56 ジルに報告
「その事なんだけど俺… 隣のウェストン領の冒険者ギルドで冒険者登録をした縁で長期間の運び屋の依頼を受ける事になったんだ。だから今度はもっと長い間此処には来れないと思う。イスト地方から離れる仕事だから依頼が完了するのにどの位の時間が掛るかまだ見当もつかないんだ。
その仕事が終わってから暫くは彼方此方移動しながら 運び屋やったり魚や小動物を獲ってギルドに売ったりして自分に合った生活スタイルってのを見つけようと思ってる」
全部が本当の事ってわけじゃ無いけど 話がややこしくなるし大筋で間違った事は言っていない。ただ、聖女選定の儀の結果次第で何者かに狙われる様な事にでもなったらこの国を出ざるお得ない事態になるかも知れないけれど───
「そうか… 兄ちゃんが傍に居なくなるのは残念だけど ちゃんとした生活が出来る様になるならそれに越したことは無いからな」
「ああ。安心して寝泊まりできる場所を確保する事が当面の目標なんだ」
「でも何時になるか分からなくてもまた会いに来てくれるんだろ? それと今日くらいはゆっくりしていけるだろ?」
「そうだな。遅くとも明日の早朝には発ちたいけど… それまでは大丈夫。何かしたいことあるのか?」
「お別れパーティー!」
「そうか。それは名案だな。よっしゃ! それなら今までに狩った獲物を提供するよ」
「魚か⁈」
暫く会えなくなりそうだし今回は大人も居て大人数になるだろうから平民の間ではご馳走扱いの肉も提供しようかな。
どのみちそのつもりで此処迄の道中、チャリで走りながら探査魔法で見つけた食用可能な小動物を雷魔法で一撃して収納して貰ってある。俺は何もしてないんだけど……
「今回は森の中を探索しながら移動して来たからピットラビットやグランボアの肉が有るぞ。誰か解体とか出来そうか?」
俺も市長の屋敷に滞在した時、ジャックさんに教えて貰ったから小物程度なら解体出来るけど 一人で何匹も処理するのは流石にしんどい。使える者は使わせて貰おう。
「本当か! それなら大人も参加して良いのか⁈」
「勿論!」
「じゃあ問題ない。先に血抜きとかした方が良いからあそこのおっちゃんに頼んでくるよ」
「僕が呼んでくる~」
ジルとの話しを近くでソワソワと聞き入っていた子供達が目を輝かせて嬉しそうに駆けていった。
程なくして畑の近くで話をしていた大人達が驚いた様子で子供達に手を引かれたやって来た。
「なんだ? こいつらが ”カズマの持ってる獲物の血抜きしてくれ” って言って来たけど獲物って何なんだ?」
「えっと、ピットラビットとグランボアだったかな… 」
「そんな貴重な物、どうやって手に入れたんだ? それも二頭もあるのか⁈ 」
ちょっと大き目な獲物はグランボア─── 平民の間では名前と美味しい事で有名だと周知されていても 農民が罠を仕掛けたところで滅多に獲れない獲物らしい。獲れたとしても高値で売れるので当然口には入らない。
他に此処で提供しても不自然で無いのは家畜にもしているブッシュダッグや比較的よく獲れるらしいピットラビット。
二頭だけって事は無いんだけど色々提供しすぎて余計な不信感を抱かれるのは得策では無いな。
何時もの食事よりちょっと豪華… って位の方が現実的で良いのかもしれない。
「領地間を移動している間に出くわしたのを俺の持ってる試作品の武器で狩ったんですよ」
「試作品の武器?」
チャリもこの世界には無い物だから以前番兵にそう言って誤魔化した。釣り竿も子供たちの前で使っているからそう説明しておくのが無難だろう。
「ええ。俺の叔父が色々な道具を作ってるんですけど まだ売り物に出来ない試作段階の物を俺が使って改良点なんかをアドバイスしてるんです」
「そうか。子供たちが ”カズマは見た事の無い乗り物や魚取りの道具を使っている” って言っていたのはそういう事だったのか」
「はい。まだ誰も持っていない叔父の試作品です」
「それにしても小物とはいえ魔獣を倒せるんだな」
「これでも一応は冒険者ですから狩りが出来ないと仕事になりません」
「そうかカズマは冒険者だったのか」
