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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『下』

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第266話 都市の事情

 レイが準備を終わらせてビルの外に出た時、玄関の前には人だかりができていた。当然だ、死体が三つも転がっているのだ。何が起きたのだと、そう不思議がって群がって来るに違いない。

 今更死体の処理に努めることもできないので、レイはその脇を通り過ぎていく。遠くからはサイレンの音が近づいてきている。警備隊、救急隊の二つが来ているのだろう。

 スラムでは死体が転がっていることも殺人が起きることも普通だが、ビルの周りはそれなりに治安の良い場所だ。死体が転がっていたらそれなりに問題になる。レイがこれによって大きな罪に問われる心配はないだろうが、ビルに住むことはできなくなるだろう。

 家の前で殺し合うのではなく、スラムで殺しておけばよかったと、レイが後悔しながらビルから離れていく。


 レイの恰好は表立って荒くれていない。強化服も着ていないし、突撃銃を見せて歩いているわけではない。テイカーとしてレイのいつもの恰好とは大きく違う。しかし今は目立つわけにもいかず、そして車両も無いため一般の道を歩く時は普通の恰好だ。

 というより、この恰好が普通なのであって、いつもの恰好はただただ危険で異端だ。

 だが一見普通に見えるというだけであり、レイは防護服を着ていたり、その中に銃、ナイフをと言った物をいつでも取り出せる場所に格納している。鋼海重工がどの程度の速度で対策を立てて来るかは分からないが、企業内で傭兵を管理する部門が力を持っていればすぐに動き出せるだろう。

 逆に、企業傭兵を動かすことのできる権力者に力が無ければ他の上層部人員が邪魔して行動が遅れる可能性がある。鋼海重工が後者である可能性に賭けるしかないだろう。

 しかしながら、その予測は面倒な方で合ってたようだった。


「――っぐぁ」


 裏路地ですれ違った男にレイが突然、ナイフを突き出す。首に刺されたナイフをそのまま引き抜いて、レイが前に進む。一方で首を切られた男は《《手にもった拳銃》》を地面に落とすと同時に、首を抑えて倒れた。

 

(まずいな)


 鋼海重工の企業傭兵がどの程度の規模を誇っているのかは不明だ。しかし相手がレイを見つけた瞬間に誰かに連絡をしたことで、恐らくレイの居場所は一瞬で特定された。そしてレイを見つけるために企業傭兵を単独行動させ、半場、人海戦術のような形で動いてきた。相応の人員が向こう側にいると考えてもよいだろう。

 そしてこれ以上殺人をすると流石に警備隊のお世話になるかもしれない。スラムならばまだしも治安がある程度担保されているこの付近での殺人は取り締まられる。監視カメラから逃れ、できるだけ証拠を残さないようにしているが、このまま続ければどうなるか分からない。

 予定ならば中央街のテイカーフロントに直接向かう予定だったが、場所を特定されたことを考えるとスラムを経由していった方が良いかもしれない。それにこのまま敵を引き連れたままテイカーフロントに行くというのも確実に迷惑だ。

 テイカーフロントは基本的に中立の組織だが、敵を匿うのであればまた話も変わる。最初こそ鋼海重工は穏便に済ませようとするが、レイが握っている情報のこともあり、強引な手段を取ることも容易に考えられる。


 少し、敵を間引きながら牽制しなければならないだろう。

 敵の規模、強さも把握できていない現状ではるが、多少のリスクを取っ手でもやるしかない。

 レイは決意を確かに、スラムの方へと足を進ませた。


 ◆


 現在、鋼海重工の企業傭兵はスラムにレイが逃げ込んだという連絡を受けていた。通常、企業傭兵は管理している企業が定めた範囲内を警備隊の代わりに治安維持する役割がある。しかしそれはあくまでもおまけ。企業傭兵が管轄することのできる管理内を自由に自治できるからその代わりとして『やらなければならない仕事』としてあるからだ。

 企業傭兵を持ち、尚且つ都市内の一定の範囲を支配している企業というのはそれなりにあり、数の分だけ都市の支配構造は歪になる。基本的に企業傭兵というのはに他の企業の統治内に入っても良い。しかしながら例外は存在する。敵対企業の自治範囲内だ。

