53 ウェストン伯爵
「先ほどはあのような事を言っていたが ロベルトからの書簡に依ると君は王都はおろか魔物の森に一人で放り込まれても無事に生還できるほどの力を秘めている、という事だが… 事実かね?」
案内された部屋でリリィにスマホの新しい機能についての説明を受けてから暫し後に 十分に休息もとれたであろう、と夕食前の一時をウェストン伯爵の執務室に呼び出されての問い掛けだ。人払いされた(人間は二人だけの)面談の場で 挨拶もそこそこにズバッ! と切り込まれた… と言っても物理的にでは無いのだけれど…
「えっと、、 ロベルトさんからの手紙には僕について他にどの様な事が書かれていたのですか?」
「君が ”異世界の人” である事は恐らく間違いないだろう。しかしそうであった場合、色々と辻褄の合わない事が多すぎる。おそらく君の持っている道具にその秘密が隠されているのであろうが これから先、互いにとって利の有る協力関係を築いていけるのであれば その秘密がどの様なものであっても大した問題ではない、信頼という絆で結ばれる事が尤も重要な事だ、とも書いてあった」
「では、今はその言葉をそのまま受け取らせて頂いて 僕の秘密についての詮索は当面ご遠慮頂ける、という事でよろしいのでしょうか」
「勿論君が ”ウェイン伯爵家を決して害する事が無い” と約束してくれる事を前提として、ではあるが今はそれで構わない」
「その点は信用して頂くしかありません。僕にはロベルトさんの他に頼れる貴族の知り合いは居ません。無論、他に信用出来る実力者も居ません。この国で生きていく上でウェストン伯爵家との繋がりを最優先で大切にしていきたいと考えています。だから貴方方の信頼を得る努力は惜しまないつもりですが 僕の持つ秘密を明かす事については僕の一存では決めることが出来ませんので暫くは保留という事でお願いします」
「──── そうだな。君の一存では、というのは気になるところだが 今言った通り余計な詮索は止めておこう。選定の儀迄にはまだ日にちも有る事だからそれまでにこの屋敷に滞在してお互いの関係についてじっくりと考えて欲しい。その上で何か必要な事が有れば遠慮なく申し出てくれ」
「それではお言葉に甘えて、早速なんですけど2,3日休暇を頂けますか?」
「ああ、気が回らず申し訳なかった。ここまでの道中ご苦労だったな。三日間の休暇を許すから自由過ごしてくれたまえ」
「ありがとうございます。では明日から二日間ほど外出させて頂きます」
「王都は初めて、という事らしいが 君なら一人で行動する事に余計な心配は無用なのだろうな… 」
「はい。恐らく問題無いです。それでは失礼いたします」
「もう夕食の時間だな。このままダイニングに案内させよう」
今の俺のこの屋敷での立ち位置は実際のところどうなんだろう…… 与えられた部屋は賓客用なのは間違いない。
食事も使用人達と摂るのではなく エリザベートさんのみならず伯爵ご夫妻もご一緒される… 何を食べても味が分からない、というか正直言って畏まり過ぎていて 生きた心地がしない……
「和真君、気楽にやってくれたまえ。君は家族も同然だからね」
いやいやいや ”家族も同然” じゃないでしょ⁈ この信頼はどこから来るんだ?
「いいえ、僕はお嬢様の付き人にすぎません」
「その ”お嬢様” という呼び方も他の者たちの前だけで構わないよ」
「いいえ、普段からちゃんとしておかないといざという時人前でボロがでそうです」
「それは良いとして、 ”僕” って言い方が気持ち悪いわ。いつも ”俺” って言ってるじゃない」
エリザベートさんが痛い所を突いて来た。まさか今日会ったばかりの伯爵相手に
”俺” って言える程心臓は強くない。
「それも練習しておかないと人前でボロが出そうです… 」
「それなら人前では ”私” っていうべきね。いくら成人前の子供でも神殿の行事で
”僕” なんていう人はいないわよ」
「神殿や貴族の前で話をしようとは思いません」
その後も賑やかに? やり取りしながら伯爵一家と夕食の席を一緒に過ごし 王都での一日目を無事? に乗り越えた。




