第259話 人為的な悪意
ランパードは部下に命令を出しモンスターを処理してもらっている間、後ろから列車を追ってきているモンスターを仁王立ちで見る。
(さてさて、どうやら面倒そうだな)
モンスターの大群を見る。機械型、生物型、混合型に至るまでまるで狂ったように列車を追いかけてきている。なぜ仲間同士で争わないのか、疑問だ。加えてモンスターの大群を包み込むようにして移動しているあの濃霧。
これだけの速度で移動しているのならば風に吹かれて少しぐらい薄くなっても良いもの。しかし濃霧は依然として視界を遮り続ける。見ただけで疑問が噴出する。そして問題というのはこれだけではない。
(なぜあそこまで近づかれるまで気がつけなかった。濃霧、あれが探知器を妨害していたのか?)
列車には高感度の探索レーダーが搭載されている。もし感知されれば警備隊の皆に連絡が行く。だが今回はここまで近づかれるまで通知は無かった。探査レーダーが故障していたわけではない、異常があったのはモンスターの方だ。
厳密にいうのならばモンスターを包み込んで移動する濃霧。あれが探査レーダーを妨げた。
なぜ機械型、生物型、混合型の多種多様なモンスターがいるのに争わないのか、なぜ突然現れたのか、なぜ濃霧が薄くもならずにモンスターの大群を覆い隠して移動しているのか、なぜ濃霧に探査機能を妨害する機能があるのか。
(小規模なスタンピード……いや、だとすると濃霧はおかしい。こんな事例は過去に無かった。それにそもそもスタンピードだとして、なぜ機械型モンスターも混じっている。おかしい、モンスターがあんな行動するか? 何故モンスター同士で殺し合わない)
スタンピードとはモンスターの繁殖周期に合わせて発生するものと、機械型モンスターの同時多発的な不具合によって起きる。ほとんどの場合、スタンピードの発生条件を考慮すると同一種類が大幅に増殖したことによって起こる。
稀に多種多様な生物が一斉に繁殖周期を迎え、スタンピードを起こすことがあるが、その場合は生物型同士で殺し合うことが主だ。怖いのは機械型モンスターが一斉に不具合を起こしてスタンピードを起こす場合。これは不具合が起き続けている限り、際限なく多種多様な機械型モンスターが襲い掛かって来る。最終的には機械型モンスターを製造する軍事工場を破壊しなければなくなってくる。
だが、今回のは違う。生物型、機械型、加えて混合型までもが一緒に混じって一つの目標に向かって走ってきているというのはおかしな話だ。そんな事例は確認されている限りで一度も無い。
だとすると自然発生したわけではなく、人為的な悪意によって発生させられたと考える方が妥当。それにランパード達の場合、四日前に線路が壊されている。偶然と言い切ることもできるが、同時に言い切ってはいけないほどの関連性がある。
(せっかく配属先が変わるってのに、最後にこれか。最悪だね、最悪です)
擢弾発射機に弾を込めながら不満気に心の中で吐露する。
(上への報告は必須。面倒なことになっちゃったよ、これ)
ランパードがやれやれと頭を振ってため息を吐く。そして一息整えると擢弾発射機の引き金に指をかけた。全六発の爆発物を瞬時に撃ち込むことができる擢弾発射機。弾を入れ替える時は専用の器具を使ってまとめて行う。
故に全弾を打ち切ってから次弾装填までにかかる時間は10秒とかからない。
当然、器具に用意したいた弾丸を撃ちきれば、その後は愚直に弾を込めていくしかないのだが、そこまで効率化を求めるのは土台無理な話だ。
「よーし! 構えろ!」
それまで突撃銃を撃ちこんでいた仲間にランパードが命令を下す、その瞬間に部隊全員が突撃銃から手を離し、足元に用意してあった擢弾発射機を撃ちこむ。
「準備完了っと。よし! 好きなだけぶち込め!」
