第260話 混合型モンスター討伐
レイは列車の外に投げ出された時に高出力レーザーに打たれており、その際に濃霧の中にレーザーを撃つ敵の存在を認知した。横目で一瞬だけ見ただけだが、それでもかなりの威力があることが分かっており、対策が必要だということは一目でわかった。それ故にマナを医務室に預けた後、レイは――S-PARの格納場所に熱源探知のゴーグルがあることをすでに知っていたため――車庫へと出向きゴーグルを持ってきた。
そのせいで僅かに遅れたが、ランパードたちが対処していることもあって大丈夫だろうという考えの基の行動だった。結果としてはぎりぎりでは無いものの被害が出る寸前だった。
レイが高出力レーザー砲を破壊し、濃霧を払ったからよかったものの、もし濃霧に包まれたままレーザーを破壊できなければ少なくはない被害を生んでいただろう。さすがに、列車が破壊される前にはランパードが何かしらの対策をしていただろうが。
「A班は敵中心。仮称『α《アルファ》』の討伐。B班は周辺のモンスターを駆除」
強化服内部に取り付けられた通信機で仲間に指示を出す。最優先は列車を破壊しうる攻撃性能を持った混合型のモンスター。確認できる限りで高出力レーザーを撃ち出す場所と思われる機関はまだ二つほど残っている。
まだ一つ潰しただけ、敵の攻撃手段は残されている。幸い、他のモンスターはそこまでの脅威たり得ないので片手間に近づいてきた個体を始末していくだけでいい。取り合えず、今はモンスターの中心に我が物顔で鎮座する混合型モンスターの討伐だ。
しかし。
(濃霧を噴出していた分のエネルギーを回したのかな)
部下が混合型モンスターに向かって射撃を繰り返しているが、弾丸は本体に届く前に透明な壁に阻まれて届かない。空中のある一定の座標から混合型モンスターの全面に力場装甲が発生している。
こうなると面倒だ。どのくらいのエネルギーを貯蓄しているか分からないが、それが切れるまでこちらか相手に負傷を与えることはほぼ不可能になる。本来ならば力場装甲の穴を突いたり逃げ回ってエネルギーが切れるのをまったりして隙を狙うのが、対処としては一般的だが、列車に乗っている今は難しい。
車両を出してモンスターの後ろ側に回り込んで撃っても良いが、そうなると混合型モンスターの周りを走っている大量の有象無象が邪魔になる。
「どうする」
レイがランパードに問いかける。現状、対策は撃ち続けることのみ。だが貨物列車に積まれた物すべての知識があるランパードなら他の解決策を知っているはず、そう思っての質問。
ランパードは擢弾発射機に弾丸を込めながら答える。
「今部下に持ってこさせてる。バルドラ社からの借り物だよ」
貨物の一つとして積んでいるバルドラ社の新商品。状況が状況だからと、無断で使用する。
「バルドラ社の……新商品か」
「そうだね。アトラスシリーズ。主に電磁パルス。またはEMPの機能を搭載した新型の銃器群。知っているかい?」
「情報だけなら」
「それなら話が早い。A-TRS4と付属の手榴弾を持ってこさせてる。君には。A-TRS4を使用してもらいたい」
「狙撃銃か。あれで力場装甲を?」
「理論上ならできるはずだよ」
「できなかったら」
「賭けに興じるしかないね」
「分かった。じゃあ一発で成功させよう」
だが部下によってA-TRS4が届けられるよりも早く、混合型モンスターが次弾を撃ち出す方が早い。混合型モンスターの腹部と左肩に搭載された高出力レーザー砲が赤く輝く。
今度は二発同時に。恐らく濃霧に回していたエネルギーをすべて力場装甲に回したのではなく、その内の一部を高出力レーザー砲にも回していたのだろう。それによって今まで一発しか撃つことができなかったレーザー砲が二発同時に撃てるようになった。
そしてレーザーの威力も持続時間も前のものと比べて桁違いに上がっているだろう。
「総員、力場装甲を展開。備えろ」
ランパードが部下に命令を下す。その瞬間、列車の外縁に搭載された防衛機能が起動する。列車の後部部分を一時的に力場装甲が包み込む。直後放たれた高出力レーザーだが、力場装甲を前に阻まれ、ランパード達の元まで届くことはなかった。
一回目は予想していなかったために対応が遅れたが、敵が手の内を見せた今ならば対策が取れる。本来、この列車には様々な防御機構が搭載されている。その一つが力場装甲を展開する機能であり、搭載された防御機構の中では最も高い防御性能を誇る。
「だけど次は駄目かな」
「そうだな」
しかしそれでも高出力レーザー砲を前に長くは持たないだろう。エネルギー不足の問題と、単純な強度の問題だ。
敵も学習する。一本のレーザーで防がれたのならば今度は二本のレーザーをまとめて同じ場所に照射すればよい。一発で破壊寸前だったのだ、二本で撃てば確実に破壊できる。
