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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『下』

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265/366

第265話 最善の交渉

「それで、レイさん。話とはなんでしょうか」


 立場上、イナバはあまりレイと話すことができず、時間もあまりないため本題から言うように伝える。時間が無いのはレイも同様なので、世間話などせずに本題から述べる。


「鋼海重工の役員を殺した。匿って欲しい」


 あまりにも唐突で、話の見えないレイの言葉にイナバが固まる。


「殺した……と、鋼海重工の役員を。……それは本当ですか」

「ああ」

「さすがに匿って欲しいと言われましても、テイカーの面倒を見るわけではないですから。厳しいですよ」


 だが同時に、イナバはレイのことをある程度は知っているので、背景や事実確認が取れていないこの状況でも、何が起きたのかは予測できていた。そしてレイがこんな無理難題を受け入れてもらうためにわざわざイナバに連絡してきたとは到底思えない。 

 故に、何か裏があることぐらい予測できていた。


「しかし、あるのでしょう? まだ話してないことが。現状、犯罪者は匿うことができませんよ」

「正当防衛だ。クルガオカ都市に帰ったら鋼海重工の奴らにつけられててな、家の前で戦闘になった。先に拳銃を引き抜いたのはあいつら、俺は防衛しただけだ」

「そうですか」

「だがこっちが正当防衛を主張したところで、相手が企業だと一個人の正当性を主張するのも難しくなる。だから匿わなくてもいい、最悪、主張を認められるよう助けてくれるだけでいい」

「……そういうことですか」


 通信端末の向こうで息を吐く音が聞こえた。そして一息吐くとイナバが口を開く。


「残念ながら協力することはできません。テイカーの管理は私達の管轄ですが、起こした事件に関して手を差し伸べるほど優しくはありません。それに財閥との関係もあります。一個人のテイカーの後ろ盾について企業と敵対するというのも、後先のことを考えると面倒です。なので、今回の話は断らせていただききます」

「だよな」


 レイが呟きながら口角を上げた。笑い、そしてここからは交渉の時間だと。


「今、秘匿回線に切り替えた。最後に一つ伝えたときたいことがある」


 元々、イナバとレイとの会話は暗号化された回線を用いて通信していた、そこからさらに秘匿回線へと強度を高くして、話すこと。イナバは頭の中で様々な考えを巡らせながらレイの話を聞く。


「俺が鋼海重工と敵対することになったのは『稼働する工場』よりもヤバい情報のせいだ」

「…………ほう」

「もし、鋼海重工が財閥にこの情報を漏らせば、それか鋼海重工が上手くこの情報を扱えれば、西部の権力構造が変わる。主に企業方面の力が強くなる」

「して、そのヤバい情報とは?」


 本来ならばここで相手から条件や譲歩を引き出すのが正解だろうが、今は手段を選べるほど贅沢な状況ではない。


「今俺が送った座標辺りに、地下都市へと通じる跳ね上げ扉がある」

「地下都市……?」

「名前の通りだ。分かりやすく言うなら旧時代の頃の遺跡が地下にある。それもまだ自動修復機構が活きてる場所だ。俺が確認した限りで敵対的なモンスターは少ない。それでいて回収できる遺物が多い。階層は確認できている限りで五階層まで、一階層辺りの広さは中規模遺跡ほど」


 にわかには信じ難い話だ。巨大な地下都市の存在など、あってもおかしくはないが、あったら大変なもの。イナバはレイが自分が助かるために嘘でもついているのかとも思った。しかしもし嘘でないとしたら、という可能性を考えてしまう。 

 嘘でなかった場合。企業側の力が増す形になる。恐らく、鋼海重工はまだ他の企業に地下都市の存在を伝えてはいないだろうが、何かの取引材料とするかもしれない。その時の取引相手が七大財閥であったら面倒なことになる。

