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54 ジルに会いに行ってみる


王都迄の旅… と言っても依頼された仕事の一環だったので 移動中は当然の事ながら休日は無かった。初めて訪れた異世界の王都をゆっくり散策してみたい… そう思って休暇を貰う事にした。

尤も旅の道中もチャリを漕ぐ事以外は初めての経験ばかりで それなりに楽しんではいたのだけれど、それは強い味方が傍にいていてくれるからこそ叶う事だ。魔物や盗賊の存在する異世界を一人で旅する勇気なんて持ち合わせていない。


部屋に戻って三日間の休みに何をしようかな、とベッドでゴロゴロしながら考えた────

勿論王都の散策は外せないけれど この世界で最初に出会って色々な事を教えて貰ったジル達に会いに行きたい気持ちも強い。

”チャリに何時もの魔法で飛ばして貰えば一日で往復可能” というリリィの見立てを貰い 不測の事態も考慮して初日に行けば休み中には戻って来れるだろうと 明日の朝出発する事を決めた。

暫くは王都に滞在する事になりそうなので近場の散策は後回しで良いだろう。


翌朝 ダイニングで昨日と同じように伯爵一家と一緒に朝食を摂る。年の近いロベルトさんと違って威厳ある伯爵夫妻を前にしての食事は一、二回位で慣れるものでは無かった… 

食後も緊張しながら明日の夕方までの予定で出かける事を伝えたのだけど 旅の途中で溢していた言葉とは裏腹にエリザベートさんが黙っていなかった。


「和真だけ王都の街歩きを楽しむつもりでしょ。ずるいわ!」

「お嬢様は以前、王都の学園に在学されていたと伺いました。その頃ご学友と彼方此方散策されたのでしょ?」

「和真は王都は初めてなんでしょ? 私が案内してあげてもよくてよ。それに以前とは流行りの店とか変わった所も有るでしょうし… 」

「2年くらいじゃ大して変わっていないと思いますよ。それに俺は郊外の知り合いの所に挨拶に行くだけですから… 」


いつの間にか伯爵夫妻の前である事も忘れて何時もの様なやり取りの末、食い下がるエリザベートさんを何とか説得してダイニングを出た。

帰ってきた時の機嫌が心配だけど仕方ない。俺だって屋敷で何日もじっとしている様な事は御免こうむりたい。


そう思いながら屋敷を後にしたけれど 一人で街中をチャリで走るのは思ったより勇気が要った… 

馬車に並走していた時よりもあからさまに道行く人々の視線が刺さる。

不審に思われて衛兵に止められると面倒なので人目の無い裏路地で隠蔽魔法を発動して貰い 周りに気を付けながらゆっくりと進んで王都郊外に出た。


街道をチャリに高速移動して貰っている道中、この世界に来てからの事が色々と頭に浮かんで来る。

ロベルトさんやエリザベートさんとの付き合いは短いけれど良い人達だと思う。他の貴族っていうのがどんなモノなのかは解らない。


尤も王都迄の道中で遭遇した男爵の手の者を見る限り、陸でも無い貴族も存在する事は明らかだ。それでもせっかく出会ったウェイン伯爵家との縁はこれからも大事にしたい・・・

精霊と人間では考え方が違うのかもしれないけど参考までにと思いこの世界のリリィの意見も聞いてみる。


「そうね… 和真がこの先、この世界の人間社会で生きていく上で 私達精霊の力だけではどうしようもない出来事も起こり得ると思う。だから頼れる人達との関係は大切にしないとね。

和真も私達も今の時代の人間社会の事に関しては ”全く” と言って良いほど無知だもの…

私達精霊の数百年も前の人間社会の常識なんて 何の役にも立たないんじゃないかな?」


俺一人、田舎で野菜作って魚釣ってのんびり暮らすだけなら 衣食に関してはチャリが居てくれるから人との関わりが無くても何とかなるんだろう…

しかしせっかく異世界に来たんだからこの世界の事を色々知って楽しみたいと思うし 

何より一箇所にじっとして居たのでは 元の世界に帰る方法を見つける事が出来無いだろう。


色々な思いを巡らせながらチャリに高速移動して貰って 昼前には以前、と言ってもごく最近まで寝泊まりしていた洞窟の近くまでやって来たのだが・・・ 

何か様子がおかしい。


念の為、チャリには少し離れた木立の陰で待機して貰う事にして 一人で洞窟の方に歩いて行った。

洞窟近くで立ち話をしている何人かの大人の側に見知った子供達を見つけたが、先に俺に気付いた30前後の男の人が 睨みつける様なちょっと怖い顔をしてこちらに近づいて来た────



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