第十八話
レギスさんの商隊の正式名は「レギスレーヴ交易隊」という。
現在42歳のレギスさんがリーダーで、従業員15人が大型の竜車と二頭立ての馬車3台が一緒に商隊を組んでいる。
大型の竜車は、ロンドンに走っている赤い二階建てのバスみたいな二階建てで全長は20メートル近くある。その巨大な竜車を地竜二匹が曳いている。
この竜車には10人の従業員の生活部分と諸々の資材が二階にあり、一階は店舗と在庫商品が乗っている。
地竜は羽のない四足の竜で、一匹の全長が5メートルぐらいあった。名前はレレとミミと言い、両方メスで、かなり穏やかな性格で頭も良く、喋る事は出来ないが共通語を理解出来る。レギスさん曰く「俺の孫の頃には共通語を話すかもな、まぁその頃まで付き合ってくれてるかわからんが」と笑っていた。
そして、竜が曳く商隊には小物の獣や魔獣は決して襲ってこない。
この世界の人は単純に労働力として竜を扱わない。竜種が居る商隊は信頼され、商隊の皆も仲間とか家族として接している。
レレとミミは、朝にレギスさんの指示を貰うと、自分達で勝手に竜車を引く。
馬車の方は水とレレとミミ用の食料そして、ヴォルトさん持ちの馬車でレリムさんが主に操車している竜機兵の部品や整備用の工具などが乗っている馬車だ。
商隊の歩みは遅いが、街道を一歩一歩竜機兵で歩くのは楽しかった。
『あらあら♪そっちに逃げると詰むわよ~♪』
「くぅ」
ヴェルデンの剣戟の速さが上がって行く。
俺は太刀で捌きながら、激しい剣戟にじりじり右側に追い込まれていく。
「トール様、一旦仕切りなおししましょう」
「……だな」
俺はタイミングを合わせて黒狼の太刀でヴェルデンの剣を受けると、その姿勢のまま押し込む。
『あら……』
「行けるか?」
姿勢を崩したヴェルデンに追い討ちをかけようとすると、ヴェルデンに身を交わされる。
「お?おぉ……」
黒狼が押し込んだ力をヴェルデンが交わすと、その回避運動からそのまま剣を振ってきた。
「ちょっ!」
『……はい、そこまで♪』
ヴェルデンの剣は黒狼の首元に突きつけられる。
「……くそう」
「10戦で3勝7敗です」
ヴェルデンとの10戦の模擬戦を終えると、黒狼を駐機姿勢にする。
俺とサクラは黒狼から降りると、サクラが布巾を渡してくれた。
「お疲れ様です」
「ありがとう」
俺はサクラから布巾を受け取ると汗を拭いた。
「やっぱり竜機兵相手だと難しいなぁ」
「そうね、元々黒狼は対竜機兵は想定されていないから。でも、旦那様相手にあれだけ動けたら結構良いと思いますよ」
側で模擬戦を見ていたレリムさんが言う。
黒狼は設計が古く、竜機兵が作られた当時の機体らしい。その頃の竜機兵は甲蟲類を倒すためだけに作られていた。
今の竜機兵よりは、部品の素材や精度などは比べ物にならないほど良いらしいが、今の竜機兵は決闘や腕試しなど、対竜機兵を考慮した設計になっている。
盾を持つ機体も多く、装甲の形状も相手の剣を滑らせる形状になっているのが多い。
「盾の無い黒狼は体裁きが重要だぞ」
「ですね」
ヴォルトさんがヴェルデンから降りてきた。俺とは違って汗もかいてない。
俺はヴォルトさんに今の模擬戦の注意点を聞く。
ヴォルトさんの指摘は的確で、かなり勉強になる。
「では、トール様。食事の用意に行って来ますね」
「おう」
サクラはそう言うと、商隊の食事の用意を手伝いに行く。
この商隊では食事は皆で取るので、ほぼ毎回サクラは手伝っている。
レギスレーヴ交易隊に参加して、もう8日経つ。俺とサクラは商隊と旅に慣れてきた。
ドール村には一週間ほど滞在する商隊だが、他の街では一日しかバザーをしない。
ドール村は街道の終着点だが、未開地に居る少数部落が採って来る毛皮や薬草などの買取が商隊にとっては重要らしい。
道中はほとんどトラブルも無く。途中で、盗賊らしき小規模な集団を黒狼に乗っていたサクラが感知したが、竜機兵が二機も居ると手出ししてこなかった。この辺りの街道は元々ドール村に行くだけの道なので、交通量が極端少なく、盗賊も商売にならないらしい。
商隊は夕方になると足を止めて、キャンプの用意を始める。
レレとミミは適当に良い場所を見つけると足を止め、竜車から離れる。
随行している馬車に乗っている干草を食べるか、その辺りの雑草を食んでいた。
俺はヴォルトさんに、夕方の食事の用意を始めるまでに模擬戦をしてもらうのが日課になっていた。
「明日には街に入るんでしたっけ?」
「あぁ途中で雨が降ったから一日遅れだがな。明日にはチュールの街だ」
街道は踏み固められているが、雨が降ると道がぬかるんで大型の竜車は進むのが困難になる。俺も先日の雨の時は黒狼で何回か竜車を押した。
「チュールの街はどんな所です?」
俺とヴォルトさんは黒狼の側に座ると、ドール村から数えて三つ目の街の事を聞く。
