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59 二人で外出


夕食の席で明日の外出について伯爵に尋ねるとニコニコしながら

「リズは学生の頃からストレス発散に丁度良い、と言って度々街へ出かけていたからね。変装して下級貴族の姉弟を装って出かけるなら問題ないよ」

と俺がエリザベートさんと出かける事に微塵の不安もない様子だ。


心配な事と言えば、王都に着いてからザックさんが伯爵に道中で遭った襲撃の事を報告して 既に王城にも報告が上がっているらしいけど色々と調べる事も多く男爵家への処分が下されるのはまだ先になるそうだ。

関係したと思われる者たちは一応軟禁状態にあるそうだが 何が起こるか分からないので用心するに越したことは無い

─── という事を頭に入れて翌日の朝食後、先ずは冒険者ギルドに向かった。リリィの危険察知魔法があるからそこは頼らせて貰う事にした。


ギルドは郊外と行き来する冒険者の為に王都都市街をぐるっと囲む外壁近くにある。

外出するに当たってエリザベートさんの弟兼エスコート役を命じられたのでチャリを漕いで同行、という訳にはいかない。俺としては気が進まないけれど チャリをエントランスに置いたまま 伯爵家の馬車に同乗して目的地に向かった。ちなみに御者は護衛もかねてザックさんが務めている。


「お嬢様もギルドに入られるんですか?」

「せっかくここまで来たんだから私も見学したいわ。それと呼び方! 今日は下級貴族の姉弟設定なんだから、お姉さま? せめて "姉さま" って呼んで頂戴」

「"お姉さま" って、、 姉が聞いたら笑い転げそうです」 

「あら! カズマはお姉様がいらっしゃるの?」

「"お姉様" なんてお上品なものじゃないですけどね。ちなみに妹もいますよ」

「そう、楽しそうね」

「どちらかと言うと賑やか? 騒がしい? ですかね、、」


そんなやり取りの後、二人共馬車を降りる事になり、本日は弟役とはいえ本職? は従者。それにこの際、日本では経験出来ない事もやってみたい。なので先に降りて下車するエリザベートさんをエスコートする。

姉ちゃんが見てるアニメの貴族令息を手本に見様見真似で優雅に? 「姉さま、足元にお気を付けください」 と言って手を差し出すとエリザベートさんが目をまん丸くして暫しの間固まった。

「何か間違えましたか?」

「い、いいえ… ちょっとびっくりしただけ」


その後、やはり先に立ってギルドの扉を開けて「どうぞ」といってエリザベートさんを招き入れる。

「カズマって本当に平民?」

「はい」

エリザベートさんは俺が異世界から来た事を知らされていない。俺は間違いなく日本では平民で庶民で田舎者。家は田舎の兼業農家だ。


「どこでお作法を習ったのかしら? 本当は何処か良い家の従者してたとか貴族家庭の生まれなんじゃない?」

「そんなことは無いです」

姉ちゃんが見ている中世欧羅巴貴族の恋愛アニメがお手本なんだけど・・・


それから他愛もない雑談をしながらギルドの中を見て回っているのだけれど どうも周りの雰囲気というか視線が気になる。

この後カフェに行く都合で身なりが冒険者風でないから目立ってしまっているのかもしれない。

因みに今着ている俺の衣裳はロベルトさんの普段着らしい。昨夜、試着した後でトラウザーの丈をメイドさんが詰めてくれたのがちょっと不服だ…


そういえば一緒に居る事が当たり前になって最近は気にする事も無かったけれど エリザベートさんはかなり綺麗なご令嬢だ。冒険者ばかりのギルドでは注目されて当たり前なのかもしれない。

遠慮がちにチラチラと見られているだけで声を掛けてくる人はいないので気にするのは止めて見学を続ける事にした。


中央奥に受付カウンターが在って窓口が五か所有る。カウンター右には二回へ続く階段、左には奥に続く廊下がある様だ。

カウンター前には受付待ちの列が出来ている。一番左だけ誰も並んでいない。そこは素材引き取り窓口らしく 午前中の今の時間はまだ依頼達成して訪れる人がいないのだろう。

窓口の受付内容は窓口の上のプレートの書かれているけれど混雑具合で各窓口の受付内容が変わるみたいだ。


そういえば大きな魔物ってどうやってここまで運んでくるんだろう。不思議に思ったのでこれからの参考のために引き取り窓口で聞いてみると 大きな素材の受け取り窓口は別棟になるとの事。そりゃあ大きな魔物の死体引き摺って建物内をウロウロされるわけにはいかないか。

二階に続く階段にはミーティングルームやギルド直営の食堂、簡易宿泊施設等の案内プレートがぶら下がっている。そちらは当面用事が無いので一階だけ見て回る事にした。


依頼内容の張り出された掲示板前に移動して手持ちの魔物の素材依頼は無いか確認する事にしたのだけど 何も言わずに後ろを付いて来ているエリザベートさんの存在を忘れそうになっていた。


「つまらない事に付き合わせちゃって申し訳ないです」

「そんな事無いわ。色々興味深くって楽しんでるわよ」

「そうなんですか?」

「だってウェストン領のギルドとはずいぶん違うから勉強になるわ」

「俺にわかる違いは温泉が併設されていない事くらいかな… 」

「王都はそれなりに入浴施設が有るからギルドがそれを経営するメリットはほとんど無いのでしょうね」


昨日の様子ではカフェに行くのが目的のようだったけれど 他領のギルドについて真剣に見学しているみたいで何時もの気まぐれな雰囲気とはかなり違って見える。


「他にウェストンのギルドとはどんなとこが違うんですか」

「素材を募集している魔物の種類が少ないわね。イスト地方は魔の森に接しているから大物の魔物の素材募集が圧倒的に多いけど 王都近郊では魔物自体が少ないし地方で狩った大きな魔物を此処まで運ぶのは不可能に近いでしょ? 

