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61 ウィリアム・ランカスター


エリザベートさんと一緒に伯爵家のタウンハウスに戻りエントランスに入るとセバスさんが出迎えてくれたのだが…


「ただいま旦那様はお客様を接待されておりまして カズマ様がお戻りになられましたら至急応接室へお通しする様にと承っております」


「えっ、お客様が見えるのに! 僕をその方に引き合わせるっていう事?」

一応素知らぬ振りで返事を返す。


「詳しくは存じませんが お越しになったお客様が ”エントランスに置いてある魔道具の持ち主に面会したい” とおっしゃたと旦那様から伺っております」


訪問の目的はチャリと俺にあるのか? 他の要件で訪問して偶々チャリを目にしたから持ち主に会ってみたい、という事では無さそうだ。


しかしどうやって俺が此処に滞在している事を知ったんだ?

セバスさんが ”お客様” って呼んでいるからおそらく相手が貴族なのは間違いない。でも俺にウェストン伯爵家以外の貴族の知り合いはいない。ここまでの道中で貴族のお屋敷に宿泊はしたけれど使用人の俺は屋敷の住人との接点は無かった。

 唯一の心当たりといえば初めて王都入りした時に伯爵家の馬車と並走していたところを目撃されたかもしれないという点だ。


出来る事ならこの国の貴族との関りはウェストン伯爵家だけに留めておきたい。俺の持っている道具の不思議な力が他の貴族に知れて権力者同士の駆け引きの道具にされるなんて事はまっぴら御免だ。

しかし ”家族同然” などと言われはしたものの雇われの身の今の俺に ”会いたくない” と拒否する権利は無いに等しい。


「僕、王都に知り合いなんて居ないし全く心当たり無いんですけど… 取りあえずは応接室に参じれば良いんですか?」

「はい。ご案内いたします」


先日応接室に通されたから場所は知っているけれど使用人の俺が一人で向かうのはお客様に失礼なのかもしれない。前を歩き出した執事さんに付いて歩き出すと 何故か黙ってやり取りを聞いていたエリザベートさんも一緒に歩き出した。


「お嬢様は自室でお待ちになる様に、との事です」

それに気付いたセバスさんが足を止めてそう告げた。


「えっ、どうして? カズマの知らない人と会うのに一人じゃ心細いでしょ?」

「それが… 旦那様からそう託っておりますのでご遠慮願います」


”心細い” なんて子ども扱いか!? いや、俺の心配なんて微塵もしていない好奇心丸出しの顔をしている!


「僕の事は心配いりませんよ。恐らくは珍しい道具の持ち主である新入りの使用人の顔が見たいだけの暇なお方なのでしょう」


言葉ではそう言ったけれど知り合いでもないのに俺に会いたいなんて俺の秘密について探りを入れに来たに決まってる。伯爵はロベルトさんからの書面で俺の秘密を知っているけれど その他の家人には知らされていない。エリザベートさんが同席すると話がややこしくなる事は目に見えている。


やはり王都にチャリで乗り入れたのは間違いだったかな。

─── でもずっと隠蔽魔法で隠したまま、というのも動きが取り辛い。なんとかチャリの能力を上手く誤魔化していくしかない。


エリザベートさんは小さな声で 

「面白そうなのに… 」と呟いて不満気ながらも自室に向かった様だ。

・・・ 俺にとっては全く面白くない訪問だ。


応接室前で執事さんが扉をノックして俺の到着を告げた。伯爵の「入ってくれ」という返事で 「失礼します」 と、扉を開けて中に入ると客人はこちらに背を向けて座っている。

一歩進んで一礼して 「僕に何か御用でしたか?」 と伯爵に尋ねた。

すると座っていた人物が立ち上がって


「私が君に会いたいとお願いしたんだ」 と振り返った。

まあ、事前にチャリから連絡を貰って見知った人物である事は知っているが顔には出さない。


「お初にお目に掛ります。和真と申します。ウェストン伯爵家に雇われたばかりの見習い兼雑用係を務めさせて頂いています」と自己紹介した。”アイテムボックス持ちで運び屋やってます” なんて自分からは言わない。


「そうなの? それに お初に、だなんて嫌だなあ。忘れちゃった? 昨日街で会ったよね… と言っても目が合った途端 君は回れ右して行っちゃったけど」

「そうでしたか?」

「そんなに警戒しなくて良いのに… 」 


なんか既視感のある掛け合いだ・・・


「私自身は昨日が初めてじゃなくて 君があの魔道具に乗って王都入りした日が初見だけどね。皆が注目してるからとても気になったんだけど 生憎仕事中で声を掛ける事も出来なくてね。同行していた馬車がウェストン伯爵家の馬車だって事は分かっていたからこうして訪問したんだ」


「仕事中?」

「ああ。挨拶がまだだったね。私は王立第二騎士団副士団長を務めているウィリアム・ランカスターだ。昨日は街中の巡回中でね。

ロベルト・ウェストンとは学園時代からの付き合いで伯爵家にも何度か訪れた事があるんだ」


「騎士団の方が街で見かけただけの僕にどういったご用件ですか? それと自転車は魔道具でなくて異世界の人から譲り受けた異世界の乗り物です」

「あの不思議な乗り物、ジテンシャって言うのか。本当にただ乗るだけの物?」

「はい」

「実は昨日、街で君と目が合う前に木陰で目に見えない何かにぶつかってね。見えてないのに触ることが出来る何かがそこにある… 普通の人なら不思議でしょうがない。でも私は鑑定魔法が使える。だから見えないその何かを鑑定してみたんだ。結果は… 」


