62 伯爵の話
ウィリアムさんが退出するのを見届けた伯爵が俺に視線を移してソファーに掛けるよう促した。
「いやぁ 参ったよ。面会するなり君について根掘り葉掘り質問して来てね。まあ、本人の了承も無しに私からは何も答える事は出来ない、という事で一応は納得してくれたのだがね」
「ありがとうございます。僕もなるべくならこれ以上他の貴族の方とは関わりたくないと思っていますのでその様にして頂けて助かります」
「この時期に彼が訪れたのはてっきりエリザベート絡みの要件で、とも思ったのだがまさか君に会う事が目的だったとはな。王都に来たばかりの君が既にウィリアム君と面識があった事にも驚いたが 君の持ち物に目を付けて早速探りを入れて来る当たり魔道具に精通している彼らしい、と言えばそうなのだろうが… 」
えっ、、 ロベルトさんとの関係だけで無くエリザベートさんとも何か繋がりが有るのか? この時期に、という事は選定の儀に思うところあっての訪問と考えていたのだろうか?
「えっと、彼はウェストン伯爵家とはどういった関係があるのですか? 単にロベルトさんの御学友だった、というだけではないんですか?」
率直にエリザベートさん個人との関係を聞く事には気後れするのでそれとなく遠回しに聞いてみた。
「ウィリアム君とウェストン伯爵家との関り… かね? そうだね。今後の君の働きにも無関係とはいえない事だからこの場で説明しておいた方が良いな。
実は彼の妹君であるキャサリン嬢は今回の騒動の元となった第二王子の元婚約者でね。
婚約破棄の話が持ち上がった時に彼らの父親であるランカスター侯爵は婚約を破談にすることなく 何とか元の鞘に収めようと動いたのだが ウィリアム君と妹君は元々第二王子との政略結婚を快く思っていなかった事もあって これ幸いと婚約破棄の話を進めてしまったんだ。
しかしその結果、”聖女選定の儀” の話が持ち上がりお鉢がうちのエリザベートに回って来てしまった。
先ほど彼も言っていた通りロベルトとは学園での魔道具研究を通じて意気投合してね。兄妹共々同年代という事もあって私生活においても在学中からお互いの家を行き来する程の親交もあったんだ。ロベルトが領地に帰った今でも親友と呼べる間柄の様だが 今回の騒動が原因でお互いに気まずい思いを抱いていることは否めない。
ウェストン伯爵家としては 新たな婚約者選び騒動は国の上層部の思惑が招いた結果でありランカスター兄妹が責任を感じる事では無いと認識しているし この理不尽な事態の連鎖を何とか打破出来ないかと模索していた最中での君の出現は彼等兄妹にとっても僥倖と言っても良いのではないかな」
そっか、選定の儀の結末如何によってはエリザベートさんが妹の代わりに評判の悪い第二王子の婚約者にされてしまうかも知れないし そうなった場合ロベルトさんとの関係にも影響があるといった感じなのだろうか・・・
「そんな謂れが有ったんですね。僕に関しての興味本位だけの訪問かと思ってぞんざいな態度をとってしまいました」
「まあ君が知り得ない貴族ならではの裏の事情も有って複雑だからね。仕方がない事だよ。まあそんな状況の中、未知の魔道具らしきものを携えた君がウェストン伯爵家に雇われたんだ。聖女選定の儀が行われる原因となってしまったと責任を感じている彼としても 今の事態を打破できる何かが起こる事に期待を寄せているのかもしれないな。
その様な経緯もあって今回の聖女選定の阻止に関しては単にウェストン伯爵家の為に、というだけではないのだよ」
「そんな重圧掛けられても碌に魔法も使えない僕に出来る事なんて知れていますよ。せいぜい儀式を中断させる騒ぎを起こせる位が関の山だと思って下さい。たとえ中断させる事が出来たとしてもその先どう転がるのかまでは読めませんし…
その結果、雇い主の伯爵家共々不敬罪に問われるなんて事も覚悟しておいてください」
まあ、不敬罪に問われるなんて事になったら伯爵家の存続さえ危ぶまれる事態だが 王家と対立する位の覚悟はあるとロベルトさんからは聞いている。
「ハハハ、ご謙遜を… ここまでの道中を共にして来たザックの報告によると やはり君には我々の想像の範疇を超える能力が備わっている様だね。そうでなければ選定の儀の詳細も分からないうちに気軽に引き受けたりは出来ないだろう?
