第十七話
その後、ヴォルトさんとリーアさんが仕入れ担当人と商隊の隊長に話を聴きに行ってくれた。
俺は店員に謝罪すると、制服を貸してもらった。
上着だけだったので、スカートやスカーフなども探したが、他には見つからなかった。
俺は黒狼の側で座り込むと、サクラに事情を話した。
「……そうですか」
俺の転移時の話をサクラにしていると、もっと大変な事に気が付いた。
考えてみれば、あのバスに乗り込んでいた人達も転移されているのかもしれない。
クソっ!それに、妹の晴香もだ……。
今となってはあのバスに乗っていた人数は覚えていないけど、少なくとも10人では利かなかったはずだ。
それに、ほとんどが俺と同じような学生で、それも女の子ばっかりだったような気がする。
俺みたいに運良くコクヨウさんやサクラやヴォルト夫妻に助けてもらった場合じゃ無く、右も左も言葉さえ分からない若い女が、この日本ほど治安も良くない異世界に放り出されて、どういう事になっているか、恐ろしい想像になった。
「まいったなぁ……」
自然と俺の口からそう声が漏れる。
サクラも心情を悟ってくれたのか、そっと体を寄せてくれる。
「ん?」
俺は何気なく制服を持ち直した時に、内ポケットに紙らしき物が入っているのに気が付いた。
取り出してみると、この世界ではありえないちょっと可愛い紙で、丁重に折られた手紙みたいだった。
「手紙だ」
「まだ新しいみたいですね」
洗濯とかされなかったのか、紙も痛んでなく、女の子が授業中などに折るような手紙だった。
俺は慎重に手紙を開いて中を読んでみる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
私、東雲絵里花は日本の高校生です。
現在、私はエルサム王国のヒュリオンという都市の冒険者ギルドに匿われています。
もし、私のこの手紙を読むことの出来る同郷の方がおられましたら、ヒュリオンの冒険者ギルドに連絡をください。
お待ちしております。
鋼竜暦866年6月15日
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
と、日本語、英語、フランス語、中国語で書いてあった。
俺はコクヨウさんの理術で他の文字が読めるようになったので、大まかにはすべて同じ内容だった。
どの文字も綺麗な字で、ちゃんと習字か何かを習った事のある落ち着いた字だった。
そこまで読むと、同じように地球の文字が読めるサクラに手紙を渡す。
「これは……三ヶ月前の手紙ですね」
俺がココに来て一ヶ月ちょっと、と考えると時期的に二ヶ月以上早く転移したのか。
「ヒュリオンってのはどこだ?」
「たしか……この国のルーアン王都に次ぐ都市で、ここからだと、竜車で一ヶ月以上はかかると思われます」
「えと……どうかしましたか?」
そこまで話をしていたら、レリムさんが俺達の所に来て聞いた。
どうもヴェルデンの側に居たので事情がわからないみたいだ。
俺は簡単に説明すると、レリムさんに手紙を渡した。
「トールさんから借りた本と同じ日本語と他の言語ですね。……ヒュリオンですか」
レリムさんは手紙をざっと読む。
その時、ヴォルトさんとリーアさんが、ヴォルトさんと同世代の男の人と一緒に歩いてくる。
「トール君、彼がこの商隊の隊長のレギスだ」
「トールです」
「レギスだ、話はある程度ヴォルトから聞いてる」
レギスさんは身長はあまり高く無いが、日に焼けたがっしりした人で、興味深そうに俺を見ている。
「その古着の事か……」
俺は一瞬、どう説明しようと思った。
「あぁ、トール君、レギスは俺の幼馴染でな信頼出来る」
ヴォルトさんは騎士を引退した後、仲の良い幼馴染のレギスさんの護衛をやっているらしい。
俺はヴォルトさんの話を聞いて、自分がまれびとと言う事を含めて、レギスさんに事情を説明した。
「……なるほどな。そう言う事情か」
「はい、確実に俺の同郷の物です」
「その服は先月レーヴの街で手に入れた物でな。で、ちょいと事情があってな店先に吊るしてるだけで売り物じゃ無いんだよ」
「事情ですか?」
「あぁ、実は……冒険者ギルドからの依頼でな「バザーの目立つ所に飾って欲しい」って変な依頼だったのさ」
レギスさんはそう言うとニヤリと笑った。
レギスさんの話を聞くと、この商隊はこの辺りの領主が住んでいる領都レーヴが本拠地で、レーヴから終点のドール村までいくつかの村と町を経由し、大体15日ほど。
で、レーヴからヒュリオンは隣の領地でこちらも15日ほどで行けるらしい。
今、急いで向かうっていうのは無理があるな。俺だけだけ行けたら良いけど、サクラは付いて来るだろうし、俺もサクラも旅慣れていない。
