていたから……つい。」


 目の前の存在を神だと認めるのは納得いかないが、仮に神だとして俺を覗いた二十九人。これは俺のクラス二年Bクラスの生徒の数と一致する。


 「そうだね、君の考えている通り二年生のBクラスの生徒であってるよ。予言の神曰く、「世界を救うのは三徳高校の二年生のBクラス」らしいからね。悪いけど君たちには拒否権はない、強制だ。」


 さっきから気軽に心を読んでくることが気に入らない……しかし、異世界転移か……いわゆる無双ものと考えると悪くわないか?


 「いやぁ……その事なんだけどね。ごめんね陽翔くん、君の存在に気づけなくて、僕の力は全て君のクラスメイトに配ってしまったんだ。」


 「はぁ?」


 いや、登校していなかった俺が悪いのは分かってる。だけど、チートスキルなしに異世界転移って、何の罰ゲームだよ!


 「何か私にできることがあればいいのだけど……」


 「……だったら、今から転移される世界の知識を俺にくれ。」


 「……!それでよければ喜んで!」


 クルトンと名乗る神は俺の頭に手を乗せた。


 「…………っ!」


 その瞬間、頭の中に莫大な量の情報が流れ込んだ。


 「脳に負荷をかけないように、世界の知識には鍵をかけておいたよ。君が考えようとすれば、記憶が飛び出すはずだ。」


 試しに異世界の言語について考えてみると、知らない言語が頭の中を駆け巡った。


 「先に伝えておくと、君たち、こちらの世界の人間は魔法を使うための魔力が存在しない。君の前の二十九人には魔力を与えたが、魔力のない君は戦わないことをオススメするよ。」


 「だから何の罰ゲームだ!」


 「……心の中で気持ちを押し殺していたから、大人しい子かと思っていましたが、どうやらそうでもないみたいですね。」


 心を読まれるなら、この神に対しては思ったことを口にした方がよさそうだ。


 「君の知識は他の二十九人には与えていないものだ。きっと彼らの支えとなるだろう。君が次に目を開けた時には異世界の教会にいる。願わくば君たちが世界を救うことを願っているよ。」


 俺の視界は光で覆われ、あまりの眩しさに目を瞑る。


 「どうして今になって勇者様がここに!?」


 徐々に視力を取り戻した俺の前には一人の神父が立っており、神の言っていた教会へとやってきたことを直ぐに理解した。


 神から与えられた知識によると、この世界には元々七つの国が存在していたようで、七カ国の国々は勇者と呼ばれる強力な力を持つ転移者を囲っていたらしい。


 そんなある日。どこから現れたのか、突然魔物の大群を従える者が現れ、一つの国が滅ぼされた。


 しかし、国々は力を合わせるどころか、土地を奪い合うことに夢中になり、次々と国は滅ぼされ、今ではガラン王国、エルマン王国、魔道都市ヴィッセンの三カ国のみとなったそうだ。


 そして俺が転移した教会はガラン王国の中にあり、大昔に勇者が召喚された土地を教会にしたものらしい。


 「……勇者様?大丈夫ですか?」


 「あぁ、はい。大丈夫です。」


 神父は流暢な日本語で俺に声をかけた。


 「私の名前はアーロン。勇者様の世界の言語を代々この教会と共に受け継ぎ、あなたたちが訪れた際に案内をする者です。」


 どうやら神から与えられた知識というのも完璧なものではないらしい。神父のことを考えても頭には何も思い浮かばない。恐らく、誰でも知っているような基本的な知識のみを与えられたのだろう。


 「ですが、困りましたね。一ヶ月遅れて、また一人召喚されるとは……王にはどう、報告すれば……」


 あの神……一ヶ月も俺の存在に気づかなかったのか。まぁ、登校していない俺にも問題はあるが、一ヶ月は遅れすぎだろ。


 「とりあえず、勇者様には国王様に会ってもらう必要があります。早速、向かいましょう。」


 俺は神父の後を着いて歩いた。周囲と違う服を着ているからか、周りの視線を嫌という程感じたが、国王との謁見までの話は驚くほどスムーズに進み。俺は今、国王の前で膝を着いて頭を下げている。