それにすでにロベルトから聞いているだろうが今回の件では王家と事を構える事態になっても致し方ない事だと思っているんだよ。雇われたばかりの君には到底理解は出来ないだろうが国の上層部とはそれほどの確執を抱えていると言っても良い」
俺が… (というか本当は精霊の魔法なんだけど)意図せず今までに人前で披露してしまった能力は アイテムボックスと鑑定魔法を弾くほどの魔力と探知魔法、防御魔法・・・ 後は魔物が活性化している魔の森に入っても平然として生還した事くらい… だけど 戦闘能力に長けていてもインチキ選定の儀式を何とか出来ると思えるはずがない。
貴族間の魔法事情を知らなかったとはいえ 人前で魔法を行使し過ぎてしまったかもしれない・・・
「気軽に引き受けた訳では無いですよ。これからの自分の生活を考えたうえで ”悪意有る者の手先にされる前に少しでも信頼出来そうな味方を得る” というロベルトさんの提案に納得しての受諾です」
「まあ君の正体を知る者が殆んどいないうちは何か不都合な事態になったら君を知る者の前から姿を消せば済む事だろうからね」
そこまで読まれているのか…
「何せ異世界の人の存在を証明する物と言えば君の場合はあのジテンシャという乗り物位。それも他国の魔道具だ、と言い切ってしまえばそれ以上の追及は出来ない。我が家に保管されている異世界の人の遺品も 彼と懇意にしていた我が祖父が譲り受けたものだと聞いている。父が子供の頃に異世界の人と交流した記憶が残っている、という話を聞いている私だからこそ その真実を疑わないでいられるのだろう」
「そういえばロベルトさんが僕に声を掛ける切っ掛けになったのも ”家にある異世界の道具を見て欲しい” というものでした。見せて頂く前にいろいろな騒動が重なってしまってすっかり忘れていました」
「その道具自体は領地に保管されているのだけどね。何でも異世界の人が元居た世界の風景や見知った人物を思い浮かべる事で彼の記憶そのままに現実と見紛う程の光沢有る絵画らしき物が出現するというものだったらしい。
この世界に存在しないと思われる建物や風景、衣装、乗り物などが映し出されており 大変貴重な装飾品として主に貴族が高値で買い取って屋敷の壁などに飾ったりしていたらしいのだが 異世界の人が亡くなると同時に何百枚も存在したといわれる大量の絵が一瞬にして消え去ってしまったらしいのだ。
その現実離れした風景の絵画が残っていれば彼がこの世界とは違う世界の者であった、という証になったかもしれないが 働きを失った魔道具一つ残っても ”不思議な素材で出来た何か” というだけで 暫くの間研究者が興味を持った後は放置されるだけのありふれた遺品と一緒になってしまった… 」
念じればチャリと同じようにあちらの世界の風景や人物の精密な光沢のある絵が出て来る・・・
現代人が持ち歩いているスマホかカメラあたりだろうか? 時間の流れが異世界と同じなら数十年前にスマホは存在しないか…
などと思い巡らした俺はある事に気付いて戦慄した────
『 ! 異世界の人が亡くなったと同時にカメラから出て来た写真が全て一瞬で消えた ⁈ 』
もし俺が死んだら魔王の魔石を封印したランチジャーもゴム手袋も消えてしまうのか⁈
釣り道具なんかはどうでも良いが魔王の魔石を封印しているランチジャーやゴム手袋が消えてしまった時、魔石が封印前と同じ状態なら魔王復活までの時間は大して残っていないだろう。悪くすれば封印前より復活により近付いた状態になっているかもしれない。
俺が死んでしまってもこの世界は俺が此処に来る前の状態に戻るだけ────
いや、この世界に来てから俺に関わった人はたくさんいる。それも俺にとっては良い関係を築いてくれた人が殆んどだ。
この世界に俺は居なくなるからと言っても魔王復活は有り得ない!
俺は居なくなるんだから関係ないなんて言っていられない!