「最近登録したばかりの駆け出し冒険者です。それで隣領で長期の依頼で雇って貰えて当分ここには来れなくなるから 世話になったお礼に食材を提供して子供達との食事会をしようと思って… もちろん皆さんも一緒に」
「そうか! 大人も一緒で良いのか? 肉がそれだけあれば村を挙げての大宴会だな。芋やカボチャも売るほどある」
話が纏まったのでチャリと一緒に村の広場に移動して急遽野外炊飯・・・と言ってもコメは無いんだけど… いや、待てよ… 俺の村から持って来たと言って提供すればトマトリゾットっぽい物が出来るな。
米はこの世界ではまだお目に掛った事無いけれどここで良く主食にされているらしい麦っぽい物で代用は可能だろうし取り合えずトマトリゾットは作ってみようかな。
そうこう考えながら今回は大人も巻き込んでのパーティー擬きの準備、カボチャや芋を煮込んだり、捌いた肉を焼いたりトマトやそのほかの野菜と煮込んだりしての村人を巻き込んで賑やかな調理が始まった。
不思議な食材の提供者 ”カズマ” が此処に居ると知った大人たちが俺を見つけて話しかけに来る。
「この赤い実はトマト… だったか? カボチャや芋は硬いし日保するから扱いやすいんだが これは甘みもあって美味しい代わりに潰れやすくて日保もしないよだが何か日保させるいい方法は無いのか?」
「それなら乾燥トマトにするっていうのはどうです? 乾燥させたものをそのまま食べても良いし 煮込みやスープに入れると味が格段に良くなりますよ」
「乾燥か… 試してみる価値はありそうだな」
「半分に切って切り口に塩をまぶして水分が抜けやすくするらしいです。自分ではやった事が無いので聞いただけですけど」
「まあ、たくさん採れて持て余す位だから色々と試してみるさ」
「でも何時まで生り続けるか俺にも分らないから余り当てにしない方が良いですよ」
「ああ。前も珍しい作物当てにして痛い目にあったから今度も当てにし過ぎない様に気を付けるよ」
「盗みに来る奴もいるからそれも気を付けないといけないしな」
野菜なんてそんなに高い物じゃないしそれなりの値段で美味しいものが食べられるんだから 妬みで根こそぎ駄目にしてやろうなんて馬鹿な考えをする奴はいない… と思いたい。
何時もと違う食材や料理の方法などを話題に賑やかな食事会を終えると ジルが今日は村長宅に泊まってくれと誘って来た。ジルの父親とは広場に来て一番に挨拶を交わし丁寧に感謝の気持ちを伝えられた。
俺が出会った此処の村人はみんな良い人達ばかりだ。何か餞別になりそうなものは無いかな? と考えて 以前食べた時に捨て忘れた事にして小玉スイカの種を渡そうかとも思ったけれど、この世界の人が蒔いてもちゃんと芽が出るだろうか? と疑問に思った。
相談したジルの提案で民家近くの空き地に案内して貰い自分で蒔く事にした。他の作物と同じなら明日の朝、俺が旅立つ頃には芽が出ているだろう。
「花が咲いて縞模様の緑の実がジルの頭位になったら食べ頃だけど 此処は成長が早いから熟れ過ぎちゃうかも。生で食べる果物なんだ。川で丸のまま冷やしておくと疲れた時とかに喉を潤すのに丁度良い。切り分けて中の色付いた軟らかい所を食べるんだけど 色とか味は… ”食べる時のお楽しみ” っていう事で内緒!」
黄色と赤の二種類の種を蒔いておいた。まあ、ほんのちょっと青臭いけど癖が無くて甘いから割と好まれる果物だ。
種を蒔き終えスイカの説明をしながら村長宅に行くと客間に通され今晩はジルと並んで寝る事になった。
食事会の場では何かとジルに煩く絡んでいた一つ違いの姉さんは早々に自分の部屋へと引き上げていった。
布団に入ってジルとこれからの話をする。この世界に来て他人と布団を並べて寝るのは初めてだ。
「また時間が取れたら来るけど、隣領で冒険者で食べていけそうだから頻繁には来れないな」
「寂しい気もするけど兄ちゃんにちゃんとした仕事が見つかって安心したよ。洞窟でずっと暮らしていく訳にはいかないだろうかな」
「心配してくれてありがとうな」
色々な気疲れが有った所為か他愛のない話もそこそこにいつの間にか寝入っていった。