「南に向かう街道もあるからな、バザーも複数出てる事もあるし人の出入りが多い」
ドール村から離れれば離れるほど、街が大きくなっていくな。
「それよりも領軍の機士団が常駐していて、竜機兵鍛冶や工房も多いな」
「機士団ですか?」
機士団は初めて見るな。今のところ竜機兵自体、黒狼とヴェルデンしか見た事無い。
「機士団は良いんだが、傭兵や入団希望の竜機士の腕試しが居る事が多い」
「……げ。俺、ヴォルトさんしか模擬戦した事が無いんですが……」
「まぁ、黒狼は目立つからな。滞在中に何組か申し込まれるかもしれん」
「マジすか……」
「練習になれば良いんだが、柄の悪い奴等も居る。まぁ街に入るまでだ」
街の中で竜機兵が暴れると犯罪なので、すぐ機士団が駆けつけるらしい。で、街に入るまで注意したほうが良いらしい。
街中だと、一騎打ちを申し込まれても断る事も出来るが、竜機兵に乗っていると受けるしかない。
俺はほとんど知らなかったが、竜機士はエリートで貴族の子弟や機士団の人達には騎士道精神的な考え方もある。まぁ、竜機兵の金額から考えたら、個人で竜機兵を持っている人は、それなりに身分や資産のある人になる。
で、一騎打ちも頻繁に行われている。
「はぁ……」
明日の事を考えると気が重い。
機士団への仕官目的や商隊への腕を見せたりする行為での一騎打ちは悪いとは思わないが、俺達にはかなり迷惑だ。
一騎打ちは竜機兵が動けなくなるか敗北宣言をすれば、勝負が決まるので、命を失ったり大怪我をする事は少ないらしいが、俺達の今の旅での目的からすると仕官目的とか腕を見せる意味も無く、メリットは無い。
「あっはっは……トール君、心配しすぎだ。ビクビクしていると鴨に見られるぞ」
そうヴォルトさんは笑って言った。
その後、食事が終わって黒狼をサクラと整備調整してる時に一騎打ちの話をすると。
「頑張りましょうね」
と、言われた。
次の日、街道を進んでいると、街道脇に竜機兵の部品らしき物や、擱座した竜機兵が見えるようになってきた。
隣の町に行く馬車や竜車もすれ違う。
「すごいな、こりゃ」
「今のところは竜機兵の反応はありませんね」
再生できる部品は回収したのか、ほぼ内部骨格だけになった竜機兵が擱座しているのを横目に進む。
「上手く街に入れたら良いけどなぁ」
「はい」
『大丈夫よ~。トール君達みたいな初心者は一騎打ちを申し込まれるなら同じぐらいな初心者さんだけだから♪』
移動中はかけっぱなしの部隊魔法で暢気なリーアさんの声が聞こえる。
「トール様、竜機兵が一機こちらに向かってきます」
『あら?やっぱりサクラちゃんは良く見えるわね』
索敵範囲や精度はヴェルデンに比べると、やや黒狼とサクラの方が広くて細かいみたいだ。
暫くそのまま商隊が進むと、サクラが「今の竜機兵が路肩で待っています」と教えてくれた。
『ほう、雌型とは珍しいな』
「雌型ですか?」
遠目に見えてきた路肩の竜機兵は蒼色と所々銀色をしていて、やけに細身だった。
『雌型ですね、それも新型ですか……』
段々近づいてくる蒼い竜機兵は、ずっとこっちを見ている。
「……なるほど雌型ねぇ」
その竜機兵は女性ぽい外見をしていた。
盾を持たずに両腰に細い剣を吊っている。軽量で速そうだ。
所々細かい彫刻が銀色のラインで入っていて、値段が高そうだ。
「綺麗な竜機兵ですね」
サクラがそう言うと、ヴェルデンが歩く速度をやや速めて、黒狼の前に出る。
『私達は故あって名乗れませんが、「赤鬼のヴェルデン」殿とお見受けいたします!』
『そうよ~、何か用かしら?』
ヴェルデンは蒼い竜機兵の近くで足を止めると、リーアさんと蒼い竜機兵の戦術機関士が外部音声で会話する。
赤鬼ってヴェルデンって通り名とかあるのか。
『そちらが宜しければ、この「アリアンロッド」に一手ご指南お願いしたい!』
蒼い竜機兵はそう言うと、一騎打ちの作法なのか右腰の剣を抜いて胸の前に捧げる。
相手側の蒼い竜機兵が、一騎打ちをヴォルトさん達に申し込む。
「おぉ、一騎打ちかぁ」
「アリアンロッド……銀の円盤ですか」
竜機兵の名前が銀の円盤かぁ格好良いな。
『ちょっとまってねぇ~』
『レギスさんは「先に行ってるから好きにしろ」だそうです』
レギスさんはこういった事に慣れているのか、レリムさんが部隊魔法で伝えて来た。
『では、赤鬼ヴェルデンの弟子のこちらの黒狼が相手するわ~』
「………………」
『弟子ですか……』
『そうよ~愛弟子よ♪』
『……あの赤鬼の愛弟子とは是非も無い!よろしくお願いいたします!』
「トール様?トール様!」
「え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
サクラさんは旦那を甘やかさない
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