 「私こそがガラン王国、五代国王 レイナルド・ガランである。勇者よ顔を上げよ。」


 国王が玉座に座り、拝謁する許可が下り。ようやく国王の姿を拝んだ。


 「それで、何故一ヶ月も遅れて召喚されることとなったのだ?」


 「私を召喚したクルトン様によると、いるはずの部屋にいなかったから気づくことができなかったそうです。」


 ……我ながら見事な説明だ。自分の失態は話さずに嘘をつくこともせずに説明することができた。


 「……貴様はこの世界の言葉を話すことができるのだな。では、勇者よ。貴様が神より授かった力はなんだ?」


 「私がクルトン様から授かった力はこの世界の知識です。」


 俺の言葉を聞くやいなや、国王は溜息をつき、側近や配下の者たちは俺を嘲笑した。


 「王よ。勇者の言葉を翻訳するものは城内にもいます。それに勇者様方もこの世界の言語を学んでいます。この者は不要かと……」


 国王の側近が耳打ちをするでもなく、堂々と聞こえる声で国王に助言をした。


 「名前は……聞く必要もないか。力を持たず世界に呼ばれた勇者よ、これを持っていけ。」


 王は懐から取り出した金貨を一枚、俺に放り投げた。


 「それだけあれば、しばらく生きていくことができるだろう。衛兵、彼を城の外に案内してやれ。」


 俺は何か言い返す暇もなく城の外へと連れ出された。


 だが、国王から渡された金貨。これがあればしばらくの生活には困らない。この世界の通過は小銅貨十円、銅貨百円、小銀貨千円のようにグレードが上がる事に十倍の価値がある。


 つまり国王が投げ渡した金貨は一枚百万円で、神から与えられた知識によると平民の三年間の給料に値する。


 俺は金貨をポケットに隠して、とりあえず視線を集めないためにも服屋へと向かった。


 『衣屋』


 とてもシンプル名前の店が目に留まり、中に入った。


 「いらっしゃい……」


 やる気のない女性が店番をしている。シンプルな布製の衣服が並ぶ中にカラフルな現代の衣服のようなものも混じっている。


 「えっと、今来てる衣服を売りたいんですが……」


 転移して城へと向かう道すがら、街を歩く人を見て思った。今身につけている衣服は売れる!と。


 「……………………」


 「あのぉ……」


 やる気のなさそうな女性は俺の着ている服を掴み、じっと眺めた。


 「小金貨五枚……下と合わせてなら金貨一枚。」


 想像していた以上の大金で驚いたが、俺は冷静を演じながら、店のシンプルな衣服を買い、着ていたパーカーとジーンズを脱いで着替えた。


 「……ちょっと待って。その下着、上下で小金貨二枚出すわ。」


 やる気の感じられなかった女性は、俺の着ていた衣服を手に取る度に加速的に元気を取り戻していき、シャツとパンツを脱いだ頃には生き生きとした表情をしていた。


 それにしても、こんな大金を所持しているなんて。俺が想像しているより繁盛している店なのだろうか?


 「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしています。」


 生活に困らないだけのシンプルなデザインの衣服を数着買って、俺は宿屋へと向かった。


 「いらっしゃい!一階の部屋と二階の部屋が空いてるけどどっちにする?」


 「二階でお願いします。」


 「あいよ!じゃあ、お代を……って、あんたこれ!小金貨じゃないか!」


 まぁ、この反応になるよな……。


 「えっと、手持ちの細かいのがこれしかなくて……ダメですかね?」


 「ダメに決まってるだろ!何年泊まるつもりだい!」


 一泊いくらかは知らないが、反応からして小銅貨数枚で一泊といったところなのだろう。とはいえ、手持ちで最も小さいのが小金貨なのだ、何とか泊まる方法はないだろうか……。


 「女将さん……で、いいのかな?あそこは食堂ですか?」


 「なんだい、その変な呼び方は。ここの客は私のことをネリーさんかママって呼ぶよ。それで、あの食堂は……稼ぎの足しになるかと思ったんだけどねぇ……上手くいかなくて、今は使ってないよ。それがどうかしたかい?」


