10.制服と演説
ワンピースの後ろ側にはリボン紐があり、ウエストの調整が出来る。キツめに締めると、ウエストラインが出てメリハリが付く仕様だ。身体が未熟な初等部ではこの仕様は不要かもしれないが、見た目も可愛いので採用している。
「今アグネス様が着用していますのは、ミニ丈のワンピースとタイツです。この丈に皆様驚かれているかと思いますが、スカートは動きやすさを一番に考え、敢えて今までにない短い丈となっています。この丈になりますと、動きによってふわりと裾が広がり、とても可愛いのが特徴です」
気付かれない程度の風魔法で爽やかな風を生み出してスカートをフワリとさせる。 その瞬間「わぁ」と歓声が起きる。さらりと質感の良いパニエも取り付けてあるため、ボリュームがあり、通常のスカートよりも風の影響を受けやすい。
残念なのは、パニエを使用するとパンチラが少なくなることぐらいだろうか。すまぬ、と男子共に心の中で謝罪する。そもそも、現段階では黒タイツを使用する事になるため、パンツは見えないのだが。
「モニターに映している通り、ミニ丈以外にもミディアム丈とロング丈のスカートも準備してあります。ご自身の好きな丈のスカートをお選び下さい。そして、何よりこのタイツ。これは、伸縮自在の特殊な素材で出来ていて、違和感なく素足を隠してくれると共に、履いていないよりも履いている方が足が楽だと言われる我が商会の新商品です。よく伸びるのに着圧もしっかりしていて、脚を細く綺麗に魅せると言う美脚効果があります」
「美脚効果」というワードに多くの女子が反応する。この世界ではまだ「美脚」という言葉はないが、「美しい」「綺麗」「可愛い」という言葉は、どの年頃の女子でも食いつきが良い。そう言われると無性に使いたくなるのが女の心理である。
「アグネス様。制服の着心地はどうですか?」
「はい。個人的な感想ですが、とても生地が滑らかで重みもなく動きやすくて、ワンピースもすっごく可愛いと思います。このタイツ?も、黒くて暑苦しそうだと思っていましたが、実際履いてみるとそんなことは一切なくて、寧ろ足が軽くなるような感じがして心地よいです。普段学園で着ているドレスは着るのが大変なのに、重たくて、動きにくくてて、デザインとかも気をつけて……と大変でしたが、これはすっごく楽で、ずっと着ていたいぐらいです」
完全なアドリブだったが、アグネスは嫌な顔せずに素直な意見を述べてくれた。アグネスの言葉は初等部代表という事もあり、普段生徒が感じている声を代弁しているかのようで、頷いている生徒も多いように感じた。
一方、男子のほうはダークグレーのハーフパンツに長めのベージュの細身ブレザーだ。中は白のカッターシャツにグレーのネクタイ。靴下は膝下又の白ソックスで校章の模様入り。ブレザーの後ろはライン調整が付いている。ちなみに、男子の天然石はタイピンとして使用している。
男女ともリボンやネクタイは単色格子柄。他にも一見では分かりにくいが、同系色の刺繍で模様を付けたり、ボタンは金色で校章が彫られていたりと細部までこだわっている。
「カミル様は実際に制服を着てどう感じましたか」
「一言で言って最高ですね。カッチリしているように見えて軽く動きやすい。デザインも素敵だけれど、一見単色に見えて、実は細かな模様あるいは刺繍がしてあり、高級感があります。また、軽いからと言って、生地は薄手ではなく、程よく厚みがあり、ほつれや歪みなどは一切見受けられない。素人から見ても、非常に丁寧に作り込まれているのがよく分かります。生徒全員分をこのクオリティに仕上げる技術力。流石はエリザベス商会だなと思います」
もうこれで説明を終わっていいんじゃないかと思える程のカミルの賛辞に思わず照れるエリザ。アグネスとカミルの意見も相まって初等部の制服の反応は悪くない。
初等部の制服の特徴について細かな説明を一通り済ませ、次は中等部の説明に移る。
「次は中等部です。アルフ様、ゾフィス様こちらにお願い致します」
アルフが舞台袖から出てきた途端、主に初等部と中等部からキャーと黄色い声援が沸き起こる。
(アルフ兄様、凄い人気だな。)
