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42 市長の屋敷


朝食後間もない屋敷内の使用人たちは忙しそうに働いている。

廊下や玄関ホールを掃除のメイドさんたちがせわしなく行き交うのを避けながら進んで、ある部屋の前に差し掛かったところで扉が開いた。


中から執事さんがアタッシュケースの様なものを持って出て来た。

どうやら市長の執務室の様で中から漏れてくる話が気になって中を覗き見ようとしたがその前に扉が閉められた。そっと部屋に近づいて壁に耳を近づける。

ロディが強化魔法を発動してくれたので部屋の中の会話が聞こえて来た。


「しかしご領主様も大変だな」

「大変なのは王都に居るご領主様より現場を取り仕切っているロベルト様だろ」


「確かに。魔物の相手はしなければならない、中央から出て来る事も無く現場を知らない為政者達の難題の対処はしなければならない・・・その他にも問題は多い。魔の森に隣接する三領主様方は只でさえ防衛のための費用が嵩むって言うのに王家から派遣される騎士たちの費用まで折半させられているんだろ?何のために高い国税を収めているのか分からない」


「その上今回行われる ”聖女選定の儀” も問題だ。王家に更なる協力を強いる為の手段としてあんな馬鹿王子を押し付けて縛り付けようとするなんて普段お優しいお嬢様の気持ちが荒むのも当然だ」

「ああ。同情以外に何もして差し上げる事が出来ないのが情けないよ」


そんな話が交わされている部屋を後にして貴族って言うだけで大人子供関係なく色々と柵があって大変だなと複雑な心境で廊下を歩く。

昨日のシャンプー一つで素直に喜んでいたエリザベートさんが本来の姿なのかもしれない。今は近い将来の自分の立場に不安しか無くて苛立ってるから八つ当たり的な態度取ってしまうのだろう。


いつの間にか厨房の近くまで来ていた様で何かの料理の匂いが漂って来た事で我に返った。近くの開いたままの扉の中を覗き込む。やはり調理場の様だ。

調理人が台の上に並べた食材を見ながら会話している。


「昼から明朝までの料理を7人分追加と言われたが、野菜は有り合わせで何とか凌げるとしてもメインの肉や魚は今日仕入れに行けなければ到底無理なんじゃないか?」

「夕食用の食材を昼に回すと夕食の分が全く足ら無くなってしまうしな」


「本当にパンとスープだけで良いのか」

「使用人用の食材って言っても賄い用じゃあ碌な物作れないだろ?」


ああそうか。本当に食材が無いんだ。そりゃ冷蔵庫なんて無い世界だし魔法で保冷って言ってもそこそこの貴族ならともかく ありふれた街の市長では日常的にそこまでする事は無理なのだろう。


俺は隠密魔法を解いて貰ってチャリの元へと向かった。急遽一日滞在が伸びた一行に何とかしてまともな食事を用意しようと考えてくれているんだ。ここは持ち合わせではあるが食材を提供しておこう。


チャリに頼んで先日魔の森で手に入れた中で一番小さい魔物を出して貰った。

それでも大きなヤギ程ある・・・とても一人では持つことも出来ない。

どうやって運べばいいんだ?


丁度その時、昨夕馬を引いて行った下男が通りかかったので呼び止めて魔物を見せて相談する。

「これを食材として提供したいんだけど何か乗せて運ぶ物ってある?」

下男は近くに来ると目をまん丸くして黙り込んだ。

「あっ、出来れば他にも野菜と魚が有るからそれも一緒に運びたいんだけど」


「・・・少々お待ちください」

そう言って我に返った下男は屋敷に入っていった。

その間にチャリに頼んでカボチャやサツマイモ、それと俺が釣った魚を出して貰った。サツマイモを見て簡単おやつを思いつく。「バターと砂糖と卵もお願い」


暫くすると台車を押した下男と料理人らしき男の人がやって来た。

「これは…ヘイゼルベアじゃないか!まだ成体ではないが

かなり手ごわい魔物だろ」

「以前偶然手に入れてアイテムボックスに入れてたんですけど

これって解体とかも出来ますか?」


「ああ。それは任せてくれて構わないが・・・一応これでも元ギルド職員でね。現役を退いてからここで調理要員の一人として雇って貰っているジャックだ」


「俺はエリザベートお嬢様お付きの和真です。助かります。よろしくお願いします。あと俺もちょっと作りたい物があるんで調理場を少し借りていいですか」

「まだ昼には早いから今の内なら大丈夫だ。それにこの見た事もない物の調理方法も聞きたいしな。一緒に付いて来てくれ」


下男と床に出しておいた食材を台車に乗せながらそう言って前を歩き出したジャックさんに付いて行った。



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