第二十話
俺は向かってきた甲蟲に気を込めた槍で突いた。
槍はあの硬そうな前足をも貫通して、そのまま甲蟲の頭も貫通し、槍の半ばまで刺さった。
一撃で甲蟲は動かなくなったが、槍を抜いた所で、俺も疲労感が凄く、暫くは黒狼を動かせなかった。
その間にヴォルトさんはもう一匹の甲蟲を倒し、今アリアンロッドと一緒にこちらに向かってきている。
『初陣おめでとう』
黒狼の側に動かなくなった甲蟲の死骸がある。
『初陣で大型を二匹とはトール君は相変わらず凄いわねぇ』
ん? 二匹?
「最初の一匹ももう動いていません」
サクラが教えてくれた。
あぁあのまま死んだのか。
俺は生き物を殺してもあまり動揺しなかった自分に驚いた。
むしろ甲蟲類に対しての嫌悪感の方が勝っていた。
「ありがとうございます」
『あれで初陣……』
アリアンロッドの竜機士からも声が聞こえた。
俺はアリアンロッドの竜機士が女性だと今、気がついた。
「アリアンロッドもありがとうございました」
『さすがは、あの赤鬼の愛弟子ですわ。で、ヴォルト様これからどういたしましょう?』
『そうだな、とりあえずは馬車の護衛をかねてチュールまで行くしかないな』
「まだ、甲蟲は居そうですか?」
『大型の甲蟲の飛行距離はしれている。巣が近くにあるかもしれん』
『なら急いでチュールまで戻った方が良さそうですわね』
馬車の所まで戻ると、皆が手を振っていたので振り替えす。
そして、パージした装備を装着しながらサクラは索敵、ヴォルトさんとリーアさんは馬車の人たちを打ち合わせをしていた。
アリアンロッドも索敵をしている。
「……見られていますね」
「誰に?」
「アリアンロッドにです。何度かこちらを見ていますね」
「まぁ東方の竜機兵ってのは珍しいらしいし」
「何か嫌な予感がします……」
馬車の人達と打ち合わせが終わったのか、ヴェルデンが立ち上がる。
『じゃあ馬車に合わせて行くわよ~』
リーアさんの合図で馬車を中心に竜機兵を歩かせた。
甲蟲との戦闘から一時間ほど馬車に合わせてゆっくり歩いている時だった。
索敵中のサクラが声を出す。
「前方から……」
「敵?」
「い、いえ竜機兵が6機接近中です」
『隊列を組んで走ってくるし、機士団らしいわね』
『偵察か増援でしょうか?』
『2分隊か、兵站馬車が追随してないとすると偵察みたいだな』
竜機兵はそれなりにデリケートな機械なので、普通は移動や進軍する時などは補給や整備必須だ。
特に足回りは歩くだけならまだ良いが、戦闘後はメンテナンスしないと、移動できなくなる。
で、ヴェルデンにはレリムさんが居るように、それを輸送する専用の兵站馬車が一緒に居る事が多い。
少し歩くと、街道の向こうから6機の竜機兵が走ってくるのが見えた。
銀色の揃いの竜機兵でこちらに近づくと、速度を落とす。
『我々は、リオス伯爵麾下、チュール駐留機士団の者です。甲蟲発見の知らせを聞き、部隊展開中です』
『ご苦労様です。我々はレギスレーヴ交易隊の護衛の者です』
チュールの駐留している竜機兵に甲蟲の事をリーアさんが説明する。
リーアさんの説明で1機をチュールの街に伝令として返して、残りの5機は甲蟲を倒した現場に向かう。
ココからだとチュールまで一時間ぐらいで着くらしいので、俺達はそのまま街に向かった。
昼過ぎにチュールの街が見えてきた。
俺達は竜機兵を歩かせながら、干した果物が入ったビスケットを齧っていたが、そろそろ休憩したかった。
チュールの街は街を囲む壁と街の周りにある壁と二重の壁のある、かなり大きい街で、三本の街道が交差する街だ。
遠目からも見える煙突と煙と街を囲む壁が今まで見てきた村や街とは全然違う雰囲気を出していた。
外側の壁をくぐると、街の側の壁との間に池と畑と草原が見える。
リーアさんの説明によると、この辺りは比較的甲蟲の巣が多い場所で、機士団の常時駐留や竜機兵の傭兵などが多く、竜機兵の工房など、竜機兵関係の産業が盛んらしい。
街道街でもあるので、商隊も多く宿場としても発展しているらしい。
俺達が戦った甲蟲の話が伝わっているので、街の周りには竜機兵が立ち、竜機兵がそのまま通れる大きさの門は開いていたが、街から出入りする商隊は見えなかった。
