60 貴族の魔法事情と姉さま
「何ぼ~としてるの?」
「いえ、ちょっと考え事を… 」
「考え事?」
どうでも良い… というか暫くは放置しても問題ない事は置いておいてこの機会に ジルに一般庶民の魔法事情は聞いたけど 貴族が使う魔法ってどうなんだろう? とずっと気になっている事を訊ねてみることにした。
「はい。俺ら平民は使える魔法を人前でも躊躇わず使っていますけど、ロベルトさんからは最初会った時に "鑑定魔法が使える" って聞いたきりで 他の人達がどんな魔法が使えるか聞いたこと無いですし、使っている所を見た事も無いんです。
なんで ”私はこんな魔法が使えるぞー” みたいに自慢したりしないんですか?」
「お兄様が自らカズマに鑑定魔法の話をしたの? 平民が使えるのは殆んどが生活魔法と呼ばれる一般的な魔法だけでしょ。普通の平民がカズマみたいに特別な魔法が使えるなんて事は滅多にないわ。
貴族や騎士が使う魔法は平民が日常で使う簡単なものとは違って 個人の魔力の強さも使える魔法の種類も様々。貴族や貴族に仕える者達は政治の場での駆け引きや領地間問題などの対処の時に必要となる自分の魔法特性は最低限の事以外は秘密にしておくものだからよ」
政治的取引や戦いなどに於いては味方か敵か判断出来なかったり何時敵対する関係になるかも分らないから奥の手は隠しておくに越したことがないのか。俺ももうちょっと自重すべきか? 俺の魔法じゃないけど。
「武力行使の場などで有利に事を進める為には魔法能力の秘匿が必要不可欠、という事ですか…
では、どうして貴族は魔力も使える魔法の種類も平民より遥かに多いんですか?」
「古くからの血筋が大きく影響していると言われているわ。稀に平民の中に突然変異の様に強力な魔法の使い手が現れるのは過去に貴族の血が混ざったのが原因、という説が有力ね」
まあ有り得ない事では無い─── けど、それって俺にも当てはまると思われているのか⁈
「でも学園で習う魔法の歴史の初歩も知らないなんて… やはりカズマは平民なのね」
「いつもそう言ってますよね?」
ずっと昔に特別な魔法が使えた人達がその力を使って支配地や財を手に入れて権力者になった、とも考えられるのかな。
カフェに着くと丁度昼時になっていた。ギルドの時と同じように馬車を降りて二人並んでカフェの前に立つと 店の前に置かれている ”本日のランチ” という看板を目にしたエリザベートさんが瞳を輝かせて提案した。
「やっぱり私が知っている時とは違うお店になってるわ。前は食事メニューなんて無かったもの。せっかくだからデザート付きのランチを食べていきましょ」
──── 従者で弟役の俺に拒否権は無い。店に入り席に案内された席に向かい合わせに腰掛けた。
「本日のお薦めランチをデザート、飲み物付きで二つお願いね」
「お嬢、、 姉さまは食べ物の好き嫌いは無いんですか?」
「店頭に普通に並んでいる食材は食べられるわよ。食べられない物は… そうねぇ、地方特産の独特な味や匂いのする物の中には苦手な物もあるわ」
そんな会話をしているのだけれどカフェに入ってから周りの視線が気になって落ち着かない。周りを見回すとやはり俺には場違いの様で他に男性客が見当たらない。
「ギルドでもそうでしたけどカフェに入ってから更に視線が刺さるんですよね。やっぱり俺って場違いなんじゃないですか? 周りを見てもご令嬢や奥様方しか見当たらないですし、、 」
「そんなことは無いと思うけど? 」
「えっ、敵意とかは感じないですけどなんかチラ見しては話題にされてるみたいで… 俺って何か変ですか? あっ、それともエリ… 姉さまを見てる? 」
「何で私なのよ」
「自覚無いんですか? 姉さまってかなり綺麗で目立ってますよね?」
一瞬目を泳がせたエリザベートさんの頬がほんのり赤くなった…
「カ、カズマって、私以外の貴族令嬢の知り合いって居るの?」
「俺が知ってるのは此処へ来るまでに宿泊させて頂いたお屋敷の貴族女性… くらいですかね? ”知り合い” とは言えないかもしれないですけど」
「それなら ”綺麗な貴族令嬢” に関する基準が無いに等しいわね。私程度のご令嬢は王都には掃いて捨てるほど居るわよ」
