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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『下』

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255/366

第255話 平穏

「すまないね」

「大丈夫だ。朝はいつも運動してるからな」


 列車内にある小規模な運動スペースでレイとランパードが相対する。


「そっちこそ、警備の任務はいいのか?」

「今交代したばかりだから次に警備するのは6時間後だね」

「睡眠は」

「三時間も寝れば全快だね。そういう体質なんだ」

「じゃあ心置きなくやれるな」

「そうこなくっちゃ」


 今から、ランパードとレイは軽く手合わせをする。銃やナイフなどの使用は禁止の徒手空拳のみの模擬戦だ。

 レイは様々な格闘技やスラムで生まれ育った経験、知識、テイカーとして培ってきた戦闘方法などを自分なりに解釈し組み合わせた独自の構え。一方でランパードは経済連所属の傭兵として訓練を積んできたことが一発で分かる、基本に中実な構え。

 両者の構えは対象的だ。しかしどちらとも己の合理性に基づいた結果、その形に辿り着いた。レイはもとより、ランパードは訓練を積む中で様々な格闘技を学び、知識・経験ともに豊富だ。そしてそれらを加味した上でランパードは一番最初に習う機動部隊専用の方法が一番合理的だと判断した。

 人生の中で培ってきたすべての経験と知識を独自の形へと昇華させたレイと、あらゆることを学びながらも合理性を追い求め基本の形へと帰結したランパードとの勝負。

 単純な徒手空拳のみを用いた格闘戦だけではない。ある意味で、どちらの選択が正しかったのかが試される勝負でもある。


 開始の合図は偶然手の空いていた列車の職員が仕切る。戦いにおいては全くの初心者だが、近くで二人の戦いを見たいということで参加してくれた。レイとランパードとが短く会話を交わした後、一息置いた後に職員が口を開く。


「始め!」


 合図と共にレイとランパードが動き出し、距離を縮めた。そして勝負はここから始まっている。肉弾戦での勝負だからと完全に距離が縮まるまで慢心をしていると痛い目を見る。特に相手がきちんと訓練を積んだものならば尚更だ。

 レイは膝を折り畳み床を滑るようにして速度をあげながらランパードの懐へと入る。だがしかし。奇しくもランパードもレイと同じく、身を低くして近づいてきていた。

 二人とも頭の中で組み立てていた考えが崩れさる。そしてここから互いに攻撃を繰り返し、防御し、切り返す。ただのアドリブ勝負となった。二人はほぼ同時に拳を突き出し、両者の頬を掠りながらも拳は空を切る。

 レイは顔の横を通り過ぎたランパードの腕を左手で掴みとり次の攻撃へとつなげようとする。だがそれはランパードも同じだ。レイに腕を掴まれたままレイとの距離をさらに詰める。

 ランパードは右腕を突き出した状態で本来ならば体勢が整っておらず力が入らない状態。しかしレイが突き出した腕を掴んでくれたおかげで、右腕を一時的に支柱のように引っ張って崩れた体勢ながらも、力のこもった拳を繰り出す。

 だがレイも条件としては同じだ。ランパードが腕を引っ張って左の拳でレイを攻撃しようとした時、瞬時にその意図を読みとると体から力を抜いた。それによってランパードは右腕を一瞬しか支柱に使うことができず、またレイは引っ張られた力を使ったまま僅かに地面を蹴って飛び上がる。すると浮いた体は腕を引っ張るランパードの力を直に受け、レイの体ごと引っ張られる。

 一方のランパードは途中でレイが意図に気づいて逃げられてしまったため十分な攻撃が繰り出せず、また肝心のレイはランパードの頭上を舞っている。すぐに突き出した左の拳が無駄になると分かり、またこのままいけば、レイがランパードの右腕を握ったまま背後へと着地する。するとランパードの右腕は本来曲がってはいけない方向へと曲がってしまう。

 

 だが、その瞬時の非常事態にもランパードは冷静に対応する。突き出した左の拳を強引に止めると、タンタンと軽快な音を鳴らしながら振り向いた。これで腕が変な方向に曲がることは無い。