 「宿泊費と食堂を使わせてもらうっていうので小金貨一枚ならどうです?」


 ネリーさんは俺の提案を首を傾げながら了承してくれた。


 「でも、どうするんだい?食堂を開いた所で、わざわざ宿屋に食べに来る客がいるとも思えないしねぇ……」


 「それなんですけど、肉や野菜を売ってる場所ってどこにありますか?とりあえず食材を仕入れたいんですが。」


 「だったら娘に案内させようかね。カロル!降りてきな!」


 「なに〜!まだ二階の掃除終わってないんだけど!」


 自分と同じ年くらいの女の子が階段を駆け下りて、ネリーさんの横に立った。


 「このお客さんに、色んな店を案内してきな。」


 「初めましてお客さん!私の名前はカロル、よろしくね!」


 「えっと……陽斗です。よろしくお願いします……。」


 「聞きなれない名前だね……どこから来たんだい?」


 俺はここまでの経緯をネリーさんに話した。


 「そうか……あんたが、あの勇者様かい。」


 「城から追い出されちゃいましたけどね。」


 「まぁ、なるようになるさね。さぁ、日がくれないうちに行ってきな。」


 俺とカロルさんはネリーさんに見送られ、食材調達の為に街へと出向いた。


 「あれがお肉屋さんで、あれが野菜屋さん。魚はたまにしか店に出回らないから気をつけてね。」


 カロルさんに連れてこられた市場にはこれでもかと食材が並べられており、現代日本の衛生観念的にはキツイものがあるが、いずれ慣れると信じたい。


 「………………」


 俺は色んな店を見て周り、食材を買い集めて宿屋に戻った。


 「おかえり!食材は買えたかい?」


 「はい、今から食堂の台所借りますね。」


 使われていないにしては綺麗にされている台所。きっとネリーさんの几帳面な性格が影響してのことだろう。使い終わったら、使う前より綺麗にするようにしよう。


 俺は購入してきた食材を使い料理を開始した。


 まずは買ってきた鶏肉に塩胡椒で下味を付ける。


 そして、この世界のダンジョンから手に入る火のスクロールを開き、炎の吹き出したスクロールの上に鍋を載せる。


 スクロール……という言葉からダンジョンの知識が頭に流れてきたが、とりあえずは料理を完成させることにしよう。


 鍋に入れた油を熱している間に、下味を付けた鶏肉の汁気を軽く取り、小麦粉をよく揉み込む。鶏肉の先端を付けて油の温度を確かめ、よく熱せられていたら小麦粉を揉みこんだ鶏肉を油の中に入れる。


 三分ほど経ったら、一度油から上げて、四〜五分休ませ、再び油で揚げる。


 完成した唐揚げをキャベツのような野菜を千切りしたものと皿に盛り付ける。


 「できたの?」


 食堂のテーブルには、余程暇なのかネリーさんとカロルさんが席に座っていた。


 「まぁ、元々そのつもりだったけど……味の感想を聞かせてください。」


 薄茶色に揚げられた唐揚げを音を立てて二人が噛み締める。


 「うん……美味いよハルト!これなら繁盛間違いなしだよ!」


 ネリーさんからの言葉は一旦喜ぶとして……カロルさんは食べ過ぎじゃないか?一応、俺の晩御飯も兼ねてるんだけど……。

 

 「ハルトくん!おかわり!」


 「もうないよ。本当は俺の晩御飯でもあったんだけどね……。」


 「え!?ごめんなさい!私、知らなくて……」


 まぁ、これだけ夢中になってくれるなら充分売れるだろう。後は仕入先と他の商品について考えないとだな……。


 「ネリーさん。よかったらなんですが、今日の晩御飯は俺が作るので、氷のスクロールで冷やされた食材を貸してくれませんか?」


 「へぇー……期待してもいいのかい?」


 「いや……素人が作るものなので過度な期待は……」


 こうして俺の異世界転移一日目は無事に終わった。まだ一ヶ月も前に着いたというクラスメイトには会うことができていないが、まぁ、俺とは違って強力な力を貰ったみたいだし、大丈夫だろ。

 

 


  

 

 

  


 

 

  


 

 


 

 


 

 

 

 

 


 


 


 

 


 

 

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