58 従者? の仕事?
そのまま歩いてウェストン伯爵家のタウンハウス近くまで帰り人目に付かない所でチャリの隠蔽を解いて貰い一緒に門を潜った。
エントランスで出迎えてくれたセバスさんに 「街で見かけた新作のお菓子を皆様に、と思って買って来たのですが 貴族の方に召し上がって頂くのに相応しいかどうか判らなくて… 」 と断りを入れて木箱を手渡した。
この世界の身分制度いについてはまだ良く分からない──
というか日本に住んでいたので海外で実在する王政とか貴族とかの身分制度ありきの生活は全く身近な物ではなかった。
俺が知識として持っているのはアニメやコミックで見たり読んだりした架空のモノでしかない。
この世界に身分のはっきりした身内の居ない俺は平民という扱いになるのだろうけど ウェストン伯爵家では表向きはともかく屋敷の中では同格の客人として接してくれている。
「包装の具合から見て伯爵様に召し上がって頂いても問題ないお品でしょう。丁度午後のお茶の時間ですので皆様にお出しいたします。カズマ様もティールームにどうぞ」
そう言われたけれど朝早くからチャリでずっと移動して来たのでちょっとゆっくりしたい。
「ありがとうございます。僕の事はお気遣いなく。ちょっと遠出して疲れたので夕方まで部屋で休ませて頂きます」
そう断りを入れて与えられている部屋に戻りソファーに腰掛けて一息つく。
予定通り帰って来れたから明日の休みは何をしようかなと思いを巡らしたところで そういえばチャリのアイテムボックスに入れっぱなしになっている魔の森で拾って来た魔物、少しずつ処分した方が良いかもしれない、という考えが頭を過った。
此処のギルドで引き取って貰えるかな。ちょっと大物過ぎるからいきなり初心者冒険者の俺が持って行ったら不審に思われそうだ。あまり目立ちたくないからとりあえず明日はギルドの様子だけでも見ておこうかな、なんて考えているうちに寝落ちしたらしい。
どの位経っただろう… 扉をノックする音で目を覚ました。
「カズマ! 大丈夫⁈ 生きてるっ?」
”生きてる?” って聞こえたけど ” 起きてる?” の聞き間違いか?
ぼんやりとそんな事を思いながら身を起こし ソファーに腰掛けたまま脳が覚醒するのを待っていると ”バタン!” と勢いよく扉が開いてエリザベートさんが飛び込んで来た。
ソファーの前に回り込んで俺の顔を覗き込むや否や 「あっ、寝ていたの? ごめんなさい」 と謝られたけれど最近よく有るこのパターンにどう返せば良いんだ? と未だぼんやりとしている頭で考える。
「いや、寝てる以外にノックする音が聞こえないなんて普通は無いでしょ。こんな若いうちに突然死してたなんてシャレにもなりませんよ」
「そんなに疲れているの? いったいどこまで出かけていたの?」
「王都近郊ですよ」
もっと遠くまで出掛けていたから疲れが半端無いのだけれど それを言うと色々と面倒な説明が必要になるのは明らかだ。なので適当に誤魔化しておく。
「─── あら? そうなの? 昨日から出かけて帰ってこなかったから てっきり家出しちゃったのかと心配したわ」
「家出って… 子ども扱いですか? 一応雇われの身ですから黙って逃げ出したりしませんよ」
「本当に?」
「逃げ出す理由が有りません」
「な、なら良いんだけど── 」
逃げ出す理由がいずれは出来るかもしれないけど ”逃げ出します” って宣言してから逃亡することは無いと思う…
「で、ここへ来たのはその確認ですか?」
「あっ、そうだったわ。ティータイムに頂いたお菓子、セバスが ”カズマのお土産” って言っていたんだけど どこで購入したのか知りたくて」
「何か問題でも有りましたか?」
「問題というか… 以前王都に居た時には目にした事が無い珍しい物だったから 新しいお店が出来たのかな、と思って」
「 ”新作” という触れ込みで店の前で宣伝しながら売っていた物です。店の名前は確か ”フルール” だったかな?」
「聞いた事の無い店名ね。やっぱり新しいお店が出来たのかしら?」
「どうでしょう。 俺は王都は初めてだから。確かに店舗は新しそうだったけど… イートインも出来るみたいで賑わっていましたよ」
「カフェも併設されてたの?」
「はい。テラス席なんかも有った様な?」
「そうなのね─── じゃあ、明日案内して頂戴!」
「えっ、俺 明日まで休み貰ってて予定もありますし」
「予定って… 何するの?」