「冒険者ギルドって言う所は安全ですか?」
「貴族に囲われているよりは安全かもな。それに今のところ商人の間じゃ、まれびとの情報は出ていない。冒険者ギルドの情報封鎖は上手く行ってるのかもな」
以前、コクヨウさんが言っていたが、貴族は利権争いのために、まれびとを囲う事はあるそうだ。まれびとのちょっとした知識は巨万の富を生む可能性もある。
「この服も君やその同郷の人しか、気が付かないだろうよ」
俺はそこまで話を聞くと、手紙をもう一度折りたたみ、入ってたポケットに戻して、制服を返した。
もし、転移時期がずれているなら、これからも新しく来る人が、気が付くかもしれない。
「とりあえず俺が今話せるのはこんなもんだ」
「レギスさん、ありがとうございました」
俺はバザー初日で忙しいと思う、レギスさんに礼を言う。
「ま、今度何かかってくれ」
そう言うと、俺から制服を受け取り。レギスさんはバザーの方へ向かった。
「トール様どうします?」
「知らない人とは言っても、放ってはおけない」
とりあえず会いに行かないとな。
困っていたら助けたいし。もし、晴香や他のバスの乗客の情報もあるかもしれない。
「そうねぇ、今日は無理だけど明日のお昼ぐらいに、そっちの家にお邪魔しても良いかしら?」
リーアさんが言ってくれる。
「あ、はい。色々相談させてください」
コクヨウさんにも話を聞いてもらいたい。
レギスさんの話だと、冒険者ギルドで上手く匿われているらしいし、会いに行くとしても皆に相談に乗ってもらいたい。
「私は今日はこちらに泊りますね。明日は一緒にそちらに行きますね」
レリムさんは久々に会ったヴォルト夫妻と商隊の方に残るらしい。
「明日の昼食はどうします?」
「オムライスで!」
サクラが俺に聞くと、つかさずレリムさんが答える。
サクラが復元してくれた日本の食事で、レリムさんの大好物だ。
トマトはこのドール村で生産してたが、ケチャップは無かった。
元々、一部の村人が自分の家用に作っていたトマトだが、近所の農家の人が今年は豊作で食べきれなくなり、完熟のトマトを大量に貰った。
俺はピザが食べたくなったのと、大量のトマトが勿体なかったので保存を考えて、俺達は試行錯誤の上、トマトケチャップを作った。
ピザはおいしかったが、他にトマトケチャップを使う料理を聞かれて、たまたま遊びに来ていたリベリアとサクラが、再現してくれたのがオムライスだ。
どうも、黄色と赤の色合いと、トマトの甘さがレリムさんには衝撃だったらしい。
リベリアも簡単で美味しいオムライスにショックを受けて、作り方をメモしていた。
「オムライス?」
「トール君の世界の料理で、すっごくっ美味しいんです!」
「へぇ、トール君の世界の料理か、それは楽しみねぇ」
「では、オムライスを準備してお待ちしておりますね」
サクラは苦笑して答えると、今日はこれで一旦解散となった。
「あ、そう言えばリベリアにトマトケチャップ渡さないと」
元々、フルーツ枠に近く、生で食べる以外、思いつきもしなかったトマトを煮込みやケチャップにするなど、料理におけるトマトの無限の可能性に気が付いたリベリアは、さざなみ亭でトマト料理を名物にしたいと思ったらしい。
そして、サクラにトマトケチャップの増産をお願いしていた。
後日、さざなみ亭で「海産とトマトの煮込み」と言う料理が作られ。宿泊客と村人に大絶賛された。
俺とサクラはバザーで明日のオムライス用に米や鶏肉を買った。
「黒狼があると買出しが楽ですね」
本当は馬車か竜車があれば良いんだけど、サクラのいう通り、黒狼だと結構な量の米と鶏肉が運べる。
それを一旦、黒狼に積み込むと、今度はトマトケチャップを降ろす。
「あ、そうだ。今日はお世話になったし、一瓶をレギスさんに渡そうか」
「そうですね。珍しい物ですから、喜ばれるかもしれません」
そして、先にさざなみ亭に寄ると、リベリアにトマトケチャップの瓶を渡す。
「お~、待ってたのよ!」
「今度、色々トマト系で料理の試作するので、手伝ってね」と、上機嫌なリベリアと別れると、もう一度バザーに戻る。
「俺にこれを?」
「えぇ、今日は色々ご迷惑をおかけしたので、手作りで申し訳無いんですが……」
丁度、バザーの様子を見ていたらしいレギスさんを見つけると、ケチャップの瓶を渡す。
「で、コレはなんだ?」
「調味料です。そのままサンドイッチとかにかけても良いですし、スープの味付けにでも使えます」
「ほう……ま、ありがとうよ」
レギスさんはそう言うと、珍しいそうにトマトケチャップの瓶を受け取ってくれた。
レギスさんと別れると、ヴェルデンの足の装甲を剥がしていたレリムさんをちょっと手伝って。家に戻った。