 そう安心したのも付かぬ間。すでにレイはランパードの右腕から手を放していた。そしてランパードが振り向いた時、すでに眼前にレイの拳があった。身体拡張者と遜色の無いレイの身体能力から繰り出される拳を生身の体で受け止めるのは至難の業。

 レイと接する中でその身体能力の異常さには気がついていたランパードは当然、受け止めることは選ばず、だからと言って回避することも選ばなかった。


 レイの拳の側面をランパードが軽く押す。するとレイの拳は僅かに軌道が変わって、このままいけば顔面の右側部分に当たる。だがそれでも当たれば行動不能になる。

 だから、ランパードはレイの拳を《《受け流した》》。『受け止める』のではなくて『受け流す』。あらゆる攻撃が当たろうとも体を最適な角度に設定し、攻撃を背後へと受け流す技。

 これが機動部隊に入って最初に習う格闘技の基本だ。そして基本を完璧に習得したランパードは少しでも打点がずれてしまえばあらゆる攻撃を受け流すことができる。そしてそれは防護服を着た状態だ。防護服を脱ぎ、生身の状態となれば技の練度が直接現れる。

 当然、ランパードはレイの拳を一切の負傷を負うことなく避ける。

 そして受け流した力の一部を活用し、そのまま攻撃へと転換する。音すらも聞こえぬほど、空気を割ってランパードがレイの懐に肘をめり込ませる。


「――――っ??」


 直後、ランパードの感覚に走る違和感。まるで巨大な水袋でも殴っているかのような感覚。確かに肘をめり込ませ衝撃を与えた。しかしそれらがすべて無意味であるかのように無力化する。まるで巨大な水袋に拳を撃ちこむように。

 ランパードの動揺はコンマ数秒にも満たない僅かな時間だった。

 しかしその瞬間にレイは視界から消える。そしてそれまでの型にはまらないレイ独自の動きではなく、まるで熟練の武術家のような動きでランパードの腹部に手のひらを添えた。

 直後、ランパードの体が後方へと吹き飛ばされる。

 いくらレイを攻撃した時の感触がおかしくとも本来のランパードであればレイの動きについていくことができた。しかしできなかったのは、レイが今までと攻撃の仕方を変えたためだ。

 野性味のある動きの中から突如として放たれる型に沿った熟練の武術家のような動き。この落差、表現の差にランパードは対応することができなかった。


(七割ってところか)


 ランパードに一撃を与え、勝利したレイが手首を回しながら心の中で呟く。

 

(まだまだだな)


 ランパードがレイに肘をめり込ませた時に感じた奇妙な感触。あれはリーの身体構造をマネでレイが練習していたものだ。リーの身体にはバネのような皮下装甲が組み込まれており、それでありとあらゆる衝撃を吸収する。だがそれはバネだけではなく、生態的手術によって得た柔軟な筋肉と頑強な骨格によるものも大きかった。

 レイの体にバネは仕込まれていないが、柔軟且つ頑強な筋肉と丈夫な骨格がある。だから疑似的にだがリーの動きをマネすることができた。加えて、最後、ランパードの腹部に手を添えて吹き飛ばしたのもリーからの受け売りだ。

 レイの格闘術は今までの人生すべてから着想を得た結果。その中には当然、テイカー、リー・リエンも入っている。


「ぐふっ――やるね。部下が見て無くて良かったよ」


 すぐに回復したランパードが腹部を抑えながらレイの元まで歩いて近づく。


「1分ぐらい休憩しよう。そしたら回復するから、またやろう」

「ああ。構わない。だが、そろそろ護衛対象あいつが起きて来る頃だ」

「分かった。じゃあそれまでだね」

「助かる」

「いえいえ」


 そうして二人は一分の休憩の後、また模擬戦を行う。次は今のようなトリッキーな動きは通用しないだろう。レイは僅かに笑みを浮かべながら次をどうするか考える。一方のランパードも仲間との模擬戦では得られない、新しい戦い方をするレイに対してどのように戦うのか想像して笑みを浮かべていた。

 一方、今の戦いを観戦していた列車の職員は何が起きたのかよく分からなかったものの、何かすごいものを見たのではないかという感激に襲われていた。

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