それこそ誰かさんみたいに相当な容量のアイテムボックス持ちが必要だけど 融通の利かない所に雇われたくなかったら個人的には隠しておきたいスキルよね」


「そう… ですよね、、」


やばい。やはり冒険者でもアイテムボックス持ちって事は隠しておかないとあちこちから目を付けられるのは必至なのか? アイテムボックスの中の大きな魔物、どう処分しよう・・・


ウェストン領のギルドなら怪しまれずに引き取って貰う事は出来るだろうけど ロベルトさんにほぼ底なし容量のアイテムボックス以外、例えば ”大物魔物を仕留められる何らかの方法を持っている” 等の情報が筒抜けになるのは避けられない。

まだ信用しきれない所も有るからもう暫くはアイテムボックスの事以外の情報を知られる様な行為は避けたい。


『ねえリリィ、リリィの収納魔法に魔物を入れておくことは出来る?』

『私の収納魔法は精々衣裳用チェスト一杯くらいが限度の上に時間は止められないから長時間は無りね』


『ギルドの引き取りカウンターに魔物を出すのにいちいちチャリをカウンターに押してくのって不自然だよね? アイテムボックス持ちが俺じゃなくてチャリじゃないか? って勘繰られるよね… 』

『そうね。収納用の魔道具って思われて悪い奴に狙われるかもね』

『人目に付かない所でアイテムボックスから出して引き摺って行く、ってのも人目を引く行為だよね』


『そんなこと考えなくてもチャリのアイテムボックスに干渉できるから収納空間を繋いで私の収納魔法で出し入れが可能よ』

『え! そうなの⁈ 』

『ただしチャリのアイテムボックスに入っている物に限定されるけどね。元々私の収納魔法はチャリのアイテムボックススキルから派生させてモノだからお互いの同意が有ればそれぞれの空間に干渉できるのよ。もちろんチャリに干渉を拒否されちゃったら繋げることは出来ないけどね』


『”チャリのアイテムボックスに入っている物限定” って?  入っていない物が出せないのは当たり前だと思うけど?』

『そりゃ入ってる物しか出せないけど 入れる事が出来るのも ”元々チャリのアイテムボックスに入っていた物だけ” っていう事。

アイテムボックスから取り出した物を また戻す事は出来ても チャリから離れた場所で新たに手にした物は ”チャリが直接確認できない得体のしれない物” っていう事で自動的に拒否されるのよ 』

『そっか… でもチャリが離れた場所に居てもリリィさえ近くに居ればチャリのアイテムボックスの中身を取り出せるんだね』

『同意確認も念話で確認出来るから そうなるわね』

『めちゃめちゃ便利じゃん。早く言ってよ』


『聞かれた事なかったし 私が収納魔法使えるようになったの極最近だからね。でもチャリの異世界の物を出現させるギフトとは別物だから私の収納魔法で取り出せる物はあくまで ”アイテムボックスに収納されてる物” だけよ』

『それでもめちゃめちゃ便利だよ。チャリと離れていても食べるものに困らないから あちらの世界の食べ物とか もっとアイテムボックスに入れとかなくちゃ』


まあ今すぐに何かの資金が必要だ、という訳でもない。お金は護衛の報酬を受け取っているし聖女選定の儀は結果がどうであれ ”同行するだけ” という条件での報酬も決まっていて後は結果次第の出来高制だ・・・ その辺は細かい取り決めは無いから当てにはしていない。

食べていくだけならチャリさえいてくれれば何とかなる。大量の魔物をチャリのアイテムボックスに入れっぱなしという事に気が引けているだけだ。


どんな依頼が有るか大雑把に把握出来たのでギルドを出て再び馬車に揺られて移動する。

考えてみれば馬車なんて生まれて初めて乗ったのだけど この世界、道路はアスファルト舗装なんてされていない。街中は土埃防止の為か石畳が敷かれているが 郊外に出るとほとんどが大きな石を除いて踏み均されただけの土の道路・・・というかただの道だ。


チャリは魔法で揺れの補正がされていて乗り心地は快適だけど馬車はかなり揺れる上に振動が体に響く。伯爵家の馬車なので座る部分は上等なクッションが敷かれているから乗り心地は良い方なのかもしれない。

乗合馬車や荷馬車なんて乗ったことは無いけれど もっとひどい乗り心地なのは間違いない… この世界の移動手段、貴族様でも大変だなあ、なんてどうでも良い様な事を考えて窓の外を見ているといると エリザベートさんが顔を覗き込んで話し掛けて来た。


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