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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『下』

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第258話 濃霧

 次の日。今日の夜にレイ達はハヤマカラ都市の近くにある第24中継倉庫で降りる。

 それなりに長い旅であったが、終わってみれば案外早かった。それに列車に乗ったのは初めての経験で、それなりに楽しかった。S-PARの設備や用意されていた武器。そのどれもが整備状態が少し怪しかったもののまだ十分に使える性能をしていて、そして少し前の武器を使うというのも試行錯誤を重ねるごとに楽しくなっていった。

 

「レイ、いる?」


 レイが列車の先端部分にある、主にランパードなどの警備兵がモンスターの排除のために利用している空間がある。レイはそこで漠然と荒野を眺めながら立っていた。そんなレイに後ろの扉を開けて問いかけながら入って来たのはマナだ。

 レイは振り向いて後ろにいたラナを見る。そしてマナの両手が持っているサンドイッチを見て用件を察した。


「昼ご飯まだでしょ、食べる?」

「ああ、ありがとう」


 マナが近づいてきてレイがサンドイッチを受け取る。その際、マナは一つだけレイに文句をつけた。


「このサンドイッチの材料。私が職員に言ったらすぐにくれたわ。少しビビりならね。あなた、本当に私をどんな風に紹介したの? 腫れもの扱いじゃない」

「俺は護衛対象としか言ってない。あっちが勝手に誤解しただけだ」


 でもそう勘違いするように仕向けたのはレイである。そんなことわざわざ考えるまでも無く分かり切っていることだ。レイはあくまでもしらを切るつもりなのだろう。


「まあいいけど……。馴れ馴れしく話しかけられても、って感じだし」

「そうか、良かった」

「何が『良かった』よ。次からは止めなさい」


 次と言われてもマナのことを紹介するのはもうこれが最後だろう。そう薄っすらと考えながらレイがサンドイッチを頬張る。酸味と辛み、上手く調和している。前は感じたことのない味であっため評価に困ってしまったが、今ならば美味しいと分かる。

 レイは荒野を見ながら二口目を頬張る。その際、レイの横で同じようにサンドイッチを食べながらも、チラっとレイの方を見たマナの様子が確認できた。チラっと、チラチラっと。咀嚼するレイを見ている。

 訝しむような目で、あるいは不満そうな目で、じとーっとレイを見ていた。


「…………」


 レイは目を閉じてマナのことを視界から消して、一旦口の中のものを飲み込む。そして白々しく言った。


「美味しいな、これ」


 心から美味しいと思ってはいるものの、言う仕草はとても白々しくて嘘っぽい。だがマナには伝わったのか、僅かに笑みを浮かべていた。


「そう、その答えを待っていたわ」


 満足と不満が入り乱れて、結局少し不満そうな顔をしながらマナがサンドイッチを頬張る。そして荒野の外を眺めるため、狙撃銃を固定するために用意された窓のようなところを肘掛けにして二人が食べる。


「申し訳なかったわね、こんなことに付き合わせて」


 二人がサンドイッチをほぼ食べきったところでマナがふと呟く。


「どうした、いきなり」

「別に、言葉通りの意味よ。少しね、これはまあ……まあ取り合えず申し訳なかったわ」

「…………」

「それはそうとして、取り合えずクルガオカ都市までは付き合ってもらうわ」

「そういう依頼だろ」

「そういところ、可愛げがないわね。まあいいわ。とりあえ……」


 それまでレイの方を見ながら喋っていたマナが違和感を覚えて口を閉じる。レイが明らかに困惑、動揺した顔で荒野の先を見ている。一体何があるのか、マナはレイの視線の先を追って見てみる。


「何あれ……砂嵐?」

「いや。あれはモンスターの……」


 列車の側面から現れた砂嵐。しかしそれは濃霧と共に移動するモンスターの大群だ。 

 だが明らかにおかしい。なぜモンスターの大群が現れるまで気がつけなかったのか、そして共に移動する濃霧は何なのか。機械型モンスターが出す光学迷彩に似た何かだと結論を付ければ簡単だが、濃霧の中を移動するモンスターは機械型、生物型に区別ない。本来ならば、生物型と機械型互いに殺し合っていてもおかしくはない。しかし今は、列車を標的に濃霧の中で共に駆け抜けてきている。

