第十六話
「サクラ、準備出来た?」
「はい、出来ました」
俺はサクラが用意した大型の鞄を持つと、自分がレオリースに来た時に持っていたバッグと私物を一緒に持つ。
短い夏が終わって、肌寒くなってきた家の外に出ると、マントを装備し旅装装備にしている駐機姿勢の黒狼の腰に付いているバッグに鞄や私物を入れて行く。さっと先に積み込んでいた保存食などをチェックする。
黒狼はレリムさんの監督の下で俺とサクラが二人で整備した。
ドール村でお世話になった人々は送り出しの宴会を開いてもらって、その時にお礼と別れの挨拶を済ませた。
「……お母様行って参ります」
サクラは見送りに家から出てくれたコクヨウさんに抱きつく。
「気をつけてな……小僧、サクラをよろしく頼む」
サクラがコクヨウさんから離れると、俺も抱きつく。
「はい、コクヨウさんもお元気で」
「それと、アレが抜けるようになったら一回帰って来い」
「……はい」
街道の方を見ると、ドール村の方から商隊とヴェルデンがこちらに向かってくる。
レリムさんは昨日の宴会の時に商隊の方に帰っていた。
「サクラ、そろそろ行こう」
「はい」
俺はサクラと黒狼に乗り込むと、商隊に合流する為に街道に向かって黒狼を進めながら、この一ヶ月を思い出していた。
レリムさんが家に来てくれてから色々あった。
レリムさんはほとんど毎日、俺とサクラの訓練や色々な面倒を見てくれた。
「竜機兵の操縦は「自分の以外の体を自由自在に動かす事」ですので、その前に自分の体をちゃんと動かせるようにしましょう」
と、言って運動をしたり。
レリムさんは槍が得意らしく。俺に槍の使い方と対処方法として組み打ちをしてくれたり。
皆で魚を釣りに行って、この前の海竜にレリムさんが連れ去られそうになったり。
寝ようと思って、部屋に行くとサクラが「夜の生活☆初級編」という本を熱心に読んでいたので、思わず突っ込むと「リーアさんにいただきました」と言われたり。
「儂、最近寝不足なんじゃ……」
「あら?偶然ですね。私もです……」
と、嫌味を言われたり。
サクラと外でいい雰囲気になっていると、コクヨウさんとレリムさんが覗いていたり。
サクラと話をしていたさざなみ亭のリベリアと、顔を合わせるたびに真っ赤な顔されたり。
まぁお互い若いんで、勘弁してください……。
コクヨウさんが聞いてきた村の依頼で、畑を荒らすイノシシを捕りに行ったり。
「と、まぁ地球では銃とかが多いです。この世界って銃とかは無いんですか?」
「んー……昔はあったらしいですが、甲蟲には点の攻撃より線や面の攻撃の方が向いてますし、魔法の方が便利ですから」
と、地球の話をしたり。
俺の通学バックの中に入っていた何冊かの教科書を、サクラとレリムさんが読みたがり、コクヨウさんに例のアイアンクローをしてもらって悶絶したり。
その教科書の中にあった高校の家庭科の教科書をサクラが日本の料理の開発にはまってしまったり。
俺の教科書を読んで、サクラが大麦で麦芽水飴の作り方を開発し、学校の子供達に配ったところ村の女衆に大好評になったり。
とまぁ、色々あった。
この一ヶ月で俺も大分、この世界に慣れてきたし、村の方でも幾人か知り合いも出来た。
サクラは前にもまして、俺に尽くしてくれるようになり「儂、最近さみしいんじゃ……」とコクヨウさんに言われたりした。
もちろん、サクラと二人で毎日のように黒狼に乗り、自分の手足に近い感覚で操縦出来るようにもなってきた。
サクラも戦術機関士として、頑張ってくれている。
ただ、レリムさんが言うには、普通に動かせるだけでは竜機士としてはまだ全然らしい。俺とサクラとレリムさんだけでは黒狼での戦闘訓練が出来ないので、しかたがなかった。
で、当初の予定通りヴォルトさん達と商隊がドール村にまたやってきた。
レリムさんは楽しみにしていたのか、朝から街道が見える場所で座り込んでいた。
遠目にこちらにやってくる商隊が見えると、俺とサクラは黒狼に乗り込んだ。
ヴォルトさん達にここ一ヶ月の成果を見せたかったのだ。
「サクラ、索敵よろしく。距離はいいよ」
「周囲の反応は商隊とヴェルデン、あと海竜です。それと、四時方向街道外れに魔物が居ます。こちらは数2で距離2232メル」
「魔物は危なそう?」
「小型ですね。移動速度と方向から商隊には無関心かと」
「じゃ、ほおっておこう」
それだけ言うと、俺は黒狼を立ち上がらせた。
黒狼は俺の意識どおりにスムーズに立ち上がる。
レリムさんが言うには、竜機兵は使えば使うほど竜機士の癖を覚えるらしい。
