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11.兄弟愛とアグネス



「エリー、お疲れ様。よく頑張ったね」


先に退場していたアルフが手を広げながらエリザに声をかける。穏やかな兄の笑顔と労いの言葉に、とうとうエリザの涙腺が崩壊した。


一瞬立ち止まったかと思いきや、急に泣き出しながら胸に飛び込んできたエリザに、アルフは驚いた顔をするが、すぐに抱きしめてヨシヨシとなだめてくれた。カミルも慌てて駆けつけて、アルフと一緒に頭を撫でる。


いくら機能性が素晴らしい制服だとしても、ミニスカートは今までの常識を覆す程、大胆かつ斬新なものだろう。女性が足を出すのははしたないと言う共通認識が存在する限り、ミニスカに嫌悪感を抱くことは想像しやすい。前世では1(いち)ファッションとして確立しているミニスカは、この共通認識のせいで、この世界の人々には受け入れられないかもと凄く不安だったのだ。


それに、今回の生徒総会が最も多くの反応を得られると思うと、自ずと緊張してしまうもの。特に若い子は喜怒哀楽がハッキリしているからか、物事の事象に対して表情に出やすく、良し悪しが分かりやすい。


エリザの手応え的には、生徒の反応は悪くなさそうだった。寧ろざっと見回した限りでは、気色満面の表情が殆どだったように感じたし、「可愛い」とか「間近で見てみたい」とかそういった声もエリザに届いていた。


そんな心情の中、最後の拍手でこの数ヶ月の緊張の糸が解れ、安堵やら嬉しさやら……様々な感情が涙として溢れ出した。


前世の大人の自分なら涙ぐむ程度でも、子供のエリザの感情に引っ張られるのだろうか。エリザ自身も驚くぐらい涙が止まらなかった。兄達はそんなエリザが落ち着くまで優しく宥めてくれた。


「お兄様ありがとうございました。もう大丈夫です」

「本当に?」


兄達に問題ないとありったけの笑顔を向けるが、兄達は心底心配そうな顔をする。エリザの記憶では、転生した以降、父親の前では泣いたが、兄達の前では一度もなかったはずだ。そう考えると、心配するのも無理もない気もする。しかし、泣いた理由は大した理由ではないため、心配は全くもって不要である。


「実は私、この制服が皆様に受け入れられるのか、とても心配でしたの。でも、最後の皆様の拍手がとても温かかったのでつい、ウルっときてしまったのですわ」


お恥ずかしいですわ……とエリザは照れながら話す。


「そんなの、恥ずかしい事ではないよ。エリーが頑張ってたのは僕たち知っている。泣いて当たり前だよ」

「そうだよ。もっと泣いてもいいし、怒ってもいい。我儘も言って欲しい。話もいっぱい聞きたい。もっと僕達を頼って欲しいな」


そう言ったアルフは、赤く腫れたエリザの目尻にキスを落とす。カミルもアルフの言葉にウンウンと大きく頷き、反対の目尻にキスをする。


「えへへ。ありがとうございます。お兄様大好きですわ」


2人の優しさに感極まり、思わずガバリと抱きつくと、「僕たちもだよ」とそっと抱き返してくれた。優しくて素敵なお兄様達がいてよかった、と幸せを噛み締めていると、ふとここが何処だったのか思い出す。


「っは!」


恐る恐る周りを見渡すと、制服モデルをしてくれた他生徒が微笑まし気にこちらを見ている。ゾフィスに至っては顔を真っ赤にしているし、アグネスはまたもやプルプルしている。


「良いのですよ。もっと、こう」

「妹欲しいな……」

「あの、アルフ様が……」

「……」


エリザは顔を真っ赤にして、兄達の後ろに隠れる。


(――うわー。恥ずいとこ見られた。ここが学園だと忘れて、めっちゃオリジナルワールドに入ってたよ)