ランパードの合図と共に何百発という爆発物が濃霧の中へと撃ち込まれる。電磁装甲から肉や骨に至るまで分け隔てなく平等に破壊していく。機械型モンスターの破片から生物型モンスターの肉片に至るまで花火でも打ち上げるかのように吹き飛ばされていく。
(爆発による衝撃でも霧が晴れない、やはり自然現象としての霧とはまた少し違った性質……何かある)
しかしこれだけの爆発が起きているというのに濃霧が晴れる気配を見せない。普通の濃霧であれば風圧で散らなければならない。しかしモンスターを包み込む濃霧は違う。
爆風によって散ることなく、一定の濃度を保ち続けたままモンスターを覆い隠して離さない。
(探知器の妨害と不可解なほどに統率の取れたモンスターの動き。やはり違うか)
疑問点はまだ多くある。しかしモンスターは順調に数を減らしている。濃霧によって上手くモンスターの数を確認できないが、それでも濃霧の範囲、見えているモンスターの数と大きさから後ろにどの程度の数が残っているのか分かる。
このまま数を減らしていけば良い。ランパードがそう考えた瞬間、濃霧の中の一点が黄色に光った。直後、濃霧の中から一本の光の柱が射出され、仲間の一人を撃ち抜いた。
強化服をいともたやすく貫通し、横腹を抉り取る。
(高出力レーザー……)
被害が出た。しかしランパードに焦りも不安も無い。部下も同様だ。すぐに回復薬を傷口にぶっかけ、仲間が一人で医務室まで移動できることが分かると心配する素振りすら見せずにまたモンスターの処理へと移った。
今は仲間の心配などしている場合ではない。その認識を共有しているからこそできる合理的で非情な選択だ。
(強化服の電磁装甲を一発ですか……即死攻撃持ちだとまた変わってきますよ、これ)
濃霧の中にどんなモンスターが隠れているのか。その正体はまだ掴めない。しかし脅威であることには変わりない。高出力レーザーが隊員では無く列車へと向けれられば列車を破壊されるかもしれない。貨物の中には爆発性のあるものもある。
(どうしますかね)
今はモンスターの処理に優先して高出力レーザーが撃ち出された付近へと爆発物を撃ちこんでいる。モンスターの討伐より濃霧の中に隠れた脅威度の高い敵を先に始末する必要がある。
しかしあまり上手くは行かず。
濃霧の中に先ほどと同じ黄色い点が見えた。直後、高出力レーザーが撃ち出される――よりも早く、ランパードの背後から鳴った発砲音と共に撃ち出された弾丸が灯った光に命中し、内部で暴発を引き起こす。
その直後、モンスターの周辺を覆っていた濃霧は風によって散ってゆき、列車を追いかけていたモンスターの全体像が見えるようになる。
一方、ランパードは自身の背後から鳴った発砲音の主を確かめるために振り向いた。ある程度予測はできていたが、ランパードの背後にいたのはレイだった。だが何故かゴーグルをかけていて狙撃銃を持っている。
「君があれを?」
「ああ、遅れてすまなかった」
近づいてきたレイがランパードの隣に並んで共に現れたモンスターを見る。
集団で走るモンスターの中心で、まるで神輿のように担がれて移動する一体の混合型モンスターの存在が確認できた。濃霧の中に現れた光の点の位置から考えるに、あれが高出力レーザーが撃ち出した犯人である可能性は高い。
「レイ、そのゴーグルは」
「熱源探知機能が搭載されたゴーグルだ」
「なんでそんなものを……っていうのは今はいいか。なぜそのゴーグルでモンスターの居場所が分かった」
「運び込まれた隊員の負傷を見た。出血は無い。代わりに焼かれていた。つまりはありきたりな超高温のレーザーってことだ。高出力で射出される超高温レーザーなら撃ち出される前に熱源を確認できれば居場所が分かる。上手く弾丸を撃ちこんで暴発を狙う予定だったが、濃霧まで晴れてくれるとは運が良かった」
言うだけなら簡単、馬鹿げている、とランパードは思いながら苦笑する。
「ま、色々聞きたいことはあるけど、よろしく頼むよ」
「ああ」
そうして二人は準懸賞首級のモンスター討伐へと移った。




