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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『下』

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第267話 アセンチデータ

 レイがスラムにある廃ビルの中で硝煙立ち上るアセンチデータに弾丸を込めていた。一挺目の交換を済ませると壊れたテーブルの上に置いてあった二挺目に弾丸を込める。

 それが終われば三挺目。


 レイはアセンチデータを三挺持っている。一挺は先ほど武器屋で買った新品のもの、他の二挺は強化服を着た敵対生物と戦闘があった際に必要になると思って用意しておいた二挺だ。だがアセンチデータの性能を考えれば対強化服用の装備は別にあった。

 もっと効率よく、さらに連射速度があり、値段も同程度。同じような武器があったがレイはアセンチデータを選んだ。これはただ単に趣味だ。それと持ち回しがしやすいから。

 市内での戦闘となると長物を取りまわすのも面倒で、持ち込めない時もある。室内の戦闘であるならば邪魔になる可能性すらある。その中でもアセンチデータは対強化装甲用装備の中で唯一の拳銃型であり、値段もレイが十分に買えるものだった。

 故にレイはアセンチデータを選択した。だが一挺だけでは複数の敵に対処しきることはできないから二挺を取り揃えた。結局のところ、今回の戦闘に際して三挺目を買うことになってしまったが、結果的には良い判断だった。

 鋼海重工の企業傭兵は装備こそ他の大企業の企業傭兵と比べると弱いが、良く訓練された人員が揃っている。アセンチデータのことに関してももう気がつかれているだろう。

 

「……あと七人」


 アセンチデータの弾丸を入れ替え、準備を整える。そしてレイが両手にアセンチデータを持ち、懐にもう一艇をしまった時に廃ビルの壁が突如として破壊され散弾銃を持った企業傭兵が現れる。

 強化服の頭部装甲内のパネルに情報処理端末から送られてきた情報が同期され映し出されている。情報端末といえど人のいるスラムではレイを捕捉するのに時間がかかったが、今はすでに捕捉できている。その生体情報を認識し、人の波からレイだけを見つけ出す。 

 もうここまで来たら人の波に紛れて逃げることもできない。

 元々そのつもりではあったが、残り七人。レイは逃げる選択を取ることはできず、絶対に敵を殺さなければならなくなった。廃ビルの工場が破壊された時、二階にいたレイは三階の屋上部分から下って来る敵の気配と下の階層から来る敵の姿。そして二階の窓から現れた三人の姿を確認していた。

 数としては二階に三人、下の階に二人、上の階に二人だろう。レイの持つアセンチデータは一挺につき一発ずつしか撃ち出すことができない。単純な数で攻められれば危なかった。

 だが三人ならばちょうど対処することができる。敵が二階へとやってきて挟み撃ちをされる前にアセンチデータで三人を仕留め、弾丸を交換する。だがレイが敵に向かって走り出したのと同時に空気が漏れるような音が響き、視界を灰色の空気が埋めつくしていく。


(煙幕……)


 廃ビルの機械が故障したわけではないだろう。だとすると敵が撒いた煙幕、それか致死性のガス。見て、感じても致死性のガスのようには感じられない。さすがにスラムであっても毒ガス兵器を使用してはいけないことぐらい、当然の倫理観を敵を持っている。

 だとすると煙幕、それか非致死性の麻酔効果を持ったもののどちらか。レイは息を止め、敵に向かって一気に距離を詰めた。これ以上追いかけっこを続けるのも面倒だ。とりあえずは同じ階層にいる三人を殺してからビルを退去する。

 

 レイが敵に近づき、アセンチデータを構える。たとえ煙幕の中であってもレイの目は正確に敵の姿を捉えている。一方の相手も暗視機能のついた頭部装甲をつけているためレイの姿が見えていた。

 両者が同時に発砲する。アセンチデータの弾丸は正確に敵の一人を捉え命中する。しかし先ほどまでとは異なって、弾丸は貫通することはせず敵を殺しきることもできなかった。


 弾丸は敵に当たる直前に傭兵が持っていた透明なシールドによって威力が減衰し、電磁装甲に出力のほとんどを回した強化服の防御性能のおかげで弾丸を防ぎ切った。そして一方の相手はレイに向けて散弾銃を撃ちこむ。

 レイは個室の中へと逃げ込んで壁を盾にして生き延びるが、同時に違和感を覚えた。


(あいつら……)


 レイを狙っていた。しかしレイを殺しきれないと分かった瞬間にアセンチデータの破壊へと切り替えた。


(時間稼ぎでもするつもりか)


 敵がシールドを持ち、強化服の出力、エネルギーのほぼすべてを電磁装甲に当てていた。アセンチデータに一発で殺されないようにするための対策だと考えれば分かる気もするが、少し過剰だ。