 明らかな異常事態。レイはすぐに対策を講じようとする。だがその前に、敵の攻撃は行われていた。


「早く非難しろ!」


 レイならば大丈夫だ。しかしマナはそうでない。ただの一般人に過ぎず、何かあれば簡単に死ぬ。だから取り合えず列車の中に、そう思ってレイは叫んだ。しかしその時にはすでにマナの体は浮いていた。

 厳密には引っ張られていた。左腕に巻き付いた鎖。蜘蛛型の機械型モンスターが頻繁に使う拘束用の鎖だ。

 マナはすでに左腕を鎖に奪われていた。そして引っ張られ、体が浮いている。このまま行けば一瞬で列車の外へと投げ出され濃霧の中へと引きずり込まれる。

 助けるべきか、助けないべきか。マナが死ねばレイが中部出身だという情報がバラ任られる可能性がある、つまり助けるしかない。ではどうする。マナをここで押さえる。だがそれだとマナの命は助かるが、左腕が引きちぎれるだろう。

 何を選び、何を捨てるか、この短い時間の中でレイは決断した。


「レイ――」


 そう叫びながら列車の外へと投げ出されたマナをレイが追う。そして共に列車の外へと飛び出した。そして列車の外、空中でレイはマナを抱きかかえ、片手に持った拳銃で鎖の根本を撃ち抜く。しかし壊れない。


(――ッチ)

 

 レイは拳銃を投げ捨てる。代わりに『それ』を起動し黒いの拳銃を右手に握り締めた。

 空中でマナを抱きかかえたままという不安定な体勢の中でレイは寸分も狂うことなく、鎖の根本と撃ち抜いた――と同時にレイが転げながら地面に着地する。あと4秒。このまま行けばモンスターに踏み殺される。

 だがすでに手を打ってある。

 根本を撃ち抜かれた鎖はマナの腕に繋がったまま自由になった。レイは鎖を強引に振り回すと通り過ぎていく列車の後部部分に投げて巻き付ける。瞬間、過ぎて行く列車と共にレイとマナは引っ張られ宙に浮いた。

 最後、宙に浮いたままレイは鎖を引っ張って列車へと身を引き付ける。そしてぎりぎりだが、過ぎて行こうとしていた列車の後部部分にレイが着地する。


「ふうぅう」


 さすがのレイでも肝を冷やした。限界まで集中して死ぬか生きるかという選択を迫られた。


「だいじょ……気絶か」


 レイが抱きかかえたマナを見る。地面を転がった時に頭でも打ったか、それとも恐怖か、いずれにしても気絶している。


「……脳は……調べてもらうしかないか」


 もし脳を打って内出血でもしていたらレイでは対処の仕様がない。幸い、鎖の巻き付いていた腕はレイが全力で負担をかからないようにしていたので皮が破けて、少し抉れている程度だ。

 この程度ならば回復薬をかけて包帯でも巻いていたら直る。目に見える外傷はこれだけ、あとは脳。


「大丈夫かい! レイ!」


 騒ぎを聞きつけたランパードが駆けつけてくる。恐らく寝起きなのだろう、寝癖がある。しかしそれでも強化服を着て装備を整えている。そしてモンスターが出てきてから一分も経っていない。かなり迅速な行動をしたようだ。

 見てみるとランパードの他にも警備隊の面々が列車の天井上の部分に作られたモンスター撃退用の人員が待機する空間に集まっている。

 

「すまないが、空いてる職員にマナ(彼女)を医務室まで届けるから少し場を離れる」

「え、ああ構わないよ。だけど君は」

「俺もモンスター討伐に加わる。人手が必要だろ」


 そんなのやらせるわけにはいかない、僕達の仕事だからね、と言おうとした口をランパードが紡ぐ。ここでそんなことを言って押し問答をしている時間はない。そしてレイが参加してくれるというのならばこの上ない戦力となる。

 故に承諾するしかない。


「分かった。任せたよ]

「武器は」

「部下が予備を手に取れる場所に用意しているはずだ、貰ってくれ」

「助かる」

「じゃあ準備が終わったら任せるよ」

「ああ」


 レイがマナを抱えたまま走って列車の内部へと姿を消す。一方でランパードは後ろから来ているモンスターを見て苦笑いをすることしかできなかった。


「さてどうしよっかな。きな臭すぎるな、これ」

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