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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『下』

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第254話 簡単な作戦

回路ケーブルが……切られてるな。だから自動修復機構の出力が弱い」

「切られてる、ねぇ」


 線路の状態を確認したレイの横でランパードが呟く。


「つまりそれは、人為的なものってことでいいのかい?」

「現状、そういうことになるな」


 線路に沿って張り巡らされた自動修復機構のケーブルは地中深くに埋められている。ただ単にモンスターが上を通った程度では絶対に破損しない設計になっている。しかし今回はケーブルが切られていた。偶然に偶然が重なって奇跡でもあれば偶々《たまたま》切れてしまうこともあるだろうが、ナイフで切られた跡や設置された監視カメラの破損。明らかに人為的に切られていた。

 今、レイが直したからよかったものの、もしこのままの状態であれば修復まで二時間どころの騒ぎではなかった。本格的に整備士の追加支援を要請しなければならなくなるところだった。


「どうだい、直りそうかい?」

「まあ大丈夫だ。ここ以外にもやられてたらまずいかもしれないが、ここだけなら列車に積んであった資材だけで修理できる」

「そう、良かったよ。大丈夫、ここ以外に地面が掘られた跡の痕跡が残ってる場所は無かったから」

「助かったな」

「ほんとにね」


 レイはランパードと話しながらケーブルを修理していく。実のところ整備士の資格など持っていないのだが、一度見たことがあって知識があるのならばどうとでもなる。

 少し試行錯誤しながらもレイは順調に直す。その際に幾つかの質問をランパードに投げかけた。


「ケーブルを切った奴らに心当たりはあるのか?」

「まあねぇ。野良の盗賊って線もあるだろうけど、やっぱりヘズ教の奴らかな」


 ヘズ教、どこかで聞いたような気もするが、良く思い出すことができない。しかし拙い情報から正解を導き出すのはレイの得意分野だ。これまでの見て来た、出会ってきた事件と西部の情勢、企業の動きなどからある程度までは絞り出す。


「最近、出て来た奴らか」

「あ、知ってる? やっぱり経済連所属だったら情報も回って来るよね。あの白装束の奴ら」


 白装束の奴ら。その言葉をランパードが零してくれたおかげでレイは正解に辿り着く。そういえば、カイレン経済都市でもそのことについて女性の二人組に話しかけられた。

 あの時に聞かれたのも白装束の者達についてだ。そしてヘズ教とやらについて聞きまわっていたということは、あの女性二人は経済連所属の機動部隊で、恐らく諜報部門にいる者達だろう。

 すべての点が線で繋がったかのような気持ちを覚えながらレイが返答する。


「いや、俺は聞きかじっただけで良く知らないんだ」

「あ、そうなんだ。だったら僕が予想してた部門の人じゃないんだね」

「諜報部門だとでも予想してたのか?」

「あ、当たり。よく分かったね」

「偶々《たまたま》だ」

「たまたまね、まあいいや。じゃあ何か聞きたいこととかある? 詳しくは言えないけど、これでも僕はそれなりの立場だからね、一応、それなりの情報は持ってるよ」

「そんなの俺に言ってもいいのか?」

「当然、誰かにバラさないでよ。僕が怒られちゃうから」

「はは。分かった」

「頼むよ、ほんと」


 レイがケーブルの修理が最終段階に入ったところで、質問を開始する。


「ヘズ教って奴らは、宗教団体なのか?」

「ああ、名前からそう勘違いされやすいけど、違うらしいよ。別に信者を増やしてるわけじゃないし。どちらかというとハヤサカ技術研究所みたいなのと同じような扱い。やってることもね」

「規模感もハヤサカ技術研究と同じくらいか?」

「そうだね、どっちも少人数だと思う。ただどちらとも全貌が分かり切ってないって点では断定することは危険かな」

「じゃあ……いや、聞くのはまた後でにしとくよ。修理が終わった。別のところも見に行こう」


 レイが立ち上がりながら言う。


「え、もう終わったの? 整備士が言うにはそこだけで1時間ぐらいかかる予定だったんだけど」

「それはかなり余裕を持った時間を言ったな。ただ、試運転とかもして、安全確認とかも丁寧にやればそのぐらいかかるか」

「ああ、確かに。でも線路の修理は見つかってる限りで無いはずだからあとは列車の修理をするだけだと思うよ」

「だったら、被害の具合にもよるがあと30分ぐらいで終わるんじゃないか?」

「うん、たぶんそのぐらいだと思う」

「じゃあ俺が手伝って20分だな」

「え、こっちも手伝ってくれるの?」

「別に面倒なことでもないしな。それにまだ護衛対象が十分に休めてないからな」

「……まだ40分ぐらい。確かに彼女、まだ全然休めてないね」

「そういうことだ。俺も暇だし、手伝うよ」

「助かります――!」


 ランパードは大げさに手を合わせて感謝する。その反応に対してレイが僅かに笑みを浮かべると二人は列車の方へと向かった。


 ◆


 40分後。すべての安全確認と試運転を終えた列車は今まさに動き出そうとしていた。


「いや、ほんと助かったよ。これで怒られなくて済む」

「こっちも護衛対象が休めてよかった」

「そう言ってくれるとありがいな」


 ランパードとレイが動き出そうとしている列車の中で軽く会話を交わす。


「ちなみになんだが、この列車はどこに行く予定なんだ?」

「一応、東の端の方まで行く予定だよ。僕は途中で後任部隊と交代になっちゃうけどね」

「ってことは、クルガオカ都市の近くは通るのか?」

「ああ、いや少し離れてるけど、一応、ハヤマカラ都市近辺にある第24中継倉庫には一度貨物の積み下ろしのために止まるな」

「そうか」


 レイの作戦はそこまで複雑ということもでないし、どちらかというと単純だ。


「じゃあそこまで乗せていってくれないか。車両と一緒に」


 レイの提案にランパードが硬直する。

 今まで修理をして恩を売ったのも、それ以外のことでも助けたのも、すべてこの要望を通すため。実際のところ、普通にお願いしてもランパードはレイ達の《《任務》》とやらを深読みして助けてくれただろう。