「そんな事無いですよ。このカフェに居る誰より綺麗… 」
何言ってんだ俺・・・
「な、何言ってるの⁈ 貴方、、 此処に居る女性全員敵に回すわよ… 貴方こそ自覚無いの?」
「?」
「ま、まあいいわ。”カズマ” ですものね・・・」
「?」
「貴方、これまでにその、、 ─── 女性から思いを告げられたりとかって事は無かったの?」
「 思いを? って、 えっ? そんなの無いですよ、、 田舎を出る時にはまだ14歳だったし…
ここ何年かバレンタインに姉や妹が義理チョコを預かって来る事は有りましたけど・・・」
「バレンタイン? 義理チョコ?」
「ああ、 俺の住んでた田舎では女の子からチョコ… 特別な甘いお菓子なんですけど それを渡して ”好きな人に告白する” っていう特別な日があって、村中巻き込んでのお祭りみたいなものだから 身近な友人や普段から世話になってる人なんかにもそのお菓子を渡すんです。
それで姉や妹が ”和真はくれる人がいなくて可哀そうだから頼んでおいてあげたから” って 友達や知り合いから俺の為に義理のお菓子を貰ってきてくれるんですけど ”本命” っていうのは貰った事が無くて」
「義理と本命のお菓子って見分けつくの?」
「毎回姉や妹が預かって来るだけで直接手渡された事無いし 俺って田舎では
”釣りバカカズマ” って有名だったし。
手作りのチョコも有ったけど ”全部義理チョコだから和真は気にしなくていい” って姉と妹に言われてて お返しの品も三人で一緒に作った焼き菓子を姉と妹が返してくれてました」
「ふふっ、釣りバカって… カズマらしいわ。でも面白そうなイベントね」
「一年で一回だけ纏めて大量のチョコっていうのも結構きついですよ。俺の場合は─── 美味しかったけど三日目には見るのもキツいです」
「”チョコ” っていうのはよく分からないけど 好きな人に渡す位だから嘸かし美味しいんでしょうね… 」
「色々な味が有るから好みにもよりますけどね」
『でもそれって本当に全部が義理だけの物だったのかしら・・・ 』
「何かおっしゃいましたか?」
「別に、何にも… 大した事では無いわ」
何故か初めて会った時の様に時の様に ぷいっと横を向いてしまった、、
知り合った頃とは違って王都に来てからは不思議と会話が続く。
昨日はカフェに付き合わされるなんて 地獄の様に肩身の狭い思いをさせられることを覚悟していたけれど 会話の合間にエリザベートさんが時々笑顔を見せてくれて何だかちょっと楽しいかも。
相変わらず周りのチラ見の視線とひそひそ話は気になって落ち着かないけど…
「お料理も美味しかったけれど カフェの雰囲気もなかなかのものね。
カズマは… 貴方にとっては原因不明の視線だけが気掛かりでしょうけどね」
「視線は… 姉さまが原因で無ければ 俺が場違いな存在って事でしょうから仕方ないですよ」
「ある意味そうかもしれないけど… まあいいわ。でもカズマが気を利かせてお土産を買ってきてくれたおかげで良いお店が見つかったわ。王都に居る間にまた来たいわね」
「王子様とご婚約されたらずっと王都住まいですよ」
「──── やっぱりカズマね。一言余計よ!」
とは言っているけど 冗談が通じているみたいで初対面の時みたいにちょっと拗ねている?… 様にも見える。
あれ? 初対面の時は ただ怒ってそっぽを向いたように見えたけど こうやって付き合いが長くなって来たら 同じ顔をしてもちょっと照れて拗ねている様に見える?
初対面のあの時、ひょっとしてちょっと照れていたのか?
そんな疑問に自問自答していると不意にリリィの念話が割って入った。
『ねえカズマ、昨日街で見えないはずのチャリに鑑定魔法使った人が今、伯爵家を訪れてまたチャリに鑑定魔法を掛けたみたい』
『えっ、何で伯爵家に?』
『それは分らないけど エントランスに入って来てすぐにチャリを見つけて立ち止まって… 前回は見えないチャリを鑑定しようとしたし、ロベルトさんの時の教訓が有るから 今回は相手が鑑定魔法を発動させた時に無暗に防御しないで偽装したステータスを読み取らせておいたって』
『なんて偽装したの?』
『ある意味正直に ”異世界の乗り物” 』
『それは間違いないね。それにその方が後々誤魔化しやすい』