 だが、あくまでも本当であったら、という話だ。嘘である方が可能性としては高い。


「レイさん。それが本当であると断ずることのできる根拠はありますか?」

「ない」

「……」

「あるとすれば、俺が送った座標まで行って調べることだが、地下都市は特殊な構造をしててな。入口が入口として機能する時間帯が限られてる。だがら、今ここで今すぐ証明できる証拠はない」


 果たして、この話を信用して良いのだろうか。イナバにとってはメリットよりもデメリットの方が大きい。だがあくまでもそれは、レイの話が嘘であったら、という条件での話だ。

 もし本当であったとしたらテイカーフロント側はこれからの対応に相当手間取る形になる。今までもイナバを騙すために様々な話が舞い込んでくることはあった。今回もそれと同義――だと断じることもそう簡単にはできない。イナバはレイと多く話したわけではないが、彼と接した職員やテイカーからの話を聞く限りで誠実な人間のようだった。

 そしてその評価に関してはイナバも一緒だ。たとえ身に危険が迫っていようと、自らを過去に助けてくれたイナバという人物に対して悪意の餌を垂らす人物であるとは思えない。

 だが同時に、レイがすべてにおいて猫を被って嘘をつき通している可能性もある。

 これは単純にイナバが人の話を信用するしないだけの話だけでない。イナバがこれまで培ってきた観察眼の能力も試されているのだ。果たしてどちらが正解か。状況を鑑みるにレイにはイナバの答えを待つに十分な時間が残されていない。

 イナバはここで早急に答えを出す必要がある。だが一方で、ここで敢えて待ってレイの反応を見るというのもあり得る。人は追い詰められた時にその本性が色濃く表れる。

 

(いや、違いますね)


 イナバはクビを僅かに横に振って笑みを浮かべた。


「分かりました。中央街にあるテイカーフロントに来てください。助けになれるはずです」

「ほんとか」


 通話先にいるであろうレイは喜んでいるのか、返答の声は少しだけ高かった。イナバは変わらず落ち着いた口調で続ける。


「ええ。しかし今回のものが嘘だと分かれば即刻突き出しますから、事実確認が取れるまで匿うのではなく、いわば軟禁のような形になりますが、いいですか」

「構わない」

「では、中央街のテイカーフロント本部で私の秘書がお待ちしているので、早急に来るように」

「分かった。ありがとう」


 これで話し合いは一段落着いた。しかしこの後にやらなければいけないことが数多くある。レイはすぐに向かわなければならず、イナバは事実確認を行わなければならない。

 だから通話を切る前に交わした会話は一言二言の短いものだった。


「最後に質問を。もし私がこの話を引き受けていなかったらどうするつもりだったんですか」

「地下都市の存在について映像と座標付きでネットにでも書き込んでバラしてたよ。そうすれば鋼海重工がもし俺を殺せても痛手。加えて財閥も動くだろ。そしたらテイカーフロントも動かなくちゃいけない。どうせ鋼海重工と全面的にることになるんだから、できるだけ状況を混乱させようと思ってな。正常な管理下に置かれるよりもそっちの方が勝てる」

 

 鋼海重工は情報の死守に、だが財閥からの命令もあるだろう。それらからどう逃げ延びるか、レイの対処だけには集中できないはず。そして財閥が動くのならばテイカーフロントも動く。何しろ案件が地下都市と言う遺跡に関してのことだ。

 状況は混沌を極め、鋼海重工は企業という立場であるがゆえに対応しなければいけない事柄が多すぎて行動を束縛される。一方でレイは個人のテイカーであるためある程度は自由に動ける。

 鋼海重工と全面戦争をするが、馬鹿真面目に真正面から戦おうとは思っていない。できるだけ弱らせて、最後に首を取るのがレイであればよいだけだ。


「もし引き受けなければ、もっと面倒なことになっていましたね」

「だがそうならなかっただろ?」

 

 二人が最後に言い合うと、通信が切れた。


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