つまり、二発目が撃ち出される前に決めなければならない。
「隊長遅れました、すみません!」
ちょうどその時、A-TRS4を持った隊員が後ろから現れる。
手には二メートルほどもある馬鹿みたいにでかい狙撃銃が握られており、すぐにそれがA-TRS4だと分かった。
「A-TRS4はレイに。手榴弾は僕に」
「了解」
レイがA-TRSを受け取り、ランパードが巨大で歪な形をした手榴弾を持つ。
「もう時間が無い。僕が先にやるから、君に任せたよ。射撃は僕より君の方が断然上手い」
「分かった」
二人はすぐに準備を始める。A-TRSを始めて使うレイだが、バルドラ社で公開されていた取扱説明書はハカマダと話した時にすでに読み込んであるので心配はいらない。
いつもと同じように準備を行い、敵を撃ち抜くだけだ。そしてそのための作戦はすでに――二人は話し合ってはいないが――共有できている。互いに知っている情報に差はあれど、今必要なアトラスシリーズに関しての情報は同じだけ持っている。その中から取捨選択を行い、最も合理的な作戦を選ぶとしたら、という結論。
そしてランパードの言っていることや部下への指示の内容からレイも同じくその結論に辿り着いていた。
故に一切の淀みなく、二人が準備を行い。
混合型モンスターが次弾を撃つよりも早く、二人の準備が整う。
「爆発するまで2秒。あとは任せたよ」
「了解」
ランパードが言い終わった直後、右手に持った馬鹿みたいに大きな手榴弾を混合型モンスターに向けて投擲する。強化服によって強化された筋力か放たれた手榴弾は手から離れた次の瞬間には敵の力場障壁に衝突し、爆発する。だが赤い爆炎を立ち上げながら衝撃を轟かせたわけではない。
ランパードの投げた手榴弾は爆発すると共に僅かな煙と稲妻を空中に走らせながら一時的に力場装甲を構成する磁気圏が乱れさせた。今使った手榴弾はアトラスシリーズの一つでもある、力場装甲を破壊、弱体化させるためだけに開発されたもの。
これにより、力場装甲の出力が弱まった。その次の瞬間にレイが引き金を引く。撃ち出された細長く先端が酷く尖った弾丸が一直線に飛ぶ。強固な力場装甲ではあったが、電磁装甲や力場装甲に対して一定の効力を持つA-TRS4の弾丸は力場装甲に穴を開けた。貫通したわけではない。まるで盾に槍が刺さった時のように、力場装甲の分厚い盾にA-TRS4の細長い対物専用弾が刺さったのだ。
通常、力場装甲というのは弾丸を弾くか貫通させるかが普通だ。途中で弾丸が止まったままというのはその性質上ありえない。力場装甲にエネルギーが送り込まれ、再生する過程の中で弾きだされるからだ。
しかし対物専用弾は力場装甲に刺さったまま弾き出されない。アトラスシリーズの特性上、A-TRS4の弾丸というのもまた、力場装甲や電磁装甲に対して強い貫通力と特殊性を持ち合わせていたからだ。
通常、力場装甲というのは一発でぶち抜くか、何度も衝撃を与えてエネルギー切れを狙うしか突破方法が無い。しかしそれでは無駄な消費や勝負が避けられず、力場装甲の強度によっては消耗戦しか選択肢が残されない場合も多い。
故にバルドラ社は問題点の解決方法として力場装甲の再生を阻みながら一部分に穴を開ける特性を持った武器の製造に着手した。そして出来たのがアトラスシリーズ、その第一弾。A-TRS1からA-TRS4までの四種類だ。
(次―――)
レイが完全に息を止めたまま続けて引き金を引く。一直線に飛んでいった弾丸は、先に撃った力場装甲に埋まったままの弾丸の、背中に命中する。その瞬間、力場装甲に穴ができて撃ちこんだ弾丸が混合型モンスターの胴体を撃ち抜く。
撃ちこんだ弾丸をさらに撃つ。神がかり的な射撃が為した穴だ。そしてその穴が決定的な決め手となる。レイが開けた僅かな穴にランパードの部下たちが一斉に銃弾と爆発物を撃ちこむ。
すでに、レイとランパードとの会話は部下へと通信にて伝わっており、これから何が起きて、何をすればいいか、優秀な隊員たちはランパードが指示するまでもなく理解していた。
混合型モンスターは高出力レーザーに次弾装填に回していたエネルギーを力場装甲の再生に回すが、アトラスシリーズによる妨害により上手く進まず。その小さな穴から混合型モンスターは全身を爆破され、穴だらけにされる。
高出力レーザー砲や力場装甲を構成する器官すらも破壊され、混合型モンスターはものの数秒で完全に破壊され、機能を停止する。そして残っていたモンスターもそれからすぐに数を減らし、気づけば片手で数えられる程度の数になっていた。
「終わったね」
ランパードが最後の一体を破壊しながら呟く。これでモンスターを全体処理し終えた。
そして被害は隊員一人とマナだけ。
「ああ」
レイが答えると、列車は今回襲ってきたモンスターを調べるために段々と速度を落としていった。