一方、兄2人はエリザの珍しい姿にクスリと笑いあっている。恥ずかしさは微塵も感じていないようだ。


「まさか、アルフくんの貴重な姿をここで見れるとは思わなかったわ。兄弟愛、素敵ね」

「そうですね。私も姉とはここまで仲良くはないので、羨ましいです」


エリザは兄の後ろからチラリ覗くと、いつの間にか微笑むジェラルド殿下が目の前にいた。


「ねっ。エルザちゃん、私の妹にならない?」

「へ?」


思いがけない言葉に、エリザは数瞬理解出来ずに固まる。


「「ダメだ!!」」


エリザの反応とは逆に、本物の兄2人は、すぐさま固まったエリザをジェラルド殿下の視線から隠しガードする。その様子は兄弟猫が犬に威嚇しているかのように、あからさまに殿下に敵意を向けている。アルフの魔力が漏れだし一瞬にして周囲の気温が2~3℃下がったのだった。


「ダメなの?」

「ダメに決まっているだろ!」

「エリザは僕達の妹だ!例え、殿下のお言葉だとしてもそれは聞けない」


一方、ジェラルド殿下は2人の威嚇など全く気にしていないように穏やかな表情をしている。寧ろ、わざと挑発して2人の反応を楽しんでいるようにも感じる。


3人がガヤガヤと言い合っている間、エリザは――ジェラルド殿下がお兄様か。国王様に似た容姿のジェラルド殿下は、しっかりとした体躯を活かした力強い剣術が得意で、王座ではなく騎士団の入隊を希望していると聞いた。かと言って脳筋ではなく、齢17歳にして人望も厚く、頭も切れると有名だ。将来、王宮騎士団長になるのではとまで噂される彼が兄となれば、今と違った兄弟ライフを過ごせるだろう。それも、ちょっといいかも。などと妄想してみたりした。


「ダメ!もう我慢出来ない!!」


そんな中、ずっとプルプルしていたアグネスが突如として駆け寄り、エリザをぎゅーっと強く抱きしめる。急に声を上げたアグネスに皆が何事かと視線が集まる。


「もー。エリザちゃん可愛すぎ。カミルだけずるい!!」


しばらくの間、エリザは興奮したアグネスに揉みくちゃにされる。プルプルしていたのはこういう事だったのかと、納得したエリザは、しばらくアグネスのしたいようにさせてあげることにした。


「アグネス、もういいだろ?いい加減エリーを離せ」

「えー」


頃合いを見てカミルが声をかけると、アグネスは頬を膨らませながらも離してくれた。


「エリザちゃん、急にごめんね。私ね、カミルからエリザちゃんの話をよく聞かされていて、会うの楽しみにしてたんだ。実際に会ったら想像以上に可愛くて、ずっと抱きしめたい気持ちを我慢してたの。今回は商会の代表として、お仕事しに来ているのだから、大人しくしていなくちゃダメだって」


カミルの話によるとアグネスは可愛い物が好きらしく、以前可愛い物について皆で話をしている時にエリザの話になったらしい。それ以降アグネスとはエリザの話をする仲になったそうだ。


「その気持ちはよく分かりますわ。エリザさん。とーっても可愛らしいですもの」

「ええ。本当に」


ブリジットとゾフィスはアグネスにため息混じりに同意する。エリザ的には、お姉様方の方が魅力的に見えるのだが――。


何はともあれ、アグネスの奇行により、殿下との論争は強制的に終了になったようで、何よりである。


暫く歓談した後、最後にブリジットにメイクの仕方について教え、ゾフィスにはコンタクトレンズ数枚と薄型メガネを渡した。装脱の仕方は説明済なので、後は練習あるのみである。ゾフィスに代金を払うと言われたけれど、まだ販売していない試作品のためモニターとして改善点を教えて欲しいと伝えると、渋い顔をしながらも了承してくれた。


「皆様、今日は御協力ありがとうございました」

「エリザちゃん、また来年度学園で待っているわ」

「はい。まだ合否は分かりませんが、合格した暁にはよろしくお願い致します」

「来年度が楽しみですね」

「次に会う時までにお化粧を完璧にしてみせますわね」


教室に顔を出さないといけないからと皆と別れたエリザは兄を待つ間、Jトリオに挨拶を済ませた。それでも余る時間をどう過ごそうか考えながら応接室を出ると、そこには生徒会長が立っていた。


「エリザ嬢。私はコーディー・ネクソン。既に存じてますでしょうが、この学園の高等部生徒会長をしています。少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか」



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