「王都の冒険者ギルドってどんな感じか一度覗いてみたいな、なんて思っていて」
「えっ、カズマは王都で冒険者をするつもりなの?」
「ウェストン伯爵家に雇われている間はこちらの仕事だけに集中しますけど 一応後学のために休みを利用して見学だけしておこうかなと思ってます」
「じゃあ私も付き合ってあげる」
「いやいや、お嬢様が行く様な場所では無いでしょ?」
「そんな事は無いわ。お兄様がウェストン支部長をやっているから 一応私も冒険者登録はしているのよ」
「登録してあってもギルドに行くような用件は無いんでしょ?」
「─── 暇だもの… カフェに行くついでよ」
「何でカフェに行く前提になってるんですか? 選定の儀を控えた貴族令嬢が従者とカフェに行く、っていうのは常識から考えて問題無いんですか?」
この世界のそういった世間体については全くわからない。
「そうねぇ… 丁度ここには学園に通っていた時使っていた変装用の道具が揃っているから それを使って下級貴族の姉弟設定って事にして出かければ問題無いわ」
「そんなんで良いんですか?」
「いいのよ。第二王子の婚約者なんかに選ばれる気はさらさら無いんだし… この件で何か問題になって候補から外されたら反って都合が良いわ」
第二王子様ってまだ面識は無いけれど─── というか俺は一生会う事は無いけれど 物語では女の子の憧れである ”王子様” って──── 現実では結構厳しい立場なんだな。
「でも変装用の小道具なんて何に使ってたんですか?」
「これでも一応伯爵令嬢なわけだけど ずっと辺境の地で育って就学の為に王都に出てきただけだから学園生活や付き合いが息苦しくって。
偶には気軽に街中を出歩きたかったのよ。友達は付き合いが楽な下級貴族の令嬢が多かったし… 」
そうなんだ。伯爵令嬢でお貴族様なのに意外と付き合いやすいのはそんな面が有るからだろうか? それともこの世界の貴族って案外身分差なんて気にしていないのか?
「何 にやついてんのよ⁈ いいでしょ? その方が私の性分に合ってたんだから」
「いや、初対面の時と違って本当のエリザベートさんは意外と気取った感じがないんだな、と思って」
「あの時は、、 そう! 気が立っていたのよ。それに領地から此処まであなたと接して来たら 最初見た時の印象と違って気安いというか行動を見ていると楽しいというか? 私も素で付き合えるから気楽だもの」
”最初見た時の印象” っていうのがどんなのだったか気になるけど 余程不愛想にでも見えたのだろうか? いや、挙動不審?
「そうだったんですね。エリザベートさんも最近は何かと とっつきやすくて俺には好印象ですよ」
「な、何で上から目線なのよ! カズマのくせに… 私は雇い主一家なんだからもっと敬いなさい!」
「はいはい。それで明日はどうすれば?」
「もう! 返事は一回のモノよ。 勿論、一緒にお出掛けよ。良いわね⁈」
「─── 仕方ないから付き合いますよ」
「それは雇い主の私のセリフよ、、」
「雇い主… ではないかな? まあこの際細かい事は気にしないでおいてあげます」
ほんとにエリザベートさんと話しているとムキになっている所や本気で怒っている訳では無いのが判って 姉ちゃんとやり取りしているみたいで何だか楽しい。
いや、どちらかと言うと妹みたいな感じだ。姉ちゃんには無い ”照れている感じ” が可愛い。
──── そうか、こういうのを ”ツンデレ” って言うのか・・・
「ほらまた! 何で上から目線なのよ⁈ まあ良いわ。じゃあ明日、楽しみにしておくわ」
そう言ってエリザベートさんは出て行ったけれど落ち着いて考えてみると俺はどんな格好でお供すれば良いんだ?
ギルドだけなら冒険者風でいいけれどカフェをちらっと見た限り皆それなりの・・・
あれ? そもそも男性客っていたっけ? 平日のそれも昼過ぎのティータイム頃なんて それこそお嬢様や奥様方しかいないんじゃないか?
うわ~ まるっきり日本での、事あるごとに姉ちゃんに付き合わされた長期休暇頃の再現だ、、
あっちじゃ同じ長期休暇中の男子学生がファミレスやファストフード店で屯していたけど 流石に男同士でカフェはないか・・・
「リリィ って、聞いてもリリィも現世の余所行きの服装なんて分からないよね?」
「それはエリザベートさんに聞くのが手っ取り早いでしょ。夕食の時にでも聞いてみたら?」
「そうだね。そうするよ」
まあ最近は話し易いし ”家族同様” とまで言われたから伯爵の前でも大丈夫だろう・・・