アルフは頭脳明晰で運度神経も抜群なクール系イケメンである。未だに学年の主席をキープしており、素っ気ない態度は冷たい印象を受けるが、何だかんだで面倒見が良い。「妹にはかなり甘々だ」と言う噂が流れてからは、更に人気が増したようだ。そんなアルフが髪型を変えたことで、ほんのり柔らかい雰囲気も漂うようになれば、女子が騒ぐのも頷ける。
エリザから見てカミルもヘアチェンジしたイケメンなのだが、アルフの声援には到底及ばなかった。初等部からも声援も凄いとなると年上の憧れからくるものなのだろうか。確かに前世でも学生の間は年上派の方がダントツに多かったはずだ。などと考えながらアルフの顔を見ると、当の本人は声援が聞こえていないかのように真剣な表情である。
しばらくの間、会場内は黄色い声援に包まれていたが、次第に隣の人物に目がいったのか、生徒たちは声援からざわめきに変わった。
ざわめきに耳を傾ければ「あんな綺麗な人いたっけ?」とか「あのゾフィス・アンダー?信じられない!」などとあちらこちらから驚く声が挙がっている。そんな注目の的であるゾフィスは、慣れない場と羞恥心で俯いて体を縮こませながら立ち尽くしている。
エリザは台から降りて、ゾフィスの背中をポンと軽く叩き囁く。
「さっ。背筋を伸ばして前を向いて下さいませ。大丈夫です。今の貴方は誰から見ても美しい令嬢ですわ。自信を持って」
ゾフィスはその言葉にハッとした表情になり、言われた通り背筋を伸ばし前を向いた。その姿を見てエリザは満足そうに頷く。
「素敵ですわ」
中等部と高等部の制服は、前世のブレザーの制服をモチーフにしている。モチーフにしていると言っても、デザインにフリルも取り入れているので、どことなくお嬢様風である。中等部と高等部では色味と柄が違うのみでデザインはほとんど一緒だ。
中等部は露草色のブレザーに、女子はフリル付きブラウスとリボンタイ、スカートはハイウエスト。男子はカッターシャツにネクタイ。カッターシャツは白と黒の好きな方を選べるようにした。
さらには、男女共にブレザーの代わりのベストタイプもある。ベストの上からブレザーを重ねて着ることも可能だ。
天然石はほんのり青みがかったオパールで、女子はリボンタイに、男子はタイピンとして取り入れてある。付与魔法のイメージはソーダライトだ。ソーダライトは直感力と洞察力を高めて、前進する強い意志をはぐくむ。さらには冷静な思考力や判断力を養い、理性的な行動を促すとされている。試験や面接で本領発揮できるとも言われていて、学生にもってこいのパワーストーンである。
もちろんエリザも前世では、学生時代に買って机に置いていた天然石である。
制服説明の後、ゾフィスとアルフにもそれぞれ制服の感想をもらった。ゾフィスは小さな声ながらも素晴らしい着眼点で賞賛をもらった。その話の中でゾフィスは、所々噛んでしまい顔を真っ赤にして慌てる姿が微笑ましく、可愛いらしくと思ったのはエリザだけではないはずだ。
一方、アルフは余程エリザを自慢したかったのか、これでもかと言う程長い絶賛の嵐に、途中でアルフの口を塞ぎたくなったが、何とか思いとどまった。最後の締めくくりにエリザに向けてウインクしたのを見た会場がまた騒然としたのだった。
次は高等部のお二人。殿下は男性にも人気があるようで、野太い「おー」とかが聞こえる。そして、孤高だと思っていたブリジットも人気のようで所々で歓声が上がっている。
高等部の制服は、赤ブレザーにカッターシャツ、ダークグレーのチェック柄スカートとパンツ、真紅と臙脂色のチェック柄のリボンとネクタイだ。男子のパンツは中高と同じように見えるが、中等部が銀、高等部が金色のチェック柄が入っている違いがある。
天然色はほんのりピンク色のオパールで、付与イメージはアイオライトである。アイオライトは迷うことなく夢や目標に到達するための道しるべになってくれる石で、視野を広げ本質を見極める力があるとされる。
高等部はいわゆる大学のような位置づけで、中等部よりもより専門的な知識や技術の向上をはかる自己研鑽の場とされている。中等部までが一般教育と定められているため、中等部卒業後に全員が進学する訳ではない。ただし、文官や騎士団、魔法師団、研究員、教師等を目指すなら高等部の卒業は必須である。
