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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『下』

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第261話 レイとマナ

「ありがとうね、ほんと」


 列車内の細長い通路でランパードがレイに感謝を述べる。壁に寄りかかって休んでいたレイは「ああ」とだけ言って答えると、続けて質問を投げかける。


「列車はどのくらいで着く予定なんだ」

「夜だね。まあもう少しかかるよ」


 本来ならば今日の夕方ごろにハヤマカラ都市の近くにある第24中継倉庫に予定だった。しかし突如として現れたモンスターとの戦闘。そして証拠、研究素材としてモンスターの死体を回収する必要があったこともあり、都市に要請して回収部隊を派遣して回収してもらうまでその場で待機して監視。列車の整備。モンスターの討伐だけでなくそのような事後処理もあり、かなりの時間を取られた。

 そのため本来ならば今日の夕方ごろに着く予定だったが、予定は大幅に遅れて日を跨ぐか跨がないかという程度になった。レイたちの想像では夕方に中継倉庫に着いた後、すぐに車両を発進させハヤマカラ都市まで移動し宿泊。次の日にクルガオカ都市まで向かいそこで依頼を終了だったはずだが、どうやら一日はその予定が遅れそうだ。

 深夜に荒野を走るのは面倒だし危険だ。列車は明日の朝までだい24中継倉庫で泊っている予定だし、今日は中継倉庫にある部屋で一泊。そして次の日にハヤマカラ都市へと行って、その後の予定は同じだ。そしてクルガオカ都市に着けば地下都市から続くレイの面倒ごとも終わりだ。


「降りたどこに行く予定だい?」

「クルガオカ都市だ。前と変わらない」

「依頼完了地点がクルガオカ都市?」

「そんなところだ」

「じゃあ後少しだね。だけど気おつけなよ」

「ああ、分かってる」


 ランパードからの「気をつけろ」という忠告はただ単に安心するな、警戒を解くな、モンスターに気をつけろ、という意味だけでなく別の危険も想定しろ、という意味が込められていた。 

 列車はここ数日で線路を破壊されたり、故障したり、挙句の果てには偶然とは言い難いモンスターの大群にも襲われた。確定では無いにしろ、人為的な悪意が混じっている可能性がある。そいつらにも「気をつけろ」という意味もランパードの言葉には込められていた。


「あんたはどうするんだ」

「ああ僕ね。取り合えずこの仕事は完了させるよ。そしたらちょっと、配置変更があったから手続きをしないと」


 レイは僅かに考える素振りを見せてから口を開く。


「よかったな」

「あ、分かった? そうなんだよね、僕も……」


 そこでランパードの通信端末に着信が入る。


「ごめんね。もう交代時間みたいだ。また中継倉庫に着いたら話そう」

「ああ」


 ランパードは着信に折り返しながら通路の向こうへと消えていく。レイはその後ろ姿を数秒だけ眺めた後、通路の壁に背中を預けて少し目を閉じた。

 もうすぐ。もうすぐでこの依頼を終わらせてクルガオカ都市に帰れる。地下都市での戦闘からカイレン経済都市へと移動し、今はこうして列車に乗っている。様々な場所で多くの人と会った。慣れない環境と慣れない人、そしてマナや機動部隊といった不安要素。

 今までは何とも思わずに依頼を遂行できていたが、終わりが見えてきて初めて疲れが出てきている。まだ何もかもが終わっておらず、気張らなければならない。しかしその思いとは裏腹に、体はこれまでの旅の苦痛を如実に表すかのように強く疲労を訴えかけている。

 精神的苦痛だけではない。リー・リエンとの戦闘や混合型モンスターとの戦闘。その際には『それ』も使用した。右腕だけでない、右半身の痺れも出てきている。さすがに休まないときつそうだ。

 だがあと二日か三日。その程度なら意地だけで持ちこたえることができる。


「はぁ……」


 レイがため息をついて目を開く――と同時に、レイの隣に合った扉が開かれて中からマナが現れる。マナは頭に包帯を巻いていた。


「今着替え終わったよ」

「ああ。やっとか」


 マナが気絶していた時間はそこまで長くはなかった。ちょうど、混合型モンスターを倒して列車が止まって、また動き出したぐらいでマナは起きた。後遺症は無く、脳へのダメージも無い。ただ頭を少し撃って流血していたのと、機械型モンスターの鎖が巻き付いていた左腕はかなり酷い負傷だった。皮膚が破れ、肉が破裂しており、それでもまだ軽く済んだ方。もしレイが列車の外にまで助けにいかなかったら左腕が根本から千切れていただろう。

 だが適切な治療をすぐに受けた今、マナの左腕には一時的に包帯が巻いてあるだけであり跡は残らない。


「怪我は」

「言ったでしょ。もう大丈夫。跡も残らないって」

「良かったな」

「何、また女の子扱い?」


 普通、体に傷が残ることは誰だって嫌だろう。テイカーや傭兵のような戦いに身を置く者ならばまだしも、マナはレイの知る限りでお嬢様のような奴だ。女の子扱いをしたといえば否だということはできないが、マナの言い分はあまりにも暴論が過ぎる。


「さすがにそうとは言ってないだろ」

「知ってるわよ、そのぐらい。依頼主の心配ぐらいして当然よね」

「……あ……ああ?」


 頭を打ったせいで前よりも面倒になっている気がする。やはり頭を強く打って脳にダメージが残っているのではないだろうか。


「何馬鹿なこと考えてんのよ。もう完治したわ」


 レイの考えを読んでマナが言う。


「それに死にかけて少しぐらいは動揺してるのよ、私。あなたと違って荒事には慣れてないからね」

「以外だな」

「別にあなたにも分かるでしょ。私が現場に出るタイプじゃないって」

「身を持って」


 マナが少しだけ口を開けて驚いた顔をする。


「生意気ね」

「…………昔からそうだろ」

「……そうだったかしら。あなたの過去なんて知らないわ」


 何を今更、とレイは苦笑した。マナはいつも通り怒ったような顔をしていた。そして少し歩いたところでマナが医務室の中へと入っていく。その際にレイに一言だけ述べた。


「ありがとう、とは言っておくわ」


 マナが扉の開閉センサーに手を触れてドアを開けた。そして半身だけをレイに向けて医務室の中へと入って行く。


「まあ、私としては地面に落ちた瞬間に気絶したから、あまり記憶が無いのだけれどね」


 マナがちょうど言い終わったところで、自動扉が閉まる。

 扉の奥、少し歩けば医務室に辿り着く。だがマナはすぐに医務室には行かず、閉じた扉に背を預けて自分の体を抱くように両手を交差させて自分の両腕に強く握っていた。

 まだレイに抱きかかえられた時の感触が残っている。地面に落ちて気絶する前までの一瞬だけ。だが変に色濃く残っている。きっと、気絶する前に感じた感覚だから、少し体がおかしくなってしまったのだろう。


「ほんと、生意気」


 マナはそう小さく呟いて医務室へと歩き出した。

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