 しかし怪しすぎては断られる可能性もあるし、ランパードが自身の上司の報告してしまうかもしれない。あくまでもこの出来事はこの場所で完結させておきたい。だからレイは自らの素性とランパードが予想するところの人物像にしたし、それなりの背景も付け加えた。

 実際、ランパードの答えはレイの予想通りのものだった。


「ああ……どうだろな。上から許可貰ったら大丈夫だと思うよ。助けてくれたから、たぶん許可は下りると思う。だけどいいの? 車両で向かう予定とかじゃなかったの?」

「いや、特には指定されてないんだ。だから車両でも列車でも目的地までつけるなら構わない。というより、ほんとは列車で行きたかったんだが、チケットが取れなくてな。止む終えずってところだ」

「へぇ。じゃあ話からするに、車両でクルガオカ都市まで行く予定だったの? 遠くない?」

「さすがに、途中の都市で列車のチケットは取ってるから大丈夫だ。ただそれでも遅くなるからな。それに出来れば早くクルガオカ都市に着きたい」

「ふーん。そういうことなら全然かまわないよ。ちょうど今手空いてるから客室の手配とかしてくるよ。20分ぐらいで返って来るからそれまでこの付近にいて……ってその前に、S-PARが置いてあるから貨物列車に積ないと。僕の部下が列車の近くにいるから僕の名前を出して倉庫を開けてもらって」

「助かる。護衛対象あいつもそっちの方が楽だからな」

「ああ確かに。やっぱり客室の方が広いしベットあるし、そっちの方が楽だね」

「ほんとにな」

「よし、それじゃあ行くから。そっちも車両を積み終わったら部下に僕に連絡するように一言言って貰えれば助かるかな」

「了解した」

「うん」


 そう言って小走りで去っていくランパードをレイが見る。


(これで四日間に短縮か)


 監視カメラがあるかもしれないので、レイは心の中で小さくガッツポーズをした。


 ◆


「ってことになった」


 客室で、まるで自分の部屋かのように寝ころんでいたマナにレイが事の顛末を説明する。


「最初から列車に乗せてもらうためだけに今ままであんなことしてたの?」


 寝ころんでいたマナが体を起こしてベットに腰掛けながら言う。レイは立ったまま壁に背を預けて答えた。


「まあな。ずっと車で移動するのも飽きて来た頃だろ」

「ん……まあ」

「それにこんな依頼早く終わらせたいしな。お前もその方がいいだろ」

「はぁ?」


 レイの脇腹に肘が入る。当然痛くは無いが、条件反射でそれらしい痛みを感じた。


「いきなり小突くなよ。俺なんかしたか?」

「別に。人を殴るのに理由なんているの?」


 スラムの奴らでもそんな暴論は発さなかった。さすがのレイでも驚いた顔を浮かべる。


「まあ……別にいいが。取り合えず、列車の奴らにはお前のこと『話すと何かあるかもしれない護衛対象』として話が通ってるから、その辺は齟齬が出ないように立ち回ってくれ」

「……今の話を聞いて言いたいことが四つある。まずお前じゃない、マナだって前も言ったわよね。二つ目。なんで私が祟り神みたいな扱いされてるのよ。あと依頼者である私がなんであなたの要望通りに動かなくちゃいけないのよ、普通、依頼者の納得を優先して仕事は進めるめべきよね? 私はマザーシティでそうあなたに教えたはずなのだけれど。最後に、列車に乗せてもらうっていう簡単に目的の中でどんな立ち回りをしたらそんな勘違いがされるのよ。それに――」

「そうか……」


 マナの話を遮って、無視してレイが仕方ないといった様子で振り返り、部屋の角にあった椅子を引き寄せる。そしておもむろにマナの方を向いて座った。意味の分からない行動にマナは訝しみながら口を開く。


「なによ……」

「どうせまだ言いたいことがあるんだろ。だったら立って話を聞くのも面倒だと思ってな」

「いやあんたは立って話を聞きなさいよ。何同じテーブルに立とうとしてんの、私が上でしょ」

「まあまあ。本来なら二週間かかる予定を四日に短縮したんだ。少しぐらい休んでもいいだろ?」

「あなたが予定を変えたせいで、私の予定が狂ったんだけど」

「だから今、話を聞く。さっき言った疑問も不満もすべて今ここで答える。そっちの方が互いにとってもいいだろ。俺の答えを聞いてそれでも不満なんだったら、殴ってくれても構わない」

「いや、今殴るけど」


 先ほどから少しずつ怒りのメーターが蓄積していたであろうマナは、レイの言葉をきっかけに立ち上がり、まるで決まり文句かのようにそう言って、レイの頭部に拳を落とした。

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