 例えばバルドラ社の本部、支部がある周りにはハップラー社の企業湯兵は出入りすることができず、付近の武器屋ではハップラー社製の製品を扱うことすら禁忌とされている。

 こうした目に見えないいがみ合いというのは都市内のそこら中で起きており、鋼海重工も例外ではなかった。鋼海重工と同じく部品の製造、加工を取り扱う企業の中でも同程度の規模感を誇る開南重工。その自治範囲内で鋼海重工の企業傭兵は活動することができない。

 ただ基本的にクルガオカ都市ではそれだけに気おつけていればよい。しかし例外も幾つか存在し、移り変わる情勢の中で敵対関係にある企業も変化していく。故に企業傭兵という存在は基本的に管理する企業の自治範囲内からは出ないのが普通だ。

 

 だが今回のレイの件は別。多少のリスクを取ってでも始末しなければならない。企業傭兵の実行部隊にはレイが何をして、どうしてこうなったのかを知らされてはいないが、企業傭兵は一つの駒として冷徹にレイを始末することだけを考えて動く。

 幸い、レイはスラムへと行ってくれた。クルガオカ都市にあるスラムは基本的に企業の統治下に無く、小さな徒党が縄張り争いをしているだけだ。企業傭兵を縛るものは何もない、与えられた装備をすべて使い、レイを殺すことだけに注力することができる。

 周りの被害を考えずに対象を殺せる。始末する場としては最適だ。

 情報処理端末を用いてレイの居場所を特定し、強化服の内部に埋め込まれた通信機器で通信を行う。レイの居場所をリアルタイムで追跡しながら何十人という部隊がレイを追い詰めて動いていく。

 一切の乱れなく、廃れ切ったスラムの街並みを進行する。

 あらゆる装備の仕様が許可され、相手は強化服すらも来ていない。簡単な任務、そして企業傭兵側にとって依頼を遂行しやすい条件が整っていた。


 しかしながら、それはレイも同じだ。


 直後、レイの信号を辿りながら進行していた部隊の隊長が青い尾ひれを引いて飛んできた弾丸に貫かれる。一発だった。強化服を貫通し、ヘルメットの中で頭部が破裂した。

 

「青い弾丸……」

「アセンチデータだ」


 青い尾ひれを引いて飛んでくる弾丸。一発ずつしか撃つことのできない対強化装甲用専用拳銃アセンチデータの特徴の一つだ。企業傭兵が来ている強化服では防ぎきることができない、確実に仕留められる手段をレイは持っている。

 だが企業傭兵はたじろがない。すでにレイがアセンチデータを持っているという情報は出回っている。今の強化服ではアセンチデータに対して防御能力が足りていないのを分かっていながらこうして現場に来たのだ。上からの命令、仕事であるから仕方ないとしても、すでに覚悟は決めている。 

 そして相手も強化服は着ておらず頭部は丸出し。互いに弾丸を当てれば致命傷に至る。加えて企業傭兵は数で動く。いくらレイの質が高くとも追い詰めれば簡単に勝てる。

 

(アセンチデータは一発。リロードまでは3秒)

 

 そして数で優る相手に対して単発ずつでしか発砲できず、一発ごとに弾丸を交換しなければならないアセンチデータでは分が悪い。部隊員はその意識を共有しており、仲間が殺された瞬間に弾丸を交換する隙をついて距離を詰めようとする。

 アセンチデータの弾丸の軌道は特徴的であるためすぐに発砲者の居場所に気がつくことができる。それに情報処理端末もある。すでにレイの居場所は捕捉され、あとは追い詰められるのみ―――。


「に――――」


 一発目が撃たれてから間髪を入れず、二発目の弾丸が撃ち出される。それにより先頭を走っていた仲間の頭部が撃ち抜かれ、貫通した弾丸が背後にいた仲間の頭部装甲を破壊する。


「二発目――! 二挺持ちだ!」


 レイはアセンチデータを二挺もっている。その認識を部隊の全員が明らかにした時、新しく青い軌道を描いて、三発目の弾丸が仲間の一人の撃ち抜いた。

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