特に女生徒の場合は、騎士団は以ての外、文官や魔法師団を目指す者も少なく、中等部卒業後すぐに結婚という子も多い。そもそも今はまだ貴族の女性が仕事をするという事自体、世間的に珍しいのである。仕事をするといえば、侍女や家庭教師、修道院ぐらいだろう。エリザとしてはもっと女性がバリバリ働いてほしいところだ。
そのため今現在の高等部の生徒数は、中等部の半分以下となっていて、男女比は2対8ぐらいとなっている。進学する者は勉学に意欲的であるため、付与魔法は勉学よりも今後の就活を見越した内容となっている。
「先日、王妃様が乗馬でお召になられた服が話題になりましたね。体のラインに沿った女性用乗馬服は、女性らしさもありながら、格好良さも混じえて非常に美しかったそうです。このやはり女子たるもの、これからの時代は美しく魅せる事が大事になります。勿論、男子も今以上に格好良く。今回のこの制服達は、『人を魅せる』それを意識してデザインを致しました。そして、この制服をご覧になられた王妃様からも次世代の洋服だと賛辞のお言葉も頂きました。尚、王妃様はこのタイツや肌色のストッキングも既に何足かお持ちです」
王妃様はファッションリーダー的存在であり、王妃様のドレスや洋服が流行のトレンドになることが多い。多くの女性の憧れの的である。そんな王妃様は有難いことに我が商会のインフルエンサーでもある。そんな王妃様が「良い」と言えば、多くの女性が支持をするのである。
事前に王妃様には、生徒総会で話題に出すことを了承してもらっている。ズルをしている感じも否めないが、万人に受け入れられるためには、これ程心強いものはない。
外観の説明が終わったので、次は機能性の話をする。これは説明するより実際に見てもらった方が早い。エリザは兄に目配せをすると、2人は頷き前に出る。
「続きましては、最も重要な機能性についてです。どの制服も機能としては同じ仕様となっております。アルフ様、カミル様よろしくお願い致します」
エリザの合図と共に2人は組手を始める。2人も領地に戻る度にカムイの特訓を受けているので、最近は剣だけでなくて素手で戦う能力も身につけている。
組手が速いと他の生徒が何をしているのか分からないので、いつもよりスピードはかなり遅めである。それでも組手を知らない他生徒は、新鮮かつ壮絶な組手にみえるのだろう。会場にいる全員が息を飲んで行く末を見守る。数分後、エリザが手を挙げると2人は組手を終了した。
モニターに先程の組手の映像がスローモーションで流れる。
「このようにこの制服は伸縮性、ストレッチ機能があり、かなり動きやすくなっています。そして激しく動いても着衣の乱れがなく、吸水速乾機能が付いているので、汗をかいても快適です」
アルフがカミルに向かって手を突き出すと、初級魔法を唱える。
「ファイア・ボール」
突如としてアルフが放った火球がカミルに直撃し、会場内は驚きと悲鳴が上がる。
しばらくして煙が晴れると、カミルは何も無かったかのようにニコニコと手を振り立っている。髪の乱れや制服に焦げはなく、綺麗なままだ。
「皆様驚かれたと思いますが、魔法攻撃耐性が付いているので、ある程度の攻撃はダメージを負いません」
一息置いてエリザは、カミルに実践用の模擬剣を上空に放り投げた。それを受け取ったカミルは駆け出し、そのままアルフに切りかかる。先程と同じように悲鳴が上がるが、アルフには傷一つついていない。
「この物理攻撃耐性も付いているので御安心を。ただし、この付与魔法よりも上回る魔法や力で攻撃された場合は少なからずダメージを負いますので、ご注意して下さい。しかし、生身で戦うよりは遥かに良い制服となっています。アルフ様、カミル様、御協力ありがとうございました」
制服の耐久実験も済んでいて、中級魔法なら打ち身のような軽度の痛みで、上級はそこそこ痛い。魔法の種類にも寄るが、上級魔法は服も少し傷んでもしまう。これは大体の目安であって、相手の魔法練度が高ければ高いほど受けるダメージは顕著であるため要注意である。
「以上で来年度の制服の発表を終了させて頂きます。ご清聴ありがとうございました」
頭を下げて最後の挨拶を終える。すると、溢れんばかり拍手が沸き起こる。緊張が緩んだのと、会場の様子に涙で視界が歪む。再度一礼をして、舞台を後にする。
(ダメだ。我慢。我慢。)
心の中で呪文のように唱えながら控え室に戻ったのであった。




