52 ケータイに携帯魔法
案内されるまま後をついて行くとセバスさんが回廊の先にある立派な扉の前で立ち止まりドアをノックして声を掛ける。
「お嬢様が到着されました」
「そうか。入ってくれ」
中から屋敷の主らしい男性の返事を貰い セバスさんが扉を開けると同時に エリザベートさんが待ちきれない、と言った様子で部屋に飛び込んだ。
セバスさんが俺に入室する様に、と目で合図したので入り口まで進んで立ち止まり一礼してから部屋の中を見回した。
先に飛び込んだエリザベートさんが ソファーから立ち上がった壮年の男性に飛び付くのが目に入った。
「お父様、お久しぶりです」
「こら、リズ、淑女は人に飛びついたりしてはいけないよ」
そう言いながらも紳士は嬉しそうにニコニコとしている。その横で綺麗なご婦人が呆れた顔で窘める
「二人とも後になさい。お客様の前ですよ」
その言葉に えっ、俺以外にも人がいるのか? と後ろを振り返ったがセバスさんが居るだけで それらしき人物は見当たらない。
部屋の中にもウェストン伯爵親子らしい三人の他はメイドさんが一人居るだけだ。
「お母様、和真はお客様では無くて私の付き人よ」
なんだ、俺の事だったのか… と、そこで我に返り 今がチャンスだと慌てて自己紹介をする。
「初めてお目に掛ります。この度ロベルト様に雇われ、エリザベートお嬢様に同行させて頂きました カズマ と申します」
「ああ。私はウェストン伯爵家当主のハワード、こちらが妻のイザベラだ。道中の出来事については後にザック副官から聞くとして ロベルトからの手紙に名前が挙がっていた君について 幾つか確認しておきたい事が有るのだが… 」
「お父様、それは今すぐに必要な事ですの? 和真、貴方ここまで来たからには逃げ出したりはしないでしょ?」
「逃げるだなんて… 王都に初めて来て 右も左も分からないのに一人になるなんて考えられません。そもそも逃げ出す理由に心当たりが無いです… 」
多分、この世界の何処に行っても リリィたちが傍に居てくれる限り何とでもなっちゃうんだろうけどね。切羽詰まるまでは逃げ出す気も無いし……
「なんだ? 二人でいつもそんなやり取りをしているのか? まあいい。一応顔を見せて貰ったし 色々と話を聞きたい事も有るが お互い落ち着いてからの方が良さそうだ。また後で時間を取って貰うとして… セバス、彼を部屋に案内してくれ。
和真、長旅で疲れているだろうから夕方までは部屋でゆっくりしてくれたまえ」
という言葉を頂いたのでその場を辞して再びセバスさんに付いて移動する。領地の屋敷で与えられた部屋は立派過ぎて反って落ち着かなかったけれど流石に現伯爵の元では使用人扱いだろう… と、思っていたのだけど
案内された扉の前に立って暫し固まった。扉が立派過ぎる・・・
「こちらのお部屋をお使いください」
──── ここの人達、おかしくないか?
俺ってただの運び屋兼付き人のはず。運び屋ってこんなに優遇されるのか?
それとも 元居た世界の映画に出てくるような運び屋の仕事をさせられるのか?
ちょっと不安になって来た・・・
「私が申しますのは憚れますが、旦那様方はお嬢様の件に関して和真様に大きな期待を寄せていらっしゃるのです」
黙り込んだ俺の様子を見て続けたセバスさんの言葉に頭を抱えた。
はあー⁈ 大きな期待って? ロベルトさんから聖女選定の儀の事に関して 俺が何か手助けするって連絡が来てるのか?
ロベルトさんには ”引っ掻き回すだけなら” みたいな事を言ったけど 伯爵にまで連絡されているなら そんないい加減な事では済まされないような気がしてきた・・・
中に入って室内を見回す。領地で宛がわれた部屋より ちょっと狭いだけでやはり俺には見合わない上質な造りだ。
「リリィ、なんか好待遇過ぎてかなり不安になって来たんだけど・・・」
「そんなの考えても成るようにしか成らないって。私達が付いてるんだから大船に乗ったつもりでこの世界の事、もっと楽しんじゃいなさい」
精霊ってこういう楽天的な考え方が出来るところが長生きの秘訣になっているんじゃないか? そんな事を思いながらベッドにダイブしてそのまま意識を手放した。
どれ位経っただろう? 目を覚ますとリリィが話しかけてきた。
「じゃじゃーん! 和真にビッグニュースです~」
「何⁈ また ”新しい精霊を呼び寄せた” とかじゃないよね?」
「なあに、その迷惑そうな言い方!」
「別に俺自身は全然迷惑じゃないけど この世界の貴重な精霊の力を独り占めしている罪悪感に苛まれる… みたいな?」
「新しい精霊を呼んだ訳じゃないからそこは安心して。実はね、この前ロディをエリザベートさんに貸し出した時に 私も結界を張ることが出来れば和真を守る事が出来るのに… って思ったんだけど私自身は攻撃系や防御系の魔法を使え無いでしょ?
それで色々試行錯誤した結果、ロディが使える様々な魔法の陣をスマホのメモリーに記憶させて貰う事によって 私の魔力で発動させる事が可能だ、って分かったのよね。
でもメモリーに記憶させた魔法陣は一度使うと消えちゃうから 言わば使い捨て… 発動は一つの魔法陣で一回のみ、結界魔法は持続性が保てないからほぼ一瞬だけの防御、雷魔法の発動には特別なエネルギーが必要なんだけど これはスマホのバッテリーの電気を魔法で強化して代用できるわ。
”魔法陣一つで一回のみの発動” っていう欠点も バックアップ機能からメモリーに復元できるから一度スマホに記憶した魔法は私の魔力が続く限り繰り返し発動できるわ」
「なに⁈ それって凄い事じゃん。ロディの魔法だけじゃなくてチャリの魔法もリリィが発動出来るって事だろ?」
「そうよ。元々スマホはチャリが発電した電気を供給源にしてるんだけど、私の魔力には限界が有るから そこはあくまでも ”簡易的に使える魔法” って事でなるべく非常事態の時の為に温存しておいた方が無難でしょうね。何事も無ければチャリもロディも和真と一緒に居るんだし」
「うん。そうだよね。だけど皆を頼り切っている俺にとっては リリィが ”簡易的でも他の魔法も使える” っていう事はとても心強いよ」
「ふふっ、私達も和真が居てくれるから楽しい事を色々経験させて貰っているわ。だからお互い様よ。それに和真は色々な場面で色々な人の役に立っていると思うわよ」




