47 ノーゼン領にて
その後は何事も無く本日の宿泊予定であるノーゼン侯爵邸に到着した。
「これはウェストン伯爵令嬢、ようこそお越しくださいました。長旅でさぞお疲れでしょう。晩餐の後はどうぞごゆるりとお寛ぎください」
出迎えてくれたのは壮年の現領主様。王命で召集される道中という事もあってか上位貴族である侯爵邸では伯爵令嬢一人を迎えるのには見合わない程の歓待を受けた。
一応歓迎されている様に見えるが、何者かの手引きによって魔物に襲われた疑いが有る以上侯爵邸内でも安心出来ないのかもしれない。
それにしても今になって考えてみると魔物との戦闘慣れした辺境伯の騎士三人相手に 下級の魔物数頭を襲い掛からせた策略はお粗末だったとしか言いようがない。
それとも脅し程度にと考えての行動だったのだろうか?だとしたら何のために脅しをかけたのか目的を知らしめる為にこれから何らかの方法で接触して来る、という事も考えられる。
「リリィ、何者かに狙われている可能性が有るから常に警戒はしておいた方が良いと思うんだけど 近くで見守ることが出来ない夜の間だけでもロディにエリザベートさんに付いていて貰った方が良いかな」
「そうね。寝室では侍女が警戒する以外方法が無いから 何かあった時にロディが付いていればすぐに対応できるわ。
今回の旅程ではオマケみたいな和真が危険に合う確率より主役のエリザベートさんが危険な目に合う確立の方が断然高いし。それに何より和真には私が付いてるしね」
「そこは本当に頼りにしてるよ。でもオマケって……
それよりエリザベートさんがブレスレット型のロディを気に入って返してくれない なんて事にならないかな?」
「預ける時にちゃんと納得してもらえる理由を付けておいた方が良いわね」
「母の形見? とか……」
「お母さん、勝手に殺しちゃったら後々不味いでしょ?」
「ははは…… チャリに怒られそうーーー 恩人からの借り物って事にでもしときますか」
「その位が妥当な線ね」
という事で俺はトリートメントを届けるという体を装いお嬢様の部屋を訪ねた。
「お嬢様、領主邸に滞在している間は心配はないでしょうけれど、此処はまだ魔物のいた森からあまり離れていませんから念の為にこの腕輪をお貸しします」
「えっと、 これは何かの役に立つのかしら?」
「これは俺の恩人から預かっている魔道具なんですけど…… 身に着けているだけで簡単な結界を張っておく事が出来るらしいです。気休め程度に思って一応身に着けておいて下さい」
「そうなの? でもこれを借りちゃったら和真は大丈夫なの?」
「やだなあ、俺を襲う様なもの好きな魔物なんて居ませんよ。
それとこれは部屋を訪れる為の建前で持って来たんですけど 良かったら使ってください。洗髪の後、適量を髪になじませて少しおいてから軽く流して下さい」
「まあ、ありがとう。和真のくれた洗髪剤だけでも全然違うのに…… 使うのが楽しみだわ」
洗髪後またエリザベートさんが部屋のドアを開け放って訪れるかな? と多少の期待をしたけれど昼間の出来事で精神的に疲れたのかその夜は何事も無く、馬車で移動中の昼間はブレスレットを一旦返して貰う事にして侯爵邸を後にした。
その二日後、ノーゼン侯爵領をもうすぐ抜けるという領境の荒野、木立の中を馬車に並走しているとリリィの警報が響いた。スマホの画面を見ながらリリィと念話を交わす。
『どういう事? この辺は魔物は居ないんじゃないの?』
『魔物じゃなくて敵意が感じられる人間が数人待ち構えているわね』
『魔物をけしかけた奴らかな?』
『多分ね。魔物の襲撃が失敗したから直接接触せざるおえなくなったんじゃない?』
『こちらに危害を加えるのが目的なのかな?』
『それは本人たちに聞いてみないと何とも言えないわ。とりあえず生け捕りする事を前提にして対処しないと取り逃がしでもしたらまた何か仕掛けて来るでしょうね』
『目的を教えてくれると良いけどね。それに俺、対人戦なんて経験ないし生け捕りじゃないと寝覚めが悪くなりそう……』
『和真はそれでいいんじゃない? あとは騎士達に任せれば良いんだし。あくまで和真への依頼はエリザベートさんの付き人であって体を張っての護衛の仕事は頼まれていないでしょ?』
『何かあったら逃げて良いって言われてるからね』
『それは…… 貴方の性格を見透かしての事でしょうね』
『俺って全然頼りにならないと思うんだけど…… あっちの世界じゃ自分の事で手一杯で姉ちゃんに任せっきりって事が多かったし』
『そう? 私が見てきた和真は面倒見がよくって他人の事でも放っておけない! って感じよ』
まあ自分自身が思っている性格なんて他人が見て感じるのとは違うんだろう。
スマホに映る人影は六人。職種や強さ、武器は何を使うのかとかは判らない。しかし人数的には不利だ。
昨日の様にザックさんに報告をする。
「六人か…… 待ち構えているあたり戦闘職には違いないだろう。剣士か魔法使い… どちらにしても人数的に厳しいかもしれないな。和真は昨日の様に結界でお嬢様と馬車の守りを頼めるか?」
「それは問題無いですが…… 人数的に厳しいなら俺も何か手助けできると良いんですけど」
「相手が剣士だけなら目の前の敵に集中できるが魔法使いが居るとなると遠距離攻撃にも注意が必要になる…… かといってそれを和真に対処して貰う手立ても無いからな……」
遠距離攻撃か・・・
『ねえリリィ、ロディのロッドで攻撃するのに糸とルアーの強化で敵にダメージって与えられる?』
『バッチリ可能だって。ルアーの一撃でも当たり所によっては失神はおろか即死効果も可能だって』
『失神させられるってのは願ったり叶ったりだけど 今回は即死効果は遠慮しとくよ』
『 ーーー そのように加減するって』
『オッケー、それでお願い』
そこまでやり取りしてザックさんに今回は俺も戦闘に加わる事を伝える。
「あの、アイテムボックスに持ってる道具で遠距離攻撃が可能なので俺はそれで参戦してみます」
「本当か! それは助かる。和真の戦い次第では六人相手でも何とかなりそうだ」