「でかい街だなぁ」
「人が多そうですね」
自分の黒い髪がコンプレックスなのか、サクラはあまり人ごみを好きじゃない。
衛兵に連絡が行ってたのか、俺達はそのまま門をくぐって街の中に入れた。
『みなさん、こちらです!』
街に入ると門の近くはかなり広い広場になっていて、門とくっ付いている建物の前でレリムさんが手を振っていた。
俺達はレリムさんの近くまで竜機兵を歩かせると、降着して黒狼から降りる。
「んー……!」
サクラが戦術機関士の席から降りるのを手伝うと、今までの緊張を解すために伸びをする。
「お疲れ様です。トール様」
「サクラもお疲れ様」
レリムさんとリーアさんがこっちに来る。
ヴォルトさんは側の建物の前で、兵士らしき人と話していた。
「皆さんご無事でしたか」
「大丈夫よ~、トール君なんて大型を二匹やっつけちゃったわ」
「初陣でそれは凄いですね。おめでとうございます」
「あの……すいません。先ほどは助かりました」
四人で話をしていると、さっきまで一緒だった馬車の人たちが話しかけてきた。
リーアさんが代表で馬車の人たちから礼を言われている。
「……すいません」
「はい?」
俺はリーアさん達を見ていると、後ろから声をかけられて振り向いた
……でかっ!
一番最初に目に入ったのは、胸だった。
「わたくし、アリアンロッドの竜機士のアリスと申します」
声の方に目線を上げると、瞳は黒でセミロングのウェーブのかかった金髪の女性が居た。
この世界は美人ばっかりかよ……。
その人は俺よりやや年上な感じで、身長は160センチほど、青色に染めた竜機士用の皮鎧を着ているが、鎧の上からわかるほどプロポーションは……まぁ、出て引っ込んで出てた。
「あ、俺は黒狼の竜機士のトールと言います。こっちが戦術機関士のサクラです」
「サクラです」
「先ほどは一騎打ちを受けていただき、それと甲蟲から守っていただいてありがとうございました」
アリスさんは丁寧にお礼を言う。
「あれは、間に合ってよかったです」
実際際どいタイミングで、もし間に合わなかったらアリアンロッドは大破していたと思う。
俺がアリスさんにそう言うと、彼女ははにかんだ笑顔を見せる。
「黒狼ですか……あの瞬発力は凄いですわ」
あれ?どっかで会った事あったかな?……その笑顔は誰かに似ている気がした。
「お嬢様ー」
アリアンロッドが駐機している方から、アリスさんを呼びながら女の子?が、歩いてくる。
あー……異世界だもんな……。
……その女の子は「三毛猫」だった。
「あら?ルーリ。アリアンロッドはどうでした?」
アリアンロッドの様子を見てたのか、戦術機関士か?
「あぁ、この娘はアリアンロッドの戦術機関士のルーリです。こちらは黒狼のトール様をサクラ様ですわ」
「ルーリでス。よろしくお願いしまス」
ルーリさんは俺とサクラにペコリとお辞儀をした。
アリスさんとお揃いの皮鎧を着ていて、身長は140センチほど。そして、三毛の耳とゆらゆら揺れる尻尾があった。
金色の目は猫のような虹彩で、俺とサクラを見ている。
「トールですよろしく」
「指ですか……」
「やはり左手の指がダメでスねー」
「もしかして黒狼が?」
「えぇ、あの最初の一撃ですけど、気にしないでくださいね」
普通の一騎打ちなら、相手の事を気にしないかもしれないが、あの後協力もしているし、実際顔を合わせると申し訳無い気がする。
「どうしました?」
レリムさんが聞いてきたので、一騎打ちの時の説明をする。
ルーリさんは左手の薬指と小指の握力が無い事をレリムさんに言った。
レリムさんとルーリさんが並ぶと、小学生二人にしか見えない。
「なるほど、後で見ましょうか?」
「よろしいんですか?」
「ヴェルデンと黒狼の後になりますが……この様子だと、商隊の移動は制限されそうですし……」
「あぁ、今、甲蟲の巣を探しているらしい。巣が見つからなくても厳戒態勢が解かれるまで最低三日は足止めだな。ヴェルデンのヴォルトだ。よろしく」
ヴォルトさんは兵士に報告が終わったのか、アリスさんに挨拶をした。