「いいんですか? 俺… 僕みたいな平民にご自分の魔法の秘密を簡単に漏らしちゃっても」

「君は秘密を守るのが好きみたいだからね」

「・・・」


秘密を守るのが好き、って訳じゃなくて自分の為に秘密にせざるを得ないだけなんだけど・・・


「で、結果としては鑑定魔法が弾かれた。だからそこには私の魔法を弾く何かが存在したんだ。直後その場に現れた君と目が合って君が去っていった後、”そこに有った筈の何か” も消えていた。

普通に考えればその何かは君に付いて? 行ったと思うよね? で、君が先日街で乗っていたあの不思議なモノでは無いか? という結論に行きついた訳なんだ」


「ただの興味本位だけで其れを確かめに僕を訪ねてきたと?」

「興味本位… と言えばそうなのかもしれないけど それだけの為に態々出向いたりはしないよ。ただ便利だから、というだけであんなに目立つものに乗って出歩かないだろ? どんな力を持った魔道具なのかと思ってね。他の貴族たちが関心を持つ前に是非とも不思議な道具を持つ君とお知り合いになっておきたくてね」


やっぱり他の貴族にも目を付けられるのは時間の問題の様だ。


「あれはただ便利なだけの乗り物ですよ。馬車より小回りが利いてそれこそ街中でも邪魔にならない。難点と言えば目立ちすぎる事くらい」

「だから目立たない様に隠蔽魔法を発動させたと?」

「まさか。そんな魔法僕には使えませんよ。街中に在った目に見えない何かは僕とは関係ないですよ」


「ではなぜあの時私と目が合った途端逃げる様にあの場を去ったのかな?」

「それは… 誤解ですよ。お嬢様にお土産のお菓子を買ったので一刻も早く帰りたかったのです」

「あの時の君は何も持っていなかった様だが?」


「鑑定魔法が使えると明かしてくれたので僕も敢えて明かししますが 伯爵家にはアイテムボックス持ちという事で雇って頂いています」

「君がアイテムボックスを持っていると?」

「はい。他に何かご用件は」


「いや、今日のところはこれでお暇するよ。あまりしつこく食い下がって嫌われてしまっては元も子もないからね。ただ、私とロベルトは同じ魔法の使い手という縁で学園時代に意気投合してね。共同で古代魔道具についての研究をしてたんだ。

だから珍しい魔道具を見るとついつい夢中になってしまってね。またそのうちに顔を合わせる事になるからその時のお楽しみって事にしておこうかな」


ロベルトさんの知り合いで同じ鑑定魔法の使い手… 類は友を呼ぶ、的な既視感なのか? 

次の機会のお楽しみ、って言い方にちょっと不安が残るけれど 今日のところは深く突っ込まれる事も無かったので良しとしよう、と胸を撫で下ろしたのだけれど・・・


「そうそう。アイテムボックス持ちって明かしてくれたんだし折角だから何か出して見せてよ」

「・・・」

容易には解放してくれない。


「別に疑ってるとかじゃなくてアイテムボックス持ちの人って初めて知り合ったからちょっと興味本位」


しょうがないのでリリィの収納魔法に入っている物を思い浮かべて 昨日街の散策中に買った普段着を出して貰った。


「へえ~、本当に何もない所に ”ぽん!” って現れるんだ」

目を輝かせて何の変哲も無い衣服に見入っている。


「容量はどの位?」

「お帰りになられるのではなかったのですか? これ以上は企業秘密です」

「企業秘密ね────

古の魔道具は意志を持っていて使える魔法も今とは比べ物にならない程強力なものだったと書物で読んだ事が有る。君の言うジテンシャというものが古代魔道具で鑑定魔法を弾くほどの魔力を秘めていると踏んだのだけれどその考えは間違っていたのかな?」


惜しい! 魔道具に宿った精霊の力が凄いんだけどそれは遥か古から存在している魔道具の話だ。今現在一般的に使われている魔道具は人の魔力を注ぎ込んで作られている。”古の魔道具には精霊宿っている” そんな昔の事実を記した書物は存在していないのだろうか。


「そうですね。残念ですがあれは間違いなく異世界の自転車という乗り物です」

ウィリアムさんはお手上げといったように両手を広げて肩を竦めた。


「セバス、ランカスター君のお見送りを頼む。カズマ、君には話があるからこのまま残ってくれ」


「じゃあ、カズマ、また近いうちにね。それまで厄介ごとに巻き込まれないようにね」

貴方が巻き込もうとしているのでは? と心では思っていても口には出さない。


「もうお会いするようなことは無いと思います。ランカスター様もお元気で」


異世界王都の見学もそこそこ楽しんだし お貴族様との付き合いは気疲れするから早く辺境領に帰りたい・・・ というのが今の俺の本音だ。



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