黒狼は特に、新品状態だったので、元々の癖が無く、俺の癖付けが楽らしい。
竜機兵は竜機士の意識で操作するが、操縦室にはレバーやペダルなども付いている。それらを操って操縦するのではなく、たとえばひたすら歩くとかの場合は常に意識すると疲れるので、ペダルを踏み込む事によって歩く。など繰り返しの単純作業に使ったり、操縦中に竜機士が無意識に動かしているのを竜機兵が覚えるらしい。
俺はほとんどレバー類は操縦時に使わないが、普通の人はレバーとペダルを動かす事によって「竜機兵を操縦する感覚」を竜機兵と竜機士に覚込ますらしい。
「よっと」
俺は黒狼を二、三歩歩かせると、速度を上げて行く。
黒狼は集団戦が主なこの辺りの竜機兵よりも装甲は薄いが軽量で、運動性が高いらしい。
レリムさんの指示で、スピードを活かした操縦が出来る様に訓練をしていた。
暫く全速力で走ると、商隊とヴェルデンが見えてきたが、そのまま速度を落とさず近寄って行く。
最初の頃は俺もサクラも竜機兵の振動が辛かったが、最近は慣れてきて振動の少ない動きが無意識に出来る様になってきた。
黒狼は商隊の目の前まで行くと、手を上げて速度を落とした。
「お久しぶりです」
「久しぶり~♪」
サクラとリーアさんがお互いに挨拶をする。
竜機兵は外部に声を出す事が出来るが、戦術機関士にしか出来ない。
二人の挨拶の後、俺は黒狼をヴェルデンに並べると、街道まで出てきて待っていたレリムさんを拾い、ドール村まで一緒に黒狼を歩かせた。
商隊が前回と同じ場所に着くと、バザーの設営が始まる。
ヴェルデンと黒狼は仮設の店舗を設営するので、重機の代わりに手伝った。
「ありゃぁ、今回は竜機兵が二機だなぁ」
「あれ?知らないんで。黒い方はコクヨウさん所の婿さんの竜機兵らしいぞ」
「サクラちゃんの婿さんは竜機士なのか……」
など、バザーが開くのを待っている村人達の声が聞こえる。
別に隠してもいないし、サクラの友達のリベリアさんのリクエストで、村まで黒狼に乗ってきたこともある。
一時間ほど設営作業を手伝うと、後は品出しだけみたいで、ヴェルデンと黒狼は並んで駐機した。
「ヴォルトさん、リーアさんお久しぶりです」
「おう!レリムは役に立ったか?見た感じ黒狼を上手く乗ってるみたいだが」
「えぇ、かなり手助けしてもらいました」
そう言うと、レリムさんがこっちに来てヴォルトさんに抱きつく。
「……旦那様」
「おう、元気にしてたか?」
「えぇ」
「レリム、後で話し聞かせてちょうだいね。あ、それとサクラちゃんもね」
二人が抱き合っている横で、リーアさんが微笑みながら言った。
「はい、その前にヴェルデンの整備です!」
レリムさんらしいが、一ヶ月触れなかったヴェルデンも気になるらしい。
五人で一ヶ月ぶりの再開を喜んでいると、バザーの準備も整ってきたらしく、村人が集まってきた。
前回見たような賑わいになってくる。
俺はなんとなくバザーの方を見る。
ん、あれ?……まさか!?
ソレは古着を扱ってるのか、大量の服を品出ししてる所だった。
この世界ではありえない、でも見た事のあるモノが品出ししている店員が握っている。
「っちょ!」
俺はソレを確認するために、走り出した。
「す、すいません!ソレ見せてもらってもいいですか?!」
「あ、はい」
俺の必死さでバザーの店員がびっくりする。
俺はソレをひったくるように店員から受け取ると、確認した。
ソレは妹の晴香も通っていた「私立晴蘭女子学校」の高等部の制服だった……。
「……マジかよ」
グレーの上着で、デザインも材質もこの世界の物では無い。晴香が通っていた小等部の制服とは違うが、見間違えようがない。
考えてみれば、俺が転移した時のバスに何人も乗っていた。
「おい、どうした!?」
「トール様どうしました?」
俺の行動が必死だったので、サクラやヴォルトさんがこっちに来た。
「こ、この服はどこで手にいれましたか?」
俺は店員に聞く。
古着って事は元の持ち主から奪ったのか?
「えぇーと……すいません、その服は実は訳ありで、売り物じゃ無いんです」
何だ?何か理由があるのか?
「トール様っ!」
「トール君っ!」
俺の様子を見て、サクラとリーアさんが止めに入る。
「トール君、その服がどうしたんだい?」
ヴォルトさんの声で俺はちょっと落ち着いた。
「これは……俺の世界の服です。俺以外の誰かが……それも女の子が、多分この世界に居ます」
「「えっ?!」」
……多分、俺以外にも日本人が転移してる。
二章スタートです。
よろしければ感想、評価、お気に入り登録をお願いします。