「アリアンロッドのアリスです。ヴォルト様ありがとうございました」
ヴォルトさんとアリスさんがお互い挨拶をしていると、リーアさんが帰ってきた。
「馬車の人達からお礼いただいたわよ~。皆で食事でもしましょう♪」
そう言うと、硬貨の入った袋を見せてくれる。
「では、一度商隊と合流しよう。アリス殿達も一緒に来なさい」
「商隊はいつもの所です」
そして、皆でレギスさんの商隊に合流するために竜機兵に乗り込む。
「……やっぱり嫌な予感が当たりました」
黒狼に乗り込む時にサクラが呟く。
「何が?」
「何でもありません」
サクラのアヒル口は久々に見たなぁ……。
チュールの街中は甲蟲が出たためか、ごった返していた。
一応、竜機兵が歩ける大通りにも人が溢れている。
大通りの両側には竜機兵の工房なのか、大型の倉庫みたいな建物が並んでいる。
その中で色々な竜機兵が整備されていた。
「結構見られて無い?」
「ですね」
黒狼は東方製なのか黒色の竜機兵が珍しいのか、工房の前を通ると中から人が出てきてこっちを見ている気がする。
「初心者なんで、目立つのはちょっとなぁ」
実際、一般常識の足りない俺は注目されると困る。
色々、ヴォルトさん夫婦に教えてもらっては居るが、まだまだヒヨっ子だ。
一騎打ちの作法なんかも聞いておかないと、えらいことになりそうな気がする。
工房街を抜けると地面が土になり、今度は様々な竜車や馬車が停まっていた。
街に入った所と反対側に近くて、街の内側の門が見える。
ほとんどの竜車の地竜はもう、街の外に出ているようだ。
「お?あれか」
街の中心部寄りにレギスさんの見慣れた竜車を馬車が見えた。
俺達はレギスさん達の竜車の側まで行くと、街の外で野営をする時のように竜機兵で竜車を囲む位置で駐機させた。
「トール様、不振な人が居ます」
黒狼から降りようとすると、サクラが報告する。
「え?」
「工房街から一人着けて来ています」
「分かるの?」
結構な人通りがありそうだけど、サクラには分かるのか?
「ええ、黒狼が前を歩くと、急いで付いて来ました」
「見える?」
「11時方向に居ます。今もこちらを見ています」
サクラが言った方を見ると、灰色のローブを着た人がこっちを見ている。
「灰色のローブを着た人?」
「はい」
「とりあえず降りよう。何かありそうだったらヴォルトさんに相談したほうが良い」
「わかりました」
「俺が先に降りるから、サクラは安全が確認出来てから降りてきて」
腕っ節には全然自信が無いけど、サクラぐらいは守らないと。
「もし、危険でしたら精霊魔法で援護させてください」
サクラの精霊攻撃魔法は何回か見せてもらったけど、街中で精霊魔法を使うのはまずい。
「危ないから魔法は無しで、お願い」
俺はそう言うと、黒狼の操縦席を開いた。
一応、ローブの人を意識しながら黒狼から降りる。
俺が降りると、ローブを着た人はこっちに歩いて来た。
「……何の用でしょう?」
自信は無いけど、一応、腰に挿したビャクダンに手を添える。
ローブは薄汚れていて、身長も俺よりやや高い。
「黒狼?やっぱり漢字!」
女?、いやそれどころか日本語!?
まさか!
「ア、アンタ日本人か?」
俺が驚いていると、その女性は日本語で聞いた。
「君は?」
俺は意識して久々に日本語で聞いてみた。
その女性は俺が聞くと、ローブをはだける。
そこには、俺と同じ年ぐらいの女の子が、知っている制服を着て立っていた。
冒険者ギルドの依頼の制服とは違うが、たしかにあのバスの中で見た工業高校の制服だった。
髪の毛を脱色しているが、顔つきはまぎれもなく日本人だ。ちょっときつ目な感じだが、薄汚れているが十分美人な女の子だった。
「ア、アタシは、た、立花忍……日本人の高校生です……助けてください」
立花と名乗った女の子は日本語そう言うと、ストンと腰を落とし、涙をボロボロとこぼして泣き出した
「お、おい、大丈夫か?」
わんわん泣き出した女の子の横で俺はどうしたら良いか途方にくれた。
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