 それではレイを殺しきることができない。

 今頃命惜しくなったわけでもないだろう。だとしたら狙いがある。

 時間稼ぎ。

 思い返してみれば敵がレイのいる二階層に三人だけ送り込むというのもおかしな話だ。

 レイが逃げられないよう上にも下にも仲間を配置するというのは理解できる。だがそれだったら敵三人を二階に送り込むのではなく、残っていた七人全員を二階に集合させ、レイを逃げられないようにしてもよかったはずだ。


 だとしたら。レイのいる二階層に敵を三人だけ送り込んだのはちょうどレイがアセンチデータを三挺持っていて、ちょうど敵を殺しきれると油断、判断させるため。人数の差、そしてアセンチデータの特性を考えればレイが各個撃破へと動くのは想像に難くない。

 だから企業傭兵側はレイがそうしやすいように誘導した。防御機能を向上させ、アセンチデータ一発では殺しきれなくなった敵を攻撃させる。そして少しでもアセンチデータを再使用不可能な状態にしてから残った仲間と突入させる。

 そしてこの煙幕が神経系に作用する非致死性のガスであったのならば敵が持ちこたえれば持ちこたえるだけ有利になる。

 すべてはレイが逃げないために設計された作戦。敵が三人だと、ちょうど殺しきれると判断してしまったレイの落ち度だ。


(――来る)


 そしてこの予測があっているのならば、上層と下層から来ていた仲間が追い詰めたレイに合流するはずだ。

 予測の通り、隣の部屋へと逃げ込んだレイを持ってシールドを持った敵が壁をけ破って現れる。それと同時に下層から来た仲間が背後から現れる。三階にいた仲間は床を破壊してレイの頭上から落ちて来る。


 四方八方を囲まれた。

 レイは瞬時に優先順位を定め、行動を開始する。まだ弾丸の残っている二挺のアセンチデータを頭上へと構え、引き金を引く。弾丸は相手の股下から頭上へと抜けていき、三階の天井へと突き刺さる。だがもう一人は電磁装甲の出力を強化していたため内蔵に達さないぎりぎりのところで弾丸が止まる。だがあまりの激痛に動きが停止した。

 頭上からやってきた二人はその一瞬で行動不能に、レイは前と後ろの敵の対処へと移ろうとする。しかしすでに敵は引き金を引こうとしていた。


「――っく」


 レイはすぐに頭上から落ちて来た敵の死体を盾にするが、敵はそれすらも構わずに撃ちこむ。そして背後から飛んできた弾丸を一瞬だが、レイは背中に受ける。皮に穴が空き、筋肉に弾丸がめり込む感覚。

 レイは痛みを感じる前にはすでに、前方の敵に向かって敵の死体を蹴り飛ばしていた。そしてすぐに後ろの敵に向かっても、股間を撃ち抜かれ動けずにいる敵を蹴り飛ばし、一秒か二秒程度の隙を作る。

 レイはその僅かな時間の中で側面の壁を無理矢理破壊しながら逃げ伸びた。

 だがすぐに敵はレイを追って来る。休む暇は無い。狭いビルの中を逃げながらレイがアセンチデータに弾を込める。

 時間的制約からアセンチデータに弾を込められるのはこの一挺のみ。

 このたった一発の弾丸をどう使うか。

 敵に撃っても四人に数が減るだけ。有効的とは言えない。

 だとするのならば。さらに有効的な使い方は。一つしかない。すでにこれは一発目の弾丸が敵に防がれ、同時に敵の装備を確認した時には思いついていた案だ。故に準備はできている。


 レイは懐から取り出した手榴弾のようなものを地面に投げつける。爆発することはなく、代わりにその手榴弾のような液体が縦に割れると中から黄色い液体が溢れ出す。

 これは可燃性の液体だ。とても強く、持続力があり、一つの小さな火花からでも引火する。本来はアセンチデータの内部機構に燃料として搭載する液体だ。強く圧縮された状態で引火すると青い炎を放ちながら爆発する。アセンチデータの弾丸が飛ぶ際に尾ひれを引く青い光はこの液体が燃えているためだ。

 そんな性質を持った液体。

 本来の用途とは違うが、そうもいってはいられないので、レイは投げ捨てた。そして弾を入れ替えたばかりのアセンチデータを燃料に向かって撃ちこむ。弾丸の衝突で燃えることはない、爆発することはない。しかしながら弾丸の後ろで尾ひれを引く青い炎が燃料へと引火する。

 直後、レイが部屋からたれ流し続けて導線を引いていた燃料の道が燃え上がった。

 

(……はっは)


 これにより敵が敷いて来たすべての作戦を無効化したと、レイは笑った。


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