「中々美味いなこれは!」
「美味しいわねぇ~。色も綺麗だし、サクラちゃん作り方を教えて」
「あ、私にもお願いします!」
次の日、昼前に来訪したヴォルト夫妻はオムライスを食べた。
オムライスはヴォルトさんとリーアさんにも好評で、リーアさんはサクラに作り方を聞きたがっていた。
ただ、日本みたいに米が主食で残り物のご飯で作るとかと違い、米を炊くのがかなり面倒なので、旅暮らしの二人には再現は難しそうだ。
で、オムレツの作り方もサクラは教えていた。
皆で昼食のオムライスを食べた後、改めて昨日のバザーでの一件を説明した。
「……ふむ」
「俺はその人に会いに行こうを思うのですが……」
「私もトール様と一緒に行きます」
昨日の夜、サクラと話をすると、やっぱり一緒に来てくれると言ってくれた。
コクヨウさんを一人で置いていくのはどうかと思って聞いてみたが、サクラは「お母様ですし、心配ありません。逆に一緒に行け!と言われそうです。それに村の人達にも頼みますから」と言っていた。
元々、今は家事はサクラがやっているが、サクラが小さい頃はすべてコクヨウさんがやっていたし、サクラの料理を含む家事技能の師匠はコクヨウさんだ。コクヨウさんは今でも料理などは暇つぶしにするので、特に問題はないらしい。
「まぁ、サクラは学校の引継ぎさえ出来ればかまわんよ」
「引継ぎは大丈夫です。ヘルナさんに頼みます」
実は、この前聞いた話だが、ドール村の学校は昔、コクヨウさんが始めたとの事だ。
で、今でもコクヨウさんは学校の事を気にしている。
サクラは学校を、産休で休んでいた前任の先生だったヘルナさんに頼むらしい。
「良い方法がある。一週間待てば、オレ達はレーヴまで商隊に付いて行く。トール君達はレーヴまでオレ達と一緒に行けば良い」
「あぁ、そうね!」
ヴォルトさんはちょっと考えると、一緒にレーヴまで行ってくれると言った。
なるほど、途中まででもヴォルトさん達と一緒なら心強いし、色々勉強させてもらえそうだ。
「……んー、そうですね黒狼の面倒も見れますし、良い安ですね」
レリムさんも口に付いていたケチャップを拭きながら賛同してくれる。
「よろしくお願いします」
俺はヴォルトさん夫婦に礼を言う。
「じゃあこれからレギスと相談に行くか、旅の準備をするには早い方がいいしな」
「あ、はい」
それから、黒狼とヴェルデンでバザーまで戻り。レギスさんに面会を求めた。
「……なるほどな、では、レーヴまで食費込みで金貨5枚で護衛役として雇おう」
「え?、護衛として雇ってもらえるんですか?」
俺は商隊に同行させてもらうだけだと思ってたのに、護衛として雇ってくれるらしい。
「でも、俺達は竜機兵に乗ってまだ一ヶ月ぐらいですし……」
「あぁ、ちょっと条件があるんでな、先行投資だ」
「条件?」
「昨日貰った調味料なんだが、アレは何だ?朝飯に商隊の皆で食ってみたが、えらい好評でな。俺も食ったが初めての味だ」
なるほど、ドール村で一年の食費が金貨3~4枚と考えるとかなりの破格な金額だ。
「アレはトール様が考えた調味料です」
サクラがトマトケチャップの説明をする。
「でだ、あのトマトケチャップだっけか、今すぐじゃ無くても良いんだが、この村で作れるようにして欲しい。それが条件だ」
トマトケチャップを商人として欲しいらしい。
それと、この村でトマトケチャップが作れるならそれを買い取り、ドール村での名産品としたいとの事だ。
村人にも収入があり、商隊としても他の町で販売できるメリットを説明してくれた。
「わかりました。トマトケチャップは私がなんとかします」
サクラがそう言うとレギスさんは「じゃあ、出発する前日に顔合わせをするから来いよ」と言うと、バザーの方に戻った。
「サクラ、いいの?」
「大丈夫ですよ」
「旅支度の準備もしないとねぇ」
サクラはその足でヘルナさんの家に行き、俺はヴォルト夫妻に旅に必要そうな物を聞いてメモをした。
それから、商隊の出発日までに、俺は旅の準備とヴォルトさんに稽古を付けてもらっていた。
サクラは学校に行って子供達に説明をしたり、その時に子供達の母親連中にトマトケチャップを配り、村の女衆にトマトケチャップの作り方を教えたりした。
女衆もトマトケチャップの味と便利さ、それに現金収入が見込めると嬉しそうで、足りないトマトを集めたり、香辛料をバザーで買い込んで、出発当日までには幾つかのトマトケチャップを商隊に卸したりしていた。
こうして、忙しい一週間が終わり。俺とサクラは黒狼に乗り、商隊護衛として、